他所の妹が小町より可愛いわけがない   作:暮影司

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第一話の時点でお気に入りや評価頂きまして恐悦至極。
原作の偉大さを感じました、それではよろしくどうぞ。


どうにも高坂桐乃は可愛らしさがない

駐輪場から自転車を押して校門へと向かう。

桜はすでに散っており、帰宅時間になってももう風は冷たくない。

しかし、春らしさが増していくことに感慨を持つ余裕はなかった。

 

どうにも厄介としか言いようがない人物に出会ったからだ。

なんというかトラブルメーカーに違いない、その確信が持てるほどの強烈なキャラクター。

 

少し気合を入れて校門に近づくも、誰かが待っている様子はなかった。

安心と不安がないまぜになったような気持ちになる。

見当たらなかったことを理由に、このまま帰っていいのだろうか。

校舎に後ろ髪を引かれるようい校門をくぐると、柱の裏で彼女はスマホをいじりながら待っていた。

 

「おっそい」

 

スマホの画面に目を落としたまま、悪態をつく様子がなぜかサマになっている。

 

「待ってたのね」

「ハァ? 校門とこで待ってるって言ったじゃん」

 

そう言って歩き出す高坂。とりあえず着いて行くしかない。

しかし、いちいち癇に障る言い方をする女だな……。

猫をかぶってるところを見てみてえ……。

 

「見えなかったんだよ。一緒に帰ってるところを見られると恥ずかしいし……とか言って先に帰ったかと思ったぜ」

「お。ときメモ? よく知ってるじゃん」

 

ほーん。通じるとは思ってなかったけど、知ってるご様子……。

あれか、今どきはガールズサイドとかあるし、女子も知ってるのかしらん。

それにしてもなんで上からなの? なんでマウント取ろうとするの? 俺の方が年上だし男子なんですけど。

 

「まー、でも藤崎詩織は無いよねー。あんなお高くとまってる女、可愛くなーい」

 

お前が言うな、お前が。

その言葉をぐっと飲み込む。

しかしどうやら初代からプレイしているようだな……。

当然だが、今どきの女子高生が知ってるものではない。

 

「やっぱ~、早乙女優美ちゃんだと思わな~い?」

「……伊集院メイの方が好きだけどな」

「おお! あんた、わかってるね!」

 

自転車を押す俺の肩をばしばしと叩いて嬉しそうに笑った。

なんだこの浅草の酔っぱらいのおっさんみたいな絡み方……。

 

「ねえ、あんた。クラナドは?」

「あ? あぁ、人生?」

「ふんふん、鳥の詩は?」

国歌(くにうた)?」

 

そう答えると、なにやら満足そうに頷いて、ふんふふふんふんふふ~ん♪と鼻歌を奏でる。俺は黙って追いかけて追いかける。

手足の関節を曲げずに棒みたいにして、てくてくと歩いているところは小町と同じ年相応に見える。

しかし言ってることは20年前のオタクだし、なんなんだコイツ。

 

「あんた、なかなか見どころあるわ」

「そりゃどうも」

 

お褒めに預かり光栄ですよと。

訳がわからないなりに、なにやら楽しい気持ちになってきたのも確かだった。

会話が楽なのだ。答えているだけでお互いの気分が盛り上がる。

これが……トモダチ……?

なんだかんだ奉仕部に入ってからというもの、交友関係は増えたものの友人と呼べる相手は居なかった。

雪ノ下も由比ヶ浜も友人ではないし、一色はなおさら違う。

戸塚は天使だから違うし。なんなら友達というより恋人の方が近いしな。

材木座? 誰だっけ?

それなりに話しながら歩いていると、駅前に着いた。

いくつかの店がそれなりに揃っており、サイゼもある。

 

「じゃ、ここに寄ってくわよ」

「え、俺はサイゼの方が」

「はぁ?」

「なんでもないです」

 

訂正。友達とか思ってた俺、思い上がりにもほどがあった。

俺は奴隷。なろうで言えば、異世界に飛ばされた高坂桐乃が少額で購入した亜人みたいな存在です。もう、ご主人様の鈍感! いや、別に惚れてねえけど。

裏の駐車場に自転車を止めてハンバーガーショップに入る。

やや大きめの店舗は平日の夕方でも賑わっていた。4列が形成されている。

意外にも彼女は入口付近で待っていてくれた。さすがご主人様……。

 

「注文、あんたがして」

「えっ、それはご主人様の役目では」

「はあ? 何ワケわかんないこと言ってんの」

「すみませんでした、何を注文すればよろしいのでしょうか」

 

薄々社畜の才能があると思っていたが、馬車馬の如くを越えてハヤテのごとくだな……。

 

「ほら、アレ」

 

顎をしゃくってポスターを見ろと促す高坂。せめて口で言えよ。マジでこいつムカつくな……。

 

「あ」

 

ポスターを見て、セリフにしなかった理由を把握した。

え、これ俺が注文すんの?

