他所の妹が小町より可愛いわけがない   作:暮影司

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6話より7話の方がUAが多いという不思議な現象が。

ちなみに6話は「それにしても材木座義輝はチョロすぎる」で
7話は「なぜか五更瑠璃は浮足立っている」なんですね。

やっぱ黒猫って人気あるね!

そんなわけで今回も登場です。


気づいたら比企谷八幡は泣かされている

待ちに待ったゴールデンウィーク。

何をするかって、何もしないをするんだよ。

 

GWをがんばらないウィークと称した広告を俺は強く称賛したい。

そんな意気込みを表明する俺に妹は、いつものように素敵なうんざり顔で言ったものだ。

 

「あ~、ごみいちゃんウィークか~」

 

流石、小町。

いともたやすくキャッチコピーを作ってしまうとは。

是非とも電通に入って俺を養って欲しい。勝ったな、ガハハ。

 

だらりとしていると、スマホにメッセージが着信した。

おや、目の前に小町がいるのに誰が連絡してくるというのだろうね。戸塚かな? 連絡先を交換していないのに連絡してくるとか天使かな?

 

メッセージを見ると、一言だけ書かれていた。

 

今すぐ来い

 

送り主は高坂桐乃。

ふー。

なんと傍若無人なのだろう。思わずため息が出るね。

そして速やかに外出の準備を始めてしまう自分が恨めしい。

 

「あれ、どうしたの、どっか行くの」

「今すぐ来いって言われたんでな」

「ん~。桐乃さんか」

「よくわかったな」

「まあね。そんな連絡してくるの、雪乃先輩のお姉さんか桐乃さんくらいだし。満更でもなさそうだからね」

 

俺が満更でもない顔をしているとかナニソレコワイ。

なんで休みなのに呼び出されて満更でもなく行っちゃうの俺? 生まれながらの社畜なの?

早く俺を甘やかしにやって来てよ、仙狐さん……。

 

「桐乃さんね……。彼氏と別れたばかりで傷心のうちにYOU捕まえちゃいなよ」

「ちょっと? 俺を誰かと勘違いしてない? どっちかって言うとジャニーズより、ボビーがナレーションするYOUの方がまだ親近感あるよ?」

「お兄ちゃんは何しにこの世へ?」

「さあな……それを探すために生まれてきたのかもな」

 

妹の適当ないじりを適当にいなしつつ支度を終わらせる。

今すぐ来いと言われた以上、すぐに行かないとな。

高坂の家は自転車で3、40分といったところだ。

 

はー、はー、はー。

 

いやー、全力で自転車を漕いでしまったね。

ひーめ、ひめー、ひめー、と歌っていたから早く着けたと思うっショ。

 

しかし後輩の女の子の家に入るとか初めてなんだけど。

そもそも他人の家に行くこと自体慣れてないってのに。

 

ぴんぽーん♪

 

自転車を降りて、ドアホンを押してから緊張が増す。

やべー、どきどきするなー。

お兄さんが出てきちゃったらどうしよう。

川崎大志が我が家に小町を訪ねてきたらと思うと……あれ、俺は死ぬのかな?

 

「どちらさまですか」

 

インターフォンから聞こえる声は高坂でも兄貴でもなさそうだ。

 

「ええっと、高坂さんの……」

「ああ、どうぞ入って頂戴」

 

お母さんにしては若い声だったが……初めての家で知らない女の人が相手って、ぼっちにはハードルが高すぎるんですけど……。

 

「おじゃましま~す」

 

うわー、あんまり言ったことないなこのセリフ。

玄関で靴を脱いでいると、意外な人物が出迎えた。

 

「待っていたわ、邪神の下僕、生贄の運命に抗うことが出来ない哀れな子羊よ。こちらに来て頂戴」

 

この前知り合った高坂の友人、黒猫だった。全く知らない相手ではなくて一安心。

黒猫が着ているゴスロリの服はよれよれで、なにやらとても疲れているように見える。

それにしても俺の身にこれから何が起こるの? 俺を墓地に送ってブラック・マジシャン・ガールでも召喚するの?

スリッパを履いて玄関の右の扉をくぐるとリビングになっていた。

そこにはA4サイズの紙がこれでもかとカーペットの上に敷き詰められていた。

しかも、どんだけ翼を授けられたんだっていうくらい、エナジードリンクの空き缶が積み上がっている。

 

これは……どうみても修羅場!

ちぃ知ってる、こみっくぱーてぃーで見た!

 

「今、桐乃が表紙をカラーコピーしているから。それが届いたら、ここにある紙を製本して頂戴。どうしてもオフセの締切が間に合わなかったの。私は、もう、限界だから、ふふ、暫しのお別れよ」

 

そう言って、こてんとソファーに倒れるとすやすやと寝息を立て始めた。

いつから寝てないんだ、こいつ……。

どうしたものかと後頭部をぼりぼりと掻く。どうやら他に住人はいない様子で、タオルケットを借りることもままならない。

まぁ、この暑苦しい服なら風邪を引くようなことはないだろうが、こうも無防備にされるとどうもな。

しかし普段は目が閉じがちだが、大きな目をしてるなあ。睫毛も長え……。

 

「何やってんのよ、この変態!」

「うわっ!」

 

いつの間に帰ってきたのか、振り返ると鬼の形相で俺を睨む高坂が立っていた。

 

「何もしてねえよ。黒猫が寝ちゃってな」

「フン、口ほどにもないっつーの、3徹程度で」

 

こいつらそんなに寝てないのかよ。

 

