他所の妹が小町より可愛いわけがない   作:暮影司

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いろいろと比企谷小町は困惑している

「ただいま」

 

玄関に小町の靴があることを確認した俺は、とりあえず帰宅の報を告げる。

リビングにいるらしき妹から「おかえり~」と返事が帰ってきた。

おとなしく自分の部屋に帰って着替えようかとも思ったが、なんとなく気分が高揚しているせいで小町の顔が見たくなった。

ドアを開けて入室すると、小町はなにやらポーズを取っている。

なにやってんだろうと観察していると、先に声をかけられた。

 

「お兄ちゃん、買い物は?」

「え? してないよ」

 

そういえばそういう理由だったな。

正直、高坂に会わなかったとしても買うつもりなんかなかったが。

 

 

「嘘ついて部活から逃げたわりに、堂々と何もしてないんだね……その割に遅かったじゃない」

「まーな」

 

小町は全くセクシーではない決めポーズを解除した。

なぜか近づいて俺の顔をまじまじと見つめる。やだ、こいつまで実の兄を好きになってしまったとか言ったらどうしよう……マジでどうしよう。

 

「なんか嬉しそう? 戸塚さんと遊んでた?」

「戸塚はテニス部で未経験の新入部員にレッスンするのに忙しいから無理だ」

「戸塚さんの状況を把握しすぎてるのが気になるけど、戸塚さんじゃなかったらなんでこんな顔してるんだろう」

 

腕を組んで首を傾げながら眉根を寄せる小町。

え、俺って戸塚と遊んだ後くらいの表情なの? 

それってもう腐ってた目が発酵した目に変わるくらいじゃないの? 俺には違いがわからんが。

でも、なんででしょうね……?

あれだ、きっとハッピーセット食べたからハッピーになったんだな。すげえぜハッピーセット。ハッピーラッキーみんなにと~どけ♪

 

「どこ行ってたか教えなさい」

「な、なぜだ」

「誤魔化すところがあやしいな」

「いやいや、別に隠すことじゃないけど」

「じゃあ言いなさい」

 

なんとなく気恥ずかしく、こほんと咳払いをする。

勿体ぶっていると捉えられたのか、苛つきを見せる小町。そんな表情も可愛いよ!

 

「高坂とハッピーセット食ってた」

「え!? 昨日に続いて!?」

 

そうだよな、高校3年生の男子が2日続けて同じ店でプリキュアのハッピーセット注文するって驚きだよな。

っていうかそれって超恥ずかしくない? 今更気づいたけど!

なんとなく気恥ずかしく思ってる場合じゃない。明らかに恥ずかしい。

 

小町は恥ずかしいモノを見る目ではなく、目を丸くして驚いているようだった。

 

「桐乃さんってまさか……そんなに……好き、なの……?」

 

まぁな。俺も驚いたもんな。2日続けて同じもの食ってまでグッズが欲しいくらいプリキュアが好きとはね。

俺よりプリキュアを好きな女子がいたなんて……。あれ、普通は女子が好きなものだっけ?

 

「しかしお兄ちゃんがモデルさんと……いや~、いや~」

 

なにやら孫が結婚したおばあちゃんのような感慨深さを見せて、うんうん頷いている。

別に大したことはしてないのだが……というかヲタトークしただけなんだが。

 

「雪乃先輩か結衣先輩だと思ってたのにな~。いろは先輩や沙希先輩も飛び越えてとんだダークホースが登場したもんだよ……それでお兄ちゃんは桐乃さんと何を話したの、小町に教えておくれ」

 

すっかりおばあちゃんのような顔でおばあちゃんのような優しい言葉で質問してくる小町。

そんなピュアな顔の妹に、本当のことは言いづらいんですが。

 

「エ、エロゲーの話」

「えっ? 何だって?」

 

羽瀬川小鷹かな? 

それともおばあちゃんの真似をしていたら、耳が遠くなってしまったのかな?