さすがに恥ずかしいんですけども……。

 

ちらと高坂の表情を伺う。

はい、諦めました。八幡、諦めるの得意。

異性の先輩に見せる顔じゃねえよ、ウシジマくんかと思った。

高坂とはまるで真逆の表情をした店員が俺に向かってぺこりと挨拶する。

 

「ご注文はお決まりですか~?」

「ハッピーセット2つ。プリキュアの方で」

「ちょ、あんたもハッピーセットにすんの!?」

「え? そりゃそうだろ、なんでお前の分だけ買うんだよ」

「兄貴だったら俺の分だって言いながら買って、その後こっそりくれるかんね!?」

 

声がでけえよ、声が。

正直、今の状況はハッピーセットを注文することよりも遥かに恥ずかしいんですけど。

店員さんは苦笑いだし、周囲の客の注目も浴びてるし。

どうみても完全にブラコンの彼女を持った痛いオタクカップルの男、ですよね。

 

「あの~、ドリンクの方は~?」

 

そりゃ聞かれるわな。さっさと注文を終わらせたほうがいいだろう。マックスコーヒーは無いし、コーラでいいか。

 

「コーラで」

 

チッ

 

「あたしもコーラ」

 

今、舌打ちしたよね? やめてね? 店員さんにも聞こえちゃうでしょ?

俺はお前を無視したんじゃなくて、周りに配慮しただけなのよ?

 

「すぐご用意いたしますので、こちらでお待ち下さーい」

 

店員にレジの横に行くよう指示される。

 

「先に席取っておくから」

 

そう言い残し、高坂は奥の方へ向かった。置いてっちゃうのかよ、ご主人様。

さっきの高坂の大声で注目を浴び、プリキュアのハッピーセットが出来るのを待っている冴えない彼氏。

くっ、好奇の目に晒される屈辱……。やはり亜人風情の私はご主人様の恥になっているのだ……。

従順な奴隷キャラを演じないと冷静でいられない状況が憎い。

 

ハッピーセット2つを乗せたトレイを持って向かうと、存在感たっぷりに2人席のソファー椅子の方にどーんと座っている。目立つ奴だなあ。

脚を組んでスマホをポチポチしていた。俺に気づく素振りすらない。ま、そうだよな。

「あ~、ありがと~、待ってたよぉ~」みたいなことを言うわけがない。

城廻先輩だったら言うと思う。いなくなってわかる魅力、あると思います。

 

「待たせたな」

「ん」

 

スマホから目を離さずにポテトをつまむ高坂。

このムカつく感じが様になってるというか、違和感がなさすぎるというか。

こいつ兄貴にもこんな態度なんじゃないの?

だとしたら兄貴は聖人君子なんだろうな……悟りを開いているに違いない。

 

「で、どっちにするんだ。カチューシャとステッキだぞ」

「え!? マジであんたどっちか欲しいの!? 両方くれるんじゃないの!?」

「プリキュア好きなんだよ。先に選ばせてやるだけでも感謝しろ」

 

奴隷の反逆だ。ちょっと緊張したのでコーラを少し口にした。

今度はどんな罵倒が来るのか、と思って身構えていると意外にも目をランランとさせていた。

 

「いいね、いいね! プリキュアが好きで、それを後輩の女子に恥ずかしげもなく言い切るとか! やっぱあんた見どころあるよ! はい、ご褒美」

 

むぐ。

強引にポテトを2本、口に放り込まれる。

まーた奴隷に逆戻りかよ! しかし意外にも照れるなこれ。異世界転生主人公がモテる理由がわかったぜ。奴隷の私に優しくしてくれるなんて、嬉しい。しっぽ振っちゃう!

ナデポならぬポテポしていると高坂は腕を組んで悩んでいた。なんだよポテポって。

 

「ん~、しかしステッキもカチューシャも捨てがたいナァ~。あ、でもあんたがカチューシャつけるってんなら譲ってあげてもいいよ」

 

いや、サイズが合わねえから……。って合ってたら着けちゃうのかよ。

 

「どっちでもいい。俺はどっちも好きだしな。お前の好きな方にしとけ」

「ふぅ~ん。自分の好きなものを大事にしろ、って兄貴もよく言ってた」

「そうかよ」

 

しかし、兄のことどんだけ好きなんだよこいつ。

そいでまた、兄貴はなんでこいつのこと可愛いと思ってるんだろ。

恋する乙女の顔……どころか、新婚さんみたいな表情していやがる。

 

「どっちも好きだなァ~」

 

頬を緩ませまくってデレデレと机に突っ伏しながらおもちゃを両手に持っている……。

兄貴のことが好きなのか、プリキュアが好きなのか、わからなくなってきた。

正直なところ、こんな嬉しそうにしているところを見たら、両方あげちゃってしまおうかとも思うのだが。

今更言うのもな。理由に困る。

 

「また、近いうちに来ればいいだろ」

 

照れ隠しのように聞こえなければいいが、と思っていったのだが。

 

「は? なにそれ誘ってんの? キモ」

 

本当、こいつ可愛くねえ……。

 

「あっ、ちょっとステッキ取らないでよ!」

「うっせ、お前はカチューシャ付けてろ」

 

ステッキを奪って、カバンに放り込む。

ため息をつきながらチーズバーガーを食い始める俺を、高坂は細く整えられた眉毛で睨みつける。

顔がどんだけ綺麗でも可愛くない女ってのはいるもんなんだな。

 

カチューシャをいじくりながら、ふてくされた顔でコーラを飲んでいる後輩の顔の、可愛くないことこの上ない。

 

しかしそれでもお兄ちゃんスキルを外すことが出来ない俺は、カチューシャがダブったときには交換してやろう、と思ってしまった。

 

 

 

 


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