アムロ再び戦場に立つ。   作:ローファイト

10 / 15
感想ありがとうございます
誤字脱字報告ありがとうございます。非常に助かっております。


……今回は繋ぎ回です。
無双は無しです。
最終話に向けて大きく弓を弾く感じです。


アムロ戦争の無い世界を望む。

ゼントラーディ軍ブリタイ艦隊のマクロス鹵獲作戦から辛くも脱したマクロスは、とある問題を抱え込む事となる。

それは敵のマクロス鹵獲作戦にも関わる問題でもあった。

 

 

 

ブリタイ艦隊の兵士……ゼントラーディ人のマクロスへの亡命だ。

現在マイクローン化したゼントラーディ人104名の亡命希望者が、マクロス市街にある軍庁舎に訪れていたのだ。

 

ブリタイ艦隊のダイダロスアタック破りと言うべきカウンターアタックにより、マクロスを内部から破壊、占拠を目的とした敵戦闘ポッド100機程の大部隊のマクロス内侵入を許した。

この時点でブリタイのマクロス鹵獲作戦は9割方成功と言っていいだろう。

 

しかし、作戦を立案実行したブリタイにしろ、マクロス上層部にしろ、思わぬ事態が起こり、マクロス鹵獲作戦は失敗に終わったのだ。

マクロス内に侵入した戦闘ポッドの半数が乗り捨てられ、乗っていたゼントラーディ兵はマクロスに亡命すべく敵前逃亡を図ったのだ。

しかも、逃亡したゼントラーディ人はマイクローン化していた事から、計画的行動だったといえよう。

 

ここ最近、ブリタイ艦隊のゼントラーディ兵士たちには劇的な変化が起きていた。

マクロス内に潜入偵察を行った偵察兵が持ち帰った情報や人伝手に語られた文化的な生活、歌や映画やテレビといった情報が、ブリタイ艦隊の兵士たちの間で広まっていたのだ。

戦う事しか知らないゼントラーディ兵は皆興味を持ち、マクロスでの生活に憧れを持つ者が徐々に現れ、今回のような亡命騒ぎへと発展していったのだった。

 

 

 

 

 

マクロス大会議室では、現在ゼントラーディ兵の亡命希望者代表3人と面会を行っていた。

グローバル艦長以下、マクロス幹部3名、フォッカーに未沙、ゼントラーディ軍に囚われた経験がある輝と柿崎は休暇中ではあったが、緊急呼集され出席していた。

アムロへも声を掛けたかったのだが、アムロは宇宙方面技術試験運用軍のナンバー2という立場があり、マクロスと別組織の人間であるため、現在マクロス内だけに情報を留めておく段階において、正式に参加要請するわけにはいかなかった。

しかし、グローバルからは後程この面会の結果をオフレコでアムロに伝えるようにと指示があった。

その役目はフォッカーと未沙が買って出たのだが、未沙が何かと理由を付け、未沙一人で伝える事となった。

 

亡命希望者の代表者の3名は、マクロス艦内に潜伏偵察を行っていたあの3名の偵察兵だった。

彼らの名は、ワレラ・ナンテンス、ロリー・ドセル、コンダ・ブロムコ。

この3人がブリタイ艦隊に文化の風を嵐のように吹かせ、この事態を起こした張本人と言っていいだろう。

 

この3人の亡命理由にグローバル以下全員が驚きと戸惑いを隠せないでいた。

彼らは戦いを捨て、ただマクロスで生活をしたいと。

彼らにとって、潜伏偵察時のマクロスでの生活は驚きと衝撃の連続だった。

特にリン・ミンメイの歌には衝撃を受けたとのことだった。

地球人の何気ない日常が、彼らにとって何物にも代えがたい宝物に見えていたのだ。

 

グローバル及びマクロス上層部は面会の後、協議を重ね。

亡命希望者を受け入れる事を決定した。

 

マクロスはゼントラーディとの和平の道を繋ぐべく、主戦派が台頭している今の地球統合軍本部に改めて強く働きかける事を決意する。

 

未沙はこの事をアムロに伝えるべく、街のはずれにある展望公園に誘う。

宇宙方面技術試験運用軍の建物屋上では、流石にこの正式通達出来ない話題を話すことは出来ず、そうかと言ってアムロをマクロスの軍施設内部に呼ぶわけにも行かない。

飽く迄もプライベートという形をとるのが無難であったため、軍務帰りのアムロをこの場所に誘ったのだった。

 

未沙はアムロにゼントラーディ兵の亡命から和平の道についてまで、全て話す。

 

「そうか」

統合軍の軍服姿のアムロは感慨深そうに相槌をうつ。

因みに、未沙はアムロを意識してなのか、派手にならない程度のお洒落な私服を着て来ていた。

 

「レイ中佐、どう思われますか?」

 

「俺も皆の意見に賛成だ。戦争は無い方がいい。それが異星人だろうと」

 

「レイ中佐なら、そうおっしゃって下さると思ってました」

 

「……彼らの仲間を大勢討ってきた俺が言うのもおかしな話だがな」

 

「そんな事は……中佐は私を、私達を何度も救って下さいました。それに今は戦争状態です。討たなければ私達は討たれてました」

 

「それは分かってることだが……いざこういう場面に直面すると、どうしても考えてしまう」

 

「中佐は、優しい人なのですね」

 

「そうか?」

 

「そうです。優しくて強い人です」

未沙は顔を若干赤らめていた。

 

「大尉、買いかぶり過ぎだ」

 

 

 

 

そんな二人に大きな声が掛かる。

「よお!お二人さん!デートか?アムロ!」

 

「ロイ…それにクローディア」

「フォッカー大佐にクローディア?」

アムロと未沙はその声の主の方に顔を向けると、そこには私服姿のフォッカーとクローディアが仲睦まじげに歩いて来た。

フォッカーとクローディアの二人はデート中のようだ。

 

だが、デート中なのは何もこの二人だけではない、普段あまり人が立ち入らないこの展望公園も、今日ばかりはカップルが、ちらほらと見られる。

今日はクリスマス・イブ、恋人たちが愛を語り合う日でもある。

宇宙の星々を一望できるこの展望公園は、恋人達の雰囲気作りには持って来いの場所であった。

 

未沙も、少なからずクリスマス・イブを意識していた。

今回の亡命騒ぎの話を伝える口実に、アムロと一緒にゆっくりと話をしながら食事でもしようという打算はあった。最初は個室のあるレストランにアムロを誘うつもりであったが、流石にクリスマス・イブ直前では予約が取れるはずもなかった。

仕方なく、この展望公園を選んだのだが、照明が夜の明るさに設定されてるこの時間帯は、星空の光が差しこみ、思いのほかムードの良い雰囲気を出していた。

さらにカップルもちらほらと見て取れる状況に、流石に未沙も恥じらい、場所を変更しようと引き返そうと思ったのだが、アムロが何時もと変わらぬ態度でベンチに誘い、話し合いが始まったのだった。

話が始まれば、未沙も落ち着きを取り戻し、何時ものようにアムロと話し合う事が出来た。

内容は、恋人同士の語らいからは随分と離れた堅い話ではあったのだが。

 

 

「ごめんなさいねお二人さん。デートの邪魔しちゃって。ロイ、ここは静かに見守るべきよ」

「いやー、すまんすまん。ついな!」

クローディアはアムロと未沙に謝りながら、フォッカーに注意をする。

フォッカーも笑いながら、謝る。

 

「二人共、勘違いをしてるぞ」

「…………」

アムロは苦笑気味に反論するが、未沙は俯き加減で沈黙を守る。

 

「はっはーー、こりゃ手強そうだな。じゃあアムロ、またな。次のオフにはクローディアの旨い料理とサラダを用意して待ってるぞ」

 

「クローディアの料理は上手いし、ロイが羨ましい」

 

「だろ?」

 

「ロ~イ、ちょっと飲み過ぎじゃない?」

クローディアはフォッカーの耳を引っ張る。

 

「痛てて、なんだクローディア?」

 

「はぁ、アムロ中佐も……未沙、本当にごめんね」

クローディアはフォッカーとアムロに呆れた顔を向け、未沙に謝ってから、フォッカーを強引に引っ張り、ここを離れて行った。

 

 

「いいコンビだ」

アムロは離れて行く二人の後ろ姿を見ながら、小声で呟く。

 

「………クローディア……クローディアは名前呼びなんですね」

 

「まあ、そうだな。ロイの恋人で、3人で飲む機会があるからな」

 

「………クローディアの料理も……」

 

「ロイの部屋に呼ばれると、クローディアがいつも何か用意をしてくれる」

 

「また名前で……私は名字なのに………ユニコーン部隊の子たちは呼び捨てで……」

未沙はアムロにも聞こえない様な小さな声を漏らす。

 

「早瀬大尉?」

 

「早瀬ですけど、未沙と言う名前もあるんです!………すみません中佐……その、失礼します」

未沙はつい声を荒げるが、ハッとし、アムロに頭を下げて謝り、顔を赤らめ、逃げるように去って行った。

 

「何かまずった様だな。ふぅ」

アムロは自嘲気味に独り言ちる。

未沙を少々不快な気分にさせた事を理解しているが、理由は分からなかった様だ。

年頃の女の子の扱いに少々手間取っているとすら感じていた。

アムロの恋人遍歴を見ると、今までは積極的にアプローチを掛けてくる女性ばかりであった。

未沙のように奥手で堅物で、しかも10も年下の若い女性との付き合いは無かった。

最強のニュータイプであるアムロも、流石に女性関係については完璧に理解することは出来ないようだ。

 

この後、未沙はアムロにあんな態度をとってしまった事に自室のベッドでシーツを被り、自責の念にかられるのと同時に、アムロと互いにファーストネームで呼び合うクローディアが羨ましく思っていた。

 

一方、アムロは後日、クローディアにフォッカー共々、やんわりと注意を受けていたのだった。

 

 

 

 

 

その頃、街の中心部にある別の公園でも、女性関係でのトラブルが発生していた。

此方の方はもっと深刻な状態だった。

刃傷沙汰にまで発展していたのだ。

 

女性関係でのトラブルはトラブルだが、所謂色恋沙汰のトラブルではない。若い男が訳も分からず、一方的にナイフを持った若い女に襲われたのだ。

 

その若い男とはマクロスバルキリー隊の若干18歳の若きエース、マクシミリアン・ジーナス少尉。

ナイフを持ってマックスに襲い掛かっているのは、ゼントラーディ軍ボドル基幹艦隊ラプラミズ分岐艦隊のエースパイロット、ミリア・ファリーナだ。

 

ミリアはマクロス内部偵察に志願、マイクローン化し、マクロス内に潜伏していた。

そして、自分を二度負かした青いバルキリーのパイロットに復讐をするために、マックスを探していたのだ。

 

街のゲームセンターでバルキリーのシミュレーターと同様のコクピット型の大型ゲーム機でマックスとミリアは偶然対戦し、またしてもマックスが圧勝してしまう。

ミリアはマックスが操るシミュレーター上のバルキリーが、自分を負かした青いバルキリーと同じ動きをしていた事から、マックスがあの青いバルキリーのパイロットだと見抜き、ゲーセンを出て公園に向かったマックスの後を付け、ナイフ片手に襲い掛かったのだ。

 

そこは天才マックス、そんなミリアの襲撃も難なくかわす。

いや、それどころか、どうやってそんな事になるのか常人では全く理解が追い付かないが、ゼントラーディ兵であり、男女の関係について全く知識も理解も無いミリアを口説き落としてしまったのだ。

流石はマックスとしか言いようがない。女性関係についても天才的能力を発揮した様だ。

しかも、即その日から同棲生活……マックスは普段、軍の寮に住んでいるが、しばらく外でマンションを借り、二重生活をすることに……

 

この辺は全方位的に天才を発揮するマックスがアムロに勝る部分だ。

 

 

 

しかも、翌日には直ぐに上司であり戦友である一条輝にミリアとの結婚について相談する。

輝は結婚には賛成するが、流石に一人では判断が出来なかった。

何せ、マックスのお相手は異星人で、星間結婚となるからだ。しかも交戦中のゼントラーディ軍のエースときた。

輝は兄貴分であるフォッカーに相談し、さらにそこからグローバルとマクロス上層部に伝わる。

 

マクロスがゼントラーディ軍の亡命の受け入れを決定してから数日後の話であり、そのマックスとミリアとの結婚の話は、マクロス上層部に驚愕をもって受けいれられる事になった。

 

 

 

年が明け、2010年1月3日。

マックスとミリアの結婚式が執り行われる。

グローバル以下マクロス上層部はこの星間結婚に賛同し、軍は結婚式からこの後の結婚生活まで大々的にバックアップを行う事を決定していた。

 

この星間結婚をゼントラーディ軍と地球との和平の礎と位置づけ、地球統合軍とゼントラーディ軍にアピールする狙いがあったのだ。

 

マックスとミリアの結婚式にはもちろん輝や柿崎、フォッカー、グローバルやマクロス上層部、マックスと関りがある知り合いや軍兵、そしてアムロと未沙も招待されていた。

そして、リン・ミンメイがゲストで呼ばれ、結婚式に相応しい歌を披露する。

 

 

アムロと未沙は披露宴会場では隣同士の席に座り、祝福していた。

「星間結婚とはよく言ったものだ。二人は間違いなくゼントラーディと地球人との架け橋となるだろう。マックスとミリアさんはこの難しい状況下でよく決断したと思う。この勇気ある若者達には脱帽だ」

 

「レイ中佐、勇気ではないと思います。好きになってしまったら、もう止まらないんです」

 

「若さゆえか……」

 

「年寄り見たいな事をおっしゃらないでください……中佐はまだお若いのに」

 

「早瀬大尉から見れば、俺は十分中年のおじさんだ」

 

「そうは見えません」

 

「もう30だ。15年前の俺は、漠然とその頃には結婚して子供が生まれ、家庭を持ってるだろうと当たり前のように想像していたが…今はこの通りだ」

 

「中佐もごく普通の幸せを思い浮かべていたのですね」

未沙は、普通の幸せ像を語るアムロが何だか微笑ましく思う。

 

「普通の幸せか……確かにな。15歳の俺は、いつ死ぬか分からないという恐怖もあった。生きていくのに精いっぱいだった。終わらない戦争、戦いの日々。だが、いつか戦争が終わり、生き残れば、いずれ誰かと結婚し、そうなるものだと……」

 

「中佐……」

 

「すまない。この場では相応しくない話だった。……今は二人を祝福しよう」

 

「……はい」

 

「俺たちは、和平を実現し、一日でも早く、この二人が大手を振って安心して過ごせる世界を作らなければならないな……」

 

「はい、統合軍本部の和平への説得、そしてゼントラーディと停戦……最終的には和平交渉に持って行かなくてはいけませんね」

未沙は統合軍本部への和平への道を説くにはどうすべきかという事を、この頃はずっと模索していた。

 

 

「そろそろ出番か……」

「中佐頑張ってください」

アムロは席を中座し、未沙はそれを見送る。

 

 

 

この後、マックスとミリアは派手にデコレーションを施した複座の訓練用バルキリーに乗り、マクロス周囲宙域を周回しお披露目をする。

そこに、アムロとフォッカー、輝と柿崎によるバルキリーのアクロバット飛行で出迎え、5機のバルキリーで曲芸乗りを披露した。

最後に色付きの噴出剤で、絵文字で祝福の言葉を宙域に描き、マクロスの祝砲で結婚式を締めくくった。

 

 

この結婚式の様子は、マクロスからオープンチャンネルであらゆる電波で飛ばしていた。

ゼントラーディ軍は当然、この映像を受信し見ているだろう。

地球にもレーザー通信で送り届けているため、統合軍上層部には見られているだろう。

まさしく、和平への願いを込められた、強烈なメッセージとなったはずだ。

 

 

 

 

 

 

マックスとミリアの結婚式から10日後の一月中旬、ゼントラーディ軍ブリタイ艦隊の戦艦がマクロスの前に単艦で現れる。

マクロスは戦闘準備を行うが、ゼントラーディ軍の戦艦から通信が入ってきたのだ。

今まで、一度たりとも通信が送られてきたことは無かった。今回が初だ。

しかも内容が……

 

『停戦交渉を行いたい』との事だったのだ。

 

まさかゼントラーディ側から停戦交渉を行ってくるとは思いもよらなかったが、これを好機と見て、マクロスは交渉を受理し、マクロス艦内にゼントラーディ軍ブリタイ艦隊の使者を受け入れる。

一応、罠の線も考え、同時にいつでも反撃できる態勢も整える。

 

停戦交渉にはマクロス側はグローバル以下マクロス上層部、フォッカーに、ブリタイ艦隊に捕まった経験がある未沙、輝、柿崎、さらにマックスとその新妻である元ゼントラーディ軍ラプラミズ艦隊 エースのミリア、そしてゼントラーディ軍ブリタイ艦隊亡命者の代表格であるワレラ、ロリー、コレダの三人が予め呼ばれていた。

 

ゼントラーディ軍ブリタイ艦隊の使者が現れると、ミリアと亡命者代表格の三人は驚きを隠せなかった。

使者はマイクローン化したブリタイ艦隊司令 ブリタイ・クリダニクの補佐官役である記録参謀エキセドル・フォルモだった。

 

エキセドルはミリアに気軽に声を掛け、結婚式の映像を見たといい、結婚について色々と聞いていた。亡命者三人にも同様に、気軽な感じで声を掛ける。

ミリアと三人は恐縮しっぱなしではあったが、エキセドルは叱責することもなく、興味深げに質問を投げかけるのみだった。

 

さらに未沙と輝、柿崎にも、「あの時とは立場が相当変わったものだな」と気軽に声を掛けてきた。

勿論あの時とは未沙と輝と柿崎がブリタイ艦隊に捕まり、尋問を受けていた時の事だ。

 

エキセドルからは敵意だけでなく、緊張感も感じられなかった。

 

エキセドルは交渉の席に座り、出された飲み物を美味しそうに飲み干し、お代わりを要求する一幕はあったが、直ぐにマクロス側から参加者の紹介を始める。

エキセドルは頷きながら対応していた。エキセドルの頭の中にはその人物の一語一句すべて記録されていた。

 

次いで、エキセドルが自ら自己紹介を行うが……

「第67グリマル級分岐艦隊ゼムー級記録参謀エキセドル・フォルモだ。……ところで、この交渉に必要不可欠な人物が居ないと見受けるが……」

エキセドルはこの停戦交渉に、マクロス側に参加すべき重要人物が見当たらないと言ってきたのだ。

 

「それはどのような人物ですかな?エキセドル閣下」

グローバルはエキセドルの質問を返す。

閣下と敬称したのは、ミリアがエキセドルと会話する際、エキセドルの事を記録参謀閣下と称していたためだ。この時点ではまさか敵艦隊の№2だとは思ってもみなかった。

小柄でみすぼらしい姿からは想像しにくいが、ミリアや亡命者三人の口調から、かなりの位の人物だという判断はしていた。

 

「うむ。歌という音波攻撃……文化の一端とそこの者達が申していたな。その使い手の女だ」

エキセドルはそう言って、誰かの下手な歌真似をして見せる。

 

「さて?」

グローバルはエキセドルが誰を指しているのか、皆目見当がつかなかったが、未沙と輝と柿崎、そして、亡命者の三人も、その人物が誰なのか気が付いていた。

 

「艦長、ミンメイさんの事だと思われます」

未沙がグローバルにそう進言する。

 

「うむ。閣下がこの場に要求された人物は、民間人です」

 

「民間人?はて?」

 

「非戦闘員の事です」

 

「非戦闘員?……戦闘をしていない兵が居るという事ですかな?」

 

「いえ、兵ではありません」

 

「……兵ではない?不可解な。あれ程の力を持っていて、戦闘員でも兵でもないのか?」

 

「わかりました。少しお時間を頂ければ、呼びましょう」

グローバルは埒が明かないと判断し、そう言った。

ゼントラーディ軍に民間人という立場の人間はいないのだ。

ゼントラーディ人は全てが軍人であり兵であった。

 

