他所の妹が小町より可愛いわけがない   作:暮影司

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自信なさげな雪ノ下雪乃は期待を持って外を見る

さてさて、それでは高坂を褒めちぎってやるか。あまりの褒め上手っぷりに恐怖するが良い。

 

「高坂は美少女だな。スタイルもいいし、センスもいいし、まさに完全無欠だ」

「ま、そーね」

「しかも成績はかなり優秀だし、友人も多いし、元陸上部で足がものすごく速くて運動も出来る。読モの仕事も完璧にこなしていて非の打ち所がない」

「トーゼンって感じ」

 

あっれー!?

ここまで褒めて、当たり前過ぎてなんとも思ってませんというのか。そういうところが可愛くないんだよ……。

 

「ちょっと、そんな一般論で褒めたつもりなワケ?」

 

くっ、これだけの怒涛の美辞麗句を一般論と言い切れるこの傲慢さがスゲエ。しかし、その傲慢さを褒めたら怒り出すことだろう。

 

「ちょっと、由比ヶ浜さん。高坂さんが元陸上部で足が速いなんて知っていた?」

「全然、まったく知らないよ……」

「小町も聞いたことないです」

「比企谷くんが高坂さんのことをよく調べているということね」

「ヒッキー……」

「お兄ちゃん、桐乃さんの載ってる雑誌もこっそり買ってますからね」

「そう……」

 

外野が何やらごちゃごちゃ言ってるが、かまっている暇はない。俺は今このプライドの高い派手な後輩をデートも無しにデレさせなければならない。夜刀神十香なら俺もデレさせる自信があるのだが。こいつに比べたら五河士道の妹の方がまだ可愛げがあるってもんだ。

 

「はやく褒めなさいよ。あたしなんか褒めるところだらけなんだから、カンタンじゃん!?」

 

もう散々褒めちぎっただろ。ムカつくところだったらもっとスラスラ出てくるんですけどねえ……。

 

「自分に自信があるところも魅力だな、いい意味で」

「ふんふん」

「プライドがあるのも立派だな、いい意味で」

「うんうん」

「常に誇りを持って行動しているよな、いい意味で」

「そうそう、って全部同じ意味じゃん!? エラソーだって思ってんでしょ!?」

「気づいたか、さすがだな。いい意味で」

「いい意味でって付ければいいと思ってんの!?」

 

げしっ

 

膝を軽く蹴られる。この程度の攻撃はむしろ嬉しい感じがしますね? 別に特殊な性癖があるわけではないのですが、決して。ええ。

 

それにしても成績優秀なだけではなく、地頭も良いんですね。正直なところコテッと騙されてくれるかと思ってました。あーしさんだったらイケたはずだ。

しかし、ノリツッコミまで出来るとは高坂のポテンシャルはバケモノか。でも、そこを褒めたらやっぱり怒り出すことだろう。こいつを褒めるの難しすぎませんかね。スペックは高いのにそこを褒めても暖簾に腕押し。意外なポイントを見つけても褒めたら怒り出すこと請け合い。なんてこった。

この高坂とのテンポの良い漫才も三人のJKたちにはまったくウケなかった。小町は生暖かい目で、他の二人は冷え切った目で見ていた。ツッコミはかなり上手だと思うんだがな。

 

「お前、ツッコミうまいよな」

「はあああ!? 褒めるところそこなワケ!?」

 

もしや喜ぶかなと思ったが、やっぱり怒りましたね。これは戦略を練り直さなければ。高坂のいいところねえ。なんだろうなあと考えながら頭をボリボリかいていたら、その様子が不愉快なのか高坂が眉をつり上げる。いいところなんざ湯水の如くあるんだから、ひねり出すなと。やれやれ。

俺は机に腕を組んで手に顎を乗せる。いわゆるゲンドウポーズだ。

 

「なんだその、やっぱり好きなものに一生懸命になれるところじゃねえかな。エロゲーだろうが女児向けアニメだろうが、好きなものは好きだって言って自分を曲げないで。陸上や読モもやって。ケータイ小説も書いてたんだろ。同人誌作るときだって妥協なんかしてなかったし。兄妹で恋愛までしちまうくらいだ。誰がなんと言おうと好きなものを貫くっていうのは凄いことだろ」

 

ゆっくりと、つらつらと。思っていることを大して整理もせず。俺が褒めるなんて芸当が上手なわけもない。だからこれは感想だ。称賛ではなく、ただの感想に過ぎない。

よって反応が気になるものの、ちょ~っと怖いので、片眼だけちらっと開ける。なんか意味ありげな感じだけど、ビビってるだけだ。

 

――ん?

高坂含めて四人全員がぽかんとしていた。また俺なんかやっちゃいました? 別に祖父は賢者じゃないけど?

