他所の妹が小町より可愛いわけがない   作:暮影司

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感想をいただいた方ももちろんなのですが、誤字報告していただいてる方にも本当に感謝しております。返信でお礼が出来ないので、ここでさせていただきたく。


またしても新垣あやせの瞳からは光が消える

「ひょっとして先輩って、異世界転生してるんですか?」

「それだとお前が異世界人ってことになっちゃうけど、そうなの?」

「違いますけど。じゃあなんで先輩なんかがこんな美少女に囲まれてプリクラ撮ってLOVEなんですか。都合が良すぎます」

「お前何気にヒドイからな?」

 

そうは言いつつも一色が言っていることは俺も正しい気がする。

今どき少年誌のラブコメ主人公だって勉強ができるからモテるのであって、何の特技もなくモテる時代は終わったのだ。そして俺は勉強が結構できる。あれ? じゃあモテるな?

 

「実は俺はモテるんだ」

「ええっ!? まさか女の子にですか!?」

「いや、男の子にはモテないだろ」

「モテてるじゃないですか、葉山先輩とか材木座先輩とか戸塚先輩とか」

「おい、葉山にモテてるなんて言っているのはどっかの誰かさんだけだ。あと戸塚が俺を好きっていうのはホントなのか」

「目がマジで怖いです、あと材木座先輩のことはスルーなんですね」

 

休日のショッピングモールの廊下でやいのやいのしていると、多少周囲の目が気になり始めた。

 

「もう、いいから返せよ」

「駄目です」

「なんでだよ」

「雪ノ下先輩と由比ヶ浜先輩に報告します」

「なんで? ねえなんで?」

「なんでもです。それよりさっき縞パンとか言ってませんでしたか」

「それは忘れろ」

 

軽く追いかけ回していると、そこへ二人が駆けつけてきた。

 

「ちょっと、八幡、も~、すぐどっか言っちゃうんだから」

「あら、桐乃。なんか八幡さんは彼女とイチャイチャしてるみたいだけど」

「違う」「違います」

 

俺と一色は見事にハモった。

しかし一色はすぐにハッとして高坂と新垣を交互に見る。

 

「わー、わー、ファンです、握手してください」

「え?」

「ああ、はい」

 

慣れた手付きで手を出す新垣に一色は両手で握手をした。

 

「高坂さんも」

「あたしも?」

 

高坂が手を差し出すと、やはり一色は両手で握手をした。

君たち、学校の先輩後輩で何やってんの。

 

「すっごーい、きれーい、モデル、まじヤバイです」

 

ヤバイのはお前の語彙の方じゃないかしらん。

誰なのよ、紹介しなさいよという高坂の目線を受ける。

 

「いや、あのな。覚えてるかどうか知らんけど、新一年生を迎えるスピーチを行った生徒会長の一色いろはだ」

「え?! ああ、あ~、生徒会長ね! はいはい」

 

こいつ絶対覚えてないし、全然聞いてなかったな。ま、よほどのことがなければ生徒会長なんて覚えてないだろ。城廻めぐり先輩みたいにめぐめぐりんとしてれば覚えてるが。俺の語彙もヤバイな。

 

「総武高校の生徒会長なんて凄いですね」

 

両手を合わせて頬の横に添えながら首を傾げる仕草はまさに完璧。

新垣の猫かぶり力は一色を越えてるかもしれん。

 

「そ、そんなことないですよっ?」

 

左手首に内側につけた腕時計を自分の鎖骨に見せつけてるのかというくらい顎の下で握りこぶしを振ってきゃるるんなポーズを見せるが、なんかクドい。

新垣が天然物のタイだとしたら一色は脂たっぷりの養殖のブリと言ったところか。軽くしゃぶしゃぶして欲しい。

 

「あの、一色……せんぱい? その手に持ってるやつ、返してやってくれませんか」

 

高坂が一応生徒会長相手に礼を逸しないように気をつけつつ、プリクラを返せと言ってくれている。

 

「む」

 

せっかく手に入れたおもちゃを返すのを惜しむ園児のような顔はやめてくれ。

 

「返しますけどー。その私とも撮ってくださいよ」

「え? お前俺とのプリクラ欲しかったの?」

「先輩とのじゃないですよ! お二人との!」

 

しまった、俺がモテモテだと思ってたのはやはり間違いだったのじゃよー。

これはなかなかに恥ずかしい。考えてみれば一色が好きなのは葉山みたいなタイプであり、俺とプリクラを撮りたいなんて思うわけがない。五等分の花嫁の四女あたりなら可能性あったと思う。

 

「ま、まあ。先輩とも撮ってあげます」

「そりゃどうも」

 

年下からの慰めに甘んじる俺。八幡、甘んじるの得意。

いつの間にか立場が逆転しているが、それが本来の立ち位置であろう。べ、別に一色とのプリクラが欲しいわけじゃないんだからねっ? プリ帳作っていっぱい集めたらプリクラパラダイス略してプリパラだとか思ってないんだからね?

