他所の妹が小町より可愛いわけがない   作:暮影司

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デート場所のおもちゃ売り場に思わぬゲストがやってくる

週末の朝、俺は高坂とのデートの待ち合わせ場所である千葉駅の改札にやってくると、すでに高坂は待ち構えていた。

携帯をいじるでもなく、ピンクの革の腕時計をちらちら見ながらキョロキョロしている。

ゆっくり近づくと、一瞬だけぱあっと表情を明るくしたが、すぐに不機嫌な顔に。情緒不安定か? なんかのサプリメントでも買おうか?

 

「おっそい! レディを待たせんな!」

「いや、十五分前なんだけど」

「はぁ? あたしがうっかり一時間早く来ちゃったときのことを考えて二時間前から待っときなさいよ」

「相変わらず無茶苦茶な理不尽さだな……うっかり遅くなるのはわかるんだが、早く来ちゃうことある?」

「な~んか早く起きちゃって~、家に居ても落ち着かなくて~」

 

うっかりじゃねえだろ。どう考えても楽しみにしすぎだ。遠足の日に早く登校しちゃうガキみたいじゃねえか。これ、今から実はダブルデートなんだよねとか言ったらどうなるか……。やっぱり全部偶然で押し通そう。俺と黒猫が結託すればなんとかなるだろ。

 

「それにしても派手な格好だな」

 

高坂はデカいイヤリングを付け、派手なネイルアートをして、首からなにかデニムの短いスカートに黄色のタンクトップ、革のベストを合わせていた。靴はなんだ、よくわかんねえけど少し足のついたサンダルみたいなやつだ。俺はあんなほとんど裸足状態の靴に高い金を払うのは納得行かないが。

 

「そう? 結構ふつーじゃん?」

「俺には普通がわかんねえ……周りの奴らも注目してるだろ」

「はー、八幡は全然わかってない。みんなが見てるのは派手だからじゃなくて、あたしが綺麗で魅力的だからよ」

 

いや、まあそりゃ志茂田景樹的な意味で注目してるんじゃないことはわかっていたが、ここまで言い切られるとこちらとしても二の句が継げない。

困ったときは謝っておく。そいつが俺のやり方。

 

「冴えないのが隣ですまんな」

「んなことないわよ、五十点くらいあげる」

「それ合格なの? 不合格なの?」

 

微妙な点数で評価されつつも、移動を開始したらすぐに腕を取ってくるあたり、ご機嫌のようだった。

五十点の男にそんなにくっつくなよ、俺みたいに捻くれてるやつならいいが純情なやつが勘違いして好きになっちゃったらどうすんだよ。

それにしても肘のところに当たってるのって、ネックレスの金具だよな? ブラジャーじゃないよな?

 

「それで? どこ連れてってくれんの?」

 

ランチの店を選ぶ際にショッピングモールのフードコートで黒猫に目撃される筋書きなので、一時間くらいは時間をつぶす必要がある。

 

またゲーセンでも……いや、今ゲーセンに行ったら二人でプリクラを取っちゃうかもしれない。一枚のプリクラのせいで人生狂い始めた俺としてはもうゴメンだ。

 

「ちょっと見たいフィギュアがあるんだが」

「お、いいじゃん。メイト?」

「ヨドバシだ」

「おけ」

 

アニメショップもだが、家電量販店のおもちゃ売り場もオタクとしては楽しい場所だ。子供向けのおもちゃとともにオタク向けにもディスプレイされている。ゾイドとかガンプラのジオラマなんて、「ほら、男の子ってこういうのが好きなんでしょ?」って感じで飾られており、「好きでしゅう」と臆面もなく言ってしまうレベル。主に材木座が。

 

「お、オヨルンじゃないですか」

「うんうん、いい感じー。こっちもレインボーパフューム行くにゃんって感じで尊い~」

 

当然俺たちは男の子の売り場ではなく女の子向けの売り場に直行だった。高坂はライダーに変身できるイケメンなどにはまったく興味がない。二次元の少女を好む女子高生だ。

ウィンドウショッピングよろしく展示されているものを見ながらうろうろする。

 

「お、オリジンのジオラマあるぞ」

「ロリテイシアちゃんは可愛いけどね」

 

高坂はブレない。モビルスーツでは金髪ロリに勝てないのだ。わからんかなあ、このグフの良さが……。まぁグフのパイロットもロリテイシアちゃんにデレデレだったけどな。

 

さて次は何が……

 

「あれ!? 先輩じゃないですか」

 

うわっ、この心がぴょんぴょんしない声は!?

