うちの魔法科高校の劣等生にはオリ主転生が多すぎる:その2 作:madamu
「はぁ!」
刀の軌道に沿って斬撃を模した想子が竜也目がけて放たれる。
特化型CAD、拳銃型だが達也の持つ二丁よりもバレル長は短い。
左手の一丁の引き金を引くと斬撃は霧散していく。
(いい腕だ。カノープス、だがそれでは俺の最愛の義妹を任すにはまだ足りん!)
◆
「と思う、黒羽竜也であった」
「須田。その表記だと俺は二丁拳銃になるぞ」
魔法協会関東支部の最上階近く。
幾つかある会議室の一室には魔装大隊の特尉「不動達也」が情報端末から流れ出る声に突っ込んでいた。
端末の先には自宅学習となっている須田渉だ。
須田が戦闘予想をまとめたテキストという名の夢小説の一部を朗読したのだ。
部屋の中にいる竜也とカナデ、アーデルは一校の制服、夜天はグレーを基調としたボディラインがわかるタイトなカジュアルドレス、ファッション上では「フィッシュテールスカート」と言われるものだ。
学生は学校指定のシューズだが、夜天はローヒールのパンプス。
全員戦闘向きの服装ではない。だが共通して左の袖口には小さな三角形のクリップ形状のものがある。
雪光謹製の「衣服強化ナノマシン格納クリップ」だ。
微量のサイオンを注入することで、クリップ内のナノマシンが装着者の衣服に拡散し、衣服の防御性能を向上させるものだ。
防刃、防弾、耐衝撃機能を向上させ防塵効果もある。
2か月未満の作成時間ということもあり、個数も限られており服装の自由の利かない「学校の制服」を纏う面々に渡された。
京都の面々は日常の街中での移動ということもあり、ナノマシンの副次効果による衣服の色の変化など目立つことは憚られたため辞退した。
「須田君、今度それどこかのサイトに投稿したら?」
情報端末の先の須田は「発表する前に国防軍に握りつぶされると思うの~」と笑う。
話しかけた藤林奏でも「確かにね」と相づちを打って笑う。
「須田もこっちくればいいのに」
アーデルもお菓子をほう張りながら話に混じる。
「主戦場でしょ?無理だよ~」
「根性なしの玉無し」
「アーデルちゃんのエッチ!」
身をよじって恥ずかしがる須田の声が会議室に響く。
義勇兵の待機する中階層の会議室とは違い、高層階にあるこの会議室はさほど広くはない。
この会議室にいるのは転生者、今作戦においては「混成即応班」という名前の元、魔装大隊の不動達也特尉と外部協力者コードネーム「指揮者」の二名が選定した人間によって構成されている。
魔装大隊による強権発動という部分はあるが根回しの際に四葉の影があったことから、十師族最大の暗部である四葉による魔装大隊への圧力による編成と周囲には見られており、実際転生者以外にはそうであった。
「もうすぐ始めるんでしょ?」
「そうね、カチューシャからも連絡来て法楽君が焦れ始めてるって」
須田の質問の声にカナデは手元の情報端末に来ているカチューシャからのメールに目を落とす。
(「馬鹿がスクワット始めた」って、誰のことか一目瞭然か)
「脳筋」
「アーディに言われたくは無いと思うわ」
カナデの言葉に反応したアーデルに即座に反応したのは夜天だ。
少し諭すような笑みを浮かべて。
脳筋という意味では単語の意味にピッタリなのは今も昔もアーデルであった。
夜天は知らないが前世における傭兵生活ではその脳筋さは肯定的に発揮されていた。
アーデルの発言は弱腰の味方の士気を上げ、実際に戦闘では勝利に導いている。
中東や中央アフリカの内戦や戦争では「レッドヘアーデビル」「血まみれ髪」とも言われ、白兵戦による強襲が最も活躍した場であった。
「お嬢様ぶって。で、三十路処女は破られた?」
アーデルの声音は少し馬鹿にしたように、俗にいう煽るといった口調だ。
