ほのりみの組み合わせ、気に入ってるんですよね。
中の人ネタ、いつかやりたいと思ってました。
午前九時半頃。マンションを出たりみは、
「やっほ〜。りみちゃんこんにちは」
「え、ほ、穂乃果ちゃん⁉︎」
目の前に立つ笑顔の穂乃果を見て驚きの声を上げた。
「ど、どうしてここに……?」
「せっかくだから、ちゃんとお祝いしたくて! ──りみちゃん、お誕生日おめでとう!」
歩み寄った穂乃果は、りみの両手を握ってブンブン振る。
「あ、ありがとう」
状況整理が追いついていないりみは、ポカンとした表情のままお礼を言う。
当然そこまで察しの良くない穂乃果は、戸惑うりみには気付かない。
「お友達が誕生日だ、って言ったら、お父さん張り切っちゃって。──はい、私からプレゼント!」
持っていた紙袋を、りみに差し出す。
「これは……?」
「穂むら特製和菓子! 穂乃果とお父さんで作ったんだ〜」
「……えっ? もしかして私の為に……?」
ようやく頭が追いついてきたりみは、受け取った紙袋を落としそうになる。
「そうそう! りみちゃんチョコが好きって言ってたから、それメインの和菓子にしたよ〜」
「わ……ありがとう!」
「お礼なんていいよ〜。あ、でも、普段お店で売るのとは別にアレンジ加えたから、試作品も兼ねてるってお父さん言ってた。だから食べたら感想聞かせてね!」
「──あ、穂乃果ちゃん、この後時間ある?」
「私? 今日は土曜日だし、練習も午後からだからしばらくは大丈夫だよ」
「じゃあ、うち上がってく?」
「でも、どこか出かけるんじゃないの?」
出かけるタイミングを待ち伏せていた穂乃果は、りみの予定を心配する。
「この後ポピパのみんながパーティー開いてくれるんだけど、実はまだ結構余裕あって。散歩を兼ねて遠回りしようかなって思ってたの」
「そうだったんだ。じゃあ、お邪魔しちゃおうかな」
「うん、是非!」
「お邪魔しま〜す!」
「あれ、りみ? 有咲ちゃんの家に行ったんじゃなかったの? ……というかどなた?」
元気に響く声に、ゆりは不思議そうな顔をする。
「そのつもりだったんだけど、お友達と会っちゃって。まだちょっと時間あるし、せっかくだから招待したかったの」
「あ、もしかしてあなたが穂乃果ちゃん? りみから聞いてるよ〜。私はゆり。りみの姉です」
にこやかに挨拶したゆりに、穂乃果も頭を下げる。
「高坂穂乃果です! 初めまし……て?」
「どうしたの?」
「どこかで、会った事ないですっけ……?」
「え? ……うーん、無いと思うけど……。でも確かに、初めて会った気がしないような……」
「うーん、不思議だ……」
腕を組んで首を傾げた穂乃果に、ゆりは笑う。
「不思議な子だね〜。──ゆっくりしてってね。違う学校の友達ってりみにとっては貴重だから、これからも仲良くしてあげてくれると嬉しいな」
「お、お姉ちゃんっ」
「もちろんです!」
「ほ、穂乃果ちゃんもっ」
無意識に敬礼までした穂乃果に、りみは顔を赤くする。
自室に案内された穂乃果は、
「それじゃあ早速、いただきます」
目の前で実食するりみを眺める。
「これは……チョコ、だよね?」
りみが手に取ったのは、どう見てもチョコレートの粒。
「そうだよ〜。ま、食べてみれば分かるって!」
「うん」
楽しそうな穂乃果に促され、りみはチョコレートを口に放り込む。
「ん〜、とろける甘さ〜……──ん、中にあんこが入ってる……!」
思わぬ味覚に、りみの目が丸くなる。
「そうなの! それはあんこチョコ! お土産とかで意外と人気なんだ〜」
「何だか新鮮な味……。でも、これはこれで美味しいなぁ」
「穂乃果は、普通の方が好きなんだけどねー。あんこ飽きちゃったし」
