ですので設定についてはどのメディアと縛ることはありません。混在していてもご容赦ください。
本日も奉仕部は平常運転だ。
金曜日に頭が悪いなんて理由で早退したことも、土日を挟んだことでみんな忘れているのだろう。
由比ヶ浜は小町と仲良く喋っているが、高坂の話題にはなっていない。
湯呑に入った紅茶を啜りつつ、ほっとする。
なんでですかねえ……。やっぱり紅茶には安心する効果があるんだなー。心がぴょんぴょんするんじゃーって、あれ? むしろ興奮してきたな?
そして奉仕部あるあるのノックのないドアの開放。
今回は独身教師か、あざとい後輩か、どっちかしらん。
「やっほー! 来てあげたわよー」
第三の選択肢!
このセリフは決して雪ノ下の姉ではない。上機嫌な高坂桐乃のものだ。
あまりの連続での来訪に困惑して、やたら派手な笑顔に疑問を投げかける。
「え、何? また、依頼?」
なんのようだと聞くような俺の態度が気に食わなかったのか、腰に手を当てて人差し指を俺の顔に突きつける。
なんだよ、そんなことしていいのはSOS団の団長くらいだっつの。俺はキョンじゃないっつーのー。
「友達がわざわざ訪ねてきたってのに、何なのその態度」
お前こそ、年上の先輩の異性の出来たばかりの友人に対する態度じゃないけどね?
なんて言ったら面倒くさいことになるのはわかっているので、いろいろと諦める。三十六計諦めるに如かず。
「そりゃ悪かったな、わざわざ来てくれてありがとう、感謝する。お茶でも飲む?」
「ふふーん、わかればいいのよ」
コロっと機嫌がよくなった。
雪ノ下陽乃や涼宮ハルヒに比べれば遥かに扱いやすいやつだな。ま、相手が悪すぎるか。
「あ、ヒッキーが淹れるんだ」
ぽしょっと少しの驚きを見せる由比ヶ浜。
そのセリフに少しの目線だけで反応を見せる雪ノ下。
「こいつは奉仕部の客じゃなくて、俺の友人として訪れてるからな、俺以外がもてなすのはおかしいだろ」
二人が俺をなんとなく非難しているようにも見えて、素直に自分の考えを伝えておく。
「すみません、雪ノ下さん、由比ヶ浜さん、兄がこんなんで。これでも正論を述べているだけで、他意は無いんです」
なんで小町が謝るの? ぺっこり35度に腰を曲げて丁寧にお辞儀。
「ふふーん、当然よねー。友達だもんねー」
背を反らしたことにより薄い胸がより薄くなる。いやそこまで薄いわけでもないな。すくなくとも雪ノ下さんよりは確実にありますね?
それにしてもなんでこんなに高坂は嬉しそうなの?
まぁ、俺がお茶淹れてるからか……いや、そんな嬉しいか?
「それで、奉仕部になんの御用かしら?」
俺に会いに来ただけだという話になっているのだがそれでも雪ノ下は、なんの用かと問うらしい。
「奉仕部に頼んだのは、友達が欲しい。でしょ? その友達に会いに来たってワケ。頼みに来たんじゃなくて依頼を実行してもらうために来たの。文句ある?」
「そう。わかったわ」
あれ? なに、なんか雰囲気悪い?
何やら言葉に棘があるというか、交錯する視線がぶつかりあっているというか。八幡こわーい。
「あはは……」
空気を読むが何もできずに愛想笑いを浮かべる由比ヶ浜。平常運転だな。
なんとなく空気が重くなり、小町もきょろきょろと何か出来ないか目線を泳がせるが、無力だった。
雪ノ下と高坂が相手では戦闘力が足りない。こいつらに比べたら俺たちはヤムチャみたいなもんだ。
どうしたものかと思って、無駄に顎をさすっていたら膠着した戦況を打破する音が聞こえた。
「頼もう~」
正直頼まれたくないのだが、これは空気を変えるチャンスだ。ちゃんす!
「どうぞ」
相手が誰であっても来るものは拒まない雪ノ下さんがドアを開ける許可を出す。
「剣豪将軍、材木座義輝! 推して参る!」
うるせえ。
入ってくるだけでうるさい。
空気は変えて欲しいが、静かに変えてくれ。
無謀にも推参した材木座に雪ノ下が意外な声をかけた。
「あら、材木座……さん、そういえばあなたってオタクだったかしら」
間違いなくそうなのだが、雪ノ下が材木座に興味を持っていること自体が珍しすぎて、俺と小町は「どゆこと?」と目と目で通じ合う。
由比ヶ浜も目をぱちくりしている。
高坂は誰だコイツ、という目で睨んでいた。誰なんだろうねコイツ。
「けぷこんけぷこん、な、なんというかオタクと言う言葉の定義にもよるわけだが。我はそのような短絡的なレッテルを貼られるような存在にあらず! 我は……」
「材木座さん? 手短に答えて」
「はい、オタクであります!」
「そう。丁度良かったわ」
しれっとそう言いのけると、肩の髪をぱさりと掻き上げる。
全員が雪ノ下の次のセリフを待っていた。
「そこの高坂さんがオタク友達を欲しているそうだから、お友達になってあげてくれないかしら」
そういうことか……。
雪ノ下雪乃の中で依頼はまだ終わっていないのだ。
俺が仮にオタク友達だとしても、友達ってのは1人いればいいというものでもない。なんせ友じゃなくて友達というからには複数形だ。少なくとも、1人紹介すれば終わりという認識ではないのだろう。
さっきまで険悪なムードだった相手にこれだ、全く律儀というか真面目なやつだ。
「八幡? このド派手な女子がその高坂さん? どうみてもオタク友達が必要に見えないでござるよ?」
困惑の極みなのだろう、俺にだけ比較的普通の口調で不安そうに訊いてくる。
「実はオタク狩りが目的なんじゃ……」
材木座は怯えている!