「黙れ」
冷たい声。殊更に殺気が混じる。重くはないが恐ろしく鋭く指すような舌気だ。
アーデルが夜天の繊細な部分にずけずけと踏み込んだからではない。
重蔵から「お楽しみはとっとくか」と言われ同衾以上はしていないからであり、図星されたことへの怒りと恥ずかしさと落胆がない交ぜされた反応だった。
簡単に言えば「ほっとけ!」である。
「安心した。腑抜けてたらケツ蹴っ飛ばしてた」
アーデルは親友「切花 霞」(きりはな かすみ)の殺気にあふれる眼と同じ眼をした夜天を見て改めて安心した。
「大丈夫、まだスタートラインは一緒だから」
「カナデさん!」
カナデが気楽にどちらもSEXしていないことを手をヒラヒラしながら伝える。
まるで「今晩はお鍋」と夕食のメニューを伝えるような気軽さだ。
夜天は少し顔を赤らめ声を出す。
夫婦の関係を嫌味なく開けっぴろげにするカナデには「敵わない」と思いつつも憧れる夜天であった。
◆
横浜国際会議場。
午前8時45分
会場内エントランスが見える吹き抜けの中二階では萬真人と黒城兵介が警備班のバディとして見回りをしていた。
階下のエントランスでは一条将輝と十三束鋼が司波深雪と立ち話をしている。
(3時間の仮眠だと流石にきつそうだな)と兵介はその様子を見ながら考えていた。
深雪に向ける一条将輝の視線は明るいが目元の隈が目立つ。
兵介自身は5時間と少しの睡眠で今日を迎えており、睡眠時間の割には非常に体調は良かった。
警備班は午前中の見回りから防弾ベストを装着しており、すでに臨戦態勢と言ってよいだろう。
警備班の指令本部はそのまま国防軍の指令所としても運用され多くの軍人が出入りをし、学生の警備班と比較にならぬほどの緊張と敏捷な動きを見せていた。
会場内に重装歩兵小隊が2小隊。
防弾防刃機能に対爆性能が付与された最新のバトルドレス、そして7.62mm弾を発射する国産のアサルトライフルを装備し、グラスディスプレイを装着した防弾ヘルメット、特殊繊維で製造された運動補助機能があるアンダースーツ、汎用ブーツに身を固めた日本国家が誇る国防陸軍第1師団第2大隊所属の重装歩兵小隊の面々である。
陸軍第一師団の第2大隊は陸軍普通科歩兵の精鋭部隊であり、陸軍特殊部隊「スクネ」や陸軍特殊戦略班「ヤタガラス」に所属する者の母体集団でもある。
国防陸軍第1師団第1大隊は首都防衛の要であり精鋭無比としては第2大隊と遜色がないものの、特殊部隊などへの移籍は少ない。
それは首都圏、特に東京防衛に一秒たりとも質量の低下を許さないため、人員の移動は少ないと言われている。
駐車場には数台の軽装甲車に兵員輸送車、そして地下駐車場には4台の91式装甲戦闘車がスタンバイしている。
「この後どうなる?」
並んで歩く萬真人に聞かれ少し困ったような笑いをする兵介。
年齢の割に口調が大人びているので萬真人の精神的な成熟度は年齢以上であろうことは確実だが、どの程度まで話すべきかは兵介の中で迷っていた。
それは萬真人が事態における解決手段や情報をもとに指示命令を下す立場にいない一兵卒だからである。
前世では海軍海兵大隊の少将まで昇った兵介からすると、前線の一兵卒は事態の裏や奥を覗き込むより前線の地獄の中から抜け出す努力をすべきで、そこには事態の裏側の情報など余計なものでしかないから。
萬真人の想定では戦闘だ。
既に横浜市街には多数の兵士が…国防軍、魔法協会が集めた義勇兵、十師族の手の者が配置されている。
敵は大亜連合の潜入部隊、商業船に偽装した揚陸船、CIAの特殊部隊として認識されているパラサイトの一団。
敵軍の投入戦力が不明な状況では決して過剰戦力ではないが戦力不足でもない。
「想定されるのは4カ所での戦闘です。京都、一校、横浜全域、会場周辺」
