うちの魔法科高校の劣等生にはオリ主転生が多すぎる:その2 作:madamu
「なんだ、ダンボールか」と言ってくれるかと思ったが、そんなことはなく大亜連からやってきた商用輸送船に偽装した船の船員は、積み荷の中にないダンボールを見て即座に無線機に手を伸ばした。
ゲームで言うところの船員の頭上に「!」が出たので、即座に後ろに回り首を絞め失神させる。
さあ、これからタイムアタックの開始だ。
失神した人間を積み荷の影に置き、俺はそそくさと貨物室から出る。
【影の中の男】が鏡世界を展開したがそんなことに関わっている暇はない。
無理やり不動達也特尉の即応班を作り上げるため、今日の横浜防衛に関わる幾つかの部隊に負担をかける結果となった。
その尻ぬぐいとして俺は1人で大亜連の偽造商船へと潜り込むこととなった。
その手配を苦虫を潰したような表情で行った村井大佐有能です(棒読み)
というか、全盛期の光夜、雪光、カナデ、兵介、竜也(タッちゃん)がいれば横浜などどうにかなるだろう。
「もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな」とスーパー1が言いたくなるような超絶魔法師が多くいるのだ。
ちなみに前世ではガッツリRX世代なので、バイオライダー最強説を支持している。
前世の後年(ややこしい)で兵介からスーパー1の台詞がコラ画像であったことを知らされ愕然としたことを記しておく。
問題は【影の中の男】よりアーデルがはしゃぎ回って横浜の景観をぶっ壊さないかの方が心配だ。
まあ最悪、達也の再成で建築物を直せばよかろう。
手元の情報端末から「カメラの操作掌握は」とテキストを打つと支援課第二班の面々から「終わりました」「段ボールネタは若い人には通じない」「今すぐ電源を切れ!」といった突っ込みに混じって「横浜市内の各戦闘区域で異変」との情報がやって来る。
情報部門の悪いところ。戦況の全体については割と無関心。
このあたり、歩兵や機甲部隊と違い裏でアレコレする部門特有だ。
簡単に言えば「現地軽視」と言ってもよい。
勿論現地での勝ち負けは最重要だが情報部門はリアルタイムでの対応は少なく事前の仕込みがメインである。
その仕込みが終わってしまうと、現在進行形の事態では割とすることがない。
特に支援課第二班は閑職一歩手前。
若き歩兵が切った張ったをしている裏で、こういったジョークを言える余裕がある。
まあ、それでも事前準備で血を流す量が多いので業務分散と許してほしい。
俺?現場兵士兼情報屋兼工作員兼潜入員兼色男兼転生者なので休む暇はない。
あとアクション映画とかのスパイがリアルタイムの戦闘に巻き込まれる映画とかあるけど、アレは事前の仕込みの失敗かつ不測の事態なのでこっちの業界だと「後手」「トラブルが雪崩を打っている」状態である。
昔は手に汗握った映画も今では「この後何枚始末書かくのか」というシミュレーションが脳裏に浮かぶので楽しめない。
閑話休題
【影の中の男】が起こしたこの一連の事件だが俺的には「大した事件」ではなくなった。
というのも、奴のこの世界に対しての知識の低さが状況を容易にしている。
思い出して欲しい。
魔法科高校の劣等生横浜騒乱編で事件解決には「お兄様」「多少の国防軍」「魔装大隊」「一校生」「一条将輝」「一人だけフルアーマー十文字克人a.k.a立ち上がれ魔法を手するの者たちよ!おじさん」で事が足りる。
京都に敵勢力がいても、カチューシャがまとめる後輩連中で十分だ。
というか、おつりがくる。
下手すれば仙波冬彌だけでもパラサイトの1ダースくらいなら片手でどうにでもなる。
接点が少なかったが仙波冬彌の実力は光夜のお墨付き。
島根?鳥取?どっちだけか、で起きた大陸系方術と八雲大社が関わる大事件を一人でどうにかしたらしい。
単純に数十のパラサイトの動向さえつかめれば対応戦力は色々できる。
問題だったのはこちらの戦力ではなく、敵勢力の情報の不足だった。
「いつ」「どこで」「どうやって」が判明すれば対応方法はいくらでもある。
影の中の男の行いは以前と同じような行動を規模を大きくして行うだけだ。
通常の横浜騒乱は司波達也がいれば済むし、多少イレギュラーがいても転生者が1人、2人いれば解決できる。
そして今回は、「影の中の男」と異分子、「パラサイト」というイレギュラーの二本立て。
だがその対応できる人員は豊富。そして奴らの実施する作戦はある程度想定内。
横浜騒乱と同時なので戦力の集中は容易だし、横浜と京都と一校と範囲も狭められた。
影の中の男の手口も変わりはない。