「安心しろ、材木座。こいつはガチのオタクだ。俺と……すでに、オタク……と、友達になっている」
ぼっちの人生が長すぎて、自分の友達を紹介するということに慣れてなさすぎてどもってしまった。
みんなよく友達とか平気で紹介できますね? その友達が愛と勇気だとか、ボールだとかなら俺も紹介出来るんですけど。
「比企谷君、二人のお友達としてお互いを紹介してあげてくれないかしら」
友達を紹介!?
材木座が友達かどうかは兎も角、友達を紹介するというイベントが人生でやってくるとは。笑っていいともが終わった時点で一生やってこないイベントだと思ってたぜ。あれは本当は友達じゃなくていいからね?
しかし、仲人を引き受けたような気持ちだ。俺に仲人を頼むようなやつはいないだろうがな。小町? 小町は一生結婚しない。するときは俺の屍を越えていくから俺は仲人が出来ない。Q.E.D.
しかし照れくさい。
後頭部をぼりりと掻き、一度目を瞑ってから深呼吸。
よし。
「えー、こいつは材木座。3年生だ」
材木座が「いかにも」と頷く。
高坂は「あぁ、いかにもオタクっぽい」と評した。ばっさりだな。
「あー、こいつは1年のきりりん氏」
「む!? きりりんとは……まさか」
知っているのか雷電。
いや知らないだろ。
「いや、偶然であろうが、真妹大殲シスカリプスの上位ランカーの名前で見たことが」
「あ、それ、あたしー」
はいはい、と少しだけ手を挙げる高坂。
「ほ、ほほう、お主が」
だらだらと汗をかきながら、材木座はオープンフィンガーグローブから突き出した人差し指でメガネを押し上げる。それを特になんとも思わずにしれっとした顔で見やる高坂。
「格闘ゲームそんなにやんないんだけどねー、シスカリは特別」
なんでもないように言っているが、格闘ゲームの上位ランカーって凄いんじゃないの?
世界で飯を食っていけるって聞いたぞ。
「ま、まぁ我も格闘ゲームは嗜むのだが、あいにくシスカリはメインではなくてな」
「ああ、そうなんだー。へ~」
二人の表情をちらちらと見る。
高坂は何やら自信満々というか、悟りを開いているというか。遥か高みから見ている。
材木座が汗をかきまくってるのはいつものことではあるのだが、シスカリやってたけど足元にも及ばない戦績なのであろうことは、俺でなくてもわかりそうだ。
こいつは比較的アーケードゲーマーだった気がするが。ハイスコアガールに出会えなかったタイプのな。
「流石はきりりん氏、我がライバルと認めよう。だが、我はそう、どちらかというとゲームよりもアニメ。特にマスケラなど至高であろう、その魅力を語れるか?」
「あー、マスケラねー。あんたみたいな厨ニっぽい奴らはなんであんなのが好きなのかなー」
「ぐほう!?」
早くも材木座を厨ニと断定したか。まぁ、当然だな。
「くっ、我の悪口は良い……だが、マスケラの悪口は許せねえ……訂正して貰おうか」
きゃー、材木座さーん、カッコいいー。そういう声援は特に誰からも発生しなかった。まぁ、当然だな。
「ああ、ごめんごめん。そんな好きじゃないってダケ。まーあれの原作者ってあたしの友達のお姉さんなんだけど」
「なんと!? 月見里がんま先生の!?」
「そうそう。加奈子のおねーちゃんなんだよね」
しれっと言い放つがこれもなんか凄くないか?
アニメ化した漫画原作者が友達の姉だと?
こいつ本当に何者なんだ?
「ふむう、なかなかやりおるな。流石はきりりん氏。さぞかし創作についても造形が深いのであろう。我は小説をメインとしていてな」
書いてないけどな。プロットだけで満足してるワナビだけどな。
絶対ゲームのほうがメインだ。
「へー、あたしも小説書いてたんだよねー」
「ほほーう? なろうかな? ピクシブかな?」
なんの実績も無いのに、なぜかマウントをとろうとするんだ材木座。
なに、お前ネット小説家馬鹿にしてんの? 載せる勇気もないくせに?
しかし、高坂が小説書いてたとは意外だ。Kanonの2次創作でも書いてたのかな? U-1かな? 何歳だよ……。
「まー、妹都市っていうケータイ小説なんだけど」
ふーん、知らないな。
とはいえ俺も本は読むがケータイ小説なんて読んだことがない。
「妹都市って……アニメ化したアレのこと……?」
材木座は困惑していた。アニメ化? 女子中学生の書いたケータイ小説が? 流石にそれはないだろ。
そこで意外な声があがる。
「えっ、妹都市? 読んだ~! めちゃくちゃ流行ってたよね~?」
由比ヶ浜だった。
本は読まないのに、ケータイ小説は読むのか。なんかわかる。
それにしても由比ヶ浜が読むくらい流行した小説を書いてたって? 本当に何者なんだコイツは。
マックの中心でエロゲーを叫ぶような奴なのに、スペックが高すぎる。
ファンであることを告げるように笑顔で近づく由比ヶ浜。
「あ、ありがとうございます~」
高坂が敬語を使っている!? 使えたