他所の妹が小町より可愛いわけがない   作:暮影司

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ギャルらしく高坂桐乃はタピっている

「で、どーする? タピる?」

 

多ピル?

それは避妊薬をいっぱい飲むということか? よくわからないけどやめておきなさい!

セリフの主である高坂は両手を後ろ手に組んであっけらかんと、まるでお茶でもしないかと提案してるかのごとくだ。

 

何言ってるのかわかるのだろうかと彼女の兄の京介氏を見るが、首を振った。

黒猫は知っているのか、高坂の提案に対して思案顔だ。

 

「やめておきなさい、気持ちはわかるけどあなたでは無理よ」

「何がよ」

「タピオカチャレンジでしょう?」

「違うから!? タピるイコールタピオカチャレンジってオタクをこじらせすぎだから!?」

 

タピオカチャレンジ? それなら知ってるぞ。ってことは俺もオタクをこじらせすぎってことなの?

あれだろ、胸にタピオカミルクティーを乗せて飲むとかいう由比ヶ浜なら出来るけど雪ノ下は出来ないやつだろ。三浦あたりは「は? あーしなら余裕なんだけど」とか言いつつ、失敗して由比ヶ浜にぐぬぬっってなるんだろ。やだそれ見たい!

あーしさんが胸元にミルクティーを零しているところを想像している間に高坂京介はぽんと手を打った。

 

「あ~、タピオカチャレンジってあれか。麻奈実がやったやつか」

「……ベルフェゴールが何をしたですって……」

「ちょっと!? 黒猫さん!? 出ちゃってる! 闇の波動が!」

 

ベルフェゴールって呼ばれている麻奈実というのはどんなやつなんだ……さぞ恐ろしいに違いない。

高坂兄が黒猫からものすごい目で睨まれているとこを見て妹の高坂桐乃はにこぱーと笑っていた。まぁ俺もそんな感じで見守っておけばいいのか。これ、あれだよね。嫉妬という名の痴話喧嘩ですよね。

それはそれとして、俺は兄貴の修羅場を心底楽しそうに見ている人に疑問を投げかける。

 

「なぁ、タピオカミルクティーって並んでまで飲むほど美味いのか?」

 

甘いものは好きだが並ぶのは好きじゃない八幡くんは飲んだことがない。コンビニに売ってるやつを買うと店員から鼻で笑われてしまいそうで買えない。そして一緒に行こうよと誘うような友人もいないし、誘われてもめんどくさいから行かない。仮に戸塚に誘われたとしたら、それは万難を排して行くに決まっている。なんで誘ってくれないの?

 

「おいしーに決まってんじゃん!? 八幡、飲んだこと無いの!?」

「逆になんで俺が飲んでると思うんだ」

「えー? なんで偉そうなの? 流行に流されない俺かっけーとか思ってんの?」

「そう言われると超ダサい男っぽいからやめてね?」

 

まぁ実際のところそういうことなんだが……。

流行のスイーツをよくわからずに並ぶとか俺がするのも気持ち悪い。小町にお願いされてようやく並ぶことになるはずだ。偉そうというか、身の程をわきまえていると考えて欲しいところだな。

こいつは太陽みたいで、あまりにも眩しすぎる。俺のような日陰者とは違いすぎる存在なんだよな……。元カレとやらはどういうやつだったのか。陽キャなんだろうなあ……。

 

「じゃあ、並ぶかんね八幡」

「いや、そこまでして飲むものでもないかと」

「八幡は何もわかってない」

「何が」

「オタクがエロゲーを発売日の深夜に買ったり、同人誌を通販でも買えるのにわざわざ炎天下のコミケで買うのはなんで?」

 

……タピオカミルクティーをエロゲーや同人誌で例える女子高生ってどうなんだ……。まぁ今更だな。

 

「並んでる間もどきどきわくわくして楽しいから、じゃねーかな」

「わかってんじゃん」

 

同じことだと、そう言いたいわけか。

俺たちと少し離れて黒猫と京介氏も並んだみたいだ。

 

「黒猫たちと一緒に並んだほうがよかったんじゃねーの」

「あん?」

 

足を踏まれた。どう考えてもおかしい。今まで一緒にいたんだから一緒に並ぶのが普通であり、怒る理由がひとつもない。断固講義すべきだ。俺が理論を展開していると、

 

「あたしと二人っきりになれて不満とかありえないんだケド」

 

――その考えがまったく無駄だということがわかった。世の中、理屈じゃないんですね。正しいことが正しいとは限らないんですね。

 

「……すまん」

 

俺は何一つ悪くないが謝った。強いて言えば野暮だったということだ。

 

「わかれば良し。ったく」

 

どうやらご機嫌を損ねてしまったが、なにやら俺は足を踏まれたうえに謝罪をしたにも関わらず、嫌な気持ちは少しもなかった。いや、なにやら気分がいい。

 

