りみりんハッピーバースデー!

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牛込りみ生誕祭2019

お昼をだいぶ回った午後の時間、蔵へと繋がる天板が慌ただしく開けられた。

「遅れてごめんね!」

そこから顔を覗かせたりみは、荒く呼吸をしながらハの字の眉を見せた。

「りみおせーぞ。主役が遅れてどうするんだ」

「ご、ごめんね」

「有咲、誰よりもソワソワしてた」

「おたえは余計な事言うんじゃねー!」

「随分遅かったけど、何かあったの?」

「うん、ちょっとね。また今度、ちゃんと話すよ」

適当に言葉を濁したりみは、

「りみりんはそこ座って!」

と見るからにウズウズしている香澄に、テーブルの正面に座らされる。

すでにテーブルにはお菓子やジュース、やまぶきベーカリーのパンが所狭しと並べられている。

「えー、それじゃあみんないいかな? クラッカー持った?」

「持ったから早くしろー。りみも待ってるぞ」

「分かってるよ〜」

香澄は咳払いを一つすると、クラッカーの紐を握って心からの笑顔をりみに向ける。

「──りみりん、ハッピーバースデーッ!」

パンパンッ。と同時にクラッカーが鳴り響き、りみの頭には飛び出したテープが降りかかる。

「えへへ、みんなありがとう」

「う〜ん、ついにりみりんの誕生日だね〜! 待ちに待ったよこの時を!」

勢いあまって立ち上がった香澄は、ジュースを注いだコップを高々と掲げる。なみなみと注がれた中身が溢れないかヒヤヒヤするりみだったが、幸いその心配もなく。

「みんなコップ持った⁉︎ ──カンパーイ!」

カンパーイ、と。それぞれのコップを軽くぶつけ合う。少し遅れて、座り直した香澄も。

「さて、じゃあ早速だけど、りみりんにこれを」

沙綾が取り出したのは、お馴染み『やまぶきベーカリー』の紙袋。テーブルの上にもいくつか置かれているのだが、そこに『あのパン』は無い。

「りみりんの誕生日って事で、私もお父さんも張り切って作ったんだ〜」

少しもったいぶる沙綾。りみの目は、隠す気がないほどにワクワクしている。

「──じゃーん! 特製チョココロネ!」

「わあぁぁ〜! チョココロネだ〜!」

キラキラと顔を輝かせるりみの前に、沙綾はチョココロネを置いていく。

「今日は特別に、色んなチョココロネ作ってきたんだ〜。ビターチョコを使ったのとか、ホワイトチョコ使ったのとか、あとは桜風味にしたのもあるよ」

バリエーション豊かなチョココロネに、りみは感極まって両手を合わせる。

「どれもめっちゃ美味しそう……。ありがとう沙綾ちゃん!」

「どういたしまして。そうやって喜んでくれると、作った甲斐があるよ」

「うんうん、沙綾の家のうさぎのしっぽパンは格別だよね」

「ってオイおたえ、空気読めよ! てか食べるのはえーよ!」

誰よりも先にパンを頬張るたえに、有咲が呆れ声を飛ばす。

「あっ、おたえのそのパン、私も狙ってたのに!」

「いくら香澄でも、これは譲れない。このパンは、私に食べられる為に生まれてきた」

「むむ〜! じゃあ私はこっちの星パン食べる!」

「実はそれヒトデパンなんだけどねー……って聞いてないか」

「お前ら今日何の日か忘れてるだろ!」

「あ、有咲ちゃん、そんな気を遣わなくても平気だよ? ちゃんと気持ちは伝わってるから」

ツッコミの気苦労が絶えない有咲を、りみはフォローする。

「はぁ……。これじゃいつもと変わんねーな」

「私はその方が嬉しいよ。こうやってお祝いしてくれるだけで嬉しいもん」

「──あ、じゃあ特別にすればいいんだ」

パンを一つ平らげたたえが、おもむろに立ち上がった。そして何故かりみの背後に回り込むと、頭を撫で始めた。

「りみ、よしよし」

「えっと……おたえちゃん?」

「りみの誕生日だから、りみを甘やかす。今日だけりみは、ポピパの妹」

「……何で妹なんだ?」

「ポピパの五人で、誕生日が一番最後だから」

「安直じゃねーか……」

呆れた有咲だったが、

「はいっ! 私もりみりん甘やかしたい!」

ギターボーカルは乗っかる。

「おたえが頭撫でてるから〜、私はどうしようかな〜」

香澄は少し思案した後、たえと同じようにりみの背後へ回る。

