他所の妹が小町より可愛いわけがない   作:暮影司

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フードコートで待つ高坂京介はうどんを啜っている

フードコートに向かう道中も、一色はノリノリだった。

 

「先輩、せんぱ~い」

「なんだよ」

「どうですか、今日のコーディネート」

 

え、お前はコーディネーターだったの? ナチュラルかと思ってたが……。

一色はぴらぴらぴろーんとスカートを動かした。最愛ちゃんみたいにぱんつを見せてくれるのではなく、どうやら服装についての感想を求めているようですね。コーディネートってファッション的な意味か。そう言えよ。言ってるのか。

 

「あー、似合ってるんじゃねーの」

「ふんふん。でも桐乃さんも似合ってますけど?」

 

あー、そうか。ここは高坂と比較した上で圧勝させないといけないんだな。

 

「高坂も似合ってるが、派手すぎるからな。正直男としてはお前みたいないかにも女の子って感じの服装の方が可愛いかな」

「へー、へー! そうなんですかぁ~、桐乃さんよりあたしの方が可愛いんですね~、先輩の好みなんですねぇ~」

「くっ、ぐぐぐ……そ、そうよね~、男はそっちのほうが可愛いって思うよね~……そういうクソビッチみたいに男に媚びたやつが……ッ」

 

作戦通り、一色に対して悔しがる高坂だが、なんか最後に小声で付け足すのやめてくれないかな……俺にしか聞こえてないと思うけど……。あとどっちかっつーと見た目ビッチっぽいのはお前の方だよ。

 

「リップはどうですか?」

 

リップ?

リップスだったら舐め回しに気をつけた方がいいが、なぜ突然ドラクエの話を。

ピンときてない俺に気づいて、一色は唇を少し突き出し、ちゅっと音を立てた。こいつあざといにもほどがあるだろ。あれか、唇に塗るやつだ。俺も冬場には使うが、ひび割れを防ぐためではないらしい。

 

「ぎりりりりりり」

 

対する高坂は歯ぎしり。まったく可愛くない。

 

「正直俺にリップのことはわからん」

「じゃあ、もっと近づいて、よーく見てもいいですよ」

 

確かに唇を見るとテカテカしているな。唐揚げを食べたからじゃないんだな。うっすらピンク色だ。

 

「綺麗だな」

「うわー、先輩ってそんなストレートに褒めることができたんですね。意外です」

「それにしてもお前の唇って薄いのな」

「え、ええっ、そうですか? ほんとによーく見てるんですねっ」

「ぐ……ほ、ほーんと羨ましいなァ~」

 

例によって高坂軍師は羨ましがっているようだ。高坂が別に厚いわけでもないし、薄いほうがいいというわけでもないだろうがな。でもここで比較して高坂が下だと名言しなければならない。それが作戦だからな。

 

「高坂は口紅か? ちょっとケバいな」

「ケバ……だ、だよね~。あたしケバいよね~」

 

あはははーと軽快に笑い飛ばしてはいるが、口の横が引きつっている。読モは女優でないということだろう。

しかし口紅をしていても浮いてないというのは美人だということなんだろうがな。まあ、俺が言うまでもない。

 

「桐乃さんも素敵ですよぉ~、ちょ~っとあたしの方が先輩の好みだっていうだけですよぉ~」

「あ、あ、あ、あ、そう!? あ、あ、あ、あんがとね?」

 

どうした高坂。じつは舐め回し攻撃くらってたのか? 明らかに状態異常だぞ。

 

意気揚々と歩く一色と、何かに取り憑かれてしまったかのような高坂との三人パーティーはようやくフードコートに到着。

 

黒猫があらかじめソファー席に荷物を置いて場所取りしてくれているので、そこに誘導。

目印として使われていた、中二病でも恋がしたいのハンカチをそっとポケットに。それにしてもこのタイトル、黒猫さんの本音みたいですね?

