魔眼の少女   作:火影みみみ

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第4話

 

 

 

 春、それは始まりの季節。

 

 春に様々な命が生まれ、眠っていた動物たちも目覚め始める。

 

 春は祝福の季節であり、私たちに様々な恵みを与えてくれる。

 

 過酷な冬を越した者はその次の暖かな春を迎え、そこから新たな一歩を踏み出し始める。

 

 けど……。

 

 けどね……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「げへへ、上玉ですぜ兄貴」

 

「ああそうだな、こりゃあ本番が楽しみだ」

 

「ちっさい子は俺がいたただきますんで」

 

「お前相変わらずロリコンだな、ちょっと待ってろ薬持ってくるから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こんな変態兼犯罪者が湧いて出てくるのは、本当に勘弁して欲しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~二時間くらい前~

 

 最初の探索から半年が過ぎ、入学式が近づいたある日のこと。

 私は海鳴市の景色がよく見えそうな墓地近くにいました。

 

「…………この街も、大体は探索し終わりましたか」

 

 あれから何度も母の許可をもらい、街の探索を重ねた結果、私はこの街の構造を大体ながら把握することができました。

 

「私が通う小学校の場所も覚えてしまいましたし、これでは本格的にやることがなくなりましたね……」

 

 正直なところ、かなり暇なのです。

 お父さんはここのところ出張でいないようですし、これは本格的に困ってしまいました。

 と言うか、あの人は一体何をしているのでしょう?

 元ネタが元ネタだけに普通の職業をしている姿なんて想像できませんし、暗殺やボディーガードあたりが妥当でしょうか?

 流石にテロリストはないと信じたいです。

 否定できる要素が全くありませんが。

 

「……おや?」

 

 私から見て右側、誰かが草むらにからこちらにやってくるみたいです。 

 その証拠にガサガサと草が擦れる音がどんどん大きくなっています。 

 

「まったく、こっちにもないなんて……、あら?」

 

 やってきたのは私よりも背が高い女の子でした。

 感じからして小学生と思われますが、どうしてこんな所にいるのでしょう?

 

「こんにちは」

 

 取り敢えず、挨拶くらいはしておきましょう。

 コミュニケーションは大切なのです。

 

「ええ、こんにちは……、ってあんた誰よ?」

 

 ふむ、中々警戒心が強い人なのですね。

 言葉の端に見えない刺を感じます。

 

「申し遅れました、私は八坂七海といいます、よければお名前を教えていただけますでしょうか?」

 

 あくまでも笑顔を絶やさず、こちらに敵意がないことを相手にアピールするのです。

 

「…………はぁ」

 

 しばらくそうしてニコニコしていると、彼女は何か諦めたようにため息をつきました。

 何か思うことでもあったのでしょうか?

 

「アリサ、アリサ・ローウェルよ」

 

「アリサさんですね、……ところでそんな草むらで探し物ですか?」

 

「あんたには関係ないわよ」

 

「…………(ニコニコ)」

 

「――ああもう!! わかったわよ、話せばいいんでしょ!」

 

 本当、笑顔って最高の武器ですね。

 美人に生まれて良かったです。

 

「指輪よ」

 

「指輪……、誰かの形見なのですか?」

 

「……なんでわかったの」

 

「勘です」

 

 ここが墓場でしたので。

 

「もういい? 私はさっさと探「でしたら右のお墓の隙間」さ、……え?」

 

「あなたから見て右のお墓、その隙間に何か挟まっていますよ」

 

「本当!?」

 

 私がそう言うと、アリサさんは急いでそのお墓を調べ始めます。

 少しして、

 

「あ、あった……」

 

 手にした指輪を大切に握り締めるアリサさん。

 

「見つかって何よりですね」

 

「でも、どうしてあんたそこにあったのがわかったの? どう見たってあんた目が見えないのに」

 

 アリサさんが不思議そうに私を見つめます。

 では、今はこう答えておきましょう。

 

「それは、秘密です」

 

 ちゃんと人差し指を唇に当てるポーズ付きで。

 

「…………」

 

「…………」

 

 無言で見つめ合う私たち。

 

「くく、ふふふふ」

 

 アリサさんの口から僅かに笑い声が漏れます。

 

「ふふっ」

 

 私もつられて吹き出してしまいました。

 

「あんたって、変な奴ね」

 

「自覚してます」

 

「最後にあんたみたいな奴に会えてよかったわ」

 

 え?

