毎度すみません。徐々に返信できればなと……
誤字脱字報告もありがとうございます。非常に助かっております。
ご無沙汰しております。
ようやく書くことができました。
完結まで後2話と思っていたのですが……
どうやら、もうちょっと続きそうです。
では……
2009年12月末
カムジン率いる艦隊のマクロス襲撃から、半月が経過していた。
その間、マクロス襲撃どころか、ゼントラーディ軍に動きは無かった。
しかし……
「なんですと!………せめて市民の受け入れだけでもしてはいただけないのですか!彼らは巻き込まれ、やむなくマクロス内で過ごす羽目になった被害者ですぞ!」
グローバルは統合軍参謀本部からの命令に激高していた。
マクロスに下った命令は宇宙域からのゼントラーディ軍監視任務。聞こえはいいが、ようするにマクロスの地球外退去だ。
グローバルはせめて市民だけでも、地球に残したいと願い出たのだが、それすらも認められる事は無かった。
統合軍から与えられたものは物資の補給とこれまでの功績と称し、マクロス艦内軍人の一階級昇進というものだった。
その頃、地球統合軍上層部は主戦派が台頭していた。
地球統合軍では地球宇宙宙域に展開するゼントラーディ軍艦隊に対し、切り札となる効果的な兵器を二つ開発、又は改良を施し、壊滅又は排除プランを計画、その準備を進めていた。
一つは大量破壊兵器、マクロスの主砲に使われているエネルギー理論を応用した対宇宙域兵器である『グランドキャノン』である。地表から直接宇宙の艦隊に攻撃可能な超巨大兵器だ。現在完成し稼働可能なのは地球統合軍アラスカ本部に併設され、地下に埋設されている6キロ砲身を擁するグランドキャノン1基のみ。その他地球では3基、月で1基が現在建設中であり、建設を急がせていた。
グランドキャノンは理論的にはマクロスの主砲の数倍の威力を持ち、全て完成すれば3000の敵艦隊を消滅させるだけの力を持つと想定されていた。
地球統合軍はマクロスを囮にし、地球からゼントラーディ軍の目を宇宙のマクロスに向けさせる事で、グランドキャノンの存在と稼働状況を隠そうとしていたのだ。
そしてもう一つの兵器は……
マクロスの地球退去命令が下された3日後、マクロスは地球統合軍からの最後の補給を受けた後、再び地球を旅立ち宇宙へと……
しかし、マクロス上層部にとって大きな誤算があった。
「ふむ、艦長よろしく頼む」
「よろしいのか?タカトク大佐」
「はっはははー、私の権限はかなり自由でね。それなりの成果を上げれば、頭の固い統合本部も納得するでしょう!それよりも早速だが、マクロスの機関部に案内していただきたい!」
「………大佐を案内して差し上げろ」
グローバルは一呼吸おいてから、クルーの一人に大佐を案内させた。
そう、タカトク大佐が地球外退去するマクロスに乗艦したのだ。
タカトク大佐はマクロスに地球外退去命令が下された後、ウエーク島に滞在させていた技術開発スタッフと工作艦や空母、補給艦を引き連れ、マクロスの補給のどさくさに紛れて乗り込んできたのだ。流石に艦船は残してきたが、開発機器やバルキリー生産可能な機材の一切合切をマクロスに積み込んだのだ。
グローバルはタカトク大佐の乗艦はマクロスにとって、良かった事なのか悪かった事なのか計りかねていた。
とりあえずは統合本部からの抗議必須だろうと……
しかし、それはグローバルの杞憂であった。
後程、正式に地球統合軍本部からマクロスのグローバルに対し、タカトク大佐率いる機動兵器開発チームの乗船と、タカトク大佐のあらゆる要求を実現するようにと通達が送られてきたのだった。
タカトク大佐は統合軍本部と事前に話を付けていたのだ。
強引なのは何時もの事なのだが、マクロス乗艦に当たって、統合軍本部が納得できるだけの材料を提示し、交渉を行っていたのだ。
