百合の少女は、燕が生きる未来を作る   作:しぃ君

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 みにゆりつばはないよ。ごめんね。


拾参話「燕は再び飛び立つ、百合の少女を救うため」

 唐突に行われた襲撃から三日、そして百合の余命もあと三日。

 そんな日に、彼女は目覚めた。

 眠気眼を擦りながら、自分に付けられている医療器具を引き剥がし、二振りの御刀を持って外に出る。

 

 

 しかし、そんな彼女ーー結芽を誰も止めない訳が無い。

 一人の職員が、彼女を止めようと近付くと、明らかにいつもと最近の雰囲気と違うことが分かった。

 …いや、それ以前に、外見からして昔の姿から少し変化していた。

 

 

 右目は碧色のままだが、左目は薄茶色に変化しており、髪も綺麗な桜色に混じって紺色が見えている。

 

 

「つ、燕様? そ、その目と髪が……」

 

「あぁ、これの事? 気にしないで、色々事情があるから」

 

「で、ですが!?」

 

「どうせ、バイタルデータ? で私の体に問題はないって分かってるんでしょ? ならいいじゃん」

 

「ちょ、ちょっと待ってください! 燕様ーー!」

 

 

 職員の呼び止める声が辺りに響くが、結芽は何処吹く風と言ったように颯爽とその場を後にする。

 残されたのは、慌てふためく職員たちだけだった。

 

 -----------

 

 バタバタと動く職員や駐在する刀使の間を通り抜けるように、結芽は指令室までの廊下を歩く。

 何人か見知った顔を見た気がするが、結芽は特に気にすることなく先を急ぐ。

 今の彼女には、何がなんでもやらなければいけない事があった。

 

 

 覚悟の為に…百合の為に…。

 

 

「……着いた」

 

『一歩、踏み出す時よ』

 

「…分かってる」

 

 

 苦しい程に高鳴る心臓。

 顔を合わせるのが怖い。

 そう思うのは自然の事だろう。

 あれだけの事をしてしまって、「治りました大丈夫です、お願いを聞いて下さい」、なんて馬鹿正直に言ったら何て言われるか……

 

 

 分からない、分からないから怖い。

 けれど、進まなければ始まらない。

 彼女は、一歩踏み出して指令室のドアを開いた。

 

 

 誰もが、バタバタと忙しなく動いている。

 その中心になって動いているのは、やはりと言うべきか特別遊撃隊の面々や元調査隊、可奈美たちだった。

 そして、その中心を統括し回すのはーー相楽結月学長。

 もう一人の結芽の師匠。

 

 

 息を大きく吸っては吐いて、それを何度か繰り返し、呼吸を整えてから結月の元へと向かう。

 

 

「学長」

 

「……報告は聞いている。安静にして欲しかったんだがな」

 

『嘘つかないでくださいよ、結月先輩ー! どうせ、遅かれ早かれここに来るって分かってたでしょ?』

 

「聖…なのか? 報告でもしもと思っていたが、まさかな……まぁいい。やるべき事が山積みでな、今お前にやれる事はーー」

 

「今すぐ、鎌府の体育館に駐在している刀使を集めて。お願い、相楽学長」

 

 

 謝りたい事があった…けれど、今言っている余裕はない。

 そんな心の余裕ありはしない。

 壊れた心を必死に修復している途中で、触れば砕けるような脆い心のままなのだ。

 短い言葉で、結月にそう告げると、結芽は指令室を出る。

 

 

 出る直前、一瞬だけ大切な人たちと目が合って、出来るだけ自然な形で微笑んだ。

 上手く笑えているか、それさえ分からない。

 今、結芽が分かる事は、敗北のあの日より自分が強くなったと言う事実だけ。

 

 

 それ以外は分からない。

 

 クロユリに勝てるのか? 

 

 百合を救えるのか? 

 

 そしてーー自分は生き残れるのか? 

 

 何も分からない。

 

 -----------

 

 三十分後、鎌府女学院の体育館には三桁を優に超える刀使が集まっていた。

 これだけ居れば、見知った顔を見つけるのは難しいが、結芽はすぐに仲間を見つける。

 奥の方で、心配そうに、自分を事を見つめる仲間たちが。

 

 

(頑張らないと…)

 

(気を張らないとね)

 

 

 聖の声援を受け、結芽は壇上に立つ。

 全員の視線が彼女に集められる。

 憐れみや悲しみの視線を寄越す者も居れば、憎悪や怒りの視線を寄越す者も居る。

 

 

 マイクを取った右手が、自然に震えた。

 視線が怖い、ただそれだけで結芽の体は凍えるように震える。

 いつもなら、こんな時は百合が手を握ってくれたが、彼女は居ない。

 

 

 いつも勇気をくれた大切な人は居ない。

 今は、自分の力だけで勇気を出していかなければならない。

 出来ない、と頭が言って、出来なくてもやるんだ、と心が言った。

 

 

 震える右手に重ねるように、左手を添えて、結芽は話し始めた。

 

 

「初めまして…じゃないよね。知ってる人も居ると思うけど、私は燕結芽。元折神紫親衛隊第四席で、今は特別遊撃隊所属の刀使。集まって貰ったのには理由があるんだ……実はね、皆に死んで欲しいの」

 

 

 結芽の一言に、周りがざわついた。

 だが、そんな事知らないと言わんばかりに、結芽は話を進める。

 