 

「何やってるんですかー、せんぱー……って、え?」

 

一色いろは。どうやら俺を見つけて無邪気に寄って来たのち、隣に高坂がいることに気づいたようだ。控えめに言って最悪だな。

 

「あ、一色会長でしたっけ。ども」

 

高坂も今更猫をかぶることはしないようだが、仲良くもないのでこんな感じ。逆に彼女っぽくなっちゃってるから。デート中になんか彼氏の友だちにあったみたいな感じになっちゃってるから。

 

「こ、これって……」

 

むむ、とわざとらしく顎をさすって考える一色。逃げてえ。

 

「ちょっと会長、少し待っててもらっていいですか」

 

高坂は一色を足止めすると、プラモデル売り場の棚に入り込み、手だけで俺を呼んだ。

 

「どうした」

「あのさ、あの娘を喜ばせるってやつ、もう終わってんの?」

「……まだだ」

「あっそ。ん~、じゃあ今からデート誘ったら?」

「は!? なんでそうなる」

「絶対喜ぶから」

「なんでだよ。それにお前はどうすんだよ」

「あたしは、そうだな、隣で悔しがったり、羨ましがったりしてあげる」

「は? 何言ってるの?」

「いいから、あたしに任しとけっつーの、八幡」

 

何故か、親指をぐっと立て、歯を見せて笑う高坂。マジで意味分かんないんだけど?

高坂はとててっと一色の前に行くと、よそ行きの仕草なのかちょい媚びの仕草で話しかける。

 

「会長さん、今ってお忙しいですか?」

「えっ? いや、まぁ機種変しようかな~と思って見に来てただけだから暇かな……」

「だったら、今日一緒に遊びません?」

「え? え? そうなの?」

「いや~、実ははちま……比企谷先輩が誘えって」

「ええっ!?」

 

何言ってるの?

そして、なんなのこの高坂の口調。気持ち悪いんですけど。

俺も高坂と一色に近づくが割っては入れない。ちらちらと高坂に視線を送る。どういうつもりなの?

 

「あー、ごめんごめん言わない約束だったー、比企谷先輩が一色会長と一緒に遊びたいことは内緒であたしが誘う話だったのにー。ごっめーん、比企谷先輩」

 

なにこの棒読み。どういうシナリオなんだよ。あと後輩が普通に喋ってるだけなのに違和感がすごいのどういうこと? 高坂は誰が相手でもタメ口で話してるわけではないだろうに。比企谷先輩って呼ばれるのがこれほどむず痒いとはな。

 

しかし、俺が一色を誘ったらなんで喜ばせられると思ってるんだこいつ……ああ、そう言えば、高坂は一色が俺のことを好きだと思いこんでいるんだったな。

その前提であればこの作戦を立てるのも無理はないが、間違っているんだよなあ……。「えー、なんで先輩と? レンタル彼女したいんだったら事務所通して下さい」とか言いかねないんだよなあ……。

 

「へ、へ~。先輩、そんなに一緒に居たいんですか~。高坂さんもいるのに~」

 

おや、表情からするとそんなに悪くない。

あれ? まさか成功してるの? 

これはあれか、俺が今高坂と二人きりなのに、そこに一色がいたほうがいいと判断するってことは、読者モデルである高坂と同等かそれ以上に女の子としての魅力があると判断したと認識しているからかもしれん。

 

例えば、三浦が葉山と一緒に居たのを俺が見つけたとする。言うまでもなく葉山の方がイケメンでモテる。

で、三浦が「あ~し、ヒキオも一緒に居てくれたら嬉しいかも」とか言ったとするね。

そのときの俺の気持ちを考えると……これ駄目だ、ミスキャスト。危うく妄想だけであーしさんに惚れるところだった。あぶないあぶない。

 

よく考えたら今のはフェアじゃないな。同じレベルで考えるなら、葉山が俺に言うべきだ。

「優美子が、君とも一緒に遊びたいと言っているんだが、どうかな」なんて言うんだな。いかにも言いそうだ。俺はウソつけと思いながら三浦を見るね。

そしたら、あいつが頬を赤らめて、髪をミョンミョンさせてるわけだな。

駄目だ、やっぱり惚れる。多分、ほとんどのやつはイチコロだぞ。あいつ少しでもデレたら破壊力がすげえな。そこでスカートをちらっと持ち上げて誘惑したら完全に落ちる。それは俺の妄想だけで本当にやってるの見たこと無いけど。

 

まぁ、俺の三浦への好感度ほどじゃなくても、やぶさかじゃないだろうことはわかった。

あれ、こいつ葉山より俺のほうが好きなのか? マジ?