「うむ。そうしてくれ。それと白い悪魔……白い戦闘ポッドに乗り、たった一機で我が勇猛なるゼントラーディ兵達を恐怖のどん底に陥れた者はこの場に居るのか?」

 

「いえ、この場には居ませんが……」

グローバルはエキセドルのこの言葉だけで、その人物が誰なのかが分かった。

その人物とはアムロの事だと。

 

「その者にも、会っておきたい」

 

「閣下、それは何故ですか?」

グローバルはエキセドルにその理由を聞く。

常識では考えられない数の敵を討ち、莫大な功績を残して来たアムロは、マクロスにとって英雄的存在ではあるが、裏を返せばゼントラーディ軍にとって、まさしく悪魔の如き嫌悪される存在であろうからだ。

アムロをこの交渉の場には呼ぶことに躊躇していたのだ。

 

「ふむ。どのような人物か自己の興味本位がゆえ」

 

「……わかりました。呼びましょう」

エキセドルの軽い言いようと、ミリアや亡命者三名への対応を見るに、グローバルはアムロをこの場に連れて来ても問題無いと判断する。

 

 

 

 

その頃、アムロは丁度、次世代可変戦闘機実験試作機である全身白く塗装されたVF-X3Z改に乗り込み、宙域で技術開発チームの試作新兵器や新装備などの各種試験を行っていた。

 

元々のVF-X3はVF-1に比べ、一回りほどサイズが大きい。総出力はVF-1の3倍であり、装甲や運動性、機動性や装備等を換算すると、試算段階でVF-1の32倍の戦力と目されていた。

VF-X3Z改はさらにアムロ専用にカスタマイズされており、サイズはVF-X3よりもさらに若干大きい。総出力はVF-1の5倍、スーパーパックを装備したVF-1の2.5倍以上の出力を持つ。

固定兵器は両腕に装備された専用集束ビームランチャー。頭部バルカン砲、三連小型ミサイルラック2基、両腕の集束ビームランチャー基部に小型プラズマ(イオン)ソード2本。小型ミサイルポッド2基(ダミーバルーン兼用)

装備可能携行武装、専用バズーカ、実弾スナイパーライフル、専用大型集束ビームライフル。

ミサイルラック最大4基。

さらにハード面でのVF-X3との最大差異は廃止されたガウォーク形態を復活させている。

さらにコクピット周りが大幅に変更、機体が一回り大きくなり、コクピット空間に若干の余裕ができている。メインコンソールは操縦桿型ではなく、両手で操作する専用ソフトコンソールを採用(νガンダムのコンソールに近いもの)。

 

そして最大の特徴は、余裕が出来たコクピットスペースにサブオペレーションシステムと言うべき、新技術が搭載されたのだ。

VF-X3Z改は多数の実験的新技術や兵器が満載であり、さらに出力や機動力も、常人の反射神経では制御不可能なレベルとなっていた。

要するにアムロ以外の人間では操縦すら困難な機体となっていたのだ。

そのアムロをもってしても余裕をもって操縦できるものでは無い。

 

そこで、機体制御の一部をサブAIに委譲することでVF-X3Z改のパイロットへの負担を軽減させるアプローチを行ったのだ。

それが、バルキリー用試作サブオペレーションシステム、High-order AI Ray Operation system(アムロ・レイ専用高次元AIオペレーションシステム) 通称HARO……

 

「アムロ、アムロ、元気か?(疲労指数上昇を確認)」

 

「大丈夫だハロ、それよりもハロ、このVF-X3Z改のシステムはすべて把握できたか?」

 

「大丈夫、大丈夫(VF-X3Z改とのリンク率97%)」

エメラルドグリーンの30㎝程の球体が、アムロのコクピットシートの後ろに取り付けられた台座にスッポリと嵌り、アムロと会話を行っていたのだ。

そう、あのハロが、今アムロのコクピットの後ろに鎮座しているのだ。

1年戦争時代、アムロと共にホワイトベースの一員として駆け抜けたあのハロをベースに、アムロが一から組み上げた正当後継機だった。

柔軟な思考パターンを持つこのハロに、バルキリーの機体の制御の一部を任せる実証試験を行っていたのだ。

まるでスターウォーズのR2-D2のように……

 

