他所の妹が小町より可愛いわけがない   作:暮影司

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高坂京介と五更瑠璃が結婚しないわけがない

「新郎新婦の入場です」

 

現れたのは白いタキシードを着た高坂の兄。

そして、白いウェディングドレスに身を包んだ、黒猫……じゃない、白猫……でもない、五更瑠璃。でもないか、高坂瑠璃だ。

それにしても入場曲がハッピーシュガーライフなのはどうなんだ。タイトルと違って幸せで甘い生活にはならないんだよなぁ……。

 

高坂京介と五更瑠璃は、先程結婚式を挙げて今は披露宴が始まるところ。

さっきまで桐乃は隣にいて「アニキ、ちょー緊張してやんの。ウケる~」とか「早くキスしろ~、むしろ爆発しろ~」などとギャルのようなジジイのような、まぁ桐乃らしいヤジを飛ばしていた。

一番祝福しているのが彼女だと俺も含めてみんなわかっているので生暖かく見守っていましたとさ。

 

「いや~、京介氏と黒猫氏が結婚とは。仲人のような気持ちでござるよ」

 

右隣にいる沙織バジーナは感慨深げに呟いた。長身でダイナマイトボディの彼女が大きく背中の開いたドレスを着ているとどこの一流ファッションモデルだという感じだが、ぐるぐるメガネがすべてを帳消しにしていた。どんなメガネっ娘好きでも外したくなるくらい、そこだけが勿体ない。メガネを外すと性格が変わってしまうということなので致し方ない。

 

俺たちは新郎新婦共通の友人が集まるテーブルに配置されていた。当然だが桐乃は新郎の実の妹なので、一人だけ親戚のテーブルに座っている。

 

左隣には俺の妹……いや、世界の妹である比企谷小町が座っている。ドレスが似合いすぎ。まぁ、素がいいから何でも似合うけどな。小町は新郎新婦に惜しみない拍手を贈っている。なんだかんだこいつも高坂兄弟とその仲間たちの一員になっちまったな……。

小町はウェディングドレス姿の黒猫が着席するのを見ながら感嘆の声を漏らす。

 

「キレイだね~、お兄ちゃん」

「お前もキレイだよ、小町。あ、今のお兄ちゃん的に超ポイント高いな」

「小町的には低すぎだよ……桐乃さんに言ってあげたら?」

「親戚が集まってるところにそんなこと言いに行くの、ハードル高すぎるだろ……」

 

長男の披露宴だと言うのにムスッとした表情の、いかにも厳格な父といった風情の男が、どうやら桐乃の父親のようだった。はっきりいって怖い。絶対近づきたくない。

 

「桐乃、キレイだよねぇ~」

 

そう言っているのが新垣あやせ。見た目だけなら、あやせたんマジ天使。実際はマジ悪魔。桐乃の父親とは別の意味で怖い。

しかし、なんで黒猫じゃなくて桐乃を見ているのか。実は京介氏が好きで黒猫に嫉妬している……なんてことはないか。同性であっても好ましいルックスというのはあるだろう。俺が戸塚に対して感じている感情と同じかもな。え? それってガチ恋じゃね? 治し方は俺は知らないから俺に任せろとは言えない。

 

二人が着席し、乾杯の流れとなる。

シャンパンなんて生まれて初めてだが、大丈夫だろうか。

 

「HACHIMAN氏、キール・ロワイヤルの方が飲みやすいですぞ」

 

沙織が俺の心配を見破って声をかけてくれた。それって王ドロボウJINGの必殺技じゃないの?

乾杯向きの甘いカクテルだと教えてもらったのでありがたく頂戴し、乾杯した。もっと甘くていい。

披露宴の司会がマイクを取り、進行を始める。

 

「お二人の馴れ初めは……」

 

高校の先輩後輩として知り合ったという説明だった。

 

「そうなると拙者の出番が一切無いのでござるが……」

「妹がオタク友達作ろうとしたオフ会のメイド喫茶で知り合ったとは言いにくいんだろ……」

 

親戚一同どころか、この司会者にすら説明したくない内容だった。単純にややこしいってのもあるが、桐乃に配慮したところが大きいのではないだろうか。オタクであることは無理して隠さなくてもいいかもしれんが、兄にオフ会に着いてきてもらったというのが恥ずかしすぎる。桐乃がブラコンだとバレるのは非常に面倒くさい。

 

「まぁ、真実は我々だけが知っていればいいことかもしれないでござる」

「そうそう」

 

沙織が隣にいると安心するな。特に対面にあやせがいるからね?

