あやせと黒猫はわかるけど、京介を待ち望んでいる読者様が多いのが意外でしたね。
そんなわけで結構出番あります。
俺があんかけ野菜のたっぷり乗ったぱりぱり麺の皿を持って返ってくると、高坂は不在だった。
高坂の兄貴と黒猫がソファー席に並んで座っていたので、黒猫の向かい側に腰を下ろす。
「桐乃に何も言っていないの?」
「言ってない」
短く返事してから、ふーふーとあんかけを冷まし、口に入れる。熱い! でもうまいな。
やれやれと言わんばかりにふうとため息をつく黒猫。ごめんね。
京介氏はもう食い終わっているようで、スマホをいじっていた。
黒猫は食うのが遅いのか、まだナンをちぎっている。
「黒猫は何て伝えてるんだ? その、京介氏に」
俺がそう言うと、高坂京介は俺をちらりと眺める。
「京介氏、か。沙織みたいだな」
「沙織バジーナさんのことですか」
「知っているのか、ええと」
「比企谷です」
「比企谷くん、でいいかな」
「うす」
年上の、大学生の男。しかもあの高坂の兄貴。
しがない男子高校生からすると身構えてしまうような大人ではあるが、沙織の友達だと思うと途端に近く感じる。
黒猫は静かに、ひたすらカレーを浸したナンをかじっている。紹介とかしてくれないんですね……。こっちはぼっちなんだからそういうところケアしてくれないと困りますよ?
「桐乃だけじゃなく、黒猫や沙織とも遊んでくれてるのか。ありがとな」
意外すぎることに爽やかな顔でお礼を言われた。なんとなくマウントを取られたような気もする。
俺の友達と遊んでくれてありがとうなんて俺には一生縁がないな。友達がいないから。
俺の妹と一緒に遊んでくれてありがとうも俺には一生縁がなさそう。小町に近寄る男にお礼を言うなどありえない。
つまりはやはり余裕のある大人の男ってことだ。俺とは違ってな。
「しかし桐乃と一緒に遊んでいるところにたまたま会うなんて奇遇だな」
……をい。
「黒猫さん?」
「何も言ってないわ。文句ある?」
無いけどさ……。さっき心で謝っちゃったのを返して欲しい気持ち。
少しは悪いと思っているのか、黒猫は自分の皿の玉ねぎのピクルスみたいなものを、俺の皿の横に置く。
「あげるわ」
いや、これ単に嫌いなだけだな。嫌いなものを押し付けてるだけだな。猫だからネギが苦手なのかもな。
そういうのは隣の彼氏にやってくんない? うどんには合わないと思うけどさ。
カレーの福神漬の要領で皿うどんと一緒に咀嚼するとエスニックな風味に変身。あんかけの甘さにアクセントがついて悪くない。
「で、どうすんの」
「……どうしたらいいかしら」
軍師黒猫はどうやら知力がなかったようですね。周瑜くらいの期待があったのですがどうやら魯粛くらいですね。諸葛亮の引き立て役ですね。
「桐乃が返ってくる前に、兄貴に全部言っちゃおうぜ」
「だ、駄目よ」
「なんで」
「……恥ずかしいから」
口を尖らせて、うつむく黒猫。こやつ、役に立たんぞ。マジ魯粛。
わかった、わかったよ。
「京介氏、お願いがあるんだが」
「なんだ? あやせのこと以外ならいいぞ」
あやせは高坂の兄貴からも恐怖の対象なのか……どんだけだよ。
「実は、今日は俺と桐乃の初デートなんだが、正直扱いが難しい。ここは四人でダブルデートということにして貰えないでしょうか」
軽く頭を下げる。
黒猫、いつか恩返ししてね?