兵介の言葉にうなずく真人。その4カ所での戦闘は数日前の説明で聴いていた。
「ここからはあの説明から発展させた俺の予想です」
まだ軍籍の無い身としてはあくまで予想であってそこに過度な責任は無い、と兵介は自分に言い聞かせた。
それは自分の戦況予想を聞かせることができる楽しみを隠す言い訳のようなものでもあった。
前世は光夜や関重蔵など天才や先達との会話の中では聞く側になることの多かった兵介としては、予想を話すことを希望されているこのシチュエーションは楽しいものでもあった。
「京都は…安心です。正直京都は特殊な地域なのであっちの面々が適任です。光夜に任せたら1,000年の結界も全て解除した上でパラサイト撃退して、あとの結界修復の方が大問題ですよ。それに雪光なんかを走らせたら…文科省の文化事業関係の部署が過労で死にますね」
雪光の「高速走行」による余波を想像しながら声を出さず笑う。
(あいつ、走ると物壊すからな)と自分で補足を入れるが、雪光も兵介が走ると物を壊すと思っていることはお互い様である。
言葉の意味を十全に把握できず真人は表情を少しこわばらせる。
兵介はそんな真人の反応を気にせず説明を続ける。
「一校もあの3人で十分でしょう。呂剛虎と複数名、パラサイトがいたとしても緋村がいる以上敵じゃありません。緋村は年喰ってから国内の妖怪退治の専門家でしたから。<茨城童子>を名乗った半妖半人とかとやりあって勝ってます」
「半妖ってそんなものまでいるのか?お前たちの世界は」
少しだけ真人の声のトーンが上がる。驚きが漏れ出たのだ。
「古式魔法師なんて陰陽師一族がこんだけ生きてるんですから、妖怪の10匹、20匹いたっておかしくないでしょ」
真人は小声で「そうか」と返すだけだ。【魔法科高校の劣等生】という世界の広さを改めて感じていた。
「横浜全域は魔装大隊はじめとした精鋭がいますし、各施設に身を隠している国防軍の数を入れれば相当大規模な都市防衛戦の様相を呈しています。まあ黒羽竜也が横浜全域はどうにかするでしょう」
兵介はそう言いつつ、すれ違う三校の他の警備担当に「よっ」とあいさつをする。
中2階の廊下から見えるエントランスの人は減りつつある。
もともと警備班の学生と数少ない登壇予定の参加学生。
それと100人に満たない各校の論文コンペの観覧学生で、そのほとんどは生徒会関係と部活連の関係者となっており応援のために参加する一般学生は皆無だ。
「だが敵の陣容は不明だろ」
真人の質問。兵介はやや過剰とも思える緊張をしている兵介に視線を投げる。
「それでもです。黒羽竜也ことタツヤ・クドウ・シールズは司波達也に匹敵する殲滅力に四葉光夜と同等の天才です」
「それがアイツの本名か」
「前の名前ですよ」
前世では軍人として一線級の活躍をした兵介は、同様に戦略・戦術で状況をひっくり返してきたタツヤ・クドウ・シールズを高く評価している。
特に第3次メキシコ湾侵攻とキューバ沖艦隊戦での活躍は、兵介から見てもタツヤ・クドウ・シールズの出色の戦果だ。
「強いて言えば、影の中の男ですよ。あれだけが不安要素です」
「戦闘スタイルは?」
「俺は直接対峙したことが無いので伝聞ですが空間を歪曲させたり、光の弾を投げつけたり空飛んだり、魔法師というより魔法使いです」
軽く肩をすくめる兵介に、真人の表情はさらに硬くなる。
一番の難敵に対しての情報が少ない。
実戦経験が決して多くない真人としてはその準備不足が心配でたまらない。
情報と言うのは兵法の基本で、萬家でも「事前の備えこそ百戦百勝をもたらす」といった戦訓があるので殊更現状に不安を覚えているのだ。
「あの男がどの程度の実力でどれほどの幅を持った戦略、戦術を駆使してくるかは想像できません。そしてそれに対抗できるのは現在では転生者だけです」