 

『アムロ君。君が開発したHAROとVF-X3Z改とのマッチングテスト状況はどうかね』

タカトク准将から、宙域を飛び回り試験飛行を行っているアムロの下に通信が入る。

 

「かねがね良好です」

 

『そうかそうか、うむうむ!すばらしい!!バルキリーはこれで次のステージに立てる!!では次の段階に移ろうではないか!アムロ君!!』

タカトク准将はそのアムロの言葉に喜色を浮かべていた。

 

「……准将、まだ早いです。ハロのAIにはまだまだ不足部分が多い状況です。そう一足飛びには行きません」

タカトク准将はこのハロに、次の段階なる機体制御以外の何かをやらせようとしていたのだが、十分にハロのAIが成熟していない現段階では困難だとアムロが止めたのだ。

 

 

そこに、マクロスから緊急通信がアムロの下に入る。

アムロはVF-X3Z改の試験を即中止し、マクロスに帰還したのだった。

 

 

 

 

 

20分後、アムロはマクロスのとある会議室に入る。

 

「アムロ・レイ参りました」

 

「急に呼び立ててすまん中佐」

グローバルは会議室の扉前で敬礼するアムロに声を掛け、未沙がエキセドルの前方に用意した椅子に座るように促す。

アムロはここに来る道中に、ある程度の事情の説明を受けていた。

今、まさにゼントラーディ軍との停戦交渉の場である事を……

 

「閣下、彼がご要望された我が艦のエースです」

グローバルはアムロがエキセドルの前方に着いた頃に、そう言ってアムロを紹介する。

アムロはエキセドルに一礼して席に座る。

アムロがこの場に来る前に、既にリン・ミンメイとエキセドルとの対話は済んでいた。

 

「うむ、その者が白い悪魔か?屈強な兵士のイメージとは異なる」

エキセドルは前方に座るアムロを見て、そう感想を漏らす。

アムロは内心、少々驚いていた。

エキセドルの口から『白い悪魔』という単語が飛び出し、しかも自分に向けられた言葉だという事に……、まさかこの世界でも、敵にそう呼ばれるとは思っても見なかったのだ。

 

「閣下、私をこの場にお呼びになられたのはどういう理由からでしょうか?」

アムロはエキセドルに質問をする。

本来なら、停戦交渉の場に、同胞を悉く討ったアムロをこの場に呼びつけること自体、異例だったためだ。

 

「貴公には随分我が軍をやられた。貴公さえいなければ、我が軍の作戦は成功し、この艦はとっくに沈み、こうして貴公と顔を合わせる事は無かったであろう。貴公程の戦闘ポッドの乗り手は、私の記憶にも無い。称賛に値する」

エキセドルから意外にも称賛の言葉を贈られたのだ。

 

「恐縮です」

 

「貴公はプロトカルチャーの生き残りか?それとも監察軍すらも恐れる伝承にあるアニマスピリチアなのか?」

 

「いえ、その様な者ではありません。一介の兵士に過ぎません」

エキセドルから、アムロの知らない単語が幾つか出てきたが、無難な返答をする。

 

「一介の兵士……はて、プロトカルチャーの伝承に戦争を一変する能力を持つ究極の兵士が……確かニュータイプとあったか……」

エキセドルは首を傾げながら呟くようにその言葉を口にしたのだ。

 

 

 

「………」

アムロはその言葉に思わず目を見開き、心中の動揺を隠しきれなかった。

 




ハロ遂に登場……R2D2と化したハロ……タカトク准将とアムロのコラボでどうなっちゃう?

ニュータイプって言う言葉が出ましたが……あまり深い意味はありません。
たぶんw
その位の感じで思っていただけると、助かります。(私の気持ち的に楽です)

どうしても出したい原作の人物が居たのですが……今回出せませんでした。
次回出せるかな?

最終話が見えてきました!!
遂にやりたかったあの場面とあの場面が!!
真アムロ無双が解禁!!

後僅かの話数を残すばかりです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。