それが地球統合軍が対ゼントラーディ軍に対して、グランドキャノンと共にもう一つの切り札となる『反応弾』の運用試験だ。
反応弾―――核爆弾を改良した兵器であり、現地球統合軍では大量破壊兵器であるそれはあまりにも危険かつ、倫理的な観点で使用凍結されている兵器であった。
ただ、10カ月前のゼントラーディ軍との初期戦闘で宇宙軍が数発使用し、敵方艦隊にダメージを与えた事は確認されていた。
但し、その宇宙軍は跡形も無く壊滅させられたため、その時の正確なデータは統合軍に届くことがなかったのだ。
理論上は小型の反応弾一つで敵の戦艦を丸ごと破壊できる威力を持っているとされているが、敵艦隊や艦船に対しての正確なダメージ値や有効射程、耐久力、速度などのデータが不足しているため、3000もの敵艦隊に対して、正確性の高い効果的な戦術が立てられないでいたのだ。
そこに目を付けたタカトク大佐は統合軍本部と取引を行った。
ゼントラーディ軍と交戦を繰り広げているマクロスで反応弾の実践テストを行い、地球統合軍本部 戦略室が喉から手が出るほど欲している反応弾の正確な効果データを統合軍に逐一送信する事を引き換えに、タカトク大佐率いる機動兵器開発チームのマクロスへの乗艦許可を半場強引に取り付けさせたのだ。
当のタカトク大佐は反応弾のためではなく、バルキリー開発のデータが欲しいためにこのような事をしたのだが……
更に反応弾の正確なデータを取るためにと、タカトク大佐は統合軍本部にある要求を行った。
これがマクロスやマクロスクルーにとって何よりも嬉しい誤算だったのだ。
マクロスが宇宙に上がる2時間前。
とあるバルキリー大隊がマクロスの甲板に着艦し、機動エレベーターから格納庫に入り、パイロットは次々と降り立つ。
「よお、アムロ。よく帰った」
「ロイ……遅くなってすまない」
「お前も物好きな奴だ。世界で一番危険なこんな場所までわざわざ戻って来るなんぞ」
この程大佐に昇格したフォッカーはVF-1S改から降りたアムロにそう言いつつも嬉しそうに肩に腕を回す。
タカトク大佐はアムロ・レイをマクロスに乗船させることを条件に交渉していたのだ。
反応弾の試験運用にこれ程適した人物はいないと力説し、地球統合軍本部 戦略室が期待する以上のデータをアムロなら取得可能だと言い切ったのだ。
地球統合軍本部も、それには同意せざるを得なかった。
現状、反応弾が使えるパターンとして、エース級パイロットが敵戦艦に近づき、撃ち込む以外に方法が無かった。
エースパイロットを失うリスクが非常に高い上に、エースパイロットの数は現在の地球統合軍には一握りしかいないため、現実的な戦略が立てにくい状況であった。
バルキリーで敵戦艦を単独撃破し、帰還するという荒業を何度も実践してきたアムロならば、反応弾の運用データを確実に持ち帰る事が出来るだけでなく、あらゆる角度や方法での反応弾の使用試験が可能である。
更に、アムロは新たなバルキリー運用戦術も幾つも編み出し、実戦レベルで成功させている。
エースパイロットだけでなく、通常のパイロットでも反応弾が使用できる戦術を編み出し、持ち帰って来る事が可能だろうと言う事は、今までの実績を見ても否応なしに期待感が高まるのも致し方が無いだろう。
結局、地球統合軍はアムロ・レイをタカトク大佐の麾下に置き、マクロス乗艦を極東基地所属の64機のバルキリー大隊と共に許可したのだった。
「少佐!お帰りなさい!」
「レイ少佐!」
「少佐!」
次々とパイロットや整備兵が、フォッカーと共に艦橋へ歩むアムロの下に駆けつけて行く。
「おい、お前ら!少佐は艦長に挨拶に行くんだよ。邪魔だ!」
エストラントはそんなパイロット達をかき分け、一喝して、アムロの進む道を作る。
「エストラント……」
「アムロの旦那、これで俺の肩の荷が下りるってもんだぜ……よく帰って来た」
