とある五月上旬の昼下がり。
海鳴市の海上に、黄色い閃光が走る。
それを私は自室でツナと一緒に窓から海を眺めていました。
「うわ、すごい……」
隣で望遠鏡片手に海から立ち上る水の柱に見入っているようでした。
その数は全部で……五つ。そう、五つ。
一つ少ないのは、間違いなく私のせいだろう。
その五つの水柱に立ち向かう四人の、四人の……あ!
「……どうしましょう」
一つとても重要なことに気がついてしまいました。
原作ではテスタロッサさんと使い魔さんの二人だったからこそ封印に失敗して敗れそうになったのです。
強制発動をテスタロッサさんがしたのは同じですが、人数が四人になって、しかもジョエルシードが一つ減った状態なら普通に封印して終わりになってしまいます。
ちらりと、ツナを流し目で見ます。(サードアイ)
……未だ未熟なツナにあそこまで飛び回る彼女らを止める手段はありません。
「はぁ……」
仕方ありません。
些か面倒ではありますが、ここは私が動くしかないでしょう。
「ツナ、少し窓から離れていてください」
「え?」
そう言ってツナを押しのけて窓を開け、首に下げているジョエルシードを握り締め、願いを込める。
求めるのは遠距離攻撃のできる武具、光のような速さで飛ぶ弾丸、……あと非殺傷設定。
――とくん
手のひらに仄かな温かみが伝わってくる。
この宝石が願いに応えようとしてくれるのが伝わってくる。
指を広げると光り輝くジュエルシードが姿を変え始める。
私が求める形すなわち、ケルディムガンダムのGNスナイパーⅡに!
「……さあ、狙い打ちますよ」
目は閉じているのですが、気分的にスコープ顔を近づけてみます。
なんだかワクワクしますね。
「……あ、ツナは霧の炎でこの辺り一帯に結界を張ってください」
「え、なん「早く」……はい」
ブツブツ文句を言いながらも、リング形態に変化したリボーンさんを使い、結界を張るツナ。
とりあえずこれですぐには場所は特定されることはないと思います。
…………さっきのは反応が微弱なので感知されてないと思いたいです。
「さあ、時間もありませんし、ちゃっちゃと済ませましょう」
サードアイに「未来視」をセットして、照準を定めます。
これじゃぁ外れる、もう少し右……、やや上、……よし。
撃てるタイミングを見計らって呼吸を止めて、……引き金を絞る!
解き放たれた弾丸は銃口からまっすぐに目標の少女へと向かう。
「!?」
イヴさん似の彼女が気がついたようですが、少し遅かったです。
弾丸はそのまま吸い込まれるように彼女の額へと進み、直撃する。
「――」
何か呟いた彼女の意識を刈り取り、弾丸はそのまま消える。
気を失った彼女はそのまま猫使い魔さんに抱きかかえられ、一応助かったようですが、戦線復帰は無理でしょう。
とりあえずこれで状況は一気に不利になりましたし、まぁこんなものでしょう。
「…………よし」
「よし、じゃないよ!なんで今撃ったの!?」
「いえ、このままだと普通に封印されて終わりそうでしたので、それではつまらな……、原作から逸れそうでしたから」
「今つまらないって言ったよね!?絶対言いかけたよね!?」
『やり方はどうあれ、一応これで原作通りの流れになるんだからいいじゃねえか』
些かうるさいツナを無視して、私は再び彼女らの監視に戻ります。
この後、特に変わった様子もなく、原作通りなのはさんが応援に駆けつけ、五つのジュエルシードはなのはさんが3、テスタロッサさんが2と言うふうに分けられ、事態は収束したのでした。
しかし、予想外の出来事というものは、本当に予想できないものだということをこの後私は身をもって知ることになるのです。
時刻、深夜0時56分。
私は、違和感を感じて目を覚めました。
「……なんでしょう、空気が震えている?」
音の世界を見る私には、それがはっきりわかりました。
何か強い波動のようなものが、この家周辺に響き渡っているのです。
「まあ、取りあえず確認が先かしら……」
私は、その波動が最も強く放たれている箇所、庭にあるてぃんだろすの犬小屋前までやってきました。
「ガルルルルルル!」
てぃんだろすも経過して小屋から出て、鎖が伸びる限界までその場所から離れています。
「さて、出てくるのは鬼かしら、それとも蛇?」
私はてぃんだろすの側に座りながら、まるで宝箱を開ける子供のような気持ちでそれを待ち続けました。
そして待つこと2・3分。
「来る」
一段と強い波動が、辺り一帯に響き渡りました。
同時に何もない空間から大きい物体が姿を現し、激しく地面に叩きつけられました。
二、三度それは転がり、私たちの近くで停止します。
「あ……、う……」
その物体から、女性の声が発せられました。
いえ、物体と呼ぶのは少々失礼ですね。
我が八坂家の庭に突如として落下してきたのは、原作では既に死亡しており、今ここにいるはずのない使い魔、リニスさんでした。
彼女の体のあちこちには雷撃で出来たと思われる火傷や、鋭いもので切られたかのような切り傷があり、それらが現在彼女を苦しめている原因であることは容易に想像ができました。
「致命傷とまではいかないものの、放っておいたら確実に悪化してしまいそうですね」
面倒、と思いつつも私は彼女を家の中に入れることにしました。
今ここで彼女を見捨てると、後々厄介なことになるのは明白ですし、何より今後ろから見ているお母さんに隠し通せそうにないですし。
「お母さんはこの方を私の部屋まで運んでください」
あっちも私が気づいていることぐらい分かっているはずなので、私はそう言って家の中に入る。
「おや?七海ちゃんはどうするんですか?」
「私は適当に包帯などを取ってきます」
私と入れ違いに、お母さんが庭へと出て行く。
「はぁ、本当に面倒……」
私はいつもの位置にある、怪我をした時などにいつでもつかえるようにしている救急セットを取り出します。
子供の手の届く場所にあることにいささか不安を覚えないでもないですが、この家の子供は私とツナだけですので、まあ問題はないでしょう。
取りあえず、手当はお母さんに任せればいいでしょう。
私は考えるのはその先のことです。
まず、なぜ彼女がここに落ちてきたのか?
これは考えるまでもありません。
時系列的に考えて、おそらくテスタロッサ(母)と何かがあったのでしょう。
となると、同じようにあの狼とイヴさん似の女の子もどこかに落ちているのでしょうか?
原作の知識があるのなら、彼女も今の何が起こっているのかくらいは把握できているはずですし、原作に合わせるためにワザと負けたふりをしてこの街に逃げることもできるでしょう。
ただ、それだと彼女が一人でここに落ちてきたことが些か気になります。
彼女の使い魔なら、一緒に落ちればよかったものを、わざわざ別行動になる意味がわかりません。
別行動にならなければならない理由があったか、それとも自由に動けない状況にあるのか、考えるだけならいくらでもできますが答えは出ません。
能力を使っても良いのですが、それでは面白みに欠けます。
お楽しみは最後までとっておくのが私の趣味なのです。
「……あ」
そう言えば、このこともツナに説明しなければいけませんね。
この猫さんのことを知らないようにしてもらうのと、リボーンさんを見せないようにしてもらわなければ。
そんなことを考えつつ、私はたった今猫さんを運んできたお母さんの元へ急ぐのでした。
長いこと更新できなくてすみませんでした
前ほどではないですけど、ぼちぼち更新していこうと思います。
追記
予約投稿です、これが投稿されている頃には
私は1/5までPCに触れられない状況になるので、
感想返しはできません。