うちの魔法科高校の劣等生にはオリ主転生が多すぎる:その2 作:madamu
「深雪さん」
「はい」
七草真由美の呼びかけに司波深雪は頷くと、右手を突き出し手元のCADを操作する。
横では七草真由美も同じように右手を突き出す。
前方には2台の直立戦車。
◆
七草の特別攻撃隊は前面には遠距離攻撃が可能な七草真由美、司波深雪を配置し、中央には索敵要員の五十里啓と対パラサイト要員の吉田幹比古、部隊最後尾には後方からの敵勢力との戦闘に備え、千代田花音が配置されている。
近接を得意とする千葉エリカ、西城レオンハルト、壬生紗耶香、桐原武明の四名は前衛と中央の中間にいる。
必要があれば前面の二人の前に出て壁になり、状況に応じて側面の敵を叩き、場合によっては後方で敵の遮断を行う。
そして彼らに同行するのは7名の国防軍小隊であり、この戦闘区域内での警戒活動の法的根拠になっている。
3分前に接敵した直立戦車2台と敵の歩兵10名は撃破。
次に目指すは現在地から300m先の「横浜避難地下道第二降下口」である。
◆
一呼吸に三突き。
「三段突き…」
普段、明るい声の千葉エリカも声を潜め背中に流れる冷や汗を感じていた。
相対する中年男性。スーツ姿で日本刀。
決して運動慣れした体格でないのはスーツのジャケットから覗く腹部のだらしなさが語っている。
七草真由美が主導する「部隊」に参加したエリカは兄から渡されたオロチマルを手に、シェルターへの生徒たちの避難が終了するまで、シェルターへの支道口の巡回をすることとなった。
腕に覚えのあるエリカの好奇心や冒険心もその行動の動機にある。
「横浜避難地下道第二降下口」の入り口あたる自動モビリティの地下駐車場入り口で交戦する国防軍と敵勢力。
そして国防軍相手に相手に大立ち回りをする中年男性。
片手には日本刀。
「こういう相手にはわたしね!」と部隊から飛び出し、牽制の一振りを男性にしたところカウンターで繰り出されたのは沖田総司の秘剣「三段突き」であった。
転げまわり距離を取り、そのとき相手の技が何か判断できたのだ。
「エリカ!」
「ミキ!パラサイトよ!」
先程の三段突きは制服のジャケットを掠める程度で済んだが、もう半歩相手の踏み込みが鋭ければエリカは声を出せない状態になっていた。
改めて自分が生死の境に立っていること感じる。
雪光の説明で「パラサイトは情報次元からの召喚時に特定の技術や、過去の人間の情報を被せて呼ぶことが出来る」という説明から「三段突きを放つ中年男性」がパラサイトだと一瞬で直感した。
ミカエラ・ホンゴウが若年にして実戦で使用可能なまでに拳法の功夫があったのも、この「上乗せ」によるものである。
中年男性は日本の剣術をその身に上乗せされたパラサイトなのだ。
「おもしれぇ!相手にとって不足無しだ!」
部隊から歩を進めたのは西城レオンハルトだ。
他の面々、七草真由美や司波深雪は魔法にて他の工作員への牽制や直立戦車を相手取っている。
近接戦闘を得意とする桐原や壬生紗耶香も遠距離魔法を使う他の魔法師に敵を近づかせまいと奮戦しており、余剰人員として「パラサイト」の相手が出来るのが一年生の三名だけだ。
「エリカ、レオ。30秒足止めしてくれ」
幹比古は札を出すと想子を活性化させながら小声で何かを呟きだす。
「レオ。油断しないで。相手の剣の間合いは必殺の間合いよ」
先程、恐ろしい幸運によって致命の一撃を受けなかったエリカは緊張の声で注意を促す。
「任せろよ!パンツァー!」
レオンハルトは音声入力で魔法を発動する。