エストラントはそう言ってアムロに握手を求め、アムロもそれに応える。
「ふっ、大尉……いや少佐だったな。俺と同じ階級だ。ユニコーン部隊の隊長は任せたぞ少佐殿」
「げっ!それは無いぜ旦那~」
その後も、ユニコーン部隊の隊員たちが次々とアムロの許に集まって来た。
格納庫での一通りの挨拶を済ませ、アムロはフォッカーと共にブリッジまで向かう。
「アムロ・レイ、戻りました」
「少佐……」
「レイ少佐、お帰りなさい」
ブリッジの入口から入り敬礼するアムロに未沙を筆頭にブリッジクルーも歓迎の声を上げる。
「レイ少佐、よく戻ってくれた。これほど心強いことは無い。……だが、よく戻ってこられたものだ。こちらにも辞令などの通達はなかったが……もしや、無断でか?……それならそれでいい。君の身柄は必ず守る。統合軍にも一切手出しはさせん」
真新しい少将の階級章を胸にするグローバルも、この時ばかりは顔がほころぶ。
「私も強引にマクロスに乗り込むつもりでしたが……それがタカトク大佐がどうやって統合軍本部を説得したのかはわかりませんが、無理矢理ねじ込んだようです。
更に第204大隊の半数以上を、テストパイロットとして64名は引き連れております」
アムロはウエーク島基地でタカトク大佐が極東基地と統合本部との通信で大声を響かせていた事を思いだし、苦笑する。
「ふっ、君はあのとんでもない大佐殿に相当気に入られているようだ。何にしろ、マクロスは君の帰りを歓迎する」
グローバルとアムロはがっちりと握手を交わした。
この後、宇宙に上がったマクロスに地球統合軍本部からレーザー通信で、正式にタカトク大佐は准将に昇格し、そのスタッフとテストパイロットたちは宇宙方面技術試験運用軍としてマクロスに滞在することとなった。
そのバルキリー運用試験を主とする第603技術試験隊 部隊長、そしてこの試験運用軍のNo.2としてアムロは中佐に昇格する。
独立した組織である宇宙方面技術試験運用軍所属であるため、正式にはマクロス所属ではないが、マクロスで活動する事には変わりはない。
マクロス作戦部内の編成も大きく変更されていた。
バルキリー隊は2~3師団クラスのパイロットの人数が回復していた。
アムロが発案した数々のバルキリー運用戦術により、パイロットの生還率が劇的に高まり、更にパイロット育成に力を注いできた結果だった。
フォッカー大佐はバルキリー師団ともいえる部隊のトップとして、これまでの様に先頭に立って率いる事は困難な立場となった。但し、フォッカーの性格上、それは直ぐに瓦解するだろう。
一条輝は中尉に昇進し中隊を率いる事になり、小隊だった頃の名を引き継ぎ、バーミリオン中隊24機を率いる事に、副長としてマックスが少尉に、柿崎が准尉に昇進、小隊を率いていた。
既にエース部隊の一つとして扱われる。
エストラント少佐はバルキリー遊撃大隊ユニコーン部隊48機を率い、エース部隊として高度な戦略に従事することに……。本人はアムロの代わりなんて出来ないと、相当嫌がっていたが、アムロやフォッカーの後押しでしぶしぶ了承する。
更に、タカトク准将がマクロスに持ち込んだのは反応弾だけではなかった。
スーパーパック60機分、開発完了したばかりのストライクパックを5機分、VF-1Aのマイナーアップデート版 VF-1Jを持ち込んでいた。
スーパーパックについてはユニコーン部隊にすべて装着。ストライクパックについてはエースパイロットに配備された。
アムロはと言うと……
「アムロ君!マクロスのエネルギーバイパスの改善と変換器を直しておいた!!全方位バリアも可能だ!!さあ、私のバルキリーの旋回能力試験とビーム兵器試験に付き合いたまえ!!」
「ありがとうございます准将。……統合軍本部の反応弾の試験や改良は良いのですか?」