俺は変装して座っている黒猫と背中合わせになるように陣取った。二人は俺の前にいるので、内緒話は可能だ。おそらく黒猫の向かいには高坂の兄貴がいるはずだ。

 

早速、黒猫からぽしょぽしょと声が漏れる。

 

「何をやっているのかしら。桐乃をデートに誘っておいて他の女を連れてくるとか、新垣あやせに教えたら殺されるわよ」

「ヒエッ……あいつには言うな。いや、言わないで下さい」

 

冷や汗が流れる。こいつはなんでこう恐ろしい発想ができるんだ。

とりあえず高坂はおとなしくしており、黒猫や兄貴には気づいていない。

みんなで席に座ったところで、一色が顎を両手に乗せて俺を見る。いちいちあざといね。

 

「どうします~? 先輩~?」

 

どうしようね。マジでどうしようね、いろはす。

三人でフライドチキンを齧るような感じはまったくしませんね?

 

「トイレ」

 

またも黒猫に耳元で囁かれる。いや、トイレだったら勝手に行けよ。なんで俺に言うの。

そんなことより他の奴らに聞こえないように二人で作戦会議したいんだけど。適当にトイレに行くとか言って抜け出せないのかよ。

……あ、黒猫さん、意図がわかりました。

 

「すまん、実は漏れそうだったわ。とりあえずトイレ行っていいか」

「どうぞです」

「そりゃ漏らしていいのは幼女とメイドさんだけだかんね」

「悪いな」

 

幼女はともかくメイドさんもフードコートでお漏らししていいわけじゃないなどと、高坂にツッコミを入れてる場合じゃないので、そそくさとトイレ方向に。

トイレに行く途中の廊下で待っていると、黒猫がやってきた。よかったー、あってたー。

 

「バカなの? 死ぬの?」

 

いきなり容赦ねえな。

 

「ごめんね? 仕方なかったんだよ」

「五人でデートする気?」

「いや、すでに限界だ」

 

現状ですら高坂の負担が大きいし、借りた恩も大きい。そして俺の胃が痛すぎる。

 

「昼飯食ってる間に、一色はなんとかするから」

「そう。じゃあうまくやって頂戴」

 

俺たちは連れ立って戻ろうとしたが、途中で足が固まった。

 

「あ」

「なっ」

 

そう、俺たちが席を立ったことにより、高坂の兄貴と高坂はお互いの顔が見える状態になっていた。黒猫軍師の策はダメダメだったな。

なんとなく俺と黒猫はウォーターサーバーの影から様子を伺うことに。

 

「あ、あ、あんた、なんでこんなとこに。何やってんのよ」

「何って、うどん食ってんだけど」

「そういうことじゃないっつーの!」

 

釜揚げうどんを平然と啜っているのが高坂の兄貴か。なんつーか全然似てないな。俺と小町ですらアホ毛と言う共通点があるのに、何一つ似てないぞ。

しかもランスみたいな俺様系主人公だと思ったのに、恐ろしいくらい普通の人だ。強いて言えば髪型がなんか変なことくらいか。いや、俺が言う筋合いじゃねえけど。

 

しかしまあ、高坂兄妹の雰囲気もよくある兄妹というか、元恋人同士にはとても見えない。これだったら俺と小町のほうがよほどラブラブだな。

 

兄妹ご対面の様子を見て、一色はしばらくキョトンとしていたが、やおら立ち上がると少しキョロキョロしてから二人を置いて歩き始めた。

 

スタスタと一直線に俺のところまでやってきて、俺の服の袖を掴むとトイレの方に強制連行。

黒猫はジト目でお見送りしてくれた。まぁ助けて欲しいとは思わないけどよ。

 

「先輩、予定外のことが起きちゃいましたね」

「お、おう」

 

どれの事が!? と思うがとりあえず話を合わせておこう!

 

「先輩、あたしを喜ばせようとサプライズを仕掛けてくれたんでしょう」

 

え?

 

「桐乃さんと一緒にあたしに会いに来て、桐乃さんよりもあたしを褒める。なかなかいい作戦でした」

 

あれ、こいつ今日会ったの偶然じゃなかったと思ってるの?