 

「勿論、ただ死んで欲しいから言ってるんじゃないの。…自分勝手かもしれないけど、私の大切な人の為に、命を預けて死ぬ気で戦って欲しい。大切な人の名前は夢神百合、聞いた事あるんじゃないかな? 結構有名だと思うし……実はね、今の百合はすっごく危険な状態なんだ。なんでかって言うとーー」

 

 

 話した。

 夢神百合に纏わる全てを話した。

 今までどれ程の事があって、自分がここに居るのか。

 今までどれだけ彼女が自分自身を犠牲にしてきたか。

 

 

 洗いざらい全てを話した。

 途中、苦しくなって一度泣いてしまったが、結芽は話す事を止めなかった。

 そして、全てを話し終えて、こうも言った。

 

 

「私を恨んでる人は、いっぱい居ると思うんだ。理由は色々あると思うけど…いっぱい。この戦いが終わったら、何をされても構わない。斬られても、殴られても、悪口を言われても、本当に何をされても構わない。…だから、お願い…お願いします」

 

 

 初めて、誰に頭を下げた。

 傲慢だった彼女は、自分の為ではなく、誰かの為にーー大切な人の為に初めて頭を下げた。

 涙を流して、嗚咽を漏らすように言葉を吐き出す。

 

 

ゆりを助けるのを、手伝って下さい! 

 

 

 協力など、群れることなど、弱い人たちがするものだと結芽は昔、そう思っていた。

 親衛隊に入って、今の特別遊撃隊に居て、ようやく誰かと助け合う事の大切さを知った。

 

 

 最強であった彼女に必要ないものが、新たな壁が現れた事で必要になり、初めて正直に助けを求める。

 百合以外にそんな事しないと思っていたのに……現実とは何が起こるかわからないものだ。

 

 

 シーンとした空気の中、誰かが声を上げた。

 

 

「……良いよ、協力する!」

 

「わ、私も!」

 

「私も!」「じ、じゃあ、私も!」「なら、私も!」「いっちょやりますかー!」「任せといてー!」「一緒に頑張ろー!」

 

 

 一人、また一人と声を上げてくれる。

 初めての感覚に戸惑うが……それでも純粋に嬉しいと思った。

 きっと、私の為じゃない、結芽は思ったが、それでも嬉しかったのだ。

 

 

 百合の為に、命を預けてくれる人がーー死ぬ気で戦ってくれる人がいる。

 百合の紡いだ縁が、今、この瞬間、巡り巡って彼女を助けようとしていた。

 

 -----------

 

 嵐のように過ぎた三日だった。

 半壊している心を補う為に聖の力を借り、夢神流を鍛える為に心血を注いだ。

 今日が決戦の日。

 

 

 泣いても笑っても、今日で全てが決まる。

 全国各地によりすぐりの刀使が舞い降り、人を守る為に準備をしている。

 そんな中、結芽はクロユリが訪れるであろう、刀剣類管理局本部がある鎌倉に配属されていた。

 特別遊撃隊は散り散りになっているが、可奈美が居る。

 

 

 心強い味方だ。

 けれど、念には念を。

 結芽は任務が始まるギリギリまで、百合の傍に居た。

 ずっと傍に居ると約束したから。

 

 

「……ゆり。私、絶対に救ってみせるから。ゆりの事を絶対に」

 

「……………………」

 

 

 冥加刀使が使う珠鋼搭載型S装備の対抗装備は、既に作られており、限られた人間に渡されている。

 彼女も、その限られた人間に含まれていたが辞退した。

 理由はただ一つ。

 

 

『私は負けないから、要らない……か。大きく出たわね』

 

「負ける気でやってたら勝てないもんね」

 

 

 そう言って、名残惜しそうに結芽は部屋を出る……が、その時声が聞こえた。

 …紛れもなく、百合の声だった。

 

 

「……助けて……たす…けて」

 

「助けるよ、必ず」

 

 

 しっかりと手を握り、自分の御刀でもあるニッカリ青江を傍に置く。

 数秒ほど間を開けて、外に出る為に歩き始めるとまたしても声が聞こえた。

 今度の声は凄くはっきりしていた。

 

 

「…みんなを助けて」

 

「……本当に、我儘だなぁゆりは。分かったよ、全部助けてハッピーエンドにしてあげる」

 

 

 ニッカリと笑いながら、結芽は部屋を出た。

 異なる輝きを放っていた瞳は一つの色に戻り、髪も元の桜色一色に戻った。

 

 

 歩く、歩く、歩く。

 

 

 辿り着いた場所には、良きライバルの一人でもある可奈美が、改良型S装備を纏っていた。

 オレンジ色に輝いていたS装備の部分が碧色に輝いている所を見ると、本当に改良に成功したらしい。

 

 

 気迫が違うと、近くに近付いただけで分かった。

 

 

(心強いね)

 

(えぇ…そうね)

 

 

 快晴の空の下、一人の少女の為のーー世界の為の、終焉の戦いが幕を開ける。

 




 次回もお楽しみに!

 誤字脱字などがありましたらご報告お願いします!

 感想もお待ちしております!

 新連載始めました(二作品)
 百合https://syosetu.org/novel/210919/

 マギレコhttps://syosetu.org/novel/206598/

結芽の誕生日は……

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