 

「きりりん氏とHACHIMAN氏のときは正直に言えそうでござるな」

「ぶっ!?」

 

俺たちのときって何だよ!?

ほら見ろ、あやせが俺のことを睨みきってるんだけど!? なんでこの人結婚披露宴でこんなに殺気出せるの!?

あやせはシャンパンを一気に煽ると、グラスをテーブルにダンと叩きつける。やめて! 壊れちゃうよ!?

 

「お兄さんも、桐乃も、私のものになってくれなぃいぃ~」

 

そう言って、大げさに机に突っ伏した。酒を飲むと面倒くさいタイプ! っていうかラブリーマイエンジェルあやせたんも京介氏のこと好きだったのかよ……爆ぜろ。

 

「披露宴に参加できなかった方々からお祝いのメッセージが届いております」

 

淡々と進む司会進行。

 

「あ~、京介? あたしのジャーマネだったくせにあたしの許可も無く結婚とかマジちょーしに乗ってんね? 相手が誰か知んないけど、幸せにしてやんないと、めてお~いんぱくと☆ だかんね? 来栖加奈子様より」

 

……誰か知んないけど、なんちゅー内容だ。しかも京介氏の方の関係者なのかよ。

 

「さすがでござるなぁ」

「さすがの一言で片付けるお前もさすがだと思うがな」

 

それにしてもこの司会者はこの電報を何故こんなにパーフェクトに読めるのか……。メイド喫茶で働いていたとか言っていたが、それにしては司会も読むのも上手すぎる。

 

「加奈子、相変わらずね~」

 

かぱかぱとシャンパンを飲みまくっているあやせは、この電報の主を知っているようだ。二人が話している姿が想像できないんだけど……。

 

常識人の俺が戦慄する内容だったが、意外にも会場はざわついていなかった。触らぬ神に祟りなし(アンタッチャブル)と判断したのかもしれんが……。だとしたら、極めて正しい判断です。

 

「それでは、会場の皆様に今のお気持ちを聞かせていただきたいと思います」

 

ほーん。俺たちも何か言う可能性があるのか。正直、結婚披露宴とか初めて参加するのでよくわからん。そしてサイゼリヤに出てこない洋食もよくわからん。まぁ、美味いのでヨシ!

 

「では新郎の妹の高坂桐乃さんから」

 

桐乃かよ……嫌な予感しかしない。

 

「兄貴、黒猫、ほんとにおめでと!」

 

意外にも普通だ。そういえば普段は猫をかぶっているんだった。なら安心だな。

 

「早く姪っ子の顔が見たいから、この伊達メガネをプレゼントするね! 兄貴はメガネフェチだから、これをかければ夜の営みが捗ること間違いナシ!」

「桐乃ぉぉ!?」

 

真っ赤な顔で立ち上がる京介氏。

真っ赤な顔でうつむく、黒猫氏。

末永く爆発しろ。

 

「そ、そういう目で見られていたでござったか……」

 

顔を赤らめる沙織バジーナ。多分、見られてない。メガネを取ったほうがいい例外と思われる。

 

「かければよかったかなぁ~、かけときゃよかったかなぁ~」

 

ぐにゃぐにゃと呂律の回らないことをのたまいながら、飲んだくれているあやせ……このままだと平塚先生みたいになりそうだから誰か止めてあげて!

 

「では、新郎新婦の共通の友人であり、先程の高坂桐乃さんの親友でもある……」

「おっ、どうやら拙者の出番でござるな」

 

くいっと眼鏡を中指で押し上げる沙織。

 

「新垣あやせさん、どうぞ」

「……そ、そうでござるか……」

 

何もなかったかのようにレバーパテをバケットに塗る沙織。

 

「ううう、うううう~」

「どうやら感極まって、泣くことしかできなくなっているようです。深い友情を感じますね」

 

まともに喋れない酔っぱらいだったが、司会者は都合のいいように解釈した。

 

「それでは代わりに……やはり二人の共通の友人である……」

「ここで拙者の番、というわけか。フフフ」

「比企谷八幡さんにお願いいたします」

 

