「…………ところではやてちゃん」
「な、なな何かな七海ちゃん」
私が声をかけると、はやてちゃんが慌てて返事をする。
「一体その店はどこのあるのですか? さっきからずっと同じところをグルグル回っている感覚があるのですが」
いくらなんでも道をずっと右に曲がっていれば気がつくのです。
「いや、多分きっともうすぐ着くと思う、きっと「はやてちゃん」、はいすいません、迷いました!」
まったく、そんなことだろうと思ったのです。
「取り敢えず、誰かに道を聞いてみましょう、それが手っ取り早いのです」
「そうやな……、あ! おっちゃんや! おーい!!」
突然はやてちゃんが腕をブンブン振り出す。
そして、それに反応したかのように近づいてくる気配が一つ。
おそらく、この人がその喫茶店の関係者なのでしょう。
「おお、どうしたんだいこんな所で? 散歩か」
声がしたの方に移動したので、はやてちゃんと話しやすいようにしゃがんでくれたのでしょう。いい人そうです。
「ちょっと道に迷うてもうてな、今からお店に行こうとしてたんよ」
「あー…………、そりゃすまんことした」
「どないしたん?」
それを伝えた途端、その人はバツが悪そうに頭をかいています。
何かあったのでしょうか?
「実は今日店は貸切なんだ、ちょっとネットで知り合った奴らとパーティーがあってな」
「あ~、そりゃしゃあないなぁ……、ごめん七海ちゃん、また今度行こな」
「はい、予定があるなら仕方ありません」
まったく、運が悪いのですね。
ちょっと楽しみだっただけに残念なのです。
「そっちのお嬢さんもすまんな、今度来た時はサービスするぜ」
「ええ、楽しみにしておきます」
そう言って立ち去っていくおっちゃんさん。
…………名前を聞き忘れましたね、今度ちゃんと聞くことにしましょう。
まあとりあえず、時間が余ってしまったのではやてちゃんと相談するです。
「さて、はやてちゃん、これからどうしましょう?」
「そやな~、せっかくここまで来たんやし何か美味しいものでも買って帰ろうか」
「この辺りに美味しそうなものありました?」
「ん~、確か喫茶翠屋っていう人気の喫茶店があったはずやけど……」
「ああ、そこなら行ったことがあります、確かに美味しい喫茶店でしたよ」
「じゃあそこに行こか」
「ええ、そうしましょう」
そう冷静に答えるのとは裏腹に、心の中ではすごく焦っていました。
…………まずいですね。
私一人ならともかく、はやてちゃんを連れて行くのはとても危険です。主に私の身が。
確か今どこまで進んだのでしたっけ?
えっと、この前ぶつかった時に神社で変な気配を感じたから第二話は終わっていて、第三話は………ダメです、思い出せません。
流石に十年くらい前の記憶なので細かいところがかなりウヤムヤになっているようです。
少し話がそれましたが、どうしましょう。最悪転生者と鉢合わせします、せっかくここまで順調だったのにヤバイのです。
なら最初に知らないフリをしろ言われそうですが、はやてちゃんが残念がるのでなしです。
…………最悪、万華鏡写輪眼を使えば問題ありませんね。
右目の奇魂はもう三ヶ月ほど充填が必要ですが、まだ私には左目の幸魂がありますし、なんとかなるでしょう。
「では、早速辺りの人に道を聞き「ん? なんやこの感じ」、はやてちゃん? どうかしま――」
そう言おうとした時でした。
「きゃあ!」「おお!?」
やけに強い地震が私たちを襲います。
それは車椅子に乗っているはやてちゃんですらバランスを取れず、転倒しかけるほどで、震源地がこの近くであろうことが想像できました。
けれど私は次の瞬間、その考えを改めることになりました。
光がない世界で、私はそれを見ました。
私たちに迫り来る巨大な音の塊、まるで触手のように伸びていくるそれは私たちの真上にまで近づいて来ていたのです。
「ちぃ!」
このままでは危ない、そう感じた私はすぐに左目を開け万華鏡写輪眼を発動させます。
こちらの万華鏡には奇魂ほどすごい変化を起こすことはできません。
ただ少し、運をよくする程度なのです。
けれど、それで十分です。
私が視界内にそれを捉えた途端、その植物は急に向きを変え、私のすぐ横にその根を叩きつけます。
ふぅ、これで一安心ですね。ちょっと痛かったですが。