「ふん。あんなものはミサイル屋にやらせればいい。試験だけはやってやるが、今は敵が攻めてこないではないか!!更にだ!!大量破壊兵器は好かんのだよ!!君は集束ビームライフル一本で戦艦を何機も墜としてみせたではないか!!あれこそがアート!!あれこそが機動兵器の本分であり、私の可変機に相応しい!!VF-X3Z改にはエネルギーCAPをさらに効率化することで、熱廃棄問題を解決と同時に小型化させ、集束ビームライフルを腕部に標準装備させた!!エネルギー切れ等無い様に、ビーム兵器のエネルギーは交換式に変更させた!あのスマートなフォルムはどうだ!!後付けのミサイルなど要らん!!」
タカトク准将はマクロスのバリアについて、アムロから見てほしいと言われていた。
その前にマクロスの技術開発部や上層部から依頼していたようだが、タカトク准将はあまり興味を示さなかったようで、最初は拒否をしていた。
だが、アムロからと言う事であれば別だった。
自分達の試験に付き合ってもらうために、タカトク准将や開発陣スタッフは不眠でマクロスのバリア系統のエネルギー供給問題を調査し、改善、修繕を行ったのだ。
「了解です。午後からの試験運用にVF-X3Z改に搭乗します」
「うむ!良いデータをよろしく頼む!!」
タカトク准将は満足げに頷く。
「レイ中佐!サポート用のゴーストの調整が終わりました!是非試験運用を!」
「姿勢制御モーターの噴出口を改良しました!見てください!」
「ストライクパックとストライクパック改の宇宙試験運用をお願いします!」
「コクピット周りのコンソール簡略化についてご意見をください!」
「衝撃吸収材の改良に成功しました!早速VF-X3Z改のコクピットに取り付けます!」
「ガウォーク形態排除による、変形のスムーズ化について意見を!」
タカトク准将との話が終わると、アムロの下に技術開発スタッフが押し寄せる。
「……わかった。意見書はまとめて俺のコンピュータに送ってくれ、試験運用については順次行う。ストライクパックは603部隊から1名とマクロスのバーミリオン中隊から2名借り受けてる。ダブルストライクパック(ストライクパック改)とサポート用ゴーストについては後日、俺が試験運用する」
アムロは苦笑しながら返事をし、開発室から出て行く。
この建物の屋上のベンチに座り、そこでタブレット端末をじっと眺めていた。
一人で考え事をしたい時、アムロはいつもこの場所で、こうやってリフレッシュしながら自分の作業に入っていた。
「……レイ中佐、大分お疲れのようですね」
「早瀬…大尉か。よくここを通してもらえたな」
「ふふふっ、マクロス内部について、私以上に把握してる人間はいないんですよ」
未沙は微笑みながら答え、アムロの対面に座る。
ここはマクロス内に急遽設置された宇宙方面技術試験運用軍専用の建物だ。
マクロス内部のバルキリー発着ドックの一つを丸ごと利用し、そこの建物を占拠していた。
一応、マクロスとは別の組織になる上に、機密性の高い研究などが行われているため、マクロス内における治外法権と化していたのだ。
マクロス所属の軍人も許可なくこの区域に入れない。
更に言うと、軍務中のアムロにマクロスの軍人が会う事は困難となっていた。
皆、受付で追い帰されるのが落ちであった。
宇宙方面技術試験運用軍の最重要人物である上に、技術開発スタッフは普段からアムロの取り合いになる状況下で、他の軍人など正式命令以外にアムロに会わせるはずが無いのだ。
更に、軍務が終わればアムロはフォッカーに連れ回されるか、ユニコーン部隊の誰かに待ち伏せさせられ、連れていかれる事が多い。
未沙もアムロを訪ねるが、いつも先を誰かに越されるため、こうやってこっそり会いに来たのだ。
「レイ中佐、ちゃんと食事はとられてますか?」
「いや、朝から何も口にしていないな」
「食事はしっかり取らないと、体力が持ちません。……そのよかったら」