偶然だよ?

 

「さすがにあたしの方ばかりチヤホヤして桐乃さんが怒らないわけないですよー。あれって協力してくれてたんですよね」

 

そこは合ってる。すごくそのとおり。気づいていたのか、いろはす。

 

「でもまぁ、わかってましたけど、正直、楽しかったです。愉快痛快ってやつですね」

「そりゃよかった」

「あと、やっぱり先輩って褒め上手ですよね」

「思ったこと言ってるだけだけどな」

「わー、本当にお上手」

 

目を丸くしてぱちぱちと小さな拍手をする一色。ほんと、あざといね。

 

「それにしてもまさか桐乃さんのお兄さんと出会っちゃったのは想定外ですよね。このまま続けたらブラコンと噂のお兄さんに先輩が何されるか」

 

お、おう。そういうふうに捉えてくれたのか。

お前が偶然で、こっちは必然なんて真実は墓まで持っていこう。

そして俺が恐れているのは兄貴じゃなくて新垣あやせだ。

しかしこいつが俺の身を案じてくれるとは思わなかった。

 

「だからもう十分です。これはお返しします」

 

念願のプリクラを手に入れたぞ! 

長かったね!

なんか知らないけど、俺の考えたサプライズなおもてなしだと思ってくれたみたい! すごいよきりりん! ミラクルきりりん!

 

「じゃあ、このまま帰りますんで」

「そうか? なんか悪いな」

「いいえ~、気分が良いまま帰れてラッキーですよお~♪」

 

そう言うと手をひらひらとさせて去っていった。

正直、助かったな。

 

安堵して高坂のもとに戻ると、周囲の家族連れがすっかり居なくなるくらいヒートアップしていた。

 

「ほんと可愛くねえー! そんなんだから彼氏も別の女のところに行っちゃうんだよ!」

「ち、違うかんね! あいつは、あの女のことは理由があって!」

「どうせ比較して向こうの方が可愛いって思ってるよ!」

「ちがっ、違うもん! それは作戦で……作戦だもんね!」

「そりゃどんな作戦だよ! どう見たってさっきの彼女の方が女の子っぽくって可愛いじゃねえか! お前はケバいんだよ!」

 

最悪の兄妹喧嘩だった。

おいおい、どうなってるんだよ。

 

「黒猫、聞いてもいいか」

「何も聞かないで頂戴」

 

黒猫はすっかり、げんなりしていた。

でも黒いカレーにナンを浸しながら食っている。肝が据わってますねえ。

 

「……や、やっぱりさっきのって本音だったのかな~、ケバいのかな~、可愛くないのかな~」

 

兄貴相手に啖呵を切りまくっていた高坂は、一気に意気消沈。なぜなら高坂の兄貴が言ったことはさっき俺が言ってしまっていたからだ。もちろん、あの作戦実行中でなければ言わないことだが、まったく思っていなかったわけでもない。

高坂の兄貴は紅生姜の天ぷらにだしソースをかけて頬張っていた。高坂相手にここまで出来るとはさすが兄貴だと思うが、なにやらこの状況は俺にとっても面白くないな。

 

「よし」

 

俺は自分の頬をパンと打って気合を入れる。今俺に必要なのは、勇気。少しばかりの勇気だ。

 

「俺も昼飯買ってくるか」

 

勇気を出して、皿うどんを注文しにいった。実は食ったこと無いんだよな、皿うどん。お酢じゃなくてウスターソースかけるんだろ。すげー勇気いるわー。

 

ほら、腹が減っては戦はできぬというし。高坂にも飯を買ってきてもらわないといけないしな。

 

 





ついに登場した高坂京介。
八幡と京介が交差するとき物語は始まる……んだろうか。どうなんだろうか。

あとフラグの一切立つ可能性のない黒猫に需要はあるんだろうか。

そして、チョロ乃、ぐぬ乃に続いて、しょげ乃は有りなんだろうか。

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