他所の妹が小町より可愛いわけがない   作:暮影司

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やはり高坂桐乃の提案は間違っている

「どっちのエロゲーが好きかな? やっぱ陵辱?」

「待て待て」

 

これはボケなのか? ツッコんだ方がいいのか? それともマジなのか?

セリフの主はもちろん、高坂桐乃だ。雪ノ下だと思ったやつがいるとは思わないけどな。

俺は高坂に一色いろはを喜ばせる相談をしている。だからこの会話はやっぱりおかしい。

放課後俺たちは部室にいかずにハンバーガーショップに来ていた。俺たち好みのハッピーセットはやっていないから、高坂はアイスティー、俺はカフェオレを注文した。プラレールじゃなくてシンカリオンだったらよかったのに。上田アズサのグッズならきっと高坂も欲しがったに違いない。

俺はカフェオレにストローを刺しながら、スマホにエロゲーの画面を表示させて二者択一を迫る女子高生にツッコミを入れる。

 

「あいつがエロゲーで喜ぶように見えるか?」

「じゃあ、あたしはエロゲーで喜ぶようにみえるの?」

「いや、見えねえけど」

 

高坂はそうでしょ、と胸を反らした。

 

「いやいやそうじゃねえよ。お前は確かにエロゲーやりそうに見えねえけどエロゲーが大好きなのかもしれんが。一色はやりそうに見えないし、本当にやらねえの」

 

なんでこんな当たり前の解説をせねばならないのか、不思議でならないが。実はドッキリなの? カメラが仕掛けられてて後でてってれ~ってなるの?

 

「わかんないじゃん。聞いたの?」

「エロゲー好きかって?」

「そう」

「聞くわけないだろ……」

 

俺がそんなことをしたら新垣でなくても通報されるし、されても仕方がないくらい頭がおかしい。ドン引きするのがまともな反応であり、ウケるとか言うのは折本くらいのものだろう。だとすると折本もまともじゃねえな。

俺が戦慄しているのを見ながら、高坂はそうでしょ、と胸を反らした。(二回目)

 

なんで論破したみたいな感じなんですかねえ……。ダンガンロンパだったらお前が処刑されるからな? モノクマが大喜びだよ?

 

「むしろ、なんであいつがエロゲーを好きかもしれないって思ってんの?」

 

一応聞いてみる。俺は割と高坂を買っている。なんとなく、とか言わないと思っている。なにかしら考えた結果なのだろう。

 

「思ってないよ」

「は?」

 

想像とは違っていたが、受け止めきれん。俺がきょとんとしても可愛くないぞ。

 

「やったことないっしょ。どう考えても」

「じゃあ、なんなんだよ」

 

マジでわかんねえ。彼女は何を言っているのか。誰か教えて。

 

「あたしね、兄貴の誕生日プレゼントにエロゲーをプレゼントしたの」

「え。マジ?」

 

ありえねえ。しかし、この高坂桐乃であればありえる。こいつがそうだと言うなら、そうなんだろう。

 

「兄貴はエロゲーなんてやったことなかった」

「え。マジ?」(二回目)

 

普通そういうのって兄貴がドハマリしてて感化されて始めるものだよな。うちの妹だって俺の影響でプリキュアを見始めたわけだし。え? 俺、何か変なこと言ってる?

 

「でも、かわい~い妹からプレゼントされたらやるでしょ? 八幡だって小町ちゃんからプレゼントされたらやるっしょ?」

 

俺はこめかみを抑えた。なんつーシチュエーションを想像させるんだこいつは。小町がエロゲーを俺にプレゼントするだと? それなんてエロゲ? いやそれだとなんかややこしいな……。

俺は想像力から始まるイマジネーションを精一杯高める。エロゲーを買って、プレゼント用にラッピングしてくださいと頼んで、満面の笑みで俺に渡してくる小町を。

しかしまぁ、うん。

 

「やる、かな……」

「でっしょー?」

 

