桜の花が散り切る間際、元親衛隊のメンバーは結芽の退院祝いと称して温泉旅館に来ていた。
久しぶりのまともな休暇、全員揃ってゆっくりするーー筈だった。
だがしかし、現実は悲しい事に無慈悲で、旅館に向かうバスの途中で荒魂が登場、刀使として放置する訳にもいかず祓う事に。
お陰で、旅館に着いた頃には、お休み気分だった面々は気疲れしていた。
「どうしてこうなるの〜!」
「しょうがないよ。荒魂が現れるのは日常茶飯事なんだし」
「そうだぞ結芽。寧ろ、少なくて良かったことを喜ぶべきだ」
「まぁ、休暇中ではなかったら素直に喜べたかもしれませんわね」
「荷物を置いたら、そのまま温泉に行きましょうか? 荒魂の戦闘で気疲れしているようですし、汗も流した方がいいでしょうから」
『賛成(だ・です・ですわ)!』
夜見の意見に全員が賛成し、各自荷物を下ろし、下着だけ持って揃って温泉に向かう。
旅館と言う事もあり、脱衣所の籠の中にはタオルと浴衣が入っている。
百合たちは自然な流れで、籠の中に替えの下着を入れ、横に脱いだ服を畳んで置いていく。
結芽は待ち切れなかったのか、いの一番に温泉への引き戸を開けて走って行った。
「結芽! 走ったら危ないよ!」
そう言った百合も、結芽を走りながら追いかけて行く。
他三人は、戻ってきたいつも通りの光景に微笑みつつ、温泉へと入っていく。
中は湯気の所為で所々見えないが、危険と言うレベルではない。
何せ、遅れて入った真希達ですら遠目に、体を洗わないまま温泉に入ろうとする結芽を、羽交い締めにしている百合の姿が見えたからだ。
微笑みを苦笑に変え、三人は備え付けられたシャワーで一度体の汗を流し各自、体や髪を洗っていく。
体も髪も女の命、全員が入念に洗っている中、ようやく結芽を連れた百合が戻ってきた。
百合は手際良く、自分の体と結芽の体の汗をシャワーで流し、自分を後回しにして、結芽の髪から洗っていく。
腰まで届くような長い髪を、器用にシャンプーでシャワーで取れない汚れを落とし、綺麗な髪を維持するためにコンディショナーで補填する。
「痒い所ない? 大丈夫?」
「大丈夫〜!」
「了解。流すから、ちゃんと目閉じててね?」
「は〜い」
間の抜けた声を聞き流した百合は、シャワーで泡や余分なものを落とし、今度は体を洗っていく。
手の届かない背中部分はやるが、デリケート部分が多い前面は結芽に任せる。
「背中はやってあげるから、前は自分でやるんだよ? しっかり洗わなきゃダメだからね?」
「もぉ〜! それぐらい出来るよ! 子供じゃないもん!」
プンスカ怒る結芽に苦笑を返した百合は、丁寧にボディーソープを手に染み込ませ、優しく、割れ物を扱うように体を洗う。
優しく撫で過ぎた所為か、擽ったそうな可愛い矯正が聞こえたが、彼女は聞き流した。
「ひゃっ! ゆ、ゆり〜、くすぐったいよー」
「我慢して…。後で、私の髪とか背中も洗ってもらうんだから」
こんなやり取りをしている間に体も洗い終わり、今度は交代して結芽が百合の体や髪を洗っていく。
既に体や髪を洗い終わっている真希たちが、先に湯船に浸かっているのを見た結芽は、超特急で工程を進める。
丁寧に、優しく、それでいて早く。
変な部分を触ってしまったのか、時々変な声が聞こえたが結芽は特に気にしていなかった。
百合が十分程掛けた工程を、結芽は五分で終わらせて、温泉に駆けていく。
勿論、百合の腕を引っ張りながら。
「は、走らないで、結芽!?」
「みんなで一緒に入りたいの〜!!」
滑り込みセーフ、と言わんばかりに、二人は揃って湯船にゴールイン。
勢いを付けて入った所為で水しぶきが飛んで、真希達を襲う。
……寿々花が怒るのは必然だった。
「結〜芽〜?」
「ひっ」
「百〜合〜?」
「なんで私まで!?」
「姉役である百合がストッパーになるべきでしょう?」
「…そ、それを言われると」
押し黙る百合、ビクビクと震える結芽。
そんな二人に対し、短縮版お説教をして場を収める。
少し間を開けて、ようやくゆっくりとした休みの時間が流れ始める。
旅館の温泉から見える景色は絶景、夜空に浮かぶ月と満開の桜の気がベストマッチしていた。
近くに桜の木が植えてあるのか、散った桜の花びらが温泉の方へと舞ってきて、とても幻想的な雰囲気を醸し出している。
誰もがそんな幻想的な雰囲気を楽しむ中、結芽が怒ったように声を上げた。
全員が何事か、と振り向くと、しょうもない理由が飛んできた。
…彼女以外にとってはしょうもない理由だが、彼女にとっては死活問題。それは……
「なんで…なんで…私だけ、全然成長してないの!!」
「いや〜…十分成長してると思うよ? そ、そうですよね? 先輩方?」
「っ。あぁ、少し大きくなったんじゃないかな?」
「まだ十四歳です、成長期として十分な成長はしてると思いますわ」
「ん。結芽さんが気付いてないだけで、しっかりと大きくなっていますよ」
まるで、口裏を合わせたような、そんな回答に結芽は首を傾げる。
…チラリと、百合を見やった。
彼女は目をパチクリとさせながら、キョロキョロと泳がしている。
挙動不審も良い所だ。
(…よし。取り敢えず揉もう)
怒りが有頂天、とはいかなかったが、イライラはしたので、しっかりと恋人の果実は揉んでおいた。
先程と同じく変な声──嬌声が聞こえたが、気にかけることはなかった。
何もかも、大きい果実を実らせている奴が悪い。
そう言うように、揉みしだいた。
真希達も止めようとしたが、標的が自分になるのを恐れ、誰も手出しが出来なかった。
結局……
「はぁ……はぁ……ゆめぇ…ゆるしてよぉ」
「……私、先上がるね」
蕩けた瞳と表情をする百合を、結芽は置いて逃げた。
今更になって、報復が怖くなったのだ。
しかし、温泉を出たあと、百合は特にこれといって結芽に報復をしなかった。
……後日、旅館から帰ってきた元親衛隊全員(百合以外)の首筋に痣が出来ていたことで、刀剣類管理局本部中に噂が広がったが……それを彼女たちが知るのは少し後の話。
~完~
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新連載始めました(二作品)
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結芽の誕生日は……
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