「ほ、ほ~。桐乃とデートねえ」
動揺を隠せない京介氏。
どうやら黒猫と一緒にダブルデートできることよりも俺と高坂がデートすることの方がショックであるらしい。
「あれ? まさかまだ実妹エンドを諦めてないんすか?」
「んなわけねえだろ~~~!?」
あやしい。京介氏はあやしいな。
俺の腐った目がますます細くなるが、黒猫もその涼やかな眼を半分閉じる。
「京介?」
「違っ!? 違うぞ、黒猫。俺は別にあんな可愛くない妹のことなんか」
「あんだって!?」
一番厄介なタイミングで高坂が帰ってきてしまった。トレイに乗っているのはたこ焼きとアイスクリーム。
「よかったわね、あなたのお兄さんはまだあなたとのトゥルーエンドを諦めてないわ」
「なっ!? はあああ!?」
「いや、諦めてるから。普通に断念してるから」
このやり取りを見ていると、あれなんだなー。本当に一度はそのエンディングを迎えようとしたんだなーと実感する。着席した高坂は、熱々のたこ焼きを食った後に、アイスで口を冷やすという交互に食べるスタイルだった。フードコートならではの変わった食い方だな。
「黒猫、それと比企谷くん。俺たちはもう普通の兄弟だ」
「そ、そうよ。普通の兄妹なんだから。八幡と小町ちゃんところみたいに」
「そこで比較されるとなんか何が普通かわかんなくなるが……」
しかし皿うどんというチョイスはあまり良くなかった。会話を必要とする場合に急いで咀嚼すると、口内にダメージを受ける。尖ったぱりぱり麺で頬が傷付き、上顎はあんかけで火傷だ。なるたけ話は聞く側に回りたい。冷たいマックスコーヒーを準備しておくべきだったな。
高坂のセリフを受けて、高坂兄はへえと俺に関心を持つ。
「なんだ、比企谷くんのところも妹が可愛くないのか?」
「むぐむぐ、いや、世界一可愛いです」
頬が痛い。
可愛くないから手を出してないわけじゃないんだが、それが理解しかねるのだろうか。この人には絶対小町を近づけさせないことを誓おう。俺は小町だけを守る正義の味方になる。
「……普通か?」
京介氏は俺ではなく黒猫と高坂を見て、意見を求めた。
「妹が可愛いのは普通じゃないかしら。可愛くないのに本気で恋する兄は可笑しいけれど」
「そーよ、八幡はガチじゃないから妹に世界一カワイイって言い切れんの。ソファーに寝そべってるときの生足をエロい目で見たりしてないの」
「悪かったよ! 俺が悪かった!」
どうやら京介氏も高坂や黒猫にはたじたじというか頭が上がらないようだな。まぁこの二人に勝てるようなやつはそうそういないだろうが。
そうか、京介氏は高坂が生足を出してたら妹でもエロい目で見ちゃうのか。それはやむなしという気もするね。
小町が生足を出してた場合に俺がどう思うかについては、黙秘します。
「兄貴に比べたら八幡は普通よ。もちろんあやせにセクハラもしてないかんね」
「あやせにも会ってたのか、比企谷くん」
喋りたくないので、首肯する。
っていうか、今とんでもないこと言ってなかった?
新垣あやせにセクハラ? 命がいくつあっても足りないだろ。高坂京介という男は死に戻りの能力でも持っているの? ゼロから始めてるの?
「あと彼は眼鏡に対する異常な執着も無いわ」
「黒猫、別に俺は……」
「今、眼鏡を持っているけれどどうしようかしら」
「かけてください、お願いします!」
京介氏は眼鏡属性だったのか。じゃあ、実は沙織バジーナのことを結構好きなのか?
俺の知る限り他に眼鏡をかけている女子はいない。俺の知り合いでは海老名くらいか。俺には眼鏡属性はないと断言できるだろう。だが、黒猫さんがメガネを掛けたところは正直見たいですね?
「どうかしら」
「可愛い」
眼鏡をかけた黒猫を見て京介氏は何の躊躇もなく言い切った。まぁ、俺でもそう思う。メガネスキーであれば尚更たまらないのであろう。
「し、仕方ないわね」
全然仕方なくなさそう。顔を赤らめて照れてて、めちゃくちゃ嬉しそう。黒猫さん、正直萌えます。こんな変態兄貴には勿体ないね。
「痛っ」
なんだ?
「チッ。黒猫にデレデレすんなっつの」
高坂が爪楊枝で俺を攻撃していた。マジでやめろ。
「デレデレしてねえよ、可愛すぎるからニヤニヤしただけだ」
「それをデレデレしてるって言うんでしょ!?」
「いやむしろデレてるのは黒猫だと思うんだが。あと眼鏡似合いすぎだろ」
「あ、あんたもそうなわけ? じゃあ、あたしも眼鏡かけようかな……」
「いや、似合わないと思うからやめとけ」
「はあああああ!?」
高坂が爪楊枝で高速で二の腕を攻撃してくるのを必死で避けるが、いくつか当たる。痛い! 痛い! BCGの痕みたいになっちゃうだろ!
