うちの魔法科高校の劣等生にはオリ主転生が多すぎる:その2 作:madamu
「終わったか?」
戦闘が一段落すると桐原武明は日本刀を鞘にしまう。
一校生は初陣を勝利で飾った。
局地的な勝利であったが、大亜連の侵攻軍の一部を撃滅せしめたのだ。
壬生紗耶香も初戦が終わり方で息をし、西城レオンハルトは肩の出血を国防軍兵士に治療されている。
無傷とは言えなかった。
桐原も擦過傷や、銃撃の跳弾による建築物の破片で頬に傷を作っている。
「ほのか、ケガはない?」
「うん、雫は」
「私は大丈夫」
初めての戦闘に疲労の色が強い光井ほのかに、ポーカーフェイスな北山雫が心配する。
周辺のパラサイト反応は柴田美月が裸眼で確認し、吉田幹比古にパラサイトの影が無いことを報告。
物理、情報次元両面で戦闘は終結した。
支道入口の一つ。そこには「七草の当特別攻撃隊」が防御布陣を構築。
支道入口近くには横転した車両を集め簡易の防壁を作る。
すでに、帯同する小隊が本部に連絡をし、国防軍の防衛範囲の情報が更新される。
「どうされますか。我々は応援が来るまでこの陣地を堅守する必要があります」
国防軍の鈴木少尉は七草真由美に今後の対応を説明する。
七草真由美は少し眉間にしわを寄せ悩む。
(しまった、摩利とキヨを先行して動いてもらったのはミスだった…)
戦術的判断は渡辺摩利、国防軍などの組織との連携判断は十二江清姫。
全体を見通す目には自信があるが局所での判断においては信頼する友人に任せていた。
副官役がいないことで自己の判断に助言を受けられない。
戦場を体験した今の七草真由美にしてみれば判断一つで後輩が死ぬ可能性がある現状で軽々に判断が出来ない。
「わかりました。それでは我々もこの支道口周辺を警護します」
出来る限り動揺を見せず回答する。
守勢の判断であった。
その回答とほぼ同時に、地面の細動が起きる。
敵勢力の第二陣が到着したのだ。
◆
東欧の中型直立戦車6台。
先程の戦闘では3台。
その倍以上の戦力。随伴する歩兵も多い。
!!!!!!!!
遠距離からの掃射。
障壁を展開し、防ぐ司波深雪と七草真由美、五十里啓。
一科生としての魔法師としての実力が汎用性と言った点で如実に表れる。
二科生たちは障壁が弾丸を防ぐうちに車両の裏側を通り、地下に向かう支道口や弾の貫通を防ぐ建築物へ遮蔽を取る。
「何とかならないか!」
支道口の地上部の建築物の影で大きな声でレオが叫ぶ。
「レオあんた、的になってきなさいよ!」
「無茶だ!いくらレオでも死んでしまう!」
「行かねーよ!」
エリカが返し、幹比古が反論し、レオが突っ込む。
幹比古の横には銃撃の恐怖に固まる柴田美月。
壬生紗耶香も戦闘に寄与出来ない自分に悔しく舌打ちを一つ。
遮蔽物となった横転車輛の影から国防軍の兵士たちが射撃を返す。
銃声が数分続く。
この場では近接戦闘が主体のレオやエリカ、壬生では対応が出来ない。
幹比古の古式魔法でも敵を視認しづらい状況では使いづらい。
感覚魔法で相手を察知して行う方法もあるが、銃声と弾丸飛び交う状況では下手に時間をかければ殺されかねない。
古式の弱点は速度と戦場における柔軟な対応だ。
奇襲性が高いが戦場のど真ん中では融通が利かない。
銃声が一時止む。
七草真由美をはじめとした障壁を展開した魔法師たちは障壁への着弾が止まり首をかしげる。
「増援か?」
「いえ、司令部からは到着に10分はかかると」
小隊長と通信士の会話。
その声が聞こえた真由美は十二江清姫と渡辺摩利の顔を浮かべた。
先行して自由に動いた二人が救援に来たのか。
それにしても直立戦車6台を含めた敵勢力を停止させることなど出来たのだろうかと疑問も出る。
銃撃によって起きた土埃が収まる。
その瞬間、巨大な何か、自動車サイズの物体が上空から落下。
注視していた国防軍兵士がぼそりと呟いた。
「直立戦車の上半部?」
その後金属の塊が上空から落下して起こす衝突音が追加で5回。