未沙はそう言って、手に持っていた手提げ鞄から、小さなバスケットを取り出し、目の前のテーブルに手作りサンドイッチと飲み物を置く。
「助かる。早瀬大尉」
「どういたしまして」
「ところで、大尉は俺に何か用があったんじゃないのか?」
アムロはタブレット端末を置き、サンドイッチを手にする。
「その………私も休憩を……」
「?」
未沙は言い訳を思いつくことが出来ず、顔を赤らめながら答える。
未沙の持ち場である発令所ブリッジとここでは場所が離れ過ぎており、休憩などという言い訳は成立しない。
休憩所にリン・ミンメイの歌が流れ、テーブルの空間投影型のディスプレイにミンメイが歌う姿が映しだされた。
「この子も、有名になったものだ。歌か……」
「レイ中佐はどのような歌が好きなんですか?」
「いや、こうして歌を聞くのは何年振りかだ。暇を持て余した時期にはよく聞いたものだが……」
「そうですか、サンドイッチは口に合いました?」
「あ、ああ、美味い。……そう言えばこの歌の彼女は一条中尉のガールフレンドだとロイに聞いたが」
アムロは既にサンドイッチを4つ目に手を伸ばしていた。
女性からの頂き物に対し儀礼的に美味しい事を伝えるという作業を自然と忘れ、手抜かりがあった事に思い出し、褒め言葉を口にし、慌てて別の話題を振る。
アムロは昔、幼馴染のフラウ・ボゥによくその事に注意された事を思い出す。
アムロ自身、未沙の前でも自然とリラックスしていたのだろう。
「その話ですか、軍に取材が来てました……。どちらかと言うと、一条中尉は彼女に振り回されている感じがします」
「あの一条中尉を振り回すか……」
「……そのレイ中佐には……その、気になる女性は……」
未沙は言い難そうにアムロに女性関係について質問しようとしたのだが……
突如として、警報がけたたましく鳴り響く。
敵襲撃警報音だ。
「もう、こんな時に!」
未沙は悪態を付いていた。
「バルキリーで出る。……大尉、建物の外まで一緒に居た方が怪しまれない。行くぞ」
アムロは未沙の手を引いて、早足でエレベーターへ向かう。
未沙は無断でこの建物に入って来てるため、その配慮をアムロは行ったまでだったが……
「れ、レイ中佐……え、ええ」
未沙は顔を若干赤らめ、アムロに引っ張られるがまま、ついて行く。
アムロは未沙と別れ、格納庫に到着し、整備兵に声を掛ける。
「今直ぐに出られる機体は?」
「中佐!!……失礼しました。VF-X3Z改は各種装備を換装中で時間がかかります。ダブルストライクパックを換装した中佐のVF-1S改なら直ぐに発進できます」
年若い整備兵はアムロが突然現れた事に驚くが、冷静さを取り戻し説明する。
「装備は?」
「既に中型反応弾2発を搭載しております。そのため、専用ライフルとバズーカは装着できません。携行兵器はガンポッドと集束ビームライフル一丁、ビームジャベリンです」
「十分だ」
アムロはそう言って、ダブルストライクパックを装着したVF-1S改に向かい乗り込む。
ストライクパック。
スーパーパックの上部ブースター片側の前部マイクロミサイルユニット部に二連装ビームカノンを搭載し、攻撃力と更に運動性とスピードを上げたものだ。
以前、アムロが試験運用していた改良型スーパーパックの正式生産版だ。
ただ、その扱いが難しく、エースパイロット級でしか扱い切れず、少量生産のみとなっていた。
更にそのストライクパックを改良したものが、ダブルストライクパックと呼ばれるものだ。
上部エンジン両方に貫通力を高めた単砲の集束ビーム砲を搭載し、更に持続性を多少犠牲にし、スピードと旋回能力を向上させたほぼアムロ専用と言っていい仕様となっていた。
「中佐、アレの準備も可能です」
「………わかった、必要になる可能性がある。念のために発進させてくれ」
「了解です」