なんで勝ち誇ってるんだよ……。しかし、こいつエロゲーの話になると一段と目を輝かせるな。

 

「で、やってみたら面白いってなるじゃん?」

「そうかもしれんけど……」

「だからやってみたことなくて好きじゃなくていいの。これから好きになるの」

 

なぜそんなに自信満々に言い切ることが出来るのか。とりあえずカフェオレに砂糖を足そう。甘さが足りない。糖分が足りないと頭が働かないってデスノートで言ってた。

高坂はアイスティーの氷をストローでくるくるさせつつ話を続ける。

 

「一色会長だっけ? 好きそうじゃん、エロゲーとか」

「お前とんでもないこと言うね」

 

一色がエロゲーねえ……。似合うっちゃ似合うような……ってなんで俺は説得されかけてるの? 将来絵とか壺とか買わされるの?

高坂は満面の笑みをキープしたまま、

 

「で、一色さんはどっちだと思う? イチャイチャ系と陵辱系。なんとなく見た目で調教モノが好きそうな気がすんだよね~」

「お前とんでもないこと言うね」(二回目)

 

死んだ魚の目でお馴染みの俺の目が驚愕で開きっぱなしだよ。

しかしこの話、マジでなんとかしねえと。あまりにも非現実的な話だったからここまで引っ張ってしまったが、そもそも一色が好きになるとかならないという問題ではない。

 

「こ……、桐乃。やはりエロゲープレゼントは無しだ」

「なんでよっ!」

 

なんでそんなに怒ってるの? どんだけあいつにエロゲーやらせたいの? 言ってみたけど普通に考えて無理だよねって思わないの?

 

「まず買えないだろ。俺たち18歳未満だし」

「はっ、そんなの兄貴に買わせるから大丈夫だっつーの」

「おまえな……」

 

高坂の兄貴には同情を禁じ得ない。

 

「あんただって小町ちゃんから、お兄ちゃんエロゲー買って。って可愛くおねだりされたら買うっしょ」

「あの、仮の話でうちの小町をエロゲー大好きな変態妹キャラにするのやめてくれます?」

 

一応想像しちゃうでしょ。嬉しそうにエロエロなイラストが描かれたデカイパッケージの箱を持ってる妹を。あれ、似たような絵面をさっき見たな。二回も想像させるなよ。

理不尽な思いをしているのは俺の方だと思うが、高坂は声を荒げた。

 

「なにそれ、まるであたしがエロゲー大好きな変態妹キャラみたいじゃん!?」

「お前は事実だからいいだろ」

「はあああ!? 八幡失礼すぎ!!」

 

ぷいっと顔を横にそらす高坂。眉は釣り上がり、腕は組まれていて、漫画だったらぷんすかという文字が書かれてること請け合い。しかしなんつーか、凄くサマになっているんだよなあ。実は読者モデルっていってもそういう特殊なモデルなのかしらん。むしろこの方が表紙を飾れるんじゃねーの。

 

「っていうかよ、仮に全部お前の思い通りになったとしてもだぞ」

「なんか問題あるっての?」

「俺が一色にエロゲーをあげたなんてことが雪ノ下や由比ヶ浜に知られたら俺はどうなるんだよ」

 

想像もしたくねえ。と思いつつ想像してしまう。

雪ノ下だったらまぁ、そうだな。

 

「あら、ついに本性を表したのかしら。通報しておくわね」

 

こんなかんじか。本性じゃねえよ。やってねえよ。見るだけ。あと通報するな。通報していいのは新垣あやせだけだ。

 

雪ノ下はまだマシかもしれん。由比ヶ浜なんかむしろフォローしてくれそうでいたたまれない。

 

「ヒ、ヒッキーも男の子だもんね。でも、後輩の女の子に薦めるのはどうかな……あはは」

 

死にそう。想像しただけで死にそう。俺は頭を抱えた。

 

「あー。あんたのことは考えてなかったわ」

「頼むから考えてくれ。社会的に死ぬ」

「ほとんど死んでるじゃん」

「否定はしないが」

「しないんだ……」

 