……俺かよ……こういうのって事前に言われてるもんだと思ってたわ……起立してみるものの、何も思い浮かばん。なんとかセリフをひねり出そうとする。さっき思ったことをそのまま言えばいいか……

 

「あー、なんだ……末永く爆発してください……」

 

遠くで桐乃が笑い転げているのが見える。

 

「あー、まぁ、お兄ちゃんらしいよ」

 

慰めているのか、呆れているのかよくわからん小町のリアクションを聞きながら着席。こりゃシラフじゃいられんな。俺は片手を挙げてウェイターに赤ワインを注文した。

 

「はい、皆様ありがとうございました」

 

黒猫の妹さんと、京介氏の幼馴染からのよく出来たメッセージを最後にしてこのコーナーは終了。あの幼馴染、見事なメガネっ娘だな……まさか……。

 

「拙者は……? ねえ、拙者は……?」

 

右隣から聞こえる声を完全に無視して、俺はワインを飲む。あやせや小町も目をそらしていた。

 

「考えてたんだけどな~。何言うか、ずっと考えてたんだけどな~」

 

デカイ女が何やらぶつぶつ言っているがキニシナイ。

新郎の子供の頃の写真などを見つつ、食事を続ける。

 

「わ~、桐乃さんってやっぱり小さな頃から可愛いんだね~」

「ま、そーだろ。小町だって小さな頃から可愛いしな」

「またそんなこと言って。ほんとは見惚れてるんじゃないの」

 

見惚れるに決まっている。ギャルっぽくなる前の小学生桐乃もいいし、モデルばりばりの中学生桐乃もいいし、俺と出会ってからの高校生桐乃もいい。

ただ、今のドレス姿の桐乃には勝てないけどな。

 

「それではケーキ入刀となります。みなさま、どうぞ前に来てお写真をお撮りください」

 

わらわらとみんなが席を立つ。小町も。あやせと沙織はさっきからトイレに行ったまま帰ってこない。飲みすぎだろ。

 

桐乃は嬉しそうにバシャバシャと撮影しまくっていた。黒猫の妹を。何やってんだよ。

 

「うっひょー! 待って、待って、口の周りのクリームを付けたままの状態でもうちょっと撮らせて! 舌だけ出して! 舌だけ!」

「やめろ、このド変態」

 

さすがに止めた。

キモオタがアイドルに執拗に迫るのを抑えるように、桐乃と彼女の間に体をねじ込ませて。

 

「ケーキ入刀を撮れよ」

「はあ? あんたも撮ってないじゃん」

「俺はカメラを持ってるだけで通報されるからしょうがないだろ」

「あー。納得」

 

納得すんのかよ。そこは否定しろよ。目が腐ってるだけで普通だよ。

そうこうしているうちに初めての共同作業は終了。

それぞれの席に戻る。

俺の席は誰もいなかった。どこ行ったんだあいつらは。

 

なんとなく桐乃の方を見やると、彼女も俺を見ていたので、すぐに目をそらした。

 

フォアグラうめー。これはうまいわー。

 

……ちらっ。(目逸らし)

 

……ちらっ。(目逸らし)

 

おい……見られてると見れないだろ……。お前は新郎新婦を見てろよ……。

 

「お兄ちゃん、桐乃さんの方見すぎ……」

 

いつの間に戻ってきていたのか、小町が「くく……」とこらえきれないというように笑いを漏らしていた。

 

「見てるのはあいつの方だっての」

「いや、それがすでに見てる証拠なんだけど……ごちそうさま」

 

……そのとおりだった。

恥ずかしさをごまかすため、ワインの追加を頼む。

 

「……小町、俺のフォアグラが無くなってるんだけど」

「だから、ごちそうさま」

 

そういう意味かよ……まぁ、牛フィレ肉だけでも美味いけどな……。

他の二人はまだ戻ってこないのか、トイレで倒れてるのかしらん……と思ったら新郎新婦の席で立ち話をしていた。泣いているのは友情ゆえであると信じたい。

桐乃も俺と同じような表情で見守っていた。

 

「本当に、ごちそうさま」

 

小町は皿を空にして、手を合わせていた。

俺はワインのせいで顔が熱くなっていることに気づき、水を注文する。やれやれ、飲み慣れないものを飲むときは気をつけませんとね。

 

帰ってきた泣き虫の酔っぱらい二人に水を飲ませたり、かまったりしているうちに披露宴は終わりを迎えそうだった。桐乃は親族なのでわざわざ新郎新婦に言葉をかけにいったりしないようだし。

 

あれ? 桐乃は親族だからいいが、俺は声をかけるべきだったのでは?