左腕のCADから魔法光が全身に回る。
これで日本刀の一撃も防げると思ったが、相手の力量を見誤っていた。
中年男性は「するり」と地面を歩く。
千葉の剣士であるエリカが対応できぬほど、自然かつ不自然な歩法は歩くというより滑るといった動きで10m近くあった距離を詰めた。
パラサイトの強化された肉体能力と古流剣術の妙が合わさった動きにエリカもレオも動けない。
狙いはレオだ。
切っ先がレオの身体に触れる。普通であれば硬化魔法の干渉力に負け、日本刀の切っ先はレオに触れることは無い。
だがパラサイトなのだ。
魔法師よりも情報次元に通じ、CADもなく魔法を発動させる。
切っ先が硬化魔法に触れると、想子同士の干渉を示す魔法光が一瞬だけ出るが次の瞬間には刀の先がレオの左肩に触れる。
「ぐぅ!」
硬化魔法が透過されたことに驚きつつも苦悶の表情を浮かべ体をひねるレオ。
エリカが横合いから中年男性を切りつけるがこれも「するり」とよけ五歩、六歩と間合いを取る。
「ちぃ、信じられねぇ」
レオの左肩から出た血は制服を赤く染める。
硬化魔法をいともたやすく透過されたのだ。レオからすれば弾く感覚も、突破されたといった感じではなく、まるで硬化魔法そのものがなかったような切られ心地だ。
後方遠くでは千代田の地雷にかかった敵の装甲車が宙を舞う。
通常兵器にとっては難敵である魔法が簡単に無効化された。
この中年男性のパラサイトはレオを簡単に屠ることができ、それは十師族最硬と目される十文字家のファランクスを切り裂ける可能性が持つ。
パラサイトの身体能力は銃火器での正面戦闘では追い切れず、刀は魔法師の硬化魔法、障壁を切り裂きうる。
対人戦闘では最強の存在がエリカの前に立っている。
相手の歩法、剣閃から自分より数段、いや桁の違う剣技を誇る相手なのも承知だ。
だが今いる一校の部隊で最も剣技に優れたエリカでないと対応できない相手でもある。
(死中に活)
そんな言葉がエリカの頭をよぎる。
道場でも実戦のように!と指導はされていたが、ここまで自分の命を俎上に挙げての勝負は初めてだ。
アドレナリンが大量に脳内をめぐるよりも恐怖の芽が開いていくのが、エリカ自身感じていた。
もう一度中年男性が歩を進める。
(幹比古君の時間を稼ぐのが仕事!命を捨てても!)
覚悟を決めエリカが一歩前に足を踏み出す。
!!!!!!!!
次の瞬間中年男性は動きを止め中空を見ると、不自然に上半身が痙攣する。その時間5秒。
痙攣が止まった次の瞬間に上半身は大きく伸ばされた。
まるで土人形を弄り回す子供が粘土がどこまで伸びるか試すような感じだ。
中年男性の身体は上半身と下半身が絞られるように左右逆に回される。
肉体の絶命。
そして中空の見えぬ空間へ幹比古の燃焼の魔法が情報次元に逃げ込んだパラサイトを焼き尽くす。
◆
「実力差」
ぼそりと夜天が呟く。
昔なじみで「半ギレブラコン女!」「冷血漢気取りの短気馬鹿!」とお互い罵りあった相手ではあるが、アーデルの次に口喧嘩をした相手で、自分の背後に四葉の看板が見え隠れした時期でもその態度は変わらなかった。
学業の成績ではほぼ五分だった相手。
糸による情報でその半ギレブラコン女がパラサイトと戦闘となったのを感じ助太刀したのだ。
如何に剣の腕に自信があっても、その動きを感じる限り負ける公算は高い。
「もう少し実力つけなさいよ」
再度呟いた口調は夜天というより霞の頃のままだった。
懐かしむような、寂しがるような、在りし日の思い出を知る声だった。
横浜は午前11時5分を迎える。