 

「ヒッキーは凄いなあ……」

「爆発しないかしら」

「あー、小町もうお腹いっぱいです」

 

オーディエンスの反応はよくわからない。つまりどうなのか。良いのか悪いのか。言葉にしてくれないと不安なの……こんなこと言わせないで……って俺がよく読む小説だとヒロインが言いがち。言わなくてもわかるだろ、とか男が言いがち。やれやれ、青春ラブコメってのはこれだから。俺はわからん。男だって言われないとわからん。

 

「ま、まあ!? 多少はあたしのことわかってんじゃん?」

 

例の如く腕を組んで顎を上げる。こいつ、このポーズ好きだな。何かの一巻の表紙でも飾ってるの?

 

「ここまで褒められて堂々としているなんて小町、尊敬ですよ」

「凄いよね」

 

由比ヶ浜、お前さっきから凄いしか言ってないぞ。語彙。

 

「じゃあ、まあ、あたしの番は終わりね」

 

次は雪ノ下の番だと促すように高坂の視線を受けた雪ノ下は、ふ、と視線を下げた。お前もそのポーズ多いよね。俺の評価は有耶無耶にされつつあるが、もうその方がいいだろうな。次いこう、次。

 

「私は……いいわ」

「遠慮することないじゃん」

「そうだよ、ゆきのん! 結構気持ちいいよ?」

 

由比ヶ浜は気持ちよかったのか。なんかこう、気持ちよくさせたと思うとなにかこみ上げるものがありますね? 由比ヶ浜より雪ノ下の方が感度がいい可能性もありますよ?

 

「高坂さんに比べたら褒める場所が少ないもの」

「そんなことないよ、ゆきのん! ね、ヒッキー?」

 

ハードルを上げるのやめてくれませんかねえ……。一般論はいらないとか縛りが増えているのよ?

 

「そうだな。貧」

「胸の話はいらないからね?」

 

由比ヶ浜はにっこりと首を傾げた。なんで「貧乳はステータスだ、希少価値だ」って言おうとしたことわかったの? でも言ってたら俺の命はなかった可能性もあるね? 由比ヶ浜さんは命の恩人かもしれないね?

 

「雪ノ下、は……そうだな頭脳明晰で冷静で冷たい印象を与えがちだが、実は情熱的で心も温かい、かな」

 

これは言っていても、上手いこと言った感じがある。これが褒め言葉査定ランキングだったら、絶対才能アリです!

小町も由比ヶ浜も、ほぉ~とかほぁ~とか感心したご様子。高坂はさっきから上の空だ。なんか目を閉じてずっと口をモニョモニョさせている。実は小町に腋をくすぐられてるのを我慢しているのかしらん。

 

「そ、その」

 

非常に言いづらそうに両手の指をもぞもぞとさせる雪ノ下。何かしら、感動しすぎてうっかり告白してくるのかしら。おいおい、よせよ。

 

「わ、私にはそのルックスの褒め言葉はないのかしら。ほ、他の二人には言っていたし、その、私はもちろんお二人に比べたらその、劣るとは思うのだけれど。でも一応その、一般的には可愛い方だと思うし……」

 

最初は上ずったセリフが、どんどんと尻窄みに小さくなっていく。

これはつまり容姿を褒めろということか? しかし一般論になってしまいそうな。元々は自信過剰女であった雪ノ下だが、流石に高坂に比べれば大したことはなく、いつの間にか自信なさげキャラに転向してしまったな。

自分が可愛いということを昔から自覚していたのに、由比ヶ浜のようなおっぱいやら高坂のような読モやらが登場してきたからちょっと自信無くなって来ちゃったのかしら。それとも世界一可愛いウチの妹のせいかしら。

 

それにしたって校内で指折りの美少女であることは疑う余地はなく、綺麗だなんて褒めてもそれこそ言わずもがなのことだ。天下一品を食ってスープが濃いと言うようなものだろう。

雪ノ下の全体をぼんやりと見ながら思案する俺を他所に、由比ヶ浜と小町が二人でなにやら興奮した様子で声を抑えて激論していた。

 

「ちょ、ゆきのん、今の可愛すぎるでしょ?」

「小町がお兄ちゃんだったら今ので鼻血吹いて倒れてますよ」

「やばいよ~、ゆきのん、今すぐ抱きしめて、カワイイを連呼したいよぉ~」

「ごみいちゃんに容姿褒められたいとか乙女すぎて……はぁ、尊い……」

 

お互いヒートアップしているが話はまるで噛み合っていないようだった。ほっとこう。俺は彼女の容姿を褒め称える任務に従事しなければならない。いや、なんだ。一般論を排除して容姿を褒めるって、完全に自分の好みを教えるようなものじゃないか。無理では?

