他所の妹が小町より可愛いわけがない   作:暮影司

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ロマンティックはともかくロマンスカーは止まらない

タピオカミルクティーを飲み終わった後、2時間のカラオケを行ってダブルデートは終焉を迎えた。

まぁ、タピオカミルクティーはうまかった。高坂と交互に飲むという恥ずかしさを別にすればな。

 

しかしそのダブルデートが終わったと思った矢先、黒猫から来たメッセージはとんでもないものだった。

 

『みんなで温泉に泊まりましょう。兄妹の名前だったら男女混合でも予約できると思うわ』

 

おいおい、黒猫さん。すんごいこと考えますね。俺は本気で高坂の兄貴に嫉妬しているよ。

びっくりすぎることにすんなりことが運んで、俺達はロマンスカーに乗っていた。ロマンスありすぎだろ。千葉にもいい温泉あるのにわざわざ箱根まで行くとは。

席は向かい合わせ。窓側に高坂兄妹が座り、京介氏の隣が黒猫、桐乃の隣が俺だ。もう学校外で会うことが多すぎて桐乃と呼ぶのが当たり前になってきている。

 

「いや~、桐乃と温泉旅行って久々だよな~」

 

これは当然俺のセリフではなく、京介氏のセリフだ。

意味合いが全然違うだろ。これは明らかに家族旅行じゃねえよ。むしろ高校生とかがしていいレベルのデートでもない。正直、小町にも本当のことは言えなかった。まあ、頑張ってねとか言われたから全部お見通しっぽかったけどな。

 

「いいから早く助けろっつーの」

 

俺たちは携帯ゲームを一緒にプレイしていた。4人協力プレイのアクションであり、車窓から風景を楽しむなんて風情はまったく無し。ロマンスがあると思っていた俺が間違い。

 

「俺、何すればいいの」

 

黒猫はゲームが上手すぎて意味がわからないレベルだし、桐乃も動きが凄すぎてついていけない。京介氏は役に立ってるだけマシであって、俺はおろおろしているだけなんだけど。出来る人がちゃんと指示してくれないと困るんだよねっ。

 

「死ぬと面倒くさいから、生きていて頂戴」

 

優しいのか優しくないのかよくわからない言葉をかけられる俺。つまり役たたずってことですよね。まぁ、生まれてこの方ずっとそうだから気にしないけどね?

 

しかし、ゲームしながらお菓子を食べつつ男女四人で特急とかなかなかリア充みたいなことやってるな。いつの間にか仲良しグループじゃねえか。仲良しって言葉が俺に似合わねえー。なかよしは読むものだろ。

 

「あ、八幡もやっぱりきのこ派?」

「ん?」

 

何気なく口に放り込んだが、どうやらお菓子はきのこの山とたけのこの里のアソートを開けたものだった。

 

「馬鹿ね。全人類がたけのこ派なのに八幡がきのこ派なわけないでしょう」

「馬鹿はあんただっつーの!? 全人類がたけのこ派だったらきのこ販売しないっつーの!」

 

黒猫と桐乃の意見がぶつかったが、珍しく桐乃の方がまっとうなことを言っていた。ほんとに珍しいな。

 

「だああ! お前らいっつもそうなるのな!? 喧嘩にならないようにアソート買ったのによ」

 

京介氏、その判断は間違っている。だったらアルフォートを買うべきだったな。これは無駄に論争を巻き起こす戦争の火種なんだよ。

 

「こういうゲームやりながら食べるときにきのこは食べやすいワケ。たけのこなんてチョコのところ触っちゃうじゃん。意味ないし」

「語るに落ちるとはこのことね。つまりはきのこのプレッツェルはポッキーのチョコなし部分と同じということじゃない」

「なっ!?」

「それに比べてたけのこはチョコとビスケットの組み合わせが完璧といっても過言ではないわ。お互いがお互いを高めあっている。理想の関係ね」

「なにそれ、共依存の間違いなんじゃないの。ねえ八幡」

 

共依存っていう言葉はオレの心をえぐってくるんでヤメてもらえませんかねえ……。ちょっとたけのこの里を嫌いになりそうだよ?

