他所の妹が小町より可愛いわけがない   作:暮影司

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もちろん比企谷八幡はアレを持ってきている

「着いたーっ!」

 

桐乃がわざわざ両手を高々と上げて大声でそんなことを言った。そんなことはわざわざ声にしなくてもわかるのだが、着いたのはもちろん温泉旅館だ。秘宝館ではない。

 

「じゃあチェックインを済ませましょう」

「そうだな」

「ええと、高坂兄妹の部屋がこっちでいいのかしら」

「黒猫さん? それだと俺と一緒の部屋になっちゃいますけど?」

「あら、嫌かしら?」

 

嫌なわけがないが。嫌な予感しかしない。

 

げしっ!

 

「鼻の下伸ばすな! 八幡!」

 

ほらね。桐乃に蹴られるじゃん。だから嫌だったんですが。お尻だとそんなに痛くないよ。

それでも俺はもちろん反論を試みる。

 

「いや、黒猫も本当はお前の兄貴と一緒がいいんだと思うぜ。俺も桐乃と一緒がいいしな」

「なっ!? あ、あ、あんたね」

「八幡くん。悪いけど、君は俺と一緒の部屋だ」

「え。京介さんってそっちもアリなんですか。俺はちょっとそういうのは……」

「そうじゃねえよ!? 普通に男同士と女同士の部屋割なの! 未成年だからそうじゃないと無理なの!」

 

……どうやら俺は恥ずかしいことを言ったみたいですね?

雪ノ下陽乃に「三角関係とか」と言っちゃったとき以来の恥ずかしさが込み上げる。あんときも死ぬほど恥ずかしかったけどね!?

 

黒猫さんから肩をぽんぽんされる。結構あなたのせいだと思うんですけど?

そして桐乃はフンとそっぽを向いているが顔は真っ赤だ。なんか段々、この態度が可愛くなってきたんですけど? やっぱり病気なのかな? 早く温泉に入らなきゃ!

 

黒猫が主導でチェックインを済ませてくれ、俺と京介氏で部屋に案内された。

旅館らしい和室で、とりあえず荷物を置く。窓からの景色をチェックしているとブザーが鳴る。早々に女性陣が俺たちの部屋にやってきたようだ。桐乃は少しだけ扉を開けて、こちらの様子を伺ってから、ゆっくりと入ってきた。なんだ? この妹は俺TUEEEくせに慎重すぎないか? 誰もお前には勝てないだろうに。

 

ちなみに彼女たちは俺たちの部屋にいつでも来ていいが、逆にこちらから行くことは禁止されている。

そりゃそうだな、俺がうっかり彼女たちの部屋に入ったときに黒猫が浴衣に着替えている途中だったりしたら桐乃に殺されて俺の命は無くなってしまう。そして異世界に転生して巨乳のエルフとイチャイチャすることになってしまう。間違っている青春ラブコメの主人公は異世界だと余裕で生き抜くようですよ!?

 

着替え中じゃない俺たちの前にやってきた桐乃と黒猫。

 

「あ、あのさ……」

 

なんだ、何を誘おうというのか。

 

「あんまり、こういうのはしたこと無いんだケド」

 

ごくり。

 

「こ、こっちから誘うのもちょっと恥ずかしいんだケド」

 

……。

 

「四人でプレイできるチャンスだし?」

 

プ、プレイ……?

 

「夜通しになっちゃうかもしんないし」

 

よ、夜通し……?

 

「でも、実は初めてだからよくわかんないんだケドさ」

 

勇気を出して言葉を紡ぐ桐乃に、こちらはどきどきしっぱなしだ。

黒猫はなぜか腕を組んで余裕の態度で桐乃を見守っている。え、経験豊富なんですか?

 

「まー、俺たち四人だったら何かしらそういうことはするだろ」

 

京介氏? 何かしらとは? そういうこととは?

 

「そうね、何もしないほうがどうかしているわ」

 

黒猫さん!? ふふふ、と微笑を浮かべるその表情は本当に妖艶なんですけど!? なんてこった、この三人は思っていたよりもやる気満々だったようだぞ……。いや少しは期待してましたけど。だって、ダ、ダ、ダブルデートで温泉旅館に泊まるわけだろ。一応、俺だって勇気を出して買ったよ。0.02ミリの厚さのゴムを。持ってきましたよ、一応。一応ね!?

 

「比企谷くんは自分のを持ってきているのか?」

「じ、自分のと言うと!?」

 

持ってきちゃってますけど。でも、勘違いの可能性がね?

 

「いや、こうなるとは思っていなかったから比企谷くんの分は持ってきてないんだ」

「はあああ!? 普通、そうなるってわかるじゃん! バカ兄貴」

「いや、俺たちだったら泊まりとなれば絶対そうなるけどさ」

 

え。

ええ?

えええええええええええええええ!?

 

さすが、ラブホテルに行く元恋人同士の兄妹だぜ。でも、そういうことはしてないんじゃなかったの? あれかな? 本番無しってやつかな? 逆にエロくない?

 

「で、何をやるのかしら」

 

悟りきった雰囲気を醸し出す黒猫。あなたもですか!? 

 

「四人で朝までって言ったらそれほど選択肢は多くないわよね」

「うん……いや、いろいろやろうなかっとも思ってたんだケド。でもせっかくだからゆっくりとたっぷりと時間をかけて、話をしながら出来るのがいいかなって」

「そういうのは経験があまりないから興味があるわね」

「俺も全然やったことないんだよなー」

 

なんかここまでくると、わざとミスリードを誘ってる気がしてなりませんね。

俺は高坂京介にだけ聞こえるように質問をすることにした。

 

「あのー、俺だけ多分全然わかってないんで、わかりやすく教えてもらっていいっすかね」

「ん? ああ、桃鉄だよ」

 

桃鉄かよ!