 

「ご、ごめんなさい。いいのよ比企谷くん。難しいことを言ってしまって」

 

コレはまずい。見た目を褒めるのに熟考するというのは、ブスだと言ってるようなものだ。ええい、もう一般論だの客観論だのはどうでもいい、とにかく褒めろ。

 

「顎から首にかけてのなだらかなラインが綺麗だ。均整の取れたほっそりした身体が綺麗だ。黒くて長い髪が綺麗だ。笑うとえくぼが出来るところが可愛い。少し八重歯がのぞくところも好きだ。あと」

「も! もういいわ。 ありがとう」

 

雪ノ下は頬を真っ赤に染め上げ、両手でストップのサイン。ビデオ屋さんのこの先には進めませんというのれんに描いてあるあれだな。どうやら満足いただけたようだ。前から思っていたことを言っただけだがな。

 

「ヒッキー、本気すぎ……マニアックすぎ……」

「小町もこんなに詳細にじっくりと観察されてたと思うとちょっと怖い」

 

二人は引いていた。あれ? 雪ノ下も引いてるの? そういう意味でもう止めて! なの?

ちなみに高坂はいまだに目を閉じたまま、どこかにトリップしたままだ。透明なナーヴギアでも装着しているのかしら。フェアリィ・ダンスかしら。実は直葉なのかしら。

 

こほんとわざとらしく咳払いをした雪ノ下にみんな注目する。どうなのよ、褒められてどうなのよ。

 

「次は私の案でいいかしら」

 

話題を変えた!

まぁ、それはそれでいいか。俺も褒め言葉に対する賞賛が欲しいわけではない。

 

「私は、お手紙が欲しいわ」

 

は?

お手紙?

 

雪ノ下は思わせぶりに窓の外を見やる。

つられて俺たちも外を見る。気づけばもう夕方か。赤い夕日をバックにカラスが飛んでいた。吹奏楽部の練習の音もすっかり聴こえなくなっており、下校の時刻が迫っているようだった。

 

「メールやメッセージアプリによるコミュニケーションも嫌いではないけれど、直筆ならそれはなおさら嬉しいのではないかしら。特に一色さんのような女友達がいないタイプは」

 

それはお前もだろ、とツッコミそうになったが、俺も友達いなかったわ。てへへ。僕たちは友達が少ない。

 

「わー、それいい! 小学校のとき流行ったよね、交換ノートとか」

 

嬉しそうに共感を求める由比ヶ浜のセリフに賛同するものはいなかった。小町ですら目を背けている。

 

「あれ? あれ? やんない? やんなかった?」

 

いいんだ、由比ヶ浜。心配そうにするな。お前が正しいんだ。ただし俺の目を見るのはやめて。

 

「あー、やった、やったー」

「よかったー、だよね~」

 

由比ヶ浜と高坂がきゃぴきゃぴと手に手をとってキャッキャウフフしている。よかったね、ワンダーランドだね。リア充がもうひとり居て。

片やマジのいわゆるイケてるJKで、もう片方はエロゲー大好きこじらせ女子だけどな。これもうよくわかんねえな。

 

「比企谷くん、当然だけれど、便箋と封筒についてもその人を思って変えること。文字数は最低でも二千文字以上よ」

 

なにそれ? どこのルール? 小説家になろうでも二百文字あったら投稿できるんだけど? 封筒と便箋をそれぞれ買うのはいくらかかるの? ペンも買ったほうがいいの? 疑問だらけだが高坂が潮時と見たのか、席を立った。

 

「じゃあ、今日はここまでってことで」

「わ~、ヒッキーの手紙ってどんなんだろ~」

「お兄ちゃんから手紙貰うの久しぶりだな~」

「ちょっと? 小町にも送るの?」

「当然でしょう? むしろなんで普段から送ってないのかしら。生きていてくれてありがとうとか、生きててすみませんとか」

「思っても口に出さないのが兄妹なんだよ」

「思ってるんだ!?」

 

部室を片付けながら、俺たちはいつもどおりの会話を続ける。すっかり高坂も小町も奉仕部に居るのが当然になっていた。

そして、俺はこいつらに振り回されることも、言いなりになることも、当然になっていた。なんで、なんで忍者なんで?

そんなことを思いつつも、帰りにレターセットを買う場所と、どういうのが似合うのかを考えてしまうあたり、俺はどうも真面目過ぎる気がしてならない。

 

 

 

 




ようやく一旦は奉仕部の部室で四人がだらだらお喋りするだけの話を脱却したよ!
ずっと俺ガイルサイドの話が続いてるから俺妹ヒロインズ達との話も書いたほうがいいかしらん? どうかしらん?
なんにせよ感想をいただくのが嬉しくて書いてるようなものですから、本当に一言でいいのでいただけますと嬉しいです。
ゆきのん可愛かった?

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