「羨ましいなぁ……。こんな美味しい和菓子が飽きるほど食べられちゃうなんて……」
二つ目のあんこチョコを咀嚼しながら、りみは呟く。
「──それにしても、流石バンドやってるって感じの部屋だね〜」
楽しそうに部屋を見渡す穂乃果。
「音楽の雑誌とか、バンドのチラシとか、──あ、作曲の本とかもある!」
「う、うん。ポピパの曲は、私が作る事が多いから」
「へ〜そうなんだ! りみちゃん凄いなぁ〜!」
面と向かって褒める穂乃果。実はそれが簡単ではない事を、りみはよく知っている。
「──あれ、楽器がもう一つあるよ?」
「あ、そっちはお姉ちゃんのギターだよ」
「お姉ちゃんって、さっきのゆりさん? あの人もバンドやってるんだ〜」
「うん、『Glitter*Green』っていうバンドの、ギターボーカル! めっちゃカッコよくて、憧れなんだぁ」
「へ〜! いつか、バンドのライブにも行ってみたいなぁ〜」
穂乃果は表情を輝かせながら、
「──そうだ!」
突然勢いよく立ち上がった。
「ど、どうしたの?」
「りみちゃん、ちょっとベース弾いて欲しいんだけど、いい?」
「え、うん、いいけど……」
りみは愛用のベースを手に取ると、軽くチューニングをしてピックを持つ。何を弾けばいいのか、分からない。
穂乃果は答えず、目を閉じて息を吸い込んだ。
「──Happy Birthday to you〜♪ Happy Birthday to you〜♪」
唐突に歌い出した穂乃果を見て、りみも趣旨を理解する。スコアは無いので、即興で重低音を奏でる。
「Happy Birthday dear りみちゃん〜♪」
ベースを弾きながら、りみはその歌声に驚く。
なんて伸びのある綺麗な歌声だろう。ポピパのボーカル、香澄とはまた違う力強さの乗った歌声。
「Happy Birthday to you〜♪」
普段の元気な姿からは想像もできないような歌声に、りみは思わず演奏の手を止めそうになった。
「えへへ、ありがとうりみちゃん!」
「う、ううん。私こそ、素敵な歌をありがとう」
最初はダンス。今日は歌。この穂乃果には驚かされてばかりだと、りみは感心する。
いつか穂乃果も交えてポピパのライブをしてみたいな、という考えがりみの頭をよぎる。その前に、未だ会えていないままなのだが。
「──あれ、りみちゃん、ケータイ鳴ってるよ?」
「えっ?」
穂乃果の声で、りみは我に返る。慌てて液晶の画面を見やると、
「あっ……! もうこんな時間! みんなから連絡来てる!」
すでに、パーティー開始時刻の数分前だった。
「えええ⁉︎ た、大変だ!」
同じように慌てた穂乃果。今度はそのケータイが震える。
「っと、電話? ──もしもし?」
穂乃果が首を傾げながら受話器に耳を当てると、
『──穂乃果! 今どこにいるんですか⁉︎ 迎えに行ったら、出掛けた、と……。もうすぐ練習が始まる時間ですよ!』
りみにも聞こえるような、物凄い剣幕の声が響いた。
「うわわっ、もうそんな時間⁉︎ ごめん海未ちゃん! すぐ戻るから〜!」
どうやら、穂乃果も時間が迫っているらしい。
「い、急ごうりみちゃん!」
「う、うん!」
バタバタと部屋を出る二人。
「お邪魔しました〜!」
「お姉ちゃん、行ってくるね!」
何事かと顔を覗かせたゆりに、二人は声だけ飛ばす。
「忙しい子だったな〜」
見えなくなった二人の後ろ姿を見送りながら、ゆりはクスッと微笑んだ。
「──穂乃果ちゃん、今日はありがとうね」
「私こそ、お祝いできて嬉しかったよ」
「次会う時は、みんなを紹介するね!」
「私も、メンバーに会わせてあげたい!」
並んで走りながら、じゃあ、と二人は顔を合わせる。
「「約束!」」
笑顔でハイタッチ。
そして、お互いの進む道へ全力で駆け出した。