他所の妹が小町より可愛いわけがない   作:暮影司

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読モ達との食事は鉄板焼きが鉄板と言える

見知らぬ天井だ。

 

なんということだ、つまり俺は汎用人型決戦兵器に乗って戦っていたのか……?

 

「あ。気づいた」

 

声のした右の方へ少し視線を動かすと、双丘越しに俺を見る高坂の顔があった。

 

「ここはどこだ……俺は一体……使徒は? 綾波は?」

 

そう言うと、あちゃーっと手のひらで顔を覆った。

 

「やっぱり4回転半はシャレにならなかったかー。あやせには兄貴以外にはハイキック禁止って言ってあったのに。あのね、八幡。あんたはあやせの後頭部への打撃攻撃によって完全KOされて、ショッピングモールでうつ伏せのまま動かなくなったから、ここまで運んできたってワケ。あやせはこの騒ぎを見て通報しようとした人に一生懸命釈明してるわ」

 

あやせが通報されそうって強烈な皮肉だな。

なんてようやく頭が動きはじめてきて、現状を把握する。

俺がハイキックで空中を4回転半したとか、京介という兄貴はこのハイキックをしょっちゅうされているのか、などは些細なことだ。

 

俺は今、高坂に膝枕されている……!

 

全神経を首の方へ集中させていくと、肌の感触がわかる。そうだ、高坂はショートパンツだったじゃないか、つまり俺の肩から上は生脚に乗せられているということだ。

 

「あれ、なんか顔赤くない?」

 

少し顔を近づけ、頬や額を手のひらで触る。ますます赤くなるからやめてください。

 

「熱があるかも……どうしよ」

 

顔を曇らせる高坂だが、熱の原因はハイキックではない。

 

「あー、大丈夫だから」

 

本気で心配されても困るので、なんとかそれだけ言葉にした。

 

「ほんとに? 目もうつろで濁ってるし……」

「……それは生まれつきだからね?」

 

目の前でパーにした手のひらをひらひらさせている。意識があるかどうかあやしいレベルにさせる蹴りだったんだな、あやせ。本気でヤバイな。

 

「あんたの妹の名前は?」

「……は? 小町だ。比企谷小町」

 

記憶喪失を心配しているのか?

それにしても自分の名前じゃなくて妹の名前を確認させるところが高坂らしいな。

 

「あたしの名前は?」

「桐乃。高坂桐乃」

「今日、一緒にいた私の友達は?」

「新垣あやせ」

「さっきばったりあった可愛い女の子は?」

「一色いろは」

「ふーん、やっぱり可愛いって思ってんだ」

「おまっ」

 

こいつ誘導尋問しやがった。

高坂は露骨に目を眇める。それでも俺より遥かに目が開いているがな。

 

「では今言った中で一番可愛いのは?」

 

ジト目で見下ろしたまま、とんでもないクイズを出しやがった。

ここで一色なんて言うやつがいたらそれこそ頭がどうかしている。

あやせくらいの圧倒的美少女であれば角が立つこともないかもしれないが、ふー。

俺は目を瞑って、鼻から息を吐き出しつつ、覚悟を決める。

これは、膝枕してもらってるお礼だ。もうしばらく続けて欲しいしな。

 

「桐乃」

 

そう告げると、想像していただろうに顔を真っ赤に染め上げた。意外と乙女だな。

高坂は目をそらしつつ、

 

「こ、小町ちゃんで良かったのに。恥ずっ」

 

とつぶやいたため、俺の体温が急上昇した。

し、しまった――マジで恥ずかしい。

そうか、今言った中にはラブリーマイシスターが含まれていたんじゃないか。いかん、本格的に頭が回ってないかもしれん。

 

「し、仕方ないだろ」

「仕方ないって、つい本音が出ちゃったってコト……?」

 

ハイキックの影響で頭がまともに働いてなかったから仕方ないという意味だったんだが。

表情を伺ってくる高坂の顔を正視できず、身体を捩るとへそが見えた。さすが読者モデル、お腹も綺麗だな。

そして右の頬にはしっとりとした肌のすべすべとしたふとももの感触が伝わってくる。

うん、これはヤバイ。

 