 

「……引っ越してしまうのですか?」

 

「うん、明後日には外国に、ね」

 

 しょんぼり…………。

 せっかくお友達になれたかと思ったのに、いなくなってしまうのは残念です。

 

「そんな顔しないの、あんたには関係ないでことしょ」

 

「けど、寂しいです」

 

 出会ってから三十分も経っていませんが、彼女との会話はとても楽しかったです。

 ……もっともっと、話していたかったです。

 

「ほんと、あんたって変な奴ね、出会ったばっかの私にそんなこと言ってくれる人なんて一人もいなかったわよ」

 

「それは、みんなの見る目がなかっただけですよ」

 

 こんなに優しい人なのに。

 

「あはは、そう言ってくれるだけで十分よ、おかげで両親にいい報告ができるわ」

 

「……では、形見というのは」

 

「うん……、よかったら一緒に挨拶してくれない? 二人も喜ぶと思うから」

 

「ええ、喜んで」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……それからアリサさんはいろいろなことを話してくれました。

 

 幼い頃に両親が交通事故で死んだこと。

 

 自分が他の子よりも飛び抜けて頭が良かったということ。

 

 それが原因で他の子と仲良くなれなかったこと、バカにされたこと。

 

 悔しくてもっと勉強して、その努力が認められて海外の大学に入学できるようになったこと。

 

 そして、今日はそのことを報告するためにここに来たこと。

 

 他にも好きな食べ物、最近知った美味しい喫茶店、心を打たれた小説。

 

 時間が許す限りいっぱいお話しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ちょっと、話しすぎたわね」

 

「そんなことありませんよ」

 

 気がつけばおやつの時間を大きく過ぎ、空気が冷え始めてきました。

 まだまだ日没までには時間はありますが、アリサさんのことを考えるとあまり引き止めてしまうのも良くないでしょう。

 けれど、

 

「これを」

 

「? 何よこれ?」

 

「私の連絡先です、万が一何かあった時に渡しなさいとお母さんに持たされたものです」

 

 これくらいはしてもバチは当たらないでしょう。

 

「そう……、あっちに行ったら真っ先に連絡するわね!」

 

 できれば電子媒体だと嬉しいですね。紙だと読めません。

 

「ええ、楽しみにしていま……ん?」

 

「どう「静かに」」

 

 ひい、ふう、みい……大体五人でしょうか?

 成人男性くらいの人たちが私たちを嫌な感じで見つめています。

 

 おや?

 そのうちの一人がこちらに歩いてきましたよ。

 

「あんた、アリサ・ローウェルで間違いないな」

 

「な、何よあんたたちは!?」

 

 どうやらアリサさんのお知り合いではなさそうです。

 となると、とても面倒なことになりましたね。

 

「ちょっと、俺らと来てもらうぞ」

 

「嫌よ! 誰があんたらなんかと――」

 

 シャと金属が擦れるような音が響き、男が折りたたみナイフを取り出して私たちに突きつけています。

 

「別に暴れてもらっても構わないんだぜ、その時はそっちのお嬢さんも巻き込むけどな」

 

 彼が私を見て言います。

 それを聞いたアリサさんが悔しそうに強く噛み締めます。

 

「……彼女には、手を出さないでよね」

 

 どう考えても私が足でまといになってますよねこれ。

 しかし五人ですか……。

 本気を出せば一瞬ですが、アリサさんがいるのにあまり力は使いたくありませんね。

 けれど、能力なしで大人五人をアリサさんを守りながら戦うのは、今の私にはできません。

 ……あまり強く動きすぎると、未成熟なこの体がついてこられず、大変なことになるからです。

 

 どうしようか迷っていると、彼のお仲間がアリサさんに二人、私に一人近づいてきます。

 

「ちょっと! 彼女には手を出さないで!」

 

 アリサさんは何とか振りほどこうとしますが、大人の腕力には敵わず、そのまま車に乗せられてしまいました。

 

「悪いな、目撃者をわざわざ逃がすわけにはいかないんだよ」

 

 そう言って私も杖を取り上げられ、一緒に車に乗せられてしまいました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 以上、回想終了。

 

 現在私たちはどこかの廃ビルの一室に拘束されています。

 アリサさんはあれからずっと黙っており、嫌なほど静かです。

 男たちはあちらで私たちをどうするか話していますが、それはアリサさんには聞こえておらず、私一人がその気持ち悪い会話を聞き続けているという有様です。

 

「…………ごめん」

 

「え?」

 

 突然の謝罪に、私はどうしていいかわかりません。

 

「ごめん、これ私のせいだ、私が、七海を巻き込んじゃった……」

 

 まあそうでしょうね。

 頭のいい彼女のことでしょう、そのことずっと責め続けていたのかもしれませんね。

 

「いいえ、悪いのは彼らとその黒幕ですよ、アリサさんは何も悪くありません」

 

「けど、私がいた「お黙りなさい」、……え?」

 

 今のはちょっと、イラっときました。

 

「そんな些細なことはどうでもいいのです、今はここから逃げることを考えましょう」

 

「些細って、あんたねえ……」

 

 アリサさんはそう呆れたように言いますが、ちょっとは元気が戻ったみたいで何よりです。

 

「まあ、実際そうよね、……ウジウジしてるのは私らしくない! 絶対ここから脱出して、大学に行くんだから!」

 

「ええ、そのイキです」

 

 さて、彼女が本調子になったところで、私もちょっとは働きますか。

 

 

 

 

 




2014/1/11
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