 

「いや、なんかそれも微妙じゃん? 四人で撮っちゃおうよ」

 

高坂が無茶を言う。

 

「えっ。それは話が違うというか。なんで四人」

 

一色が真っ当なことを言う。

さっき三人ですらぎゅうぎゅうのぱっつんぱっつんでむぎゅむぎゅだったわけで、四人なんてことになったら新垣に痴漢として通報されちゃう。それでもボクはやってない。

 

「二度手間だし? ほら、さすがに男女二人だけっていうのは?」

 

なんか高坂が言葉を濁すのは珍しい気がするな。何を言いたいのか。

一色はなにやらしたり顔で顎を擦る。

 

「まさかとは思いますけど、高坂さん、私と先輩が二人でプリクラ撮るのイヤなんですか?」

「はあっ!? んなわけないでしょ」

「ですよねー。じゃあ別にいいじゃないですか~?」

「ぐぬぬ」

 

なんだ?

なんでこいつらマウント取り合ってるの?

高坂はやおら指をふりふり、胸を反らして高らかに、

 

「ごめん、今日はあたしが八幡にお礼をしてるの。だから時間無し! さっさと次行くかんね。一色先輩とはまた今度ってことで」

 

と言いつつ、シュタッと左手を縦に上げた。

 

「え~」

 

と不満そうな声を上げた一色だが、プリクラを振りながらニヤニヤと俺を見ていた。絶対ヤバイ。

 

「ちょっ、待て」

「いいから」

 

高坂に襟を掴まれて引きずられる俺。

新垣はこの流れに慣れたものという感じでにこにことついてくる。

次に行くとは言ったものの特に行く場所が決まっていなかったようで、しばらく襟を掴まれたままだった。耳たぶではなくてよかったとカツオに同情していると何か気に入ったものがあったのか高坂が足を止めた。

 

 

「あ~っ、これ、ちょ~~~可愛い~~~」

「ちょっと、ちょっと桐乃」

「あやせもそう思わない? あやせも絶対似合うと思う~」

「えっ、そう? じゃなくて」

 

なんだなんだ、やっぱりこいつら仲いいなあ。

 

「ねえ、八幡もそう思うっしょ?」

 

あー、一応俺にも意見を聞いてくれるのね。

……ってブラジャーじゃねえか!

ご丁寧に胸のところにあてがって見せてくれてますよ、大変良くお似合いですね!

 

返事をする前に俺はゆっくりと新垣の顔に視線を動かす。ひいっ、ダークなオーラちからが見える! バイストン・ウェルを覗けそう!

でも俺は悪くないよな?

そう思って祈るように新垣を見ていると、

 

「ねえ、桐乃。ひょっとして……お兄さんにもこういうことしてるの?」

「へ? こういうことって?」

「下着の意見を聞くことよ。男性の欲望に満ちた意見を」

「……あ」

 

あ、じゃねーよ。ちなみに俺は小町にブラジャーについての意見を聞かれたことはない。

 

「……あるのね」

「ない! ないない!」

「じゃあお兄さんにも無いのに、八幡さんには聞いたのね?」

「ぎゃー! 違うの、あやせと三人だから加奈子のつもりでうっかり聞いちゃっただけ! 男だと思ってなかったの!」

 

それを聞くと、修羅から菩薩のような顔にみるみる変わって、

 

「男だと思ってなかったなら仕方ないわね」

 

笑顔の新垣に、高坂は全力でうんうんと首肯した。

男だと思われていない……?

 

「となると、三人で風呂に入っても問題ないのか」

「ないわけないでしょ、この変態! 死ねええええっ!?」

 

俺は非常に不用意な発言により、二時間サスペンス『倒れるときは前のめり・ショッピングモールに倒れても、死んでいるのは(まなこ)だけ』というのが語り草になったとかならないとか……。

 

 

 




相変わらずわちゃわちゃしてるだけですが、ニヤニヤしていただけたでしょうか。

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