アムロ再び戦場に立つ。   作:ローファイト

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感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。
非常に助かっております。

今回はタイトル通りですね。
真アムロ無双準備体操です。


アムロこの世界で嘆く。

2009年1月19日

ゼントラーディ軍ブリタイ艦隊との停戦交渉を無事終え、マクロス上層部はブリタイ艦隊との簡易的な停戦協定を結ぶ事となった。

ブリタイ艦隊の記録参謀エキセドルはそのままマクロスに残り、ブリタイ艦隊の交渉窓口となり、本格的な停戦条約制定へと協議を繰り返す。

 

これ以降、マクロスとゼントラーディ軍ブリタイ艦隊との戦闘は起きる事は無かった。

 

 

1月31日

停戦条約もエキセドルとの協議を繰り返し、大凡合意に至るところまで漕ぎつけていた。

この日もマクロス上層部は会議を行う。

 

「ブリタイ艦隊とマクロスとの停戦条約は上手く行きそうだな」

グローバルはホッと息を吐く。

 

「はい艦長。しかし、この後の問題の方が大きいですな」

参謀部長兼副艦長がそれに答える。

 

「うむ」

グローバルは深く椅子に座り直す。

 

参謀部長兼副艦長が言う、この後の問題とは……

今回のこの停戦協定は飽く迄も、マクロスとブリタイ艦隊との停戦協定だという事だ。

地球統合軍の意思は介入していない。今後、本格的にゼントラーディ軍との同盟や停戦協定を結ぶには、マクロスは交戦派が台頭する地球統合軍本部を説得にかからなければならない。

そして、マクロス上層部はエキセドルから驚愕の事実を知る。

ブリタイ艦隊はゼントラーディ軍ボドル基幹艦隊分岐艦隊の一つでしかない事。

3000もの艦隊を保有するブリタイ艦隊がゼントラーディ軍の末端の一つに過ぎなかったのだ。

そして、そのボドル基幹艦隊が保有する戦力は大凡500万の艦隊だと言う……。

最早、どう足掻いても地球統合軍が敵う相手では無かった。

さらに、地球を包囲しているゼントラーディ軍の艦隊はブリタイ艦隊だけでなく、

ブリタイ艦隊と同等の戦力を保有するラプラミズ艦隊が存在するということだ。

これはミリアからも情報提供されていたが、戦力規模は正確には分からなかった。

 

しかし、ラプラミズ艦隊についてはブリタイ艦隊司令のブリタイ・クリダニクが説得を行う事を明言している。

少なくともブリタイ艦隊とラプラミズ艦隊、地球統合軍との停戦協定が結ばれるならば、地球への直接的な脅威は随分と低減することは確かであった。

 

地球の命運はこの三組織停戦協定にかかっていると言っても過言ではない。

マクロスは一刻も早く地球統合軍本部を説得し、和平交渉の場に引きずり出さなくてはならない。

 

 

マクロス上層部は本人の意向もあり、未沙を地球統合軍本部の説得へと送り出すことを決定する。

統合軍参謀本部の幹部の一人、未沙の父親 早瀬中将を足掛かりにし、説得に乗り出す心積もりであった。

 

しかし、地球に降り立つのも工夫がいる。

事実上の地球外退去を命じられたマクロスは、統合軍本部の許可なしに地球に降り立つことも、人員を地球に送り込むことも出来ない。

 

そこで、マクロスに滞在するタカトク准将率いる宇宙方面技術試験運用軍に、アムロを通じてひと肌脱いでもらう事に……

宇宙方面技術試験運用軍はマクロスには滞在しているが、地球外退去を命じられてはいない。それどころか、レーザー通信で定期報告を行っていた。

内容は兵器試験内容や新たな設計図などを技術開発関連の報告だ。

一応、マクロスの動向もスパイしろとは命令を下されていたが……タカトク准将がバルキリー関連の開発以外で時間や人を割く訳が無い。

しかも、ゼントラーディ軍の亡命者が乗り捨てた無傷の戦闘ポッドが幾つもあるのだ。

それの調査、研究に猫の手も借りたい状況だったのだ。

アムロの口利きもあり、マクロスの動向などは適当にそれらしくあしらった報告書を送っていたのだ。

 

タカトク准将はある条件をマクロス側に飲んでもらい、喜々として未沙を地球に送り届ける段取りを行う。

准将が手放しに喜ぶ条件とは……エキセドル・フォルモとの面会だった。

記録参謀とはゼントラーディ軍内の情報にアクセスできる権限を持つ役職であった。

タカトク准将が聞きたいのは勿論ゼントラーディ軍の兵器についてなのだが……

 