「お前ら仲いいなー」
高坂の兄貴が、多少の驚きを持ってそう言った。どこを見たらそう見えるんだよ!?
「そうね、高坂兄妹と同じくらいイチャイチャしてるわね」
「イチャイチャしてねえよ!?」「イチャイチャしてねえよ」「イチャイチャなんかして無いから!」
まさか三人ともセリフが被るとは。
「ハッピーアイスクリーム!」「ハッピーアイスクリーム!」
しかもハッピーアイスクリームまで被るとは。これは高坂兄妹のセリフだ。この状況ですぐにこれが言えるあたり、何度かやったことがあるのだろう。俺みたいなぼっちには出来ない芸当だな。
ご存知とは思うが、同時に同じことを言ったときに先にハッピーアイスクリームを叫ばれた人はアイスを奢らなければならないというルールのことである。
ってことは? え?
「悪いな、比企谷くん」
「八幡、ごちそうさま~」
「いや、桐乃はもうアイス食べてますよね」
「ごちそうさま~」
「わかったよ」
「あなた達、仲が良すぎて呆れるわね」
俺は財布をケツのポケットに入れて、バスキン・ロビンスと書かれた看板へ。そう呼んでる人は見たこと無いけどな。
無難にバニラとチョコにしておくか。なーんて俺がすると思う?
席に戻る頃にはさすがに黒猫もナンとカレーを食べ終わり、高坂もたこ焼きとアイスを食べ終わっていた。マジで今からアイス食うの? お腹壊しちゃうよ?
「ほらよ。こっちがチョコミントとホッピングシャワー。こっちはチョコミントとキャラメルリボンだ」
「なんで両方チョコミント入れてくんのよ!?」
「当然ね。究極にして至高の存在、それがチョコミント」
「黒猫もチョコミン党だったのかよ。俺も苦手だわ」
どうやら俺と黒猫はチョコミント大好き派で高坂兄妹は否定派のようだな。大体思ったとおりだ。
「あたしキャラメルリボンね」
「じゃあ、俺はホッピングシャワーだな」
それを聞いて、俺は二つのアイスが入ったカップを渡す。
「あ、すまん。スプーン二つしかねえや」
いやー、失敗失敗。比企谷八幡としたことが大失敗です。
「いいわよ。別に一つあれば」
「いや、チョコミントは食べてもらわないと困る」
「そ、そーね」
カップを受け取った高坂兄妹は思案顔。
俺と黒猫は目を見合わせる。
そしてお互い、隣にいる相手を見て様子をうかがう。
「先に俺が食うってのもな。その間に溶けちゃ悪いし」
「そ、そーね」
「かと言って先に食べてくれというのもな」
「そうよね、兄貴は黒猫の使用済みスプーンをベロベロ舐めそうだし」
「しねえけど、そう思われるんだろうなと思ったよ!」
この兄妹見てて飽きないなー。漫才師になったらいいんじゃないの?
黒猫を見ると、やはり楽しそうに二人を見ていた。そして高坂兄に提案を投げかける。
「一口ずつ交互に食べたらどうかしら」
「え? 瑠璃がそれでいいならいいけど」
瑠璃!
それが黒猫の本名!?
うはー。瑠璃かー。
瑠璃ちゃんはチョコミントを一口食べると、ホッピングシャワーを一口掬って彼に差し出した。なんて羨ましいことを! リア充爆発しろ!
赤面しながら交互にアイスを食べている二人を眺めていると、隣から小さな声で「よし」という気合を入れる声。
「しょ、しょうがないからだかんね」
高坂はキャラメルリボンを食べた後、チョコミントの乗ったスプーンを俺に差し出した。緊張しつつも、ありがたく頂戴する。味などさっぱりわからない。口内は冷えていくが、身体はどんどん熱くなる。
最後の方はフレーバーが混じり合って、高坂もチョコミントを食ってたと思う。特に不満を言うこともなく、黙って食べていた。
やはりチョコミントアイスは究極にして至高にして最強。異論は認めない。
チョコミントアイスみたいに甘くて癖があるけど好き嫌いの分かれる小説をいつも読んでいただいてありがとうございます。
やってみたらダブルデートはなんとか書けてる気がしますので、しばらく続けてみようかな?
あとこの八幡と黒猫の感じ、どうでしょう?
感想お待ちしております!