お気に入り百五十人記念の物語です。(みにゆりつばなし)
記念幕間「何でもない日、それは最高の日」
その日は、特別なにかがある訳ではなかった。
いつも通り、朝の稽古をして、二人で朝食を食べて、自室で書類仕事をする。
百合と結芽にとって、ルーティーンにもなりつつある普段通りの日常。
もしも、なにか違う事があるなら、それはーー
「ゆ〜り〜」
「…結芽、離れてくれない? 作業できない」
二人の距離がいつもより近い事だろう。
新年が明けて数日が経った。
ゆっくりとした年明けを過ごしたい所だが、彼女たちは国家公務員…刀使である。
休みなんてあってないようなものだ。
先日も、新年早々、参拝客が集まる神社に荒魂が出現し、二人は即出撃命令が下った。
お陰でまともな新年の祝いさえ出来てないが、刀使になった以上はしょうがない事だと、二人は割り切っている。
……だが、二人で過ごせる時間が短くなるのを割り切るのは、流石に無理だった。
「ひ〜ま〜! 遊ぼーよー!」
「私は暇じゃないの。なんなら、結芽が報告書書く?」
「ぐぬぬぬ。じゃあいいよぉ。このまま引っ付いてるから」
「それはそれで……」
多少の苦笑いを浮かべながらも、百合は強く拒まない。
それ所か、少し耳を赤くしているところを見ると、傍に居てくれるのが嬉しいのだろう。
長い髪で隠そうとしているが、結芽にはバレバレだ。
イタズラっ子な笑みをすんでのところで隠している。
(お仕事邪魔したら怒るよね? うーん……そうだ!!)
結芽は何か思い付いたのか、口を開こうとした瞬間、聞きなれた放送が聞こえた。
『付近に荒魂の出現を確認。対応可能な刀使は、至急出動して下さい。繰り返します、付近に荒魂の出現を確認。対応可能な刀使はーー』
「……はぁ。結芽、行くよ」
「はいはーい」
言いたい事が言えなかった所為で機嫌が悪くなったのか、結芽は頬を少し膨らませ、ムスッとした表情で百合にそう返した。
百合も百合で、結芽との時間を邪魔されて不機嫌なのか、ため息を吐いてからの言葉だった。
……二人は親しい人以外にバレてないし報告もしてないが、周囲にはそのバカップルのような雰囲気でモロバレである。
御刀を持って、部屋を出る。
今日も今日とて、刀使であり巫女である彼女たちは荒魂を浄め祓う。
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二人が駆け付けた頃には、荒魂の半数は片付いていた。
結芽は先程までの事もあり、面白くなさそうな顔で御刀を抜き写シを張る。
百合は先程までとは打って変わって、真剣な表情で御刀を抜き写シを張る。
見知った顔が居ない事を確認すると、百合はいつもと変わらず、敵の攻撃を受けてから斬る、カウンター戦術で少しづつ荒魂を減らしていく。
受けて斬って、受けて斬って、受けて斬って、その繰り返し。
あまり大型の個体は居ないので、冷静に荒魂を祓っていく。
「……コロス」
「スルガ型……ですか。喋る個体は珍しいと聞いていたんですけど」
並の刀使じゃ太刀打ち出来ない。
タイマンでやるなら、少なくとも伍箇伝トップクラスの実力かS装備が必要だ。
……無論、百合には関係の無い話だが。
何せーー相手をする前から、勝負は着いている。
この場に、彼女たち二人が揃っている時点で。
「協力プレイでもするー?」
「良いね。さっさと終わらせて……これの報告書も書かないと」
「ガンバレー」
結芽の棒読みな声援が始まりの合図となり、スルガ型との戦いが始まる。
スルガ型が使うのは赤羽刀。
現状御刀を新たに製造する事はできないため、この赤羽刀を再生する形で製造されている。
錆びてしまった御刀の様な存在だ。
スルガ型はそれを使い、百合と結芽に接近するが……遅い。
他の刀使には早く見えても、二人にとっては遅い。
それは、彼女たちの実力の問題であり、迫りくる横薙の一閃を二人は悠々と回避する。
回避したら、結芽は右から、百合は左から同時に袈裟斬りを仕掛けた。
「せやぁ!!」
「はぁ!!」
「ーーっ!?」
迅移で近付いてからの袈裟斬りだった為、スルガ型は躱すことが出来ず、ノロで構成された体が切り裂かれる。
苦悶の声を上げることはなく、速さに驚いた瞬間には荒魂として死に、祓われていた。
燕の剣は速く、洗練された技で。
百合の剣も速く、極められた技で。
スルガ型には、驚く以外何も出来なかった。
そんなスルガ型に、百合は一言、弔うように呟く。
「……ごめんなさい」
救えなかった事への謝罪。
祓うことしか出来ない事への謝罪。
大切な人さえも憎ませてしまった事への謝罪。
荒魂に飲まれるという事は、憎しみに飲まれるという事。
それが分かっているからこその、謝罪だった。
「……ほら、行くよ。ゆり」
「うん、分かった」
スルガ型だったノロの処理を、回収班に任せて帰還する。
……少しだけ、少女の心が淀んだ。
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自室に戻ってからは、本当に何も無かった。
報告書と諸々の頼まれていた資料を纏め、提出したあとはお仕事終了と言われて暇になり、百合は結芽とゲームをして過ごした。
本当に、特に何もない一日だった。
普段通り、いつも通り、日常、そんな言葉が当てはまる日だった。
恐らく、傍から見たら非日常なのだろうか。
中学生そこらの少女が業務に追われ、化け物と戦う。
非現実的だ、けれど、彼女たち刀使が居なければ、一体どれ程の人間が犠牲になるのか?
計り知れない数になるのは間違いないだろう。
酷い地区では、多い日に二桁の出撃も珍しくはない。
百合や結芽ーー刀使たちの日常を不幸だと思うか、幸福だと思うか。
それを決めるのは当事者だ。
傍観者ではない。
少女たちは一日を懸命に生きている、楽しく生きている。
明日、終わるかもしれない人生に悔いがないように。
二人だってそうだ。
「……ねぇ、結芽?」
「どしたのー?」
「あの、やっぱり今日も一緒に寝ない?」
「…別にいいけど。別々で寝よーって言ったのゆりだよね?」
「…………だって、最近はずっと一緒に寝てたから。なんだか、その、落ち着かなくて…」
寂しいと言えない。
しかし、やりたい事は言えている。
お互いが好きだから、一緒に居た方が嬉しいから。
だから、やりたい事はしっかりと伝える。
内に秘めた想いを伝えるかは……自由だろう。
「ふふっ、そっかぁ。…ほら、降りてきなよ」
「…ありがと」
百合はゆっくりと小さい梯子を降り、結芽のベットに潜り込む。
隣に感じる温かな存在からは、仄かに甘い香りが漂ってくる。
結芽が隣に居てくれるだけで、安心感と愛おしい感情で満ちてくる。
彼女の胸に顔を埋めるように、百合は優しく抱きついた。
トクントクンと規則的に聞こえる心臓の音が、近付いたことでより甘く感じる香りが、百合の心を満たしていく。
「……………………」
「大丈夫。大丈夫だよ」
背中を優しくポンポンと叩き、空いた手で頭を優しく撫でる。
いつもそうしてくれるから、私もそうする。
そう言わんとばかりに、結芽は愛情の籠った瞳で百合を見ながら撫で続けた。
何でもない日が、本当に大切だと感じるのは、これから少ししてからだった。
次回もお楽しみに!
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新連載始めました(二作品)
百合https://syosetu.org/novel/210919/
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結芽の誕生日は……
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