タカトク准将は名目として、VF-X3の量産機であるVF-3の地球での少数生産ラインの状況確認と、生産されたVF-3を宇宙試験のために数機引き取るため、輸送シャトルを地球に送るとし、さらにアラスカの統合本部に技術士官を送り、直接開発成果を報告するとしたのだ。

その技術士官に未沙を同行させ、統合軍本部に未沙を送り届ける段取りを行う。

 

しかし、タカトク准将には誤算があった。

アムロがその統合軍本部行きの技術士官に立候補し、譲らなかったのだ。

 

アムロはエキセドル・フォルモからニュータイプという言葉を聞いてから、色々と思考を巡らせていた。

(なぜ、ゼントラーディ軍から、ニュータイプの言葉が……いや、エキセドル参謀はプロトカルチャーの伝承と言っていた。プロトカルチャーとはそもそもなんだ?……プロトカルチャーとニュータイプとどういう関係が……考えても仕方がない事だ。そもそも、俺がいた世界のニュータイプとこの世界のニュータイプとは同じものである確証はない。たまたま同じ言葉が使われただけの事だ)

アムロはそう結論付けていたが、しばらくはどうしても頭から抜けなかった。

 

(あの時から、地球に何かが起こる予感がしてならない。ニュータイプ能力が何かを警鐘している)

そしてこの頃から、アムロのニュータイプ能力が地球に対して負のイメージを呼び起こしていた。

 

未沙から直接地球に行くことを伝えられたアムロは、統合軍本部を説得に行く未沙を止めることは出来ようもなく。

自らも地球に行くことを決意したのだった。

 

アムロが同行を名乗り出たと聞いた未沙は、内心、手放しで喜んでいた事は言うまでもない。

 

 

未沙やアムロ達が地球に降り立つプランはこうだ。

まずは輸送シャトルでVF-3の生産工場がある横須賀の極東基地に降り、そこからは輸送シャトルの護衛として一緒に地球に降りたったアムロのVF-X3Z改に未沙を同乗させ、アラスカの統合軍本部へと向かう。

VF-X3Z改のコクピットユニットはハロを載せていない複座式のものと交換することで、後部に未沙を乗せる事が出来る。

 

 

マクロス出発前にアムロを見送るタカトク准将は……

「アムロ君!!ハロ君の事は任せたまえ!!君が戻ってくるまでに!!必ず調教……いや調整を行い!!例のプランを成功させて見せる!!」

 

「……准将、ハロに余計な事を吹き込むことはしないでください。そのまま、例のプログラムを覚えさせるだけで大丈夫なハズです。宇宙飛行試験を行っていただいても構いませんが……載せる機体が無いですね」

 

「宇宙飛行試験!?アムロ君以外で……んん?んんん!?そうかそうか!!それならば!!初期のVF-X3にハロ君の台座が載ったコクピットユニットを取り付けよう!!人員はそうだな!!ワイルダー君がいい!!ハロ君とのコミュニケーションも上々のようだ!!学習速度も上がるだろう!!」

 

「確かに、ハロとのコミュニケーションテストに協力してもらってますが、彼は訓練生です。正式なパイロットではないです。それに初期型とはいえ、VF-X3の操縦はベテランでも困難かと……」

 

「操縦はハロ君に任せればいい!!彼はコクピットの中でジッとしてればいいのだ!!ハロ君メインの試験なのだからな!!それとだ!アムロ君!!VF-X3Z改専用の私が開発したサブスラスターブースターの地球大気中での試験を頼む!!きっと大気圏突破を単体で行えるはずだ!!」

タカトク准将は相変わらず、無茶を通す様だ。

多分、アムロが居ないこの機会に、ハロによる自動操縦モードやアムロ以外のパイロットとの同調試験を行うようだ。

また、例のプランとは、タカトク准将が考案したハロを使った新たな兵器プラン計画の事である。

そのプランはアムロもハロの開発段階で可能性を十分視野に入れていたため、計画はスムーズに進み、完成間近であった。

 

「了解しました……」

この時アムロはニュータイプ能力を使うまでもなく、少年ジェフリー・ワイルダー訓練生のちょっと先の運命が見えていた。

暴れ狂うVF-X3の中で彼が恐怖する姿が脳裏に浮かんでいた。

 

 

 

 

2月5日

この日、アムロと未沙は地球に降り立ち、事前の計画通り、アラスカの地球統合軍本部にたどり着いた。

 

早速未沙は統合軍本部上層部の方針を和平へと転換させるため、先ずは足がかりとなる実父の早瀬中将を説得するために行動を移す。

 