「香澄、ここは私のポジション」

「え〜いいじゃんおたえ。半分譲ってよ〜」

香澄は強引に場所を陣取ると、りみの肩に手を置く。そしてトントンと優しく叩く。

「りみりんはいつも作曲頑張ってくれてるからね〜。こう見えて肩たたきは得意なんだよ!」

「はわぁ〜、確かにほぐれる気がするかも……」

「マジかよ……」

まんざらでもなさそうなりみを見ながら、止めるタイミングを失った有咲。

「あ、じゃあ私も甘やかしちゃおうかな〜」

意外と、沙綾もこういった事には乗り気である。りみ本人も、少し楽しそうである。

「んーでもどうしようかな。おたえも香澄もいいとこ取ったな〜」

完全に弟妹二人を見る表情の沙綾。

「──あ、りみりん髪型ちょっと崩れてる」

「えっ、ホントに?」

「うん、前髪とかこの辺とか、よく見るとね」

「急いで来たからかな……。うぅ恥ずかしい……」

「いいじゃん。それだけこのパーティー楽しみにしてくれてたって事だもん」

沙綾はウインクをすると、ポーチから櫛を取り出す。慣れた手つきでりみの髪を梳かし、

「沙綾ちゃん、すっごい上手だね」

りみは少し目を丸くする。

「まあね〜。沙南の髪をセットするの、私の役目だし」

三人に囲まれリラックスしたりみを見ながら、

「…………」

どうしていいか分からない有咲。

「有咲はいいの?」

そんな心を見透かしたかのように、沙綾が振り返る。

「な、何がだよ」

「 りみりん甘やかせるのなんて、今日くらいだよ〜? どうせ普段は恥ずかしがってやらないんだしさ」

「はぁ⁉︎ 別にやりたいなんて言ってねーだろ!」

「有咲ちゃん?」

「な、何でりみがそんな顔するんだよ……」

本日の主役から、何かを期待するような眼差し。

「……………………うぁーっ!」

有咲は下を向いて葛藤。直後に大きな声で吠えた。

「分かったよ! やればいいんだろ!」

投げやりな気がしないでもないが、有咲は勢いよく立ち上がった。

「ところで有咲は何をするの?」

「は? 何ってそれは……」

改めてりみを見る有咲。後方をたえと香澄、前方を沙綾の配置に、有咲の入る余地が無い。

「えっと……」

何も考えていなかった有咲は、りみからの視線に耐えられずテーブルを見やる。そしてそこに置いてあった、数々のチョココロネに目が止まった。

「……よし」

有咲はチョココロネを一つ掴むと、

「…………ホラ、りみ」

それをりみの口元に差し出した。

「わ、有咲ちゃん……」

「わお、大胆だね有咲」

「有咲、侮れない」

「ずるーい! 私もやりたかった!」

「お前らうるせー!」

ニヤニヤと微笑む三人に噛み付くと、そっぽを向きながら有咲は頬を染める。

「……まあ、りみの頑張りはいつもすげーなって思ってるし? 実際助けられてる場面も多いからさ……」

「有咲ちゃん……ありがとう」

「いいから早く食べてくれよ。何か恥ずかしいだろ!」

「うん、いただきます。──あーむっ」

有咲が差し出したチョココロネにかぶりついたりみ。

「ん〜、やっぱりチョココロネおいひ〜……」

うっとりするりみに、やれやれと肩をすくめる有咲。

「──あ、おいりみ。チョコ付いてるぞ」

「へっ? どこどこ?」

「ちょっと動くなよー」

そう言って、りみの口元をティッシュで拭う。

「ありがとう、有咲ちゃん」

「勢いよく食べすぎなんだよ……。もうちょっと落ち着けよな」

チョココロネをお皿に置こうとした有咲を、

「あの、有咲ちゃん」

りみが呼び止める。

「ん? どうした?」

「その……もう一回やって欲しいなって……」

「……はあ⁉︎」

「その、結構新鮮というか、楽しくて……。ダメ……?」

微妙な態勢のまま固まっていた有咲は、大きく息を吐き出した。

「……りみって案外そういうとこあるよな……。──もうここまで来たら、開き直ってやるよ。今日はトコトン甘やかすからな、覚悟しとけよりみ!」

ビシッと差し出されたチョココロネを頬張りながら、

「えへへ、めーっちゃ幸せ」

りみは楽しそうな笑顔を浮かべた。



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