~八神はやて~
「はやてちゃん、大丈夫ですか?」
地震がおさまったところで、七海ちゃんが心配そうに話しかけてくる。
「うう、なんとか無事やで…………、ってなんや、この木の根っこみたいなんわ!?」
目を開けた私の目に飛び込んできたのは優しい友達の顔と、さっきまでそこにはなかった巨大な木の根でした。
「木の根? そんなものがあるのですか?」
「うん、なんかビルに巻き付くようにあちらこちらに伸びとるよ……」
目が見えない彼女に、詳しく周りのことを話す。
たぶん、七海ちゃんなら大体のことはわかると思うけど、流石に色と形は分からないと思う。
「そうですか……、ではそれらはどちらから伸びていますか?」
「えっと、ちょうど私の後ろからやな、なんやごっつい木もあるし」
少し体をねじり、その根がどこから来たのかを確認する。
そこにはここにあるような根だけではなく、葉も枝もついた巨大な木が何本かあるのが見えた。
とりあえず、おっちゃんの喫茶店がある方には何もないので、そこはほっとした。
「では、このまま逃げましょう、いつ何があるかわからないのです」
「そやね、残念やけど喫茶店はまた今度やな」
私がそう言うと、同時に七海ちゃんが後ろに移動して、車椅子を掴む。
「よいしょっ、と」
さっきの衝撃で地面が荒れたようで、七海ちゃんが力を込めて車椅子を押す・
「ん?」
その時。私の肩に何か冷たいものが触れた。
感触からして液体みたいだったので、とりあえず手で触ってみる。
紅く、鉄の匂いがするそれは間違いなく血液だった。
問題は、これがどこから落ちてきたか、になる。
今、私の後ろには七海ちゃんがいる。
答えは、聞くまでもなかった。
「七海ちゃん!」
「ふぇ? なんですか、はやてちゃん」
そう何気なく答える彼女の顔には、血がまるで彼女の涙のように流れていた。
「七海ちゃん、もしかしてさっきのでどこか怪我したん?」
「え、怪我ですか?」
彼女は自分の顔に触れる。
それでやっと彼女は自分の顔を流れている血液に気がついたようだった。
「ああ、どうやらそのようですね、通りで頭が痛いと思いました」
「ならすぐに病院に「このくらいなら大丈夫ですよ、……ここからなら私の家が近いようですし、手当ならそちらでしましょう」…………」
すぐに病院に行くように言いたかったけれど、七海ちゃんがそういうのなら大丈夫なんだろう。
「では、早速行くのです、……確かここは四丁目でしたね」
「七海ちゃん、無理したらあかんよ?」
「なんの、この程度なんてことないのですよ」
そう言って、再び車椅子を押し始めようとする彼女。
「あ、待って!」
私はポケットからハンカチを取り出して、彼女の顔を拭く。
「とりあえずこれで頭押さえていて、車椅子は私が操作するから七海ちゃんは横でゆっくり行こ」
「え、でも「でもやあらへん!」、……いえす・まむ」
私が強く言うと、大人しく七海ちゃんは片手でハンカチを抑え、もう片手で車椅子の手すりを掴む。
「まったく自分を大切にせなあかんよ、七海ちゃん美人なんやし、顔に傷ついたら一大事やで」
「はは、その時ははやてちゃんがもらってくれる?」
「え!?」
その言葉に、私の頭は真っ白になる。
わわわわ私が七海ちゃんのお婿さん!? イヤもしろお嫁さん!!
私が料理を作って、寝坊助さんの七海ちゃんを起こす。
そしておはようの。
「……冗談だよ?」
「わわ、わかってるよ! ただちょっと面白そうやなって思っただけや」
…………なんやろ、何かわからんけど私今すごく落ち込んでる。
そんな不可解な想いが私の胸の中に芽生えている。
なんやろうこの気持ち?
~おまけ~
「七海ちゃんやったら相手選び放題やと思うよ、だって美人さんやし、気配り上手やし」
「そうかなぁ? 私と結婚しても面白くないと思うよ、だって私は中身が結構残念だと思うし」
「いやいや、七海ちゃんで残念なら私は何になるの?」
「…………聖人君子?」
「結構すごい感じに見られてた!?」
なんでそうなったのか、私には分からなかった。
・おっちゃん
喫茶店のマスター
逞しい肉体を持つ黒人で禿頭・髭面
・万華鏡写輪眼「幸魂」
幸運を引き寄せる写輪眼
ちょっと運が欲しい!という時に役に立つ。
連続使用可能だが、それ相応のチャクラを消費する。