アムロはその間に宇宙方面技術試験運用軍としての本来の仕事をこなす。

本部技術開発部にマクロスで行った数々の開発や試験データ、新技術の報告、及びに最新鋭試作機であるVF-X3Z改の現在の試験内容などの説明を行う。

 

4日が経ち、アムロは順調に予定の仕事をこなしていた。

未沙の統合軍本部説得は長期戦になるだろう事は分かっていたが、同じ基地内に居るはずの未沙にコンタクトが取れない状態に、未沙が説得に難航し、何らかの困難な状態に陥っているのではないかと危惧していた。

 

アムロの危惧通り、未沙は統合軍本部上層部にすらたどり着けていなかった。

早瀬中将さえも説得することが出来ず、それどころか早瀬中将に基地から少々離れた建物に軟禁状態にさせられたのだ。

早瀬中将は既に、ゼントラーディ軍との交戦を腹に決めていた。

未沙から得た情報では、現在地球を囲むゼントラーディ軍の艦隊は凡そ2艦隊6000だと、さらには500万の艦隊が背後に控えているという事だった。

早瀬中将はその情報を俄かに信じ難いと思っていた。

500万の宇宙艦隊等想像が出来ようがなかったからだ。

その事もあり、6000の艦隊も統合軍本部上層部を和平へと説得するためのブラフだと……

そして、娘を思う一人の父親として、未沙を主戦派が台頭する統合軍本部上層部の前に出したくなかったのだ。

未沙が500万の艦隊の話をした場合どうだろうか?まず間違いなく、今の上層部は信じないだろう。それどころか、そんな妄言を吐く未沙を何らかの罪を負わせ、拘束する可能性もあるのだ。

また、マクロスに未沙を返す事も出来ようもなかった。マクロスは敵に狙われているだけでなく、統合軍からは完全に厄介者扱いされていたのだ。

さらに、もし開戦となった場合、マクロスは真っ先に先陣に立たされ、さらにはグランドキャノンの囮にさせられ、最悪の場合、敵ごとグランドキャノンの巻き添えを食らう可能性があるのだ。

早瀬中将は未沙を守るために、統合軍本部から離れた別荘地の建物に軟禁させたのだった。

 

 

 

 

2月11日

運命の日が訪れる。

 

 

 

マクロスでは、マクロス内に滞在中のエキセドルから、緊急面会の申し出があった。

グローバルは早速、幾人かの幹部と共にエキセドルと面会を行う。

このような緊急の申し出は一度も無かったため、順調に進んでいた和平協議が何かのトラブルが起きたのではないかと漠然と危惧する。

 

「グローバル艦長、非常に残念な知らせだ」

グローバルの危惧が当たったかのように、エキセドルの第一声がこれだった。

 

「エキセドル記録参謀閣下、どうなされたのかな」

グローバルは冷静に言葉を返す。

 

「ボドル基幹艦隊のほぼすべてがこの宙域に現れる」

 

「!?……それは……」

その言葉はグローバルが危惧していた以上の衝撃だった。

ボドル基幹艦隊の凡そ500万の戦艦を擁する艦隊の殆どが、この地球圏に現れるというのだ。グローバルは背中に冷たい物を感じ、次の言葉を待つ。

 

「地球に総攻撃の命令が下された。ボドルザー閣下は地球人類をプロトカルチャーと認定し、第一級危険種族と指定したのだ。それは地球人類の抹殺」

 

「な!?」

その衝撃な言葉に、グローバルもマクロス上層部も驚きを隠せず、動揺の声を上げる。

 

「このマクロスだけでも逃走する事を望む。我々ブリタイ艦隊は貴公らの逃走を幇助する。さっそく準備にかかられよ」

エキセドルからの次の言葉も意外なものであった。

リスクを承知で、マクロスを逃がしてくれると言っているのだ。

 

「待ってください。地球が、地球人類が滅ぼされるというのですか!?」

 

「そうなる。こうなってしまった以上、我々や地球に止める手立てはない。ボドル基幹艦隊は地球を死の星へと変貌させるだろう」

エキセドルは残念そうな顔を見せていた。

エキセドルにとっても、多彩な文化を持つ地球が魅力的に映っていたのだろう。

 

「いえ、我々の母星の危機に逃げるわけには行きません!」

 

「ボドルザー閣下からは、まだマクロス破壊の命令は下されてない。貴公らを取るに足らない存在だと考えているようだ。しかし、地球の後はこのマクロスが狙われるだろう。貴公らに意識が行く前に、逃走を図るのが最善と思われる」

 

「……………くっ、何か手立てが……」

 

「早くこの宙域から離れられよ」

エキセドルはもう一度言う。

 