「あー、良くなったわ~。すっかり良くなったわ~」

 

地獄のミサワみたいなわざとらしい口調でゆっくりとふとももから別れた。若干名残惜しいが。

 

「桐乃~、あ、八幡さんも起きたんですね」

 

新垣が戻ってきたようだ。間一髪だな。あやうくもう一度蹴りを食らうかもしれなかったぞ。

 

「あやせは通報されなかったのか」

「ええ。セクハラの正当防衛だという説明をして納得してもらいました」

「セクハラなんてしてないだろ……」

「3人でお風呂に入りたいとか言ってましたよね? 沈めますよ?」

 

にこにこと「沈めますよ」とか言われても、マジ恐怖なんだけど。

 

高坂が立ち上がって、俺達に歩み寄る。どうやらここはトイレの前で、休憩用長椅子で看病されていたということがわかった。

 

「あ、あたしが悪かった。言い訳で男だと思ってないとか言ったから」

「いや、桐乃は悪くないだろ」

「悪いっての。男に向かって男だと思ってなかったーなんて、ホント悪かったと思ってる」

「そりゃどうも」

「いくらあやせが怖いからって……」

「あやせはマジで怖いから仕方ないって」

 

俺と高坂がお互いを慰め合っていると、新垣がぽつりと言った。

 

「私ってそんなに怖いですか?」

「怖い」「怖いからな」

 

さすがにショックだったのか、シュンとなった。新垣には悪いが、そうしていてくれた方が安心だ。

高坂を見ると、オフショルダーから見える肩をすくめて、気を取り直すように微笑んだ。

 

「んじゃあ、夜ご飯と行きますか」

「ほんと、そんなに奢ってくれなくて大丈夫だぞ」

「いいの、いいの。ほら、一応同人誌も黒字だったわけだから、手伝ってくれたあんたにも還元しなくっちゃ」

「そうか、悪いな」

「全然悪くなーい」

 

意気揚々とショッピングモールのエスカレーターに向かっていく高坂と、しおらしく続く新垣。俺はポケットに手を突っ込んで猫背になりながら後を追う。

何食うのかな、ラーメンかな。いや、こういうときにラーメンを選ぶのは平塚先生かラーメン大好き小泉さんくらいのものか。やっぱりサイゼかな?

高坂は店の前で立ち止まると、看板と入り口を紹介するように、

 

「お好み焼き屋さんでーす」

「おお」

 

お好み焼き屋ね。家族では来たことがない。なんせ両親はあまり家にいないし、俺と小町の二人では選択肢に出てこない。

お好み焼きというと、たまゆらを思い出すな。ぽって部長と高坂は声が似てるし。性格はまったく似てない、なので。

中に入っていくと、カウンターではなく、鉄板が埋め込まれたテーブル席に案内された。

ほーん。これは自分たちで焼くパターンか。リーズナブルだし学生らしい感じがする。一色、葉山とデートするときはお好み焼き屋がいいかもしれないぞ。

 

「注文はあたしにお任せしてもらうかんね」

 

得意げにメニューを開く高坂。文句などあろうはずがない。新垣は今、意気消沈しており、反論する雰囲気など皆無だ。

 

「これとこれ、最後にこれ」

 

高坂はメニューを指差しながらオーダーした。何を頼んだのかさっぱりわからん。まぁお好み焼きだろうが。

 

「ここ、ドリンクバーだから」

 

ぴぴっと人差し指であっちにあるから行こうと伝えてくる高坂。

当然マックスコーヒーは無し、と。まぁ、お好み焼きに合わないけどな。

ここは無難にコーラにしとくか。紅茶用のレモンをトッピングして、ちょっぴり大人さ。

高坂は氷たっぷりの烏龍茶。新垣はアイストロピカルティーを氷なしで持ってきていた。さすがモデルだな。小町ならカルピスソーダにオレンジとかグレープとか混ぜてくるだろうに。あれ? 単純にうちの妹が子供なだけか?

