ただのかすありの日常。ほぼ原作に準拠しているが一部していないところあり、大目に見て欲しい。ちなみにハメでの処女作が百合で一番困惑しているのは作者

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花咲川女学院物語

 花咲川女子学園。うら若き乙女たちが通う女子校である。この学園に所属する一年生、戸山香澄と市ヶ谷有咲は女子高生ガールズバンド「Poppin’ Party」のメンバーでもあった。

 この物語は二人を中心としたとある日常の一幕を描くものである。

 梅雨が明け、ジメジメとした鬱陶しい暑さからカラッとした純粋な暑さに変わりつつあるある日の朝。その暑さをかっ飛ばすような元気のいい声が一年B組の教室に響く。

「あーりさっ、国語の教科書貸してー!」

 ドアを開けて入ってきたのが戸山香澄。香澄はA組で隣のクラスのはずだが、もはやB組の生徒はクラスメイトが入ってきたかのように、おはよーなどと言って対応している。

 それ程には香澄の忘れ癖は酷く、ほぼ毎日だ。貸す側の有咲にとってはいい迷惑であろう。

 案の定、その有咲が顔をゆがませ苦々しくする……

「またか!?まったく!しょうがねーなぁ香澄は……」

 と思ったがまんざらでもなさそうに、にやつきながら机の中をガサゴソと漁っている。どうやらこのやり取りを楽しんでいるようだ。自分ではにやつきを押さえているつもりなのか若干顔が引きつっているが、全然喜びを隠せていない。

「ごめんね!昨日の晩に新しい歌詞を考えてたら今日の準備を忘れてそのまま寝ちゃってて……えへへ……」

「あぁ、今度のライブの……。順調なのか?ほら、これ」

 有咲が教科書を渡しながら香澄に尋ねる。

「有咲ありがと~!うーん、大体出来たんだけどあとちょっと……」

「へぇ、どんな感じに煮詰まってるんだ?」

「今回は恋愛を意識した歌にしようと思ってるんだけどー……。そういうのって本とかでしか知らなくて。サビの部分が出来ないんだ……」

「恋愛ぃ!?そんなの女子校の私たちにはわからないに決まってんだろ!テーマ変えろテーマ」

 有咲は鼻で笑い香澄の言葉を一蹴する。

 そんな有咲の行動に気を害した風もなく、香澄は笑う。有咲のこういう反応はいつものことだし香澄はそんなことを気にするような性格ではなかった。

それに香澄は知っているのだ。有咲はただ、自分のことを励まして応援してくれているのだと。テーマを変えてみればどうかと普通にアドバイスすればいいものを、妙に気恥ずかしくて回りくどい言い方をする有咲を、有咲らしいなぁと笑っているのだ。

 その時、香澄の頭に妙案が思いついた。しかし、香澄の思う妙案は大抵妙案ではない場合が多い。当の本人は自覚がないのでその案を有咲に話しかける。

「ねぇ有咲」

「ん?どうした?」

 何気なく聞き返す有咲にふっふ~んと勝ち気な笑みを浮かべて本題を端的に述べる。

「今週末の日曜、デート、しよ?」

「……は?」

 有咲の頭が会話の流れについて行けずに固まる。

 少しして自我を取り戻した有咲は、目の前でニコニコしながら返事を待っている香澄に対して今一度説明を求めようとするが、その時ちょうど始業十分前のチャイムが鳴った。

「あ、もう時間だ。じゃあそういう訳でまた昼休みね~」

「え、ちょま……」

 止める間もなく早々と教室を出て行く香澄、引き留めようと腰を椅子から中途半端に上げた状態であとに取り残される有咲。

「ったく……。なんなんだよあいつは……」

 苦笑しながら椅子に座り直す。

 まぁ昼休みに断ればいいかと思い直して一時間目の授業の準備をし始める有咲のもとに数人のクラスメイトがやって来た。

「市ヶ谷さん」

「はい?」

 有咲はなんだ?珍しいなと思いつつ礼儀正しく返事をする。ちなみにさっきまでの粗雑な喋り方が素であり、これは大人しい感じを作っている。とはいえいつもそこそこ大きい声で香澄と話しているので周囲には割とバレている。そして香澄に出会うまで高校も休みがちだったのでクラスに友達は少ない。

「その、戸山さんにこき使われていませんか?」

「え?あぁ……そういうのとは違いますよ。大丈夫です」

 香澄と話すときにはあまり見せない上品に微笑みを顔に貼り付け、確かに教室でのやり取りだけだとそういう風にも取られるか……と内心で苦笑する。

 そう答えられたクラスメイトはまだちょっと納得いかない感じに眉をひそめて話を続ける。

「そう……でも戸山さんももう少ししっかりしてほしいですよね……」

「え?えっとそうですね……もう少しぐらいは……」

「やっぱり、市ヶ谷さんを良いように使ってるとしか思えないですね。いつも騒がしいし」

 何だよこいつら、ちげーよ。普段の香澄も知らねえくせに。あいつは私に……その騒がしさで元気をくれたんだ。あいつは本当に良い奴で、人を良いように使うなんて微塵も考えない、そんなことを考えたこともない奴なんだ。