ってだけで、かなり嬉しいもんな。まして高坂は読モだ。社会的に可愛いと認められている存在だ。俺がどうこうってことじゃなくて、高坂という比較対象があることがデカいんだろう。

 

「しょうがないですね~」

 

了承してしまったね。全然仕方なく無さそうに了承してしまったね。

意外にも高坂の作戦が成功したわけだね。でも、この後どうすんの?

一色を見ると、テレくさそうにもじもじした後、ぽむっと手を合わせて提案した。

 

「じゃあ、お昼ごはん行きましょうよ~。実は朝食べてなくってペコペコなんですよ~」

「あ~、それがいいね~、比企谷先輩、どこ行きます?」

 

高坂は完全に引き立て役に回ろうということか。別に八幡って呼び捨てにしても問題ないと思うが、一色が嫉妬するとでも思っているのだろう。するわけないのにな。

 

「またあのラーメン屋さん行きます? 先輩」

「あ? ああ、あそこは今日は行かない」

「へ~、そうなんだ。高坂さんにはあの店、まだ連れてって無いんですね」

「まあな」

「ふ~ん。……ふ~ん」

 

なんだ、一色のやつ。今の会話でなんでそんなに笑顔になる。

 

「ふ~ん」

 

高坂は同じセリフだが、どう見ても不機嫌だった。なんでそんなに……と思うが、まぁこいつはデフォルトで不機嫌みたいなもんだな。キニシナイ!

 

「それで? どこ行く予定だったの、あたしと」

「フードコートだ。ショッピングモールの」

「なんで? あたしにはまだ行きつけのラーメン屋にはまだ連れてけないっての?」

 

うわー、なんだよ高坂。

なんでこいつこんなにめんどくさ……いや突っかかってくるんだ。ん?

そういやさっき言ってたな。隣で悔しがったり、羨ましがったりしてあげる……そういうことか。こいつもよく考えてるんだな。

 

「まだ駄目だな。一色とはデートだったからな」

「ほ、ほお……一色会長とデートしたことあるんだ、そいであたしとは無いんだ」

「ないだろ? 今日のだってデートじゃないしな」

 

本当のところはこれこそがデートで、一色のはデートの予行練習なわけだが、ここは高坂の立てた作戦に乗っ取ろう。

 

「ぐぬぬぬ」

 

おい、芝居にしちゃあ随分マジで苛ついてない? それとも実は読モだけじゃなくて女優もやってたの?

 

「ふふ~ん、高坂ちゃん、今度一緒に行こうね~?」

 

一色は完全に調子にノッてるし。すげーなこいつ。名字にちゃん付けだよ。昭和のプロデューサーか?

にしてもすげえよ高坂、お前はヤン・ウェンリー並の策略家だよ。ミラクル・きりりんだよ。お前のぐぬぬで一色は大喜びだ。

 

「ど、どうも……」

 

高坂の顔がひきつっている。ほんとに演技なんだろうな……?

 

「あ、じゃあ先輩行きましょうか、フードコート」

「お、おう」

「みんな大好き、フードコート~♪ 無難な選択、フードコート~♪ デートじゃないからフードコート~♪」

「くっ、ぐぐぐぐ……」

 

こんなに嬉しそうにフードコート行くやつも、こんなに嫌そうにフードコート行くやつも見たことねえよ。それにしても高坂の演技は鬼気迫るものがありますね?

 

意気揚々の一色を先頭に俺、高坂と続くパーティはフードコートを目指す。

しかしどうしたものか、フードコートには黒猫と高坂の兄貴がいるはず。ここに一色が存在しているのは想定外だ。

巻くか!?

いや、それをしたらプリクラも撒かれることになる。

 

とりあえず黒猫に会って、作戦を立てよう。あいつもきっと、名軍師だと思うんだ。

 





いや~、まさかこうなるとは思わなかったのではないでしょうか。
ダブルデートの前にやってくるんですよ、そういう役どころなんですよ彼女は。私にとって。

さて、ここで聞いておきたいのは、もちろんこのことです。

高坂桐乃と一色いろは。

今回可愛かったのはどっちでしたでしょうか?


あと宣伝。オリジナルで「女子小学生に大人気の官能小説家!?」っていうバカでエロいロリコメ書いてます、よかったらぜひ。

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