七草真由美もはっきりとのその双眸に目の前の状況を写す。
敵勢力の直立戦車の上半部と下半部が切断され、上半部がはるか上空から落下してきたのだ。
「何が起きたの?」
深雪の言葉に誰も返す言葉が出てこない。
額から一筋の汗。
四葉の魔法師たちでもこれほど容易に戦況はひっくり返せるものか。
そんな思いが深雪には生まれる。
遮蔽物から顔を出したエリカたちも言葉も出ていない。
敵勢力は突然の状況に混乱し騒ぎながら遮蔽を取ろうと右往左往としている。
「射撃用意!撃て!」
一番冷静だったのは小隊長の鈴木少尉だった。
小隊の面々の射撃で敵勢力の数が1人、また1人と減っていく。
「魔法の援護を!攻め時だ!」
鈴木少尉の声で意識の海から戻った七草真由美と司波深雪は得意の魔法で敵の歩兵を遮蔽物へと釘付けにする。
その射撃の援護を受けて白兵戦を得意とする面々が一気に距離を詰める。
その10分後、再度の戦闘も「七草の特別攻撃隊」の勝利となった。
支道口周辺には光井ほのかなど前線に向かない面々が国防軍と共に防衛を行い、七草真由美や千葉エリカたちは敵勢力が陣取った建物辺りを確認し残敵掃討を行う。
「流石にこれだけやれば大丈夫そうね」
「千代田先輩が吹き飛ばしましたから」
真由美の言葉を次いだのは吉田幹比古だ。
直立戦車の後方にあった兵員輸送用の車両は千代田花音の一撃で大破。
這う這うの体で車両から逃げ出した敵兵士は白兵戦組に制圧された。
爆発に紛れて建物に逃げ込んだものがいないか、七草真由美の千里眼で索敵しているが周辺にはいない。
真由美自身も連続した戦闘で相当神経がすり減っている。
戦場での陣頭指揮がこれほど負担になるとは考えていなかったからだ。
自身が動きながら周辺へ指示を出せる渡辺摩利の凄さや、十文字の落ち着きぶりを改めて実感していた。
「七草さん!こちらに!」
離れたところで、国防軍の小隊の1人が真由美を呼ぶ。
視線は近くにあった喫茶店を示す。
千里眼による店内の索敵依頼だ。
「吉田君、パラサイトの確認だけよろしくね」
「はい、柴田さんがいないと言っているので大丈夫だと思います」
幹比古にそれだけ言うと真由美は国防軍兵士のところへ向かった。
自分の千里眼がこれほど有用であり、またそれに頼られることの責任と負担を感じていた。
その負担により周囲を警戒することがおろそかになっていた。
それと同時刻、千代田花音の魔法「地雷」によって吹き飛ばされた兵員輸送車両から命からがら逃げだした一人の大亜連兵士。
少し離れた商業ビル前に倒れていた。
運良くビルにあった生垣がクッションになり助かっていたのだ。
しかし右足は折れ移動が出来ない。だが彼が受けた教育には窮地でも敵国への一矢を報いるべきという意識を持つことを推奨されていた。
近くには兵員輸送車内にあったグレネード(爆発筒)発射装置。
「うおおおお」
大亜連兵士は叫び声をあげて装置に装填されていた8発のグレネードをむやみやたらに乱射した。
グレネードは周辺の建築物に、そして文字通り半壊した直立戦車の下半部へと直撃する。
いや、正しくは直撃ではなく切断面から直立戦車内の弾薬室へのグレネードが転がり込んだのだ。
誘爆。
下半部に残った弾薬は誘爆し、本来発揮する火力を一斉に爆発させる。
最初に兵士の声に反応したのは司波深雪であった。
司波深雪は反応し、一校の仲間を守るよう巨大な障壁を張る。
幹比古も札を出し、風の精霊を自分の傍に呼び守りを固める。
だが移動中であり、戦場での意識がゆるんでいた七草真由美は敵兵士の声も周囲の状況に対しても反応が遅れていしまう。
爆風が七草真由美に届かんとしたとき動いたのは、彼女の迂闊さに呆れつつもその姿を見ていた久慈灘幽玄だった。
◆
中空で七草真由美を抱きかかえるのは二科の1年生、理論の天才とも言われる久慈灘幽玄だった。
突然のことに七草真由美は言葉が出ない。
先程まで国防軍の兵士に呼ばれ歩いていたときの突然の爆発。
熱と強風が体を包み込もうとした瞬間、無風の世界へと呼びこまれた。
外では、障壁を解除した司波深雪が同級生と国防軍の兵士の安否を気にして声をかけている。
真由美の見る限り後輩も、国防軍兵士も重傷者はいない。
ひと先ず部隊の安全は確保されたと判断できた。
この状況でお姫様抱っこをしている幽玄を真由美は落ち着かない声をした。
「久慈灘君、おねーさん少し恥ずかしいな~」
「おしゃべりすると、舌噛むよ」
久慈灘幽玄は昔のように「真由美」と呼び捨てにしなかった。
意識的にである。
幽玄の足下には魔法光。
真由美を抱きかかえたまま、一歩一歩中空から降り、地面へと足をつける。
先程の戦闘もこの空間から見ていた。
劣勢を感じ、直立戦車を「空間断裂」を利用して行動不能にした。
空間内のある面を上空に移動面をつなげる。
そしてその2次元に上ある物体は分子構造が切断。
如何に硬質であろうとも「事象」には敵わない。
そして七草真由美を爆発から守ったこの空間。
「アストラル界」と幽玄は呼んでいる。
次元と次元の間。世界の重なり合う場所の隙間。
今、二人は外界の音と光と臭いを五感で感じられる別の世界に居る。
久慈灘幽玄は「無限図書館」とも言われる世界と同等の広さを持つ空間の支配者だ。
アストラル界は現実世界の影であり、複写である。
この世界は【似像】の写し世界でもある。
人間は知覚する世界をコピーした世界。それは情報次元体に近い。だが情報次元体そのものではない。
世界の写し。過去の、1秒前の出来事も情報として写されている。
ただ写せぬのは人間と人間の心だけである。
誘爆によって崩れたビルの瓦礫が上から降ってくるが、久慈灘幽玄と七草真由美にはあたらない。
すり抜け、地面に塵を撒く。
「七草先輩。一度降ろすよ」
「ありがとう」
少しはにかんだ笑顔を幽玄に見せる。
「そんな無防備に笑うなよ。余計な男子が惚れる」
「久慈灘君もかしら」
横目で真由美を見る幽玄の口元は少し笑っていた。
(真由美の恋愛絡みの冗談はあんまり面白くないな)
口に出して言ってしまうと感情が溢れそうになる。
あの時、彼女の手を離してしまったのは小賢しい計算と将来の打算が合ったからだ。
自分がこの世界で生きるための打算。
強者の側につくための打算。
関重蔵に「恋愛は辛いな」と一度言われた。
感情的になって胸ぐらを掴んだが「大事な人を捨てたよ。置き土産は背中の刺し傷だ」と言われ、それ以来なんと無しに関重蔵を師匠扱いしている。
だが、今はどうだ。
転生者は溢れ、あの四葉は完全に軟化している。
命をかけて九島や五輪を抑え込むことをしなくても良い。
あの10年の暗闘が起きる兆しは無い。
自分の人生に影を落とす要因は皆無なのだ。
そう思った瞬間に久慈灘の口から自然と言葉が出た。
「七草真由美、結婚を前提に付き合って欲しい。返事は卒業までにくれ」
2歳年下の男子。
接点も殆ど無い。
切れ長の目。フレームの薄い眼鏡の奥の瞳は冷静さと情熱が同居している。
まるで、何年も呼び慣れたように自分の名前を呼び捨てに求婚される。周囲では破壊されたビルの土煙がある。
「あの、すぐにはね、ほら答えづらいからね」
七草真由美は落ち着かない様子で、右手で髪を弄る。
顔は赤くなり視線も下に向く。
「卒業まで待つよ。イエスだと嬉しい」
はっきりとした声に、嬉しそうな笑顔。
久慈灘幽玄は返事よりも、自分の気持ちを、あの時は決して言えなかった気持ちを伝えられた。
押しが強いとか芯がしっかりしているとかでは無い。
目の前にいるのは駆け引きをせずに真っ直ぐにぶつかってきた大人の男なのだ。
そんな印象を久慈灘幽玄に真由美は持った。
「今はほら、みんなと合流しないと」
「いや、少しだけ周囲が落ち着くまでここで待とう」
幽玄は真由美の腰に手を回し、抱き寄せる。
真剣な瞳に真由美も悪い気はしなかった。
幽玄の腕の中には失くしたと思った感情が愛した女性の形で存在している。
それが嬉しかった。
◆
午前11時59分。横浜。