 表面上は辛うじて無表情に近づいてきているが笑みを崩さず、その不満と怒りは心の中で押さえようとしていた。

「それに一人で勝手に突っ走るし、人を振り回すし。あとあの髪型はどうなってるのかしらね」

 はぁ~、とそのクラスメイトがため息をついたのと同時に、机をバンッと叩く音がした。クラス中の視線が音のした方向に集中する。

 その視線の先にいるのは……有咲だった。

「おい!言い過ぎだろ!」

 有咲がいつもクラスメイトと話すテンションとはまったく違う大声をあげる。恫喝されたクラスメイト数人は目を見開いて驚いている。

 そのクラスメイトたちに向かって有咲はさらに続ける。

「香澄はなぁ!捉えようによっては確かにそうなるかもしれねえけど!そういうところも含めて全部良い方向に持って行ける奴なんだよ!一部分を見て勝手なこと言ってんじゃねえぞ!少なくとも私は──」

 有咲はそこまでまくし立ててハッと我に返った。クラス中の視線が集中していることに気づくと、続く言葉をぐっと飲み込んでそっぽを向く。

「いきなり叫んですいません……。でも、香澄のことを悪く言うのは、やめてください」

 有咲がそれだけははっきりと言い、場が静寂に包まれた。気まずい雰囲気になると思われた刹那、先ほどまで香澄をなじっていたクラスメイトたちが吹き出した。

 よくわからない反応に有咲が怪訝な顔をする。

 その顔を見てそのうちの1人のクラスメイトが事情を説明する。

「う、ううん……。市ヶ谷さんって本当に戸山さんのことが好きなんだなぁって思って」

「何ですか、皮肉ですか」

 有咲が再度剣呑な雰囲気を身に纏う。

「そうじゃなくて」

 それを感じ取ったクラスメイトが笑って乱していた息を整えて、真摯な顔で向き直る。

「失礼なことばっかり言ってごめんなさい。それと、私たちも香澄ちゃんのこと好きだよ」

「え?」

 有咲が呆けた声を出す。さっきまでの言動から何を言い出すのかと思ったが、クラスメイトたちは純粋な笑みを浮かべていてとても嘘をついているようには見えなかった。

「だから、いつも香澄ちゃんが楽しそうに話してる市ヶ谷さんのことも気になってて……。でも市ヶ谷さんって私たちと話すときは香澄ちゃんの時と違って敬語じゃない?素の市ヶ谷さんとお話ししたいなぁって……」

 そんな理由を聞いて有咲が失笑する。

「それで香澄の悪口を言えば私が激昂して口調を乱すと?随分と回りくどいことをしますね」

「だって直球で言っても、聞こえてくる香澄ちゃんとの会話から推測できる市ヶ谷さんの性格からして、照れて話してくれないじゃない?」

 そこまで交流も深くないのに私の何を知っているんだと有咲は思ったが、その通りなのでうっと返事につまり何も言い返せない。

「それはそうだけ……ですけど……」

「さっきは出来たんだから、け、い、ご、無しで!」

「う……わかったよ……」

「わー!ありがとうー!それと有咲ちゃんでもいい?」

 思いのほか喜ばれてめちゃくちゃ赤面する有咲。辛うじて首を縦に振って返事をする。

 するとクラスメイトが他のクラスメイトにも大声で話しかける。

「みんなー!有咲ちゃんと敬語無しで話しちゃった!」

「え、ちょ、ま」

「えーいいなー!私も敬語無しでいい?ていうかクラスメイトなんだし今までがおかしかったよね!」

「いやー、ほら、有咲ちゃんって結構休んでて接し方がわからなかったし……」

 どやどやと自分の席の周りに人が集まってきて状況の理解に頭がついていかない有咲はただただ震えるしかなかった。

 と、そこで一時間目の先生が入ってくる。

「こらー、そこ、授業始めるから席に着きなさーい」

「はーい」

「また話そうね、有咲ちゃん!」

「あ、うん……」

 周りが静かになっていつも通りの授業が始まる。

(まぁいいか……クラスメイトとは仲良くしといた方が楽しいだろうし……)

 有咲はそう独りごちながら窓の外を眺める。

(素の自分で話せるのが香澄とかバンドメンバー以外にも出来るっていうのは特別感がなくなってちょっとさみしい感じもするけど……私が初めて素で話せたのは香澄なのはかわらないし……)

 太陽を見て香澄みたいだなぁと破顔する有咲。慣れない体験をして少しおかしくなっているとしか思えない。

(そういや、日曜にデートってどういうことなんだろう……)

 ふと不安がよぎる有咲が見つめる空はどこまでも青く澄み渡っていた。

 




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