あの男は4回目のコンテニュー。
そして能力は俺たち転生者の知るそれ以上にはなっていない。
なぜなら、俺たちは先に進んだが、あの男だけは途中でいなくなったからだ。
いくらリスタート出来たとしても、同様にリスタートしさらに成長した人間がいればどうにか出来るのだ。
実施されてる作戦は学生を囮としたものだが、国家鎮守の「近習備」や十師族、義勇兵、国防軍とこの国家の最大戦力を投入できたので聞こえてくる被害はそれほど大きくない。
というか、先ほど光夜が行った魔法で、鏡世界の外にいる敵勢力の数はぐっと減った。
あとは小集団となった個別敵勢力を潰し、現場に混乱をもたらしたパラサイトを丁寧に消せば終わりだ。
影の中の男によって戦闘発生区域や規模の不明という難問を解決してくれた須田ちゃんにはキャバクラでも奢ってあげようと思います。
ただし20歳になってから。
◆
また1人と船員を気絶させていく。
朝はUSNA、昼過ぎには大亜連と忙しい。
「こちら優男、ついた」
ダンボール発見から173秒。
目的はブリッジではない。
こういった商船に偽造した軍用船には複数の通信室を持つ。
一つはブリッジにいる船長や司令官がメインで使う通信室。
連絡先は船内や本国といった相手だが今回の狙いは第二通信室。
簡単に説明すれば第一の通信室がダウンした場合の予備であり、情報戦が発生した場合にメインの通信室が忙しい時の通常の通信運用を行う場所である。
そして俺が潜り込んだのは第二通信室の隣の部屋。
2095年では異常に普及していた無線接続が減っている。
理由としては電波ハッキングの技術が確立されており、本当に重要な情報は特注の通信ケーブルと通信装置によって
独自性を保ちかつ何重かの暗号変換を行ってから無線ネットワークへと流す。
硬質の床材を特殊刃のカッターではがし、床下を這う通信ケーブルにちょっとした玩具を付ける。
このカッター、一つで新人サラリーマンの月給2か月分位する。
魔法全盛のこの世界では魔法でなんでもできるように思われているが物音を点てずに物体の切断をするのならば実は魔法に頼らない方がいいのだ。
高周波ブレードは聞き耳を立てると振動音がするし、レーザーなんて目立つうえに下手すると物体への破壊音が響く。
やっぱりアナログが一番!
「データは取れてるか」
情報端末の先にいる部下に声をかける。
「OKです。いやはや、こんな方法で欲しいデータが手に入るとは」
「火事場泥棒には持ってこいだな」
俺は口もとに笑みを浮かべつつ、転送が終了したこと表示するハッキングツールを通信ケーブルから外した。
今やっているのは村井大佐が仲介した船内制圧のため強行偵察ではなく、第二通信室の通信回線へのダイレクトハッキングで相手国の秘匿回線でしかアクセスできない秘密データベースへのアタックだった。
欲しい情報は手に入った。
大亜連が保有する他の艤装船籍の船体情報、偽装登録情報、横浜までの本当の航路情報、そして大亜連からの寄港地で補充した物品情報と艤装船籍の軍用連絡に使用する識別コード。
いや大漁大漁。
相手は敵地で大混乱。戦闘では押され気味。
いくら現地協力者がいてもその意識は戦局に目が行く。
船内の潜入者まで目が行っておらず、何をされたかはわかっていないだろう。
あとは簡単だ。
◆
9分後。
俺の手引きで、国防海軍海兵大隊第3中隊にいる通称「海竜」部隊の面々が手早く敵艦艇を制圧した。
敵船は情報回線を緊急遮断し、いくつかの機密情報や通信機器を物理的に破壊し漏洩を防いだ。
相手からすれば最悪自国の軍事情報の漏洩は防げたと思っている。
俺の行った悪戯も勘づかれていない。
通信機器が破壊される前にハッキングを仕掛けたことなどわかってもいない。
支援課第二班は敵国情報を確保し、今後国防軍内での組織の重要性を増した。
「他に対象は?」
海竜部隊の隊長である尉官が質問してくる。
防弾用のマスクをしているので表情は読めないが、声音は緊張の影がある。
「そっちのクリアリングが間違いなければ終わりだ。外と連絡取って船は無力化したことを伝えなよ」
素っ気なく答える。海竜部隊の隊長は頷き、部下に司令部への報告をするよう指示をする。
「情報部、あんたこの後は?」
少し探るような声。まあ童顔の工作員は現場にいるだけで胡乱な眼で見られる。
この少年は何者だ、というヤツである。
「この後は別件だ。事態収拾に横浜散歩さ」
そう言って、力のない敬礼をすると、海竜隊の隊長は軽く右手を上げて返礼する。
これでこの現場の仕事も終わった。
あとは【影の中の男】を始末するだけとなった。