アムロと整備兵が言うアレとは……とある兵器を改良したものだった。
アムロは自らを先頭に、603部隊、通称ペガサス部隊の面々を出撃準備が整った小隊ごとに出撃させる。
マクロスの発令所ブリッジでは……
「艦長!敵艦隊に包囲されました。その数100を超えてます!」
ヴァネッサ中尉が艦長に報告する。
「なんと……敵艦隊は遂に本気でマクロスを墜とすつもりの様だ……しかし、活路は必ずある」
グローバルは前方のディスプレイを睨みつけていた。
今迄に無い数の敵攻勢に驚きはしたが、まだ想定内であった。
「艦長、敵旗艦と推定される4000m級戦艦を確認いたしました」
未沙が敵艦隊情報を分析し、報告する。
「うむ……ここは敵旗艦を一気に叩き、相手を撤退させる。全方位バリアは稼働可能か?」
「はい。但し、連続使用は現段階で2時間持ちません」
「ふむ、敵遠方時はピンポイントバリアで対処。先ずはバスターキャノンで敵艦隊に穴を開け、道を作り、続いてバルキリー大隊で敵艦隊をけん制をする。敵旗艦突貫時に全方位バリア発動、敵旗艦にダイダロスアタックを仕掛ける。バルキリー部隊への反応弾の配備状況はどうか!?」
「現在、出撃可能な反応弾を積んだバルキリーは8機です」
「反応弾を搭載したバルキリー8機を中心とした部隊をマクロス前方に配備、マクロスの進路を阻む敵艦に反応弾をお見舞いしてやれ!」
「了解」
クローディアが返事をする。
「603大隊のレイ中佐には、挟撃の恐れがある後方の敵艦隊を任せる、と打診してくれ!」
「了解です」
今度は未沙が返事をする。
アムロが出撃し、宙域で自部隊と合流して直ぐに未沙から通信が入り、マクロス後方敵艦隊の対応を打診される。
アムロは603大隊 48機を率い、マクロス後方敵艦隊に向かう。
マクロスは主砲 バスターキャノンを放ち、敵艦船を6機撃墜させ、敵旗艦戦艦への道を作り、突撃を開始する。
アムロは途中で部隊を切り離し、マクロスに先行して移動する戦闘ポッド部隊のけん制を任せ、
自身は単独で敵艦隊にスピードを上げ、突撃を開始する。
アムロは敵艦隊に突き進みながら、妙な違和感を感じていた。
(なんだ?敵の攻撃意思が以前と比べ随分と弱い。敵の何らかの罠か?いや、敵兵士の戦意が明らかに落ちている。何故だ、戦意が殆ど無い者もいる。内部抗争でもあったのか?いや、敵の艦隊は何故このタイミングでこの数の敵をマクロスに差し向けた。3000の艦隊であれば、地球を万遍無く包囲する必要性があったとしても、一時的にもっとこっちに差し向ける事が出来るはずだ)
アムロのニュータイプ能力がこの宙域の敵兵士の戦意を感じていたのだが、明らかに以前に比べ野獣のようだった攻撃性が薄れ、敵の戦意が低下していたのだ。
アムロがこう感じたのは間違いではない。
戦闘兵器として生まれたゼントラーディ軍兵士は、敵を屠るだけが存在意義であったが、彼らは地球の文化の一端に触れ、戦う事に疑問を持ち始めたのだ。
それが現在、ブリタイ艦隊中に広まりだしていたのだ。
それは、マクロス内でスパイ活動を行っていたブリタイ艦隊の兵士が持ち帰って来たデータや情報、歌や映画、テレビ番組、そして彼らが話すマクロス内の生活が如何に素晴らしいものなのかと……戦うだけの存在だった彼ら兵士は、徐々にマクロスへの生活に憧れを持つようになっていたのだ。
しかし、アムロの優れたニュータイプ能力が敵兵士一人一人の意思まで感じてしまったために、敵艦隊の意図を見逃してしまい、ブリタイ艦隊の罠に早期に気が付くことが出来なかったのだ。
アムロはまず、戦艦級や中型砲艦級から次々と出撃し、大編成部隊と化した戦闘ポッド部隊に対し、高速で突撃しながら、敵の中心に反応弾を撃ち込む。
反応弾は大きな爆発を起こし、敵戦闘ポッドの大編成部隊をその一発で壊滅させる。