 

「どっちも美味いじゃないか、それはそれで」

「あーっ、出た出た。さっすが、あたしの友達みんなに色目使ってただけのことはあるよね」

「なっ、そんなことないだろ桐乃」

 

おいおい、目の前で兄妹がラブコメを始めたぞ。やっぱり俺の青春ラブコメは間違っている。

 

「まぁ、ちょっと目を離したら黒いのとイチャイチャしてるわ、あやせのことはエロい目で見てるわ、加奈子にまで手を出して」

「出してねえよ!?」

「あやせをエロい目で見てたことは否定しないんだ」

「そうは言ってないだろ!?」

「……」

「瑠璃さん? 無言の方が怖いんだけど?」

 

うーん、よくわからないが京介氏に対するヘイトが溜まってきますねえ……。こういううらやまけしからん人が現実にいるんだな。ラブコメ主人公みたいなやつが。

 

「八幡はあやせをエロい目で見ないよね」

「命が惜しいからな」

「俺だって命は惜しいんだよ! でも仕方がないんだよ!」

「最ッ低」

「最低ね」

「最低っすね」

「八幡くんまで!?」

 

俺が味方をすると思ったら大きな間違いですよ、高坂の兄貴。よっぽどショックだったのか京介氏の操るキャラは死んだ。

 

「京介が死ぬのはいいけれど面倒くさいわね」

「辛辣!? わざと言ってるだろそれ!」

 

ま、黒猫は本当に怒っているわけではない。全部わかってて、それを踏まえて受け止めていながら、ちょっと拗ねているだけだ。くそっ、なんて可愛い人なんだ。マジで爆ぜろよ京介氏……。

 

京介氏は、きのことたけのこを同時に口に放り込んだ。なんてことをするんだ。

 

「最ッ低」

「最低ね」

「最低っすね」

「お菓子くらい好きに食わせろよ!?」

 

もはや菓子の好みの問題ではなくなっていることくらいわかれよ。難聴鈍感主人公かよ。

 

「で、八幡はどちらが好みなのかしら」

「本当のことを言いなさいよ」

 

菓子の好みのことだけにしておいて欲しかった……なぜ俺は鈍感主人公じゃないんだ……。

 

「俺はどっちも好きだけどな」

 

たけのこを一口で食べる。

 

「出た出た、八幡」

 

何も出てねえよ。

 

「そういうのはいいからきちんと評価して頂戴」

 

全然曖昧な答えを許してくれる気無いんですね、黒猫さんは。本物が欲しいんですね。

頭を掻きながら、きのこを手に取る。

 

「たけのこは確実に美味いんだけど、きのこはこうやって食べることも出来る」

 

俺はチョコの部分だけを食べた。

 

「甘くないところとか、甘すぎるところとか、色々な側面がある。まだ俺にもわかってない魅力もきっとある」

 

俺は残りのプレッツェルを口に入れる。

 

「だから、どっちも好きだけど、きのこの方が好き、かな」

 

たどたどしくもこっ恥ずかしいセリフを言い終わって、黒猫を見る。その微笑みは回答を許してくれた、ということだろう。みんな、ゲームをする手はいつの間にか止まっていた。

 

桐乃を見る。

 

これでもかというくらい顔を赤くしていた。別にお前に告白したわけじゃねえよ……。そこまで甘くなくていい。俺は次もきのこを手に取り、プレッツェルだけをかじった。

 

「俺は両方口に入れるのが一番美味いと思うけどな」

「最低ね、本当の一番を決められないなんて」

「ほーんと。あやせに蹴られて地獄に落ちればいいのに」

「お前ら、マジで酷すぎじゃね!? 温泉旅行の序盤だよ!?」

 

ほんと、これからお泊りイベントとかどうなっちゃうのかしらん。草津の湯でも治らない病気っぽいんだけど。

 

 





大して先のことを考えてないのに、なんか書き始めちゃった!? このあとどうするの!?

あと八幡がドンドン恥ずかしいキャラになっていくんだけど!? 文句は受け付けませんよ!?

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