他所の妹が小町より可愛いわけがない   作:暮影司

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スマホの向こうの高坂桐乃は頭の中がピンクになっている

高坂をどうやって誘ったものか。

 

兄貴と黒猫のために付き合ってくれ?

どっちもお前の大切な人だろうって?

どうなんだろうなあ、それでオーケーするならそもそも黒猫が直接言ってるだろ。

そもそもコールすることがもう怖い。「何?」とか言われそう。

なんせ向こうはラブレターを受け取った認識で、頭がピンクになっているわけだろ。どうなることやら……。

あれはそういうつもりじゃなかった、なんて言い訳できるのか?

そもそも高坂が俺の想定通りの言動や行動をするなんて仮定がおこがましいな。

こういうときはチャットが便利か。流れでなんとか誘えばいいだろう。

 

メッセージアプリを開き、とりあえず『よう』とだけ送ってみる。続いて何を書こうかと思う前に不思議な現象が発生した。

既読がついている。

どういうことだ?

これは会話をしている間に表示されるものでは?

これが送信した途端に既読になるというのは、俺との会話を開きっぱなしにしていることになるのでは……。

 

俺が続きの文章を送る前に『遅い』というレスポンス。遅いってなんだよ。

『何が?』

『連絡してくるの遅い』

 

意味がわからん。俺は「今日の夜、連絡するわ」みたいな謎のセリフは言わない。連絡が必要ならその場で言えばいいし。つまり連絡する予定などまったく無いわけで、遅いというのは何に対して遅いのか。

 

俺は『は?』のスタンプをタップ。なんかこのアプリを使いこなしている感じがしてよい。ちなみにスタンプはクソアニメと呼ばれたこともある妙な漫画のものだ。なぜか小町がくれた。俺がオワコンとでも言いたいの?

 

『何あんた、こっちから連絡するとでも思ったワケ?』

 

いや、そもそも連絡する必要性を感じないわけだが。俺が今送信したのは黒猫の脅しに屈したからであって、そうじゃなかったら今日コンタクトを取る予定はありませんよ?

理解出来なさすぎてどうしたものかと思案していると次のメッセージが表示された。

 

『あんたがあたしと連絡を取りたくて仕方がないのはわかるけど、こっちは付き合ってあげるだけなんだから』

 

え?

マジでどういうこと?

なぜ俺は高坂と連絡取りたくて仕方がないの?

残念なことに誰かと何の理由もなく連絡を取りたいなんて気持ちになったことが生まれてこの方無いんですけど。マジで残念だな。

 

『で? 特に用事もないのに連絡してきたってワケ? 本当は声が聞きたいけど勇気がなくてチャットなワケ?』

 

なにこいつ、俺のことを乙女だと思ってんの? ポケベルが鳴らなくての歌詞なの? ポケベルのことは詳しく知らんけど。

これが頭の中がピンクってことなのかしらん……。

声が聞きたいわけじゃないが、ここまでチャットで会話してれば今更勇気がないなんてこともないので、通話してみるか。正直ぽちぽちするのもかったるい。こちとらぼっちだからスマホで文字を打つのは得意ではないからな。

 

ぴぽぴぽぴぽん♪

 

「何?」

 

ここまで来てそれを言うのかよ。最初は想定してたが、今となっては想定外だよ。もはや通話を催促されてるかと思っていたんだが。

 

「いや、文字打つより早いかなと思ってよ」

「ふ~ん。あっそ。利便性ね。はいはい」

 

どうやら選択肢を間違えたらしい。なんという不機嫌さなのか。こいつギャルゲーよりわかりやすいぞ。

 

「いや、本当はお前の声が聞きたくて仕方がなかった。実は声があずにゃんみたいで萌え萌えだと思っていた」

「え? え? あずにゃんペロペロ!? マジ!?」

 

口調が大歓喜に変わった。どうやら好感度がめちゃくちゃアップしたようだ。アイリスやコクリコをかばうしたときよりもわかりやすく喜んでいる。やっかい極まりないやつだと思っていたが、実はちょろいのか?

なんにせよこいつの機嫌が悪いのは危険だからな、ご機嫌をとって取りすぎるということはないだろう。

 

「おう、こんな大人気声優みたいな声が聞けて俺は幸せものだ。桐乃がもしネットラジオやってたら課金して全部聞く」

「そっかそっかー。ま~ね~、モデルなのにラジオもやっちゃうとか天は二物も三物もあたしに与えすぎだよね~」

 

別にウソは言ってないが、こいつは遠慮とか恐縮とか謙遜という概念があるのだろうか。

 

「まぁそうだな。それでだ、えー」

 

明日デートしようぜとすぐに誘える八幡様ではないので、時間稼ぎのセリフになってしまう。

 

「何? さっき放送してた可愛ければ変態でも好きになってくれますかについて語り合いたいって? わかる~。古賀ちゃんも可愛かったけど小春ちゃんもいいよね~。もちろん一番は瑞葉ちゃんだけどぉ~」

 

うむ。高坂は平常運転だな。可愛い後輩とロリな先輩と妹をチョイスしたか。って別にそんな話をするつもりではなかったが、一旦話を合わせよう。

 