「勝てるのか」
絞り出すような真人の声。
不安と心配がない交ぜされた声。真人にはこの事態に対峙している転生者としての不安があった。
魔法科高校の劣等生の山場、横浜騒乱なのだ。民間人の犠牲、そして【戦争】の一端がこの横浜の街で起こり、その収拾が自分に委ねられている気がする。
自分自身への勝手なプレッシャーが真人の緊張の根源だ。
「勝てますよ。向こうの世界線の4人の実力がどうだか知りませんがこっちの面々は今時点で世界屈指の、いや世界最高の魔法師ぞろいです」
兵介の言葉に嘘偽りはない。
四葉光夜の天才性は前世で嫌というほど見てきたし、タツヤ・クドウ・シールズの世界を敵に回せるほどの戦力、藤林奏がどれほど電子の世界を支配したのか、司波雪光の発明とそれを駆使する実力、川村エカテリーナが残した偉業の偉大さ、後輩たちの実績を上げるだけで分厚い本が一冊出来る。
大亜連がこの横浜騒乱で中条あずさを害すれば、明日とは言わず即時地図から大亜連は消えるだろう。
それ程の実力者である四葉光夜に匹敵する魔法師、異能者集団なのだ。この2周目の転生者たちは。
「それはあの相馬も含めて?」
「あの人と須田ちゃんはのぞきます」
説明不足を恥じるのを誤魔化す様に舌を少し出しておどける兵介。
そのまま話を続ける。
「説明を受けたように鍵は奴の行う空間系魔法の解除です。横浜で対応できるのは竜也、光夜、カナデ、雪光、それと幽玄です。その5人も分散配置していますし、最悪の場合は京都組が飛んできます」
飛んでくるというのは比喩だが正しくは高村マリアが前世で身に着けた「空間連結魔法」による長距離瞬間移動だ。
新ソ連が躍起になって開発を推し進め断念した魔法の一つ。
川村エカテリーナの父親の基礎研究を受けて晩年の川村エカテリーナが結実させた魔法師の次の第一歩。
もし、この魔法が早々に完成していれば一個師団の兵隊を3000km離れた戦場へと10分とかからず投入できる。
川村エカテリーナはその魔法の大部分を文字情報に残さず、自分の脳内に収め死んでいった。
父親の名義で基礎研究の論文とそれを発展させる可能性を指し示す「補足論文」を残し未来の魔法師たちへの宿題とした。
「基本は状況に応じて柔軟に対応です。ただ勝手な行動は戦場での不測を招きますから俺たちは基本国防軍の指示を聞きながらとなりますね。自由行動するには立場もありますし」
真人の顔が曇る。
3日前に受けた説明も大雑把なら、兵介の認識もあまりに固まっておらず戦闘のディテールが曖昧なのだ。
「そんなので大丈夫なのか。肝心の相馬もこの2,3日見ていない」
「対大亜連であれば心配はないです。影の中の男も戦力的にはこっちが上、パラサイト関係も対応策はある」
「別段、先輩たちを蚊帳の外にしているわけじゃないですよ。俺も自由に動きたいところやっぱり横浜に来るには「警備班」に参加するしか方法が無い。要はまだ学生の身なんです。自由に動ける奴らの方が特別なんですよ」
黒羽竜也の率いる即応班についてもそれなりに理由や立場のある人間が選択されている。
萬真人や黒城兵介がこの場にいるには警備班が一番参加が容易で一番無理が無い。
その不便さが萬真人の不満と不安であると兵介は予想した。
「見透かされてるか」
「こう見えても大隊指揮官でしたからね。新兵の心理把握については苦心しましたから」
「新兵・・・」
(2周目から見えればそうか)と納得せざる得ないと思う真人。
自分と裏番、そして2周目転生者の間にある最大の差は経験だろうと改めて痛感する。
2周目転生者は世界情勢について大小あれどそれなりに関与し、それなりの結果をもたらしていた。
その彼らから見れば初体験の真人の不安や心配など経験済みで、緊張の根源など想定の範囲内なのだ。