その後、マクロス後方 12隻の敵艦隊に対し、残り一発の反応弾を発射し、1隻に命中させ、近隣の2隻を巻き込み爆散させる。
残り9隻の艦隊は高速機動を続けるダブルストライクパックを装着した白いVF-1S改の前に、反撃は虚しく砲弾やビーム砲は空を切る。
縦横無尽な機動を取るアムロのバルキリーから、正確無比に艦の急所を2門の集束ビーム砲に貫かれ、次々と爆散していった。
アムロのバルキリーは踵を返し、突撃を敢行しているマクロスに合流すべく移動を開始するが、そこで重要な見落としに気が付く。
「……あまりにも抵抗が薄い。敵兵の士気が異様に低いのもそうだが……旗艦がああも追い込まれながら包囲網を狭め、マクロスの進行を阻止するどころか……静観……!?……不味い!!罠か!?マクロスは誘い込まれたか!」
一方、マクロスはバスターキャノンの砲撃で開いた進路を突き進み、敵旗艦4000m級戦艦に突撃を敢行していた。
マクロスの進路を妨害する敵艦は悉く、反応弾の前に爆散、半壊の憂き目を見、あっさりと敵旗艦目前に迫る。
「よし!ダイダロスアタック、目標 敵旗艦!!」
グローバルは艦長席から腰を浮かせ、吠える。
「ダイダロスアタックを敢行いたします。衝撃に備えて下さい。各デストロイド部隊へ通達、ダイダロスアタック目標到達5秒前・4・3……」
クローディアがマクロス各部門に、ダイダロスアタック開始を通達する。
そして、マクロスの右腕部にあたるダイダロスが敵旗艦4000m級の艦首を破壊し、突き刺さり、その衝撃の一部がブリッジにも伝わる。
「敵艦艦首貫通、ダイダロスアタック成……艦長!!緊急事態です!!デストロイド部隊が壊滅!!敵戦闘ポッドがダイダロスに乗り込んできました!!」
クローディアは珍しく、慌てて状況報告をする。
ダイダロスアタックが成功したと確信したその瞬間、一転して逆にこちらがピンチに陥る深刻な事態となりつつあった。
「何!?……ダイダロスを敵艦から引き抜け!!急げ!!」
ダイダロスアタックとはマクロスの右腕部に接続した超大型揚陸艦 ダイダロスの艦首にピンポイントバリアの層を纏わせ、敵艦を殴りつけ、敵艦装甲を貫き、突き刺した艦首揚陸用ランプを開放し、あらかじめランプに配備した多量のデストロイド部隊による一斉射撃で、敵艦内部から一気に破壊、爆散させる荒業だった。
しかし、ダイダロスの艦首揚陸ランプを開放し、ピンポイントバリアを解除した瞬間に、敵戦艦内から逆に待ち伏せにより一斉攻撃を受けたのだ。
配備していたデストロイドと艦首揚陸用ランプは破壊され、ダイダロスを通じてマクロス内部に敵戦闘ポッドの侵入を許してしまったのだ。
そう、これはブリタイが考案したマクロスのダイダロスアタックへのカウンターアタックだった。
多数の艦隊を導入し、見せつけ、マクロスが起死回生の策として、旗艦をダイダロスアタックで狙ってくるだろうと想定した上の作戦であった。
そして逆にそれを利用し、旗艦の艦首破壊と引き換えに、戦闘ポッドをダイダロス部からマクロスに侵入させる事が出来たのだ。
最終目標は戦闘ポッドによるマクロスの内部からの破壊、占拠だった。
マクロスがここまで旗艦4000m級に容易に迫る事ができたのも、ダイダロスアタックをわざと敢行させるためだった。
反応弾を使われ、艦隊に大きな損害を被ったのは計算外ではあったが、概ねブリタイの計画通り事が進んでいた。
そして、このタイミングで、マクロスを包囲していた敵艦隊は包囲網を狭め、マクロスを鹵獲する動きを取る。
まんまと敵の誘導に乗ってしまったマクロスはピンチに陥る。
グローバルはその報を聞き、慌ててダイダロスを敵艦から引き抜くが、既に多数の戦闘ポッドが内部に侵入してしまった後であった。
「全速後退だ!!……敵はこのマクロスを鹵獲するのが目的だ!!」
グローバルもようやく敵の意図に気が付き、マクロスを後退させる。