「俺は沙雪先輩派だな」

「へー。あんたああいうのがいいんだ。やだやだ男子は」

「別にオープニングで胸がぷるんぷるん揺れるからじゃねえよ」

「やっぱりそこに注目してんじゃない!」

「体中が大好きって叫ぶんだからしょうがないだろ」

「キモ! はー、やだやだ」

 

自分から話を振っておいてキモいとは相変わらず無茶苦茶だな。しかも沙雪先輩派は王道だろ。さらに俺は自己犠牲的行動をすることがあるが別にドMじゃないので、たまには美少女を奴隷にしてみたい気持ちがないわけではない。

しかし、こんな会話をしていた方が俺たちらしいというか、なんというか。話しにくかった雰囲気は霧消し、十年来の友人のように会話が進む。十年来どころか友人なんて居ないから推測ですけどね?

 

「あんたさ」

「なんだ」

 

流れに乗ってはいるものの、少しだけ口調が変化した。少しだけ勇気を込めたような、そんな息遣いを感じた。

 

「あんたは、変態でも可愛ければ好きになるの?」

 

これはそのままの意味なのか。言葉通りに受け取って答えて良いのか。

それとも……高坂は自分が変態であることを気にしていたのか。

 

「桐乃……確かにお前は変態だが」

「はっ、はあああああ!? ちがっ、違うし! あたしは変態じゃないし!」

「無理するな。幼女によだれを垂らしてハァハァしているやつのことを日本では変態と呼ぶんだ。お前の中身は秋山君と同じだ」

「あたしは小春先輩が年上でも全然問題ないし! だから秋山君とは違うし!」

「いやそれ、むしろ上位互換だから。ロリババアキタコレって言ってるだけのキモオタだから。変態だから」

「あたしが、変態……」

「でも気にするなよ、お前は自分の好きを貫けよ」

「なんで変態呼ばわりされた上に慰められなきゃなんないのぉ!?」

 

どうやらまた選択肢を間違えたらしいな。

 

「すまん、さっきの質問はお前のことを言ってるのかと思った」

「それって、あたしが変態だけど可愛いってコト? そんであんたが、八幡が……あたしを好きになるかってコト?」

 

そういうことになってしまった。とんでもない質問じゃねーか。

 

「……」

 

沈黙に交じるちょっとした息遣いだけでも心拍数が上がる。変態美少女だけが出てくるラブコメからこんな話に発展しようとは原作者や監督も思うまい。もちろん、俺もだ。

こんなの、なんて答えればいいんだ。

チャットなら数分待つのも平気だが、通話で無言じゃ三十秒も持たない。

 

「ま、聞かなくてもわかるけどね」

 

これは助けてもらったのか?

それとも俺の書いた手紙はその確信を得られるような内容だったのか。もはや何を書いたのか覚えてねえよ……。

 

「それで? あんたのことだからホントは用事があったんじゃない? ひょっとしてデートのお誘い?」

「む」

 

冗談半分に言ったんだろうが、それを言われてからデートに誘うのが一番恥ずかしいだろ。

ましてや、ここでダブルデート作戦のためだとかいう説明をしたところで「このデートの誘いは、あくまでもお前の兄貴や黒猫のためだから! べ、別に桐乃と一緒にデートするための方便なんかじゃないんだからねっ!?」って言ってるようなもんだ。俺がツンデレとか気持ち悪すぎる。

ここは素直に、スムーズに進行してみるか。

 

「そうだ」

「んなっ!?」

 

なんだその意外そうな反応は。言ってみただけなのか?

 

「デートしてくれ、明日」

「え? え? マジ?」

「マジだ」

「んー、明日はいろいろ忙しいんだけど」

「そうか、それじゃ諦める」

「こら! すぐに諦めんな!」

「諦めるのが得意なんだよ」

「粘んなさいよっ! すがんなさいよっ!」

「頼む。明日、どうしてもデートしたい」

「ん、う~~んッ、かぁ~~~~っ! しっっっっかたないわねえ~~~! しょうがないからデートしてあげる~~~~!」

「悪いな、忙しいのに俺のわがままに付き合ってもらって」

「ホントよね~! マジ、あたしって可愛いだけじゃなくて優しいっていうか? 八幡って世界一の幸せモンって感じよね~!」

 

うん、こいつ可愛くねえと思ってたけどどうやら実はちょろいようですね? 高坂運転免許2種の試験に合格できそうですよ? 良かったな黒猫。

 

「んじゃ待ち合わせ場所とか後で送っとくわ」

「うん、うん! 楽しみにしてるね!」

 

ぷつっ。

 

は~。

可愛くねえけどちょろいヤツだとか思ってたのに。

お前はいやいや仕方なく俺に付き合ってくれるんだから、楽しみにしてるねとか最後に言っちゃ駄目だろ……。

 

 





言うほどピンクでもなかったかもしれない……。

高坂ちょろ乃さん、どうでしょうか? 

1.こんなの桐乃じゃねー! もっと無駄にプンスカしろ!
2.うんうん、これも一つの桐乃だね!
3.もっとチョロくなるが良いぞ、フハハハハ!

次回からデートっす。

あ、音泉の変好きラジオおすすめです。

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