でも桐乃が……いや、そりゃ桐乃と一緒じゃなくて小町と行ってもよかったような気もするが……その発想がなかったな……。

 

会場の送り出しが行われ、中庭に。

外の空気を吸って、みんな少し落ち着いた。

 

記念撮影では、桐乃があやせと眼鏡を外した沙織と肩を組み。俺は小町の隣に立った。これが本来の形だよな……。

 

「さあ、みなさんお待ちかね~! ブーケトスですよ~」

 

ブーケトスは御存知の通り、ブーケを受け取った女性が次に結婚できるというイベントだ。男にはまったく関係がない。ベガ立ちして待つ以外ない。

 

「あの~、お嬢様たち~? 早く来てくださ~い!? ……ほんとは私が欲しいくらいなんですが……」

 

ブーケを受け取ろうとする女の子が不在らしい。それも納得だった。黒猫の妹たちや、あやせに沙織。女性たちはあまりにも若く、まだ結婚したいという年齢ではない。

桐乃もそうなのだろう、俺と同じポーズだった。なんてベガ立ちが似合う女なんだ。

 

「あ~、じゃあ小町が貰おうっかなぁ~」

 

そう言ってのこのこと前に出る小町。バカ! 早まるな! お前が結婚なんて二十年早い!

 

お色直しでオレンジ色の魔法少女みたいなドレスに着替えている黒猫は、高くブーケを投げた。

 

「あぶないっ」

 

俺はトラクターに轢かれそうになった女の子を救うときのカズマのように小町を弱く突き飛ばして、ブーケを奪い取る。

 

「「ぶ~」」

 

一斉にブーイングが起こる。ええい、民衆はいつも愚劣だ。小町が結婚するくらいなら地球が滅んだほうがマシだとなぜわからん。

 

「あ、あんたね!」

 

丁度いい、駆け寄ってくる桐乃にパス。

 

「え? ええ!?」

 

慌てる桐乃。冷静になる俺。

これは……ひょっとしてとんでもないことをしたのでは?

 

「「ひゅー」」

 

ブーイングは一気に逆転。口笛などの歓声に変わった。

はわわとなる桐乃を前に、俺はあわわとなる。

 

「おおっと、どうやら私の司会も近いうちにもう一度やることになりそうですね~♪」

 

名刺を俺に渡してくる司会者。

 

「やれやれ、今度もご祝儀ははずまないといけないようですな~」

 

困ってそうでまったく困ってない素振りのデカイ美女。

 

「この期に及んで怖気づいたら……殺しますよ?」

 

笑顔で殺人予告してくる美少女。

 

「今の動画を見た雪乃先輩と結衣先輩からメッセージ来てるけど、どうするお兄ちゃん」

 

想像しただけで肝が冷えることをしでかす妹。

 

「おいおい、今日の主役は俺たちだったはずなのに、どうしてくれるんだ」

「まったく、あなたたちといると退屈しないわね」

 

すっかり仲良くなってしまった本日の主役の二人。

 

「あたしのために……あんがとね、へへ」

 

大切そうにブーケを抱きしめる高坂桐乃。

俺の婚約者がこんなに可愛いわけがない。

 

やれやれ。

俺は披露宴会場の中庭から青空を見上げて、頭を掻いた。

 

どうやら、俺の青春ラブコメは間違っていないようだ。

 

 




お久しぶりです!

のうりんの13巻を読んで、やっぱりちゃんと完結させないといけないなと思って書きました。好きなキャラはマネー金上です。はやく14巻出して!

いやー、これにて完結です。俺妹のキャラたちはみんな書いてて楽しかったですね。ベルフェゴールさんは最後まで書かなかったけど。代わりに星野きららさん登場です。エンゲージプリンセスで活躍してたしね……

完結したことにより初めて読んでくれた方もいるかも?
他にも二次創作のラブコメ書いてますし、オリジナル小説も読んでいただけますと幸いです!

それでは、ありがとうございました。



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