俺たちはお互いに腕を組んで見つめ合った。高坂の整った顔立ちが、徐々に柔らかい表情に変わる。どうやら気づいてくれただろうか。俺は安堵しつつ、肩肘をついて手に顔を乗せた。

 

「ふりだしに戻るでいいか」

「しゃあない。もっかい考えよっか」

「そうしてくれ、すまん」

「感謝しなさいよね、このあたしが人生相談乗ってあげてんだから」

「ああ。フライドポテト食うか?」

「明日撮影だからやめとく」

「そうか」

 

そして二人で顎に指を持っていき、うーんと唸った。頬はぷっくりと丸いが、顎や鼻筋はシャープなラインで、モデルらしい整った顔立ちであることがよくわかる。きめ細やかな肌や長いまつげをぼーっと眺めてしまい、何にもアイデアが浮かばないうちに高坂は考える素振りを止めた。

 

「つかさー。彼女は八幡のこと好きなの?」

「……なんだよ突然」

 

またしても俺は唖然とする。俺がきょとんとしても可愛くないぞ。(二回目)

 

「それによって喜ばせられるかどうかが大きく異なるじゃん」

 

ほーん。真面目に考えてくれているんだな。俺が何も考えられなかった間に。しかし、普通に考えてそれはないことくらいわからんものか。

 

「んなわけねえだろ」

「わかんないじゃん。聞いたの?」(二回目)

「俺のこと好きかって? そんなこと言うように見える?」

「見えない」

「だろ」

「じゃあわかんないってことか」

 

両手で後頭部を抑えつつ、天井を見ながらそう言った。俺はため息をつく。

 

「わかるだろ。俺を好きなんてことはねーよ」

「わかんないじゃん」

 

高坂は前のめりになるとじっと、俺を見る。心底そう思っているのだろう。純粋過ぎる瞳は宝石のようで見つめすぎると吸い込まれてしまいそうだ。目をそらすのも抵抗があり、俺はまぶたを閉じた。

 

「あいつは葉山が好きなんだよ。イケメンでサッカー部の部長で陽キャでしかも良いやつだ。俺とは全く違うタイプだ」

「ふ~ん」

 

目を開けると高坂は汗をかいた紙コップをからからとゆすっていた。俺の言ったことがわかったのかわかってないのか、ちゅっとストローを吸う。ストローの先に少しだけ色がついた。

 

「好きでもない男に、自分を喜ばせろなんて言うかな」

 

ぼそりと、独り言のようにそう呟く。

 

お前は好きでもない男の人生相談に乗ってるだろ。普通はしないだろ。

 

しかし普通はどうかなんて考えても仕方ない話だ。一色いろはと俺の関係性を説明するのは難しい。いや、そもそも人と人の関係に名前をつけるのは容易じゃない。切なさにスノーハレーションという名前をつけるより難しい。小町は妹。雪ノ下や由比ヶ浜は部活の仲間。平塚先生は先生だ。しかし本当にそれだけの関係なのだろうか。

 

俺がいままで奉仕部の活動を問題なくやってこれたのは、依頼人と奉仕部員というわかりやすい関係性があったからだと言っていい。依頼だから葉山の進路を探ったのであり、俺にとって三浦がどうのこうのという話ではない。

 

そして俺と高坂は友達。わかり易い関係だ。

 

わかりやすい。悩むべくもない。そういう関係性がありがたい。心からそう思う。

 

だが、なぜだろうな。桐乃。

 

俺は今、わかりやすい関係でいたくないと思っているかもしれない。

人生相談に乗ってくれていることに、なにかしらの意味を求めているのかもしれない。

 

これでもかと甘くしたカフェオレを啜っても、俺の脳は全く回転しなかった。

 





いただく感想に、ニヤニヤっていう言葉が多くて大変嬉しい筆者です。
今回はコーヒー吹いたとか言われたら嬉しいなあ。
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