 

「じゃあじゃあ、かんぱーい。あやせもあんがとね、今日は無理に付き合ってもらっちゃって。ほんと感謝だよ~」

「ほんと? 怖くない?」

「怖くない、怖くないよ~」

 

肩をすり合わせながら、仲直りしたご様子。仲良きことは、ゆるゆりしきかな。

 

「おまちどうさま~」

 

はて。店員が持ってきたのは、お好み焼きとは違うような。つか、何これ。

 

「なんかベビースターラーメンみたいなの乗ってるぞ」

「ベビースターラーメンだよ」

 

は?

ベビースターを食事にするとか、だがしかしかよ。口内炎になるぞ。

 

「これ、明太チーズベビースターだから。オススメ」

 

明太子とチーズとベビースターラーメン? 意味わからん。ガリガリ君の新しい味か? 絶対売れ残る。

 

「八幡さん、もんじゃ焼き初めてですか?」

 

もんじゃ焼き。あー、聞いたことあるわ。ためつすがめつしてみるが、とても食い物には見えん。

 

「食ったこと無いな」

「それはそれは。じゃあ、作り方覚えていきな!」

 

腕まくりをする高坂に新垣は慌てたように、

 

「これは私が作るから。ね? さっきのお詫びもしたいし」

「そう? じゃああやせに任せるね」

 

明らかにホッとして、かちゃかちゃと液体を混ぜ合わせる新垣。この感じ、雪ノ下が由比ヶ浜にみせる対応と全く同じだ。どうやら高坂は料理が苦手と見た。

 

「もんじゃ焼きはカロリーが低いから結構食べるんですよ」

 

新垣は手慣れた様子で、ウォール・ローゼみたいな外壁を作っていく。おそらく巨人が襲ってくるんだろう。

残った液体を外壁の中に投入すると、溶岩の火口のようにぷつぷつと泡が出来ては潰れていく。新垣の前にあるとラストダンジョンみたいに思えるな。隅々まで探検して宝箱全部開けて伝説の武器を手に入れないと新垣には勝てまい。

最強の魔王は小さなコテを振り回すと、勇者たちへの範囲攻撃……ではなくベビースターラーメンの入ったぐちゃぐちゃのものをこそいだり鉄板に押し当てたりした。

少し焦げた状態にしたものを、ふーふーしたあとコテのまま小さな口に運んで咀嚼する。

 

「うん、出来ましたよ」

「わ~、あんがとね。あやせ~」

 

待ってましたとばかりに高坂も焦げを作りながら食べていく。ほーん、ちぃ覚えた。

 

俺はコテを持ち、赤いつぶつぶの多いところを一口大にこそいで焼いてみた。

 

ふー、ふー。

はふっ、もぐもぐ。

 

おー、なるほどなるほど、そうくるか~。

いいじゃないか、いいじゃないか~、こういうのでいいんだよ、こういうので。

 

柔らかい生地の部分が多いが焦げた部分は焼き餃子の皮のようにクリスピーで、ベビースターラーメンがまたイイ。食感のアクセントになっている。

駄菓子を食材に使っていいじゃないか、美味ければ。美味いものを食って文句を言うバカもなし、だ。

コーラにも相性バッチリ。こういうのもあるのか……。

 

おっと普段から孤独すぎて、つい孤独のグルメごっこに興じてしまったな。

 

ちまちまとして時間のかかる食事だが、普段のぼっち感あふれる外食と全然違う。

お好み焼き屋ってのは3人で仲良く楽しく過ごすことを主眼においたチョイスなのかもしれん。平塚先生なら想像だに出来ないのだろう。早く誰か貰ってあげてくれ。

 

男の俺は読モと同じボリュームでは足りないだろうとの配慮から最後のモダン焼きを多めに配分された。至れり尽くせりだ。

 

帰りの電車で、スマホに連絡が来ていることに気づく。

さっき別れたばかりだというのにな。スタンプでも送ってきたのかしら。

 

連絡してきたアカウントは『きりりん』ではなく、『いろいろいろはす』からだった。

……新垣より怖いかもしれん。

 

 




八幡爆発しろ!
自分で書いてて嫉妬してちゃ世話ないね。
せめて小町は俺に譲って欲しいよね。

あやせは悩んだけど書いて良かったです。やっぱりあやせは最高だぜ。


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