 

そうこうしている内に会議室に緊急通信が入る。

ゼントラーディ軍の大軍が地球圏に現れたと……

そして、その映像を会議室に回す。

 

ゼントラーディ軍の艦隊が地球を取り巻く様に、フォールド(ワープ)航法で次々と現れたのだ。

ボドル基幹艦隊 その数凡そ480万、地球を覆いつくさんばかりの艦隊だ。

 

「………………」

その圧倒的な光景に、グローバル以下マクロス上層部は目を見開き、身動きが取れなかった。

 

 

「……遅かったか」

エキセドルは呻く。

 

「くっ、各員戦闘態勢だ!!」

グローバルは我に返り、指示を出しながら会議室を後にし、発令所ブリッジへと向かう。

 

 

 

時を同じくして、アラスカの地球統合軍本部上層部もこの状況を把握し、俄かに基地が慌ただしくなる。

 

統合軍本部基地内のアムロはこの状況を把握できていなかったが、アムロのニュータイプ能力が漠然と空が落ちてくるイメージを思い描いていたのだ。

(なんだ!?この圧倒的なプレッシャーは!悪意とかそう言うレベルのものではない。まるで何者かがこの地球を握りつぶさんとするかのようだ!……無数の敵意がこの地球に集まってきている。……まさか!?)

 

何かが起きていると感じたアムロは情報端末で情報を集めようとするが、通信系統が麻痺し、情報の確認が出来ないでいた。

周囲の佐官クラスに聞くも、同じく情報が来ていないようだ。

埒が明かないと、アムロは直接状況を確認するために統合軍の司令施設がある棟へ向かう。

 

アラスカ地球統合軍本部基地の施設はすべて地面の下にあるため、強大な地下迷宮のようになっている。

アムロは地下通路を急ぎ、司令施設受付に将官の面会を求めるが、誰も通すことが出来ないとの一点張りだった。

受付担当官自身も現在何が起きているのか、知らされていない様子だ。

 

そこに早瀬中将が現れる。

「中将!何が起きているのですか?それに早瀬大尉はどこに?」

 

「……アムロ・レイ中佐……君に会えてよかった」

 

「どういう……」

 

「時間が無い、こっちに来たまえ」

早瀬中将はアムロの言葉を遮り、腕を取って、施設の外へ足早に出て、周りに誰も居ない事を確認する。

 

「何が起きているのですか?」

 

「ゼントラーディ軍の大軍が地球圏を包囲した」

早瀬中将はアムロの質問に声を低くし、答える。

 

「!?」

 

「突如として地球圏に現れた。ワープ航法の類だろう。もはや相手は隠れるつもりも何もない……全面戦争の様相だ。その数、戦艦だけでも推定500万……我々の目算が余りにも甘すぎた。グランドキャノンでもどうにもならないだろう。もはや勝てる数字ではない……あの子の言う事を信じていれば……いや、あの時点では誰も信じはしなかっただろう」

早瀬中将は悔いるような表情をしていた。

 

「基幹艦隊か……」

アムロは敵艦隊が500万と聞き、エキセドルからもたらされた情報通りであれば、ボドル基幹艦隊全艦隊が地球へ現れたと理解する。

 

「頼みがあるアムロ・レイ中佐、こんな事を頼むのは軍人として失格だ。だが……娘を…未沙を頼む」

早瀬中将は頭を垂れながら、未沙が軟禁されている校外の別荘地の場所を知らせる。

 

「……わかりました」

 

「私は軍人として最後まで戦いを全うするだろう。中佐、マクロスならば若しくは………」

早瀬中将はそう言って、苦笑しながら踵を返し、司令施設入口へと向かう。

 

「……」

アムロは早瀬中将の背中に向かって無言で敬礼し、足早に基地外延部にあるバルキリー地下格納庫へ向かった。

 

 

 

アムロが地下格納庫へ向かうと、誰が準備したのかはわからないが、既にアムロのVF-X3Z改は発進の準備が整っていた。

「運がいい……補助ブースターも取り付け済みか」

アムロはバルキリーに乗り込むが、……格納庫全体が揺れ、轟音が鳴り響き、目の前の機動エレベーターが激しい熱粒子の光と共に破壊された。

 

「っ!攻撃が始まった!?」

 

アムロはガウォーク形態で、破壊された機動エレベーターから基地の外に飛び出す。

そこで見た光景とは、巨大なビームの柱が地表のあちらこちらに降り注いでいるというものだ。

そう、それは大気圏外からの敵艦主砲による艦砲射撃だった。

 

「な!?大気圏外からの直接攻撃!?なんて数だ!」

アムロは空高く上空に、何かが蠢き覆っているのが見えた。

その蠢く何かとは、地球を覆うボドル基幹艦隊500万の艦隊の一部だという事に直ぐ理解する。

しかも、この艦砲射撃はその艦隊の極一部の戦艦からだけだと……

 

「……」

アムロはVF-X3Z改をファイター形態に変形させ、急ぎ、早瀬中将が記した建物の場所へ向かう。

 

 

 

 

別荘地の頑丈な家に軟禁されていた未沙は何とか外に連絡しようとしたが、連絡手段はすべて絶たれていた。

衣食住の不自由はなかったが、早瀬中将の息が掛かった人物に警備、監視されていた。

(交渉は失敗なの?まさかお父様がこんな強引な手段をとるなんて……いえ、まだよ……せめて、中佐に連絡が取れれば……)

未沙はまだあきらめてはいなかった。何とか隙を付いて、アムロに連絡しようとしていたのだ。

 

幾日か経過したその日、突如として未沙の耳に激しい轟音が聞こえて来た。

今居る2階の部屋の窓の外を見ると、空の向こうの宇宙域に、何かが埋め尽くさんとしていた。

「………まさか!」

 

未沙はその光景に激しく動揺する。

未沙は理解した、空を埋め尽くすあれはゼントラーディ軍の艦隊だと……

 

「もう、ダメなの………」

未沙はその場に崩れるように座り込む。

その間にも、空から降るビームによる激しい光と衝撃音が届く。

 

未沙の心は折れそうになる。

 

「……中佐…アムロ…中佐」

しかし、その人物の名前を口にするだけで、折れそうになった心もなんとか持ちこたえる事が出来た。

こんな状況でも、あの人ならば何とかしてしまうのではないかと……

 

 

窓の外が急に暗くなる。

 

いや、純白のバルキリーがガウォーク形態で降り立ってきたのだ。

 

そして、コクピットが開く。

「迎えに来た」

そこには未沙が待ち望んでいた人物の顔が……

 

「中佐!」

未沙は窓を必死に開けようとするが、開けられない。

窓自身頑丈な作りになっている上、この窓は中から開けられないようになっていた。

 

アムロはそれを理解し、手振りで未沙に後ろに下がるようにと指示すると、バルキリーの手で強引に窓を破壊する。

 

「乗れ!」

 

「レイ中佐!!」

 

未沙はバルキリーの手の平に乗り、アムロはその手をコクピットの横まで持ってくる。

 

「レイ中佐!!」

未沙はアムロに抱き着きたい衝動に駆られるが、自制心で何とか抑え、アムロが座るシート後方の狭い複座に乗り込む。

 

コクピットを閉めながら上空へと垂直移動し、ファイター形態に変形し、この場を飛び去る。

 

 

「中佐、ありがとうございます。今、何が起こって……いえ、ゼントラーディ軍が迫って来ているのですね」

未沙はこの事態について聞く。

 

「ああ、約500万の戦艦が地球圏に現れたようだ。俺もすべて把握してるわけじゃないが、恐らくエキセドル記録参謀が言っていたボドル基幹艦隊だろう」

 

「……遂に……私は説得に間に合わなかったのですね」

 

「いや、君のせいじゃない……君は一番初めに彼らとの和平をと声を上げた……俺達大人がもっとしっかりとしなくてはならなかった」

 

「中佐………その、レイ中佐、よく私の居場所がお分かりに……」

 

「君の父親の早瀬中将が、俺にここの場所を教えてくれた……」

 

「父は何と」

 

「君を俺に託すと……中将は最後まで戦うと……」

 

「そうですか父が………」

 

アムロは所々降り注ぐ、大気圏外からの艦砲ビーム攻撃に注意しながら、一直線に進む。

 

「レイ中佐、これからどうされるのですか?」

 

「マクロスに戻る。地球からでは埒が明かない。このままこの機体で大気圏突破をする」

VF-X3Z改にはタカトク准将が開発した極小の専用スラスターブースターが取り付けられていた。

 

「……敵艦隊がこうも多いと大気圏突破は」

未沙の言う通り、このまま大気圏突破を試みても、地球圏に犇めく艦隊に容易に撃墜されるだろう。

大気圏突破中の数十秒は完全に無防備になる。いくらアムロでもその状態では避けようがない。

 

「ああ、艦隊の薄い場所を探してる……太平洋海上は比較的薄そうだ。誰も居ない海上は敵も狙わないだろう」

 