「待機中のバルキリー各隊及び近接防衛を行ってるバルキリー各隊!緊急事態です!マクロス内部に戦闘ポッドおよそ100機強の侵入を許しました!直ちに排除願います!」
未沙はオープンチャンネルでマクロス待機中、近隣作戦中のバルキリーに緊急事態を知らせる。
反応弾を撃ち尽くし、マクロスの防衛に回っていた輝率いるバーミリオン中隊は、マクロス内部に侵入した戦闘ポッド排除のため、マクロス内部へと降り立った。
しかし、ブリタイの計画は9割方成功へと向かっていたが、思わぬ誤算があった。
マクロス内部に侵入した戦闘ポッドの約半分が、戦闘ポッドを乗り捨てて、逃亡したのだ。
更に戦闘を行っていた戦闘ポッドも戦意が低く、戦闘を停止する者も出ていた。
最終的に最後まで暴れていたのは30機も無かったのだ。
それらをバーミリオン中隊の輝やマックスの活躍で、マクロス内部に多大な被害が出る前に撃墜、戦意を失ったゼントラーディ兵の捕縛に成功したのだった。
既に地球の文化に触れたゼントラーディ軍の兵士は、マクロスに逃亡することを考えていたのだ。この作戦が下された段階で、マクロス突入戦闘ポッド部隊の半数は既にマイクローン化し、
マクロス内部に逃げ込む算段をしていたのだ。
そして、ブリタイの誤算はこれだけではなかった。
マクロスが旗艦に迫るために、周囲の戦艦に大きな被害をもたらした反応弾には驚いたが……
マクロスを包囲するために100隻を擁する戦隊を組んでいた。
……だが、たった一機のバルキリーにマクロスの後方及び左方に展開していた戦艦27隻を墜とされたのだ。
その為、マクロスは包囲網を突破し後退に成功したのだった。
アムロは、敵の狙いがマクロスである事を、後方戦隊を壊滅させた後に気が付く。
気が付いた時にはマクロスのダイダロスアタックが利用されピンチに陥ったことを知り、後退するマクロスの退路を確保するために、左方の敵戦隊を壊滅させるべく移動を開始。
宙域に待機させてあった試験運用無人実験機、補給サポート専用ゴースト QF-3000OE2機と合流し、移動しながら補給を受ける。
このゴーストはAIで動く無人機だ。アムロの機体状況を把握し、的確な補給を行う様にプログラミングされた補給専用のゴーストだった。
一機は推進剤やエネルギーを補給担当するゴースト、もう一機は武器弾薬を補給するゴーストだ。
発進前にアムロと整備兵が言っていたアレとは、この補給サポート専用の改良型ゴーストの事だった。
アムロのバルキリーは反応弾及び各種補給を移動しながら受ける。
十分に補給を受けた白いダブルストライクバルキリーはマクロス左方に展開する敵戦隊に単機突貫し、敵戦艦の迎撃などものともせず、縦横無尽の回避運動と正確無比な射撃で次々と撃墜していき、戦隊を撃滅させたのだった。
ブリタイ艦隊は多大な被害を受け、撤退を余儀なくされる。
また、白い悪魔のさらなる恐怖が兵士達に刻まれたのであった。
難を逃れたマクロスだったが……この後、意外な展開が待っていた。
もう、アムロとタカトク大佐を混ぜて、技術革新させたら、こうなっちゃったです。
なんか、デンドロビウムを装着させた気分です><
27隻はやり過ぎたかな……
宇宙世紀でもデンドロビウムに乗ったアムロだったら、このぐらいの事やってのけそうに思っちゃったんです。
ダブルストライクパック……マクロス本編では出ませんが……設定だけあったような。
しかも、上部ブースター前部装備は二連装ビームカノン仕様ではありません。
集束ビームライフルの出力ちょいアップ版を左右に一門づつ装備させてます。
ゴースト……本来初代マクロス時のゴーストはQF-3000Eという出来の悪い子なのですが、補給サポート専用にして、補給・弾倉補給をしめすOEとさせて貰ってます。
次回は……マックス・ミリア回?なのかな?