 

「だから、エロゲーの話だよ!」

「声が小さくて聞こえないんじゃなくて意味がわからないんだよ、お兄ちゃん!」

 

そうか、小町はエンジェルだからエロゲーという言葉の意味がわからないのか。さもありなん。

 

「エロゲーというのはだな」

「うん」

 

真剣に聞こうとしている表情を見ると尚更話しにくい。

しかし妹にエロゲーの説明をするというのはなかなかアレだな。

高坂は兄とエロゲーの話とかすんのかな。それはないか。

 

「エロいゲームのことだ。つまり18歳未満はプレイしちゃいけないくらいエッチなやつだ」

「え……お兄ちゃん何言ってるの、本当に気持ち悪いんだけど」

 

ゴミカスを見るような顔で見るのやめて欲しいんだけど……。

 

「そういう言葉なんだからしょうがないだろ」

「それもそうだけど、桐乃さんに言うのがおかしいでしょ……セクハラだよね」

 

蔑んだ目はより強いものへ……。

 

「いや、あいつがエロゲーが好きで、俺は相槌を打ってただけのようなもんだぞ」

「お兄ちゃん、本気で頭どうかしたのかな? 桐乃さんがそんなのやるわけないでしょ。つい最近まで女子中学生だったんだよ? 読モなんだよ?」

 

本当にそうだよな。

事実は小説よりも奇なりとはよく言ったものだ。

 

「俺もそう思うけどな。ちなみに俺はコンシューマに移植されたやつをやってるだけだから全年齢版だが、高坂はガチだ。エロエロのやつだ」

 

真剣な顔で、何を言っているんだろうね俺は。

それでもこれが事実であることを伝えないと妹からセクハラ野郎だと思われてしまう。

 

「……え? マジ?」

「マジだ」

「桐乃さんがエロエロ……」

 

小町は驚きに戸惑っている。

目は確かに見開いているのだが、虚空を見つめたままだ。

眉間の先で手を振っても見えていない様子。

まぁ、無理もないな。

しばらく待つと、ようやくぽかんとしていた口が活動を始める。

 

「――それで……お兄ちゃんと桐乃さんは、その、え、エロエロなトークをしてたの? マックで?」

「いや、トークはエロくないぞ。あいつの好きなキャラクターのどこが萌えるとか言う話に共感してやるだけだ」

「ふーん、そっか。なんかお兄ちゃんが女の子と上手におしゃべりできてるみたいでそこは良かったけど、内容がちょっとアレだから小町ちょっと複雑だよ」

 

小町は困ったように眉毛を真ん中に寄せるが、口はちょっと笑っていた。複雑な表情も可愛いな小町は。

 

「でも奉仕部の依頼のオタク友達が欲しいって言ってたの本当だったんだねー。本当に一件落着か。お兄ちゃんがオタクだったことが役に立つ日が来て小町嬉しいよ」

 

嬉しいよ、と言いつつ遠い目をしている。なんで笑顔じゃないんですかね……。

いや、正直、なんとなくわかりますが。

 

しかし、奉仕部への依頼は本当にこれでいいのだろうか。

オタク友達が欲しい。それは本音ではあるのだろう。

だからといって真実とは限らない。

 

今、高坂が求めている願いとは、なんなのだろう。

そのためには、彼女と、彼女の兄のことを知る必要がある。

 

実の兄妹が付き合うとはどういうことなのか。

そしてわかっていただろうに、実の兄妹だからという理由で別れるというのはどういうことなのか。

 

俺が小町を可愛いと思うよりも、彼女の兄は高坂桐乃を可愛いと思っていたのだろうか。

俺が小町を愛しいと思うよりも、彼女の兄は高坂桐乃を愛しいと思っていたのだろうか。

 

どこか遠くに思いを馳せる妹の横顔を見やりながら、思う。

そんなわけないよなあ……、と。

 

だって明らかに小町のほうが断然可愛いだろ? 異論は認めない。

 

 




小町可愛いよ小町。
オリ主つくって小町を攻略したいと思いきや、それは違うんだよなあ……と思ってしまうあたりがまさに世界の妹だね!

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