「俺を呼んだのは、なんとか原稿を書き終わってコピーしたものを製本するためか」

「そう。察しがいいじゃん」

 

話しながら、高坂はカラーコピーされた表紙にモノクロの両面印刷された紙をホチキスで留め、見本誌を作っていた。この状態に仕上げればいいんだな。

 

「了解。お前も寝ていいぞ」

「は? 流石にあたしと黒猫が寝ててあんただけにやらせるなんて無理でしょ」

「心配しなくても寝込みを襲ったりしないぞ」

「そ、そんな心配してるわけじゃないし!」

「はいはい、むっつりすけべのヘタレだから手を出す勇気もありませんよと」

 

会話をしつつも手を動かす。

一体何部作るんだこれ。どうやら1冊は26頁みたいだが……。ネットプリントとかあるご時世にコピーで26頁って。どんだけギリギリまで書いてたんだ……。

 

「もっと早く呼べばいいだろ」

「へ? いや原稿を書くのはあたし達でやんないと意味ないし」

「そうかもしれんがな、なんかしらお前らの睡眠時間を少しは用意してやれるかもしれんだろ」

「ま、まぁそうね。次は考えとく……。寝るのはともかく、ちょっとシャワー浴びてくる。あんたに覗く勇気もないだろうし、多分、臭いし」

 

くんくんと腋を嗅ぎながら、退室していった。多分、臭くないけどな。

 

黙々と手を動かす。

しかし、この同人誌、結構凄いんじゃないの?

この手のものに詳しいわけじゃないが、素人感丸出しっていう感じじゃない。

黒猫は普通に漫画として完成度が高い。マスケラの2次創作だな。

きりりん……小説とイラストでラノベのようなスタイル。元ケータイ小説家が書いたメルルのSSか……。

読みてえな。

 

1冊分を横に並べて置いて、読みながら作業ができるようにする。

 

ふむふむ。

ほう……。

黒猫は癖は強いが、アクションの描写も良くて格好いい。

 

高坂の方は、読むのに少し時間がかかりそうだな。

文体はやたらに読みやすい。

擬音が多くて描写が単調ではあるが……。

やっべえ、面白い。

熱中しすぎて、手が遅くなってしまいそうだ。

いかんいかん、ちゃんとやらないと……ってこれいつまでにやればいいんだろうな。

 

……。

…………。

 

「あー、さっぱりしたー、覗きに来なかったむっつりすけべはちゃんとやってるか……って、あんた、なんで泣いてんの!?」

「これが……涙……?」

「ええ!? 綾波みたいになってんじゃん!? どしたの!?」

「いや、お前のSS読んだだけだけど」

「えっ、えっ!? 感動で泣いてんの!? マジで!?」

「いやー、メルルが、メルルがなー。ううう」

「そっかー! にひひ、あんたもなかなかわかってんじゃん。ここ? この辺?」

 

気を良くしたのか高坂は俺が読んでいる隣にやってきて、自分の書いた文章を指さし始めた。

ボディーソープなのかシャンプーなのか、風呂上がりの匂いがふわっと鼻孔をくすぐる。

 

「それともこっち?」

 

近い、近い、っていうか当たってる!

Tシャツだけしか着ていないであろう高坂の肩が俺の肩にぶつかる。

ドライヤーをかけたばかりの温かい髪の毛が、さらりと俺の腕を撫でる。

 

「どこよ~?」

 

そう言って俺の顔を見る高坂の瞳。

徹夜が続いているとは思えない、洗顔したてのぷるぷるの肌。

一切化粧なんてしていなくても完璧に綺麗な顔。

その大きな瞳は、俺が見つめているとだんだんと近づいてくる。

おい、まさか……。

視線を外すことが出来ない。

彼女の瞳の中に、俺が映っている……。

 

「あなた達、私が眠っている間に何をしているのかしら?」

 

ばっ!

 

黒猫の声を聞いて、反発する磁石のように俺達は離れた。

 

「い、い、いつから見てたのよっ」

「そうね、HACHIMANが桐乃の髪をクンカクンカしてたあたりかしら」

「あっ、あたしの髪をクンカクンカ!?」

「そんなこと俺はして……いや、すまん、してた」

「なあっ!? こんのむっつりすけべ!」

 

げしっと素足で肩を蹴られる。

Tシャツの下からはなまめかしく、白い太腿が覗いた。

 

「お、おい、見えるぞ?」

「はあ!? ちゃんとショートパンツ履いてるっつーの! このスケベ!」

 

げしげしと4発繰り出されるキックを黙って食らう俺。

確かにショートパンツを履いているようですね?

 

「はあ、あまり私の前でイチャイチャするのは止めてくれるかしら」

「してねえよ!?」「してないから!?」

「息ぴったりじゃない……いいから製本をしましょう、間に合わなくなるわ」

 

チッと舌打ちをしながら、あぐらをかいて製本を始める高坂。

ショートパンツを履いてるとわかっていても、Tシャツの中に視線が行ってしまうんだよなあ……。

 

「ところで、これいつまでにやんなきゃいけないの?」

「とりあえず今から宅配便の集荷が来るまでにできるだけ製本。出来なかった分はあんたが明日イベントまで持ち込み」

「ええ、俺、明日のことなんか聞いてないんだけど……」

「あなた、相変わらず非道いわね」

 

集荷が来た時点でダンボール2箱まで出来ていたが、明日のイベントとやらは強制参加が決定した。

 

 




一応、次回は同人誌即売会の予定です。

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