「何嬉しそうにしてんの、キモいんだけど」

「二人っきりになれて満足なんだよ」

「……あっそ」

 

ここへ来て黒猫の言うことがなんとなくわかっていた。こいつの言うキモいには愛がある。俺はキモいと言われて喜ぶほどの変態さんではないと思っていたが、今は嬉しい気持ちだった。

 

「随分、機嫌よくなったじゃん」

「お前のおかげでな」

「……さっき、なんであんな凹んでたの」

 

気にしてくれてたのか。今、二人っきり状態になったのも、この話をするためだったのだろうか。それは考えすぎなのだろうか。

しかし今から話すことは、間違いなくいい話ではない。墓場に持っていくのが正解だったという可能性も高い。

 

「コーヒーショップで聞いたんだ、兄貴とは別に元カレがいたって」

「へ?」

「家に彼氏を連れてきて紹介したって……」

「あ、あー。あー、あー」

 

何この反応。あれか昔の男なんてとっくに忘れたから思い出すのも一苦労なのか。

よく言うもんな、男の恋は別名保存、女の恋は上書き保存なんて。恋は遠い日の花火だったのか。

 

「付き合ってない」

「は?」

「彼氏として紹介したのは本当だけど、付き合ってない」

「え? どゆこと?」

「んー。なんつーか、彼氏連れてきたら兄貴が嫌がるかなーと思って」

「え、嫌がらせのために男連れてきたの?」

 

いくらなんでも大好きなお兄ちゃんにそんなことするかね。

 

「そ。だけど、付き合わないでくれーって泣いて頼むからやめてあげたってワケ」

 

ほーん。

つまりお互い様ってわけか。京介が黒猫と別れたのは、妹が他の男と付き合わないでくれと頼んだ以上、同じことをされて付き合わないわけにもいかないと。結果、二人で付き合ってしまったと。

 

「そうか、そうなのか」

「ふ~ん」

「なんだよ」

「随分とホッとしてるじゃん」

「そうか?」

「あたしが兄貴以外にも彼氏がいたと聞いて、顔が青ざめるくらいショックだったんだー?」

 

こ、こいつ。

何言ってるんだと言いたいところだが、否定できる要素がない。完全に図星。ここまできたら開き直るしか無い。大体、こういう攻撃力に特化したキャラクターは防御力がないと相場が決まっている。背水の陣を敷いて反撃することこそ唯一の勝利の鍵だ。

 

「そうだ、そのとおりだ」

「へ?」

「桐乃に彼氏がいたなんて想像するのも嫌だ」

「ちょ、ちょ、ちょ」

「桐乃はな、桐乃は」

「すと、すと、すと~~っぷ!」

 

唇を塞がれた。残念ながら手で。

高坂は周囲を確認……するまでもなく、あちゃーっと手で目を覆った。

 

「貴方達、いくらなんでもイチャイチャイチャイチャしすぎじゃないかしら」

 

すぐ近くにいたのは黒猫だった。行列の折返しになってたまたま隣に居たらしい。そして一連のやり取りを見られていたようだった。黒猫は批難するような言い方ではあったが、表情は笑いを堪えているような面白いものを見るかのようであり、大変恥ずかしいですね。

 

「そっかー、比企谷くんは俺が桐乃から彼氏を紹介されたって聞いて俺よりショックを受けちゃったのかー、そっかー、うんうんなるほどなるほど」

 

京介氏も大変ご機嫌ですね。元カノからかって楽しいのかよ。いや、まぁ俺をからかっているだけなことはわかっていますが。

 

「桐乃、八幡、聞いているこちらが恥ずかしくなるからやめて頂戴」

「あたしは別に何も言ってないっつーの!?」

「へぇ~、一方的に言わせていると? それはそれは失礼致しました姫君」

 

慇懃無礼にお辞儀をする黒猫に高坂は南無三とばかりに目をギューッと閉じる。打つ手なしだ。

 

俺は間違っていた。

高坂に対して攻撃しても、意味がなかった。ここには高坂京介と黒猫というとんでもない怪物がいたのだ。そもそも俺が桐乃に対して勝ちとか負けとか言い出すことが間違っていた。

 

「ところで桐乃、タピオカチャレンジは」

「しないかんね!」

 

 

 




やだ、俺の八幡ってあーしさん好きすぎ……?
それとも俺が好きなのかしらん。歳取るとギャルが好きになってくるんだよなあ……。
初めてベルフェゴールさんの名前が登場。イメージCG欲しいですね。

投稿頻度減ってすみませんが、原因も八幡なんです。
エロマンガ先生の神野めぐみと八幡との短編小説シリーズはそれほど人気でなかったからコレを書き始めたのですが、現在のところ、はよ続きを書けとの叱咤を頂いており。
知らない方はそちらもぜひ読んで頂くと幸いです。

基本的にはやっぱり感想がいっぱい来るものを優先して書いちゃいます。



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