「質問ばかりですまんな」
「横浜騒乱は初めてならそんなもんですよ」
兵介の言葉に真人も、言った兵介自身も軽く笑う。
(横浜騒乱を3,4度もしてたまるか)といった転生者特有の周回クリアへのちょっとした苦笑である。
「経験者は頼りになるな」
「固くならずに。相手は魔法使いでも、こっちには「さすおに」がいるんですよ。「さすおに」」
冗談で言ったつもりが兵介自身も妙な説得力に声だして笑ってしまった。
真人も一瞬キョトンとしたが、釣られるように体を曲げ笑っている。
「さすおに」というワードへの身勝手な期待と、転生者だけが笑えるそのワードに対しての圧倒的信頼。
衆人監視でテロリストの腕を切り飛ばし、それが目立つ行為とはあまり認識した様子もなく、
吉祥寺真紅郎の知識と認識の誤認を利用し「お前!そんなこと言っている場合か!がり勉」(意訳)と口論し、
敵テロリストのトラックを消滅させドヤ顔(七草真由美以外は全く理解できず)、
同級生の前で軍属を公開し守秘義務の誓約を一方的に押し付けつつ、妹の接吻で封印を解き(二度目の同級生( ゚д゚) )
全身タイツの様な武装をし、同じ服装の部隊に再成かけまくり
同級生に再成を行い、妹に「30倍の痛みを~」と間接的マウンティングを発表させ
最終的には敵艦隊を消滅させ、最終回は妹に出迎えられる司波達也。
二人の脳内にはアニメの映像がシーンが高速で上映される。
「そうだな、その台詞24時間で何回くらい司波深雪は言うのかな?」
「達也が呼吸するたびに良いそうですけど」
真人が腹を抱えながら聞くと、兵介も返し、その返しに二人ともさらに馬鹿笑いをする。
3分ほど爆笑すると二人の目元には笑いすぎて涙が浮かんでいる。
「萬」
廊下の先から声がかけられる。
真人も兵介も目元の涙をぬぐいそちらを見る。
「桐原」
桐原武明が服部刑部と連れ立っている。
今日のは警備隊隊長の十文字克人の伝令役のだ。
「もうすぐ開会するそうだ」
間もなく2095年10月30日9時を迎える。
◆
切れ長の目。その横には愛らしい少年の顔。
久慈灘幽玄と司波雪光は搬入された実験装置を舞台裏で最終チェックをしていた。
すぐ傍では、他の学校のスタッフも同じように調整をしている。
調整完了後は論文コンペの技術スタッフに最終確認をし待機となる。
論文コンペの代表選出は市原鈴音、五十里啓、平河小春の三名だが平河小春がインフルエンザの為一時期離脱。
そのサポートとして司波達也が名を連ね、平河小春復帰後も「作業補助」として論文コンペのメンバーとして学内で認識されていた。
実験用のハードウェアに関しては雪光と幽玄がなし崩しに担当することとなった。
司波達也による推薦と「信じられません!常人の3倍の速さでCADの組み立てと調整ができるなんて!」という中条あずさの証言によって雪光が参加。
幽玄に至っては「暇だったから」と言って書き上げた「重力制御型熱核融合炉におけるハードウェアの問題点一覧」を司波達也に渡したことで「そうか、手伝ってくれるのか」という勘違いのふりをした強制的な手伝いとして、ハード面を雪光と担当することとなった。
幽玄としては「達也が楽になるかと思って親切にしたら仇で返された」と呟き、司波達也からは「存外お人よしだな」と返された。
達也の軽い笑顔を見せられ「お前がたまに見せるその笑顔は狡い。それは光井さんも惚れるわ」と当の光井ほのかが同席する喫茶店で言ったところ、女子達は一斉に顔を赤らめたのを幽玄は見ていた。
関本勲は市原鈴音と反目はするものの、別口で舞い込んだ魔法大学が実施している高校生向け基礎研究研修コース(2週間)へのインターン参加が決まり、「失敗して一校の看板に泥を塗るなよ」の捨て台詞を言って研修に忙殺されることとなった。