そんな事を言っている傍から、大気圏外からのビーム攻撃が徐々に激しくなり、さらに嵐のような激しいビームの雨が地表に隙間なく降り注いできたのだ。

ボトルザーはついに、ゼントラーディ軍ボドル基幹艦隊全艦に地球への一斉攻撃を命じたのだ。

 

 

「今迄は様子見か!やはり奴らは地球を滅ぼす気だな!」

 

「きゃーー!」

未沙はその敵の嵐のようなビーム攻撃の恐怖と、アムロの操るバルキリーの機動に目を回し、叫ぶ。

 

「頭を低くし、歯を食いしばってろ。舌を噛むぞ」

アムロは未沙に声を掛ける。

アムロは両手の操縦コンソールを自在に動かし、機体を上下左右へ傾け、時には回転しながら、上空から降り注ぐビームの雨の中のわずかな隙間を縫うように突き進み、絶妙な機体コントロールですべてかわしていた。

アムロの超絶技巧と空間把握能力、ニュータイプ能力による予知予測、さらにこのアムロ専用にカスタマナイズされたVF-X3Z改の機体性能あってのこの回避だ。

通常のパイロットに機体ならば2秒と持たないだろう。

 

アムロはそんな超絶回避を繰り返しながらも、太平洋に向かって突き進んでいた。

 

 

太平洋へと到達する頃、アムロの予想通り敵の艦砲射撃は弱まる。

しかし、振り返った先に見たものは、敵の一斉攻撃により先ほどまであった町は消滅し、地面は削られ、徐々に変貌していく大地の姿だった。

 

「………中佐……街が人が…」

未沙はその光景に言葉を失う。

 

「……今はマクロスに戻る事だけを考えろ」

アムロは、未沙の震える声に檄を入れる。

そうは言ったもののアムロ自身、優れたニュータイプ能力により、地球から生命が一気に失われる感覚がその身に重く圧し掛かっていたのだ。

だが、アムロはその感覚を必死に抑え込み精神をコントロールしていた。

 

太平洋側の海上に抜け、確かに艦砲射撃は弱まったものの、地球圏宙域には敵艦隊が犇めき、単独で大気圏を突破できる状況ではなかった。

 

 

 

すると……

アラスカ統合軍本部基地方面から突如として巨大な光の柱が昇り、空を突き抜け、宇宙に向けて伸びて行ったのだ。

そして、宙域に展開していたゼントラーディ軍の艦隊を飲み込む。

さらに巨大な光の柱は敵の艦隊を多数巻き込みながら、南へと矛先が進む。

 

この巨大な光の柱は地球統合軍の切り札、グランドキャノンからの超高出力エネルギー攻撃だった。

 

グランドキャノンの超高出力エネルギー攻撃は、敵艦隊を次々と焼き払っていき。

120秒間照射し続け、ビームは途切れる。

 

後で分かった事だが、このグランドキャノンの超高出力エネルギー攻撃は敵の艦隊の凡そ2割弱を撃滅、または戦闘不能に陥れたとあった。艦船数では70万から80万近くを沈黙させたことになる。

密集陣形が仇となり、ボドル基幹艦隊に大ダメージを与えたのだ。

だが、グランドキャノンの真の狙いはボドル基幹艦隊の旗艦、1400㎞級超巨大空母艦だった。超高出力エネルギー攻撃が到達する前にエネルギー切れを起こして停止してしまい、超巨大空母には届くことは無かった。

実質、これが地球側からの最後の抵抗だった。

グランドキャノンは再チャージまでに数時間を擁し……その隙に敵艦隊の集中艦砲攻撃により、グランドキャノンは統合軍本部基地ごと消滅する。

 

 

しかし、これはアムロにとって好機だった。

グランドキャノンの攻撃により、地球圏を包囲していた500万の艦隊にぽっかりと大穴が開いたのだ。

 

アムロはすかさずその艦隊の穴から大気圏突破を図り、宙域へと飛び出す。

 

「マクロスはどこだ!?」

アムロは宙域に上がる事が出来たものの、グランドキャノンで大ダメージを受けたとはいえ、ボドル基幹艦隊はまだ400万以上が健在なのだ。

四方は敵が犇めいている。

 

「レイ中佐……」

未沙も周囲遠方に見える犇めく艦隊に表情が強張っていた。

 

(……感じろ、マクロスはどこだ。………見えた!)