そんなことだろうとは思っていました!

 

「桐乃とはいつも対戦格闘になってしまうのよ」

 

ため息まじりで眉毛をひそめる黒猫だが、どうでもいいよ。

 

「いやー、モンハンじゃなくて桃鉄かー。そういうのもいいなー。癒やし系ってやつか」

 

癒やされねえよ京介氏。いや、思っていたやつよりは疲れなさそうだけど。

 

「さっさとハードをテレビに接続してよ。で、八幡は結局自分のコントローラーあんの?」

 

桐乃は自分の兄に軽く命令をしつつ、俺への質問を繰り出す。どうやら俺がゴムだと思っていたものはゲームのコントローラーのことだったようです。あっぶねえ! 

 

「ねえよ……普通持ってこないだろ」

「ま、そっか。じゃあたしと交代で」

 

わかったと首肯する。

 

「瑠璃のコントローラーは持ってきてるからな」

「そう」

 

お茶を煎れてくれている黒猫は、ちょっとムスッとしたように見えた。京介氏、そこは交代でプレイしたかったんじゃないの? その方がいちゃしちゃしている感じがするからさ。

 

――って俺たちの桃鉄はいちゃいちゃプレイってことかよ!?

 

いや、考えすぎだな。俺はかぶりを振った。

 

京介氏がセットアップを終え、黒猫がお茶を用意し、桐乃が桃鉄を開始させる。八時間かかる予定のロングプレイだ。夜通しってそういうことね?

俺は部屋に用意してあったお茶菓子の温泉まんじゅうをかじりつつ、座椅子を移動させて腰掛ける。この温泉旅館のテレビは液晶モニターではあるが型は古く、そこまで大きいものではなかった。必然的に画面の前に近づく四人。そしてコントローラーを貸し借りする立場の俺と桐乃は当然近くなるわけで。

桐乃のほうが画面に近い分、近距離で後頭部を見ることになり、それはゲーム画面を見ているふりをしながらいくらでも見ることが可能で。長い茶髪は染めたものであろうにつややかで。たまにふぁさっと掻き上げると、女の子の香りが漂ってくる。

桐乃がサイコロを振ったり物件を買ったりするところはあまり見ていなかった。

 

「きりりん社長、出だし最高~! ほら、次、はちまん社長」

「お、おう」

 

コントローラーを手渡しするというだけなのに、ちょっと緊張する。

軽く振り向いた桐乃は、一緒にゲームをしていることが心底楽しそうで。それがなおさら恥ずかしさを加速させた。でも、これはいちゃいちゃなんかじゃない。温泉まんじゅうをかじりながらジト目で見ている黒猫のことは気にしてはいけない。

駅には止まれず、カードを手に入れて自分の番は終了。まあまあだな。

コントローラーを返そうとすると、桐乃は俺の方を見ていた。テレビではなく、俺の方を。

 

「桐乃……」

「なに?」

 

ずずっとお茶をすする桐乃。単純にテーブルのお茶を飲むためにこっちを向いていただけだった。自意識過剰かよ。恥ずかしくて死にそう。

 

「いや、なんでもない」

 

目線をテレビに戻した。俺もお茶をすする。ほっとするね。

 

「八幡」

 

間違えるわけもない、桐乃の声だ。

 

「なんだ」

「あたし幸せかも」

「そんなに桃鉄やりたかったのかよ」

 

黒猫が最初に止まった駅の物件を全部買い占めているところをぼーっと見ながら相槌を打つ。

 

「うん。この四人でやりたかった」

 

はいはい。そりゃ光栄ですよ。

 

「なんか、この四人だと長く続けられそうな気がして」

 

確かに三浦だったらすぐに飽きそうだよな。「あーしもういい。経営とか無理だしー、結衣ー温泉行こー」とか言ってコントローラーを投げ出して、浴衣から生脚も投げ出しそうですね。そして温泉で洗いっこしそうですね。「ちょ!? 背中洗ってくれるのは嬉しいけど、背中に当たってるのは何? わざと? うっかりだとしてもそれはそれでなんかムカつくんだけどー!?」とか言って勝手に怒ってそうですね。なんか風呂に入ってもいないのにのぼせそうですよ?

 

「本当に五〇年続けられそうな気がして」

 

……それは桃鉄の中での五〇年じゃなくて、現実に五〇年間一緒にいるってことか?

それは、それはつまり……。

 

桐乃の目はただ楽しいだけとは思えなかった。火照っているというか、熱を浴びているような。そんな顔を見ていると俺もなんだか体が熱くなってくる。

 

「桐乃~、きりりん社長の番だぞー」

「う、うっさい! 汗かいたから温泉行く! ほら、黒いのも早く!」

「別に私は汗なんかかいていないのだけれど」

「うっさいっつーの」

 

俺たちの部屋から退室していく女性二人。

 

「桐乃のやつ、まだ一回しかサイコロ振ってないってのに。まぁ先に温泉入ろうと思ってたくらいだからいいけどよ」

 

京介氏はそう言って浴衣やらなにやらを持っていく準備を始めた。

ここで俺だけ部屋に残るという選択肢を選ぶほど、今の俺はぼっちではなくなっていた。

 

 




可愛い女の子と泊まりで桃鉄やりたい人生だった。

それはまあいいとして。

高坂桐乃はオタク友達に当初恵まれていないし、京介もゲームをほとんどやったことがないのでパーティーゲームへの憧れがあるんじゃないか。
また、八幡もぼっちなのでパーティーゲームとか本当はやってみたかったのではないか。そんな感じですね。

それでは感想お待ちしております~。

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