この研修昨年度より実施されたもので一説には十師族、特に四葉の息がかかっていると言われていた。
この研修は前世でハニートラップに引っかかった関本勲が、切花霞(夜天)をかばって大けがを負い3か月の入院生活を送ったことへの返礼と謝罪として夜天が仕込んでいたものだ。
前世では関本は霞によるハニートラップで霞の思い通りに動く駒になっており、周公瑾の洗脳を受けたふりをして中華街を探るよう動いていた。
その後、周公瑾に霞の存在を知られ爆殺未遂があったときに身を挺して霞を助けている。
「君が無事なら僕はどうなってもかまわない!愛しい人よ!」とややナルシスティックに叫んでいたことは夜天だけでなく、一樹も幽玄もアーデルもミシェルも覚えている。
入院後に「好きな人がいるんです。関本先輩には勘違いをさせたようですいません」と病室で夜天は謝っている。
前風紀委員長の渡辺摩利と一緒に見舞いに行くことで関本が暴れまわったり、ヒステリックになるのを防ぐ用意もしていった。
「はは、そうか、独り相撲だったか。いや~楽しい独り相撲だったな~ははは」
関本の絞り出すような渇いた笑い声を聴き、霞(夜天)は色恋での人を嵌めるには罪悪感が伴うことを知った。
二人とも作業はしているが、今ひとつ暇であった。
上級生たちは少し離れたところでソフト面のチェックをしており、会話をする相手がいないのだ。
先に話題を振ったのは雪光だった。
「そっちでのアラタってどうっだったの?」
「そっちと変わらんだろ」
雪光と幽玄は接点が少ない。
雪光は生徒会所属、幽玄は特に所属をせず「司波達也の同級生」というスタンスで、その立ち位置は西城レオンハルトや千葉エリカと変わらず、どちらかというと柴田美月の様なグループの一員でも生徒会や部活連との接点も薄い方ではある。
「マリカーで安全運転してたんだ」
「なんだ、マリカーしてたのか」
雪光の脳内には関家での家族パーティにお邪魔したことや四葉光夜主催での家族と学友とのパーティの一コマが思い出されていた。
「負けるとウィンカーがないせいにしてた」
子供に向かって「安全運転してたからお父さんの勝ち!」と言っては息子のアラタに「お父さんゲームだよ」と笑われていた一幕が雪光の脳裏によみがえる。
「想像できないな」
「で、そっちは?」
幽玄としては本当にそんな関重蔵を想像できなかった。家庭人の側面があるとは一切思えなかったからだ。
「ゴルゴみたいになってた。M16ライフルの代わりに日本刀使ってたけどな」
「うわ~」
眉間にしわを寄せ雪光は残念そうな声をあげる。
(やっぱりカナデがブレーキになってたか~)
相馬新ではなく関重蔵という人間を引いた眼で見ると、奇妙なバランスの上に成り立っていたことを雪光は感じていた。
それは雪光以外でも兵介も光夜も感じていた。
軍の命令で行う行為の激しさと、家庭で見せる一面のギャップは同一人物の見せるモノとは思えなかった。
幽玄が続きをは話そうとすると情報端末が振動した。
赤いライトがゆっくりと点滅し、それは何かを伝えるようであった。
「どうやら開始の合図だ」
情報端末を制服のポケットから取り出すと振動を止める。
雪光も同じように情報端末を取り出すとディスプレイを見る。
「こっちも」
ディスプレイには【SHOW TIME】の文字が浮かんでいた。
◆
「小野先生~」
「ちょっと!同性でも胸を揉むのはセクハラよ!」
清姫はカウンセラーの小野遥を見つけると指先をワキワキと動かしながら近づいた。
「萌えだ、萌だよ~」
(この台詞!この瞬間だからこそ言えた!八雲師匠ありがとうございます!あったことないけど!)
2095年9時33分。
この時には横浜騒乱は進行していた。