アムロは心を落ち着かせ、ニュータイプ能力を発現させ、マクロスの正確な位置を感じ取る。

だがマクロスは、現宙域からでは幾つもの分岐艦隊級の艦隊を突破しなければならない位置にあった。

 

「………大尉、マクロスに戻るぞ。さっきよりも荒れる。しっかり掴まってろ!」

 

「え?……その……はい」

そのアムロの言葉は、先ほどの地上でのビームの回避機動よりもと言う事になる。

未沙は一瞬躊躇するが、もはや未沙にどうすることもできない。

 

 

 

アムロのVF-X3Z改はバーニアを吹かし、敵の分岐艦隊目掛けて猛スピードで突っ込んでいった。

 

 

 

 

 

ボドル基幹艦隊は地球への攻撃を継続中だった。攻撃開始から1時間が経とうとしていた。

地球の超兵器による思わぬ手痛い反撃を受けたが、それも沈黙させ、後は地球に対し断続的に大気圏外から艦砲射撃を撃ち続けるのみだった。

予定では後1時間。

 

 

しかし、とある分岐艦隊に突如として謎の戦闘ポッドが突貫してきたのだ。

「なんだ?たった一機?味方ではない。この星の戦闘ポッドの様だ。この星への艦砲射撃を継続しつつ、適当に迎撃してやれ」

分岐艦隊司令 オゴタイはそんな命令を下したのだ。

その戦闘ポッドが唯の戦闘ポッドで唯のパイロットならば、それで容易にあしらえたであろう。

 

しかし……

 

「艦隊司令!我が艦隊に被害が出ております」

 

「先ほどの敵の地表からの超兵器か?」

 

「いえ、こちらに突貫してくるあの白い戦闘ポッドです。既に艦隊の中に入り込み、艦船が数隻落とされました……」

 

「なに?……たった一機の戦闘ポッドに何をしている!!こちらの戦闘ポッド部隊はどうした!?」

 

「まったく歯が立ちません。一直線でこの旗艦に向かって………」

 

2時間前にこの宙域に到着したばかりのこの分岐艦隊には、ブリタイ艦隊やラプラミズ艦隊の兵士達を恐怖のどん底に陥れたこの真っ白な戦闘ポッドの恐ろしさを理解できなくて当然だろう。

 

そして理解した時には既に遅かった。

 

「……なっ!?」

艦隊司令はブリッジから、真っ白な戦闘ポッドが凄まじいスピードで迫って来る姿がその目に映る。

その瞬間、ブリッジはビーム砲に撃ち抜かれ……その分岐艦隊旗艦は爆散する。

 

 

 

アムロのVF-X3Z改はマクロス帰還に向けて、一直線へのコースをたどる。

現在のVF-X3Z改の武装はフル装備ではない。

大気圏突破するため、外部ユニットに取り付けていた反応弾などのミサイルに大型バズーカやビームライフルなどの携行武器はすべて廃棄していた。

そのため、現在使用できるものは固定武装と内蔵兵装のみとなっている。

それでもこのVF-X3Z改は強力な兵器類が装着されている。

両腕の集束ビームランチャー、小型プラズマイオンソード、頭部バルカン砲、三連小型ミサイルラック、小型ミサイルポッド2基と……

 

さらに、推進剤に余裕がない。戦闘を行えば、通常航行に比べれば推進剤の消耗は激しくなる。特にアムロのようにとんでもない機動をとると余計にだ。

 

アムロは幾つもの分岐艦隊級を突破するには、最短コースを最小限の戦闘で突破する必要があったのだ。

 

(最短コースは………)

アムロは操縦に集中しながら、ニュータイプ能力を発現させ、マクロスへの最短コースの道筋が脳裏に浮かばせる。

 

 

 

ゼントラーディ軍分岐艦隊司令 ヤンガスは隣の艦隊が地球への艦砲射撃を止め、艦隊内で戦闘状態の様相であることに気が付く。

「左翼に展開するオゴタイ分岐艦隊が騒がしいようだが、どうなってる?」

 

「さて?……通信が来ました。……!?オゴタイ分岐艦隊旗艦が墜とされました!?」

通信兵は左翼の分岐艦隊から意外な内容の通信を受け取る。

 

「何―――?どうなってる?敵の攻撃など……」

 

「……な!?し、司令、たった一機の戦闘ポッドにやられたと!!」

さらに彼らは驚く事になる。

 

「バカな!何かの間違いだろ!!」

 

「司令!!我が艦隊に一機の戦闘ポッドが突入しました!凄まじいスピードです!!……データ来ました!!オゴタイ分岐艦隊旗艦を墜とした、白い戦闘ポッドです!!」

 

「な…なんだ!?……直ぐに迎撃態勢だ!!」

 

「……司令!!2000m級戦艦2隻撃沈!!尚も被害が拡大中!我が艦隊の下方を尚も一直線に突き進んでおります!!」

 

「迎撃どうした!!戦闘ポッド部隊は!?」

 

「戦闘ポッド部隊追いつけません!集中弾幕もすべて避けられました!!………白い戦闘ポッドは我が艦隊を抜け……、友軍ビサール分岐艦隊へ向かいました……」

通信兵はホッと息を吐く。

 

「………何だったんだいったい?……被害状況は?いや、ビサールに通信だ!」

分岐艦隊司令 ヤンガスはまるで狐につままれた気分であった。

 

 

 

 

その後も……

「……なんだあの白い戦闘ポッドは!?まるで追いつかない!?」

「こっちは2000の艦隊に、戦闘ポッド18万だぞ!?なぜ落とせない!!」

「うわーーー、来るなーーー来るなーーーー!!」

「どこだ?どこに行ったーー!?うわーーーーっ!!」

「たかが戦闘ポッドに何故戦艦が落とされる!!なんだあのビーム兵器は!?」

「対空防御………なっ!?この射線をかわすだと?」

「……なんて動きだ。あれは本当に兵が乗ってるのか?」

「……悪夢か……いや、あれは悪魔だ。まさか伝承の……プロトデビルンか?」

ゼントラーディ軍の艦隊は、たった一機の白いバルキリーに手も足も出なかった。

 

 

交戦経験が豊富なブリタイ艦隊ですら、アムロのバルキリー一機に翻弄させられていたのだ。初見となる彼らには、あの二つ名持ちのバルキリーに対応など出来るはずも無い。

ブリタイ艦隊司令 ブリタイ・クリダニクは、アムロに捕虜を奪還されてから、アムロのバルキリーを脅威とし、アムロシフトなる対アムロ用の戦術を幾度となく準備し実行したが、悉く無に帰する結果となる。

アムロのバルキリーは対戦の度に、予想以上の動きと攻撃を繰り出してくるのだ。

そのうち、アムロを撃墜することを諦め、被害を拡大させない戦術を組み込む程であった。

最終的にアムロのバルキリーについてはあらかじめ被害を想定し、マクロス撃墜のための戦術を優先することに……

そして、アムロの駆る白いバルキリーについた二つ名は白い悪魔。

 

 

突破された分岐艦隊は艦隊全体としての被害こそ大きくないが、その白い悪魔の恐怖は確実にゼントラーディ軍の兵士に刻みつけられていくのだった。

まさにゼントラーディ軍兵士にとって悪夢そのものであった。

 

 

 

「そこか……邪魔だ!」

アムロのVF-X3Z改は立ちはだかる敵をなぎ倒しながら、無人の荒野を駆け抜けていくが如く、次々と敵分岐艦隊を突破していった。

 

 

そして、アムロは遂に敵中突破を成功させ、マクロスが待機している宙域へと出る。

 

「タカトク准将や開発スタッフには感謝だな。VF-X3Z改の能力が無ければ、こうも突破できなかっただろう」

タカトク准将以下、技術開発部がVF-X3Z改に並々ならぬ熱意を注いできた結果だろう。

 

「中佐……あの、もう、もうよろしいでしょうか?」

未沙は、恐る恐るアムロに尋ねる。

戦闘中のコクピットの中は、ただただ恐怖でしかない。

叫び声を抑えるので精いっぱいだった。

 

「ああ、すまない。突破は成功した」

 

「レイ中佐……地球が………」

未沙はコクピットから地球を見、その姿に苦悶の表情を浮かべ、アムロのシートの後ろに項垂れしがみ付く。

あの青い星と言われた地球は、ゼントラーディ軍からの艦砲射撃により、無数の光が降り注ぎ、爆発などがあちらこちらで起きているのが見える。

街は破壊され、森は焼き払われ……海や川も蒸発している場所も見受けられる。

地表は無残な状態となっているだろう事は想像に難くなかった。

この状況下では生命は生き残る事は出来ないだろうと……

 

「………くっ………」

アムロも無残な地球の姿に胸が締め付けられ、グッと拳を握りしめる。

(止められなかった。……何か手立てがあったはずだった)

 

そして、もう一つの思いがふと沸き上がっていた。

(……シャア、お前がやろうとしていた事はこういうことなんだよ……この現実を受け止める事ができたのか?シャア!?)

 

 

 

アムロと未沙を乗せたVF-X3Z改はマクロスへとたどり着く。

 




地球が原作通りの惨事に。
迷いましたが、原作通りにいたしました。

原作通り、480万の艦隊ですが、今は凡そ500万としてます。
分岐艦隊規模は凡そ1000~5000の艦船と考えてます。

グランドキャノンも原作では80万の艦船を落としてます。
かなりの超兵器ですよね。

そんでもって、後残り2話の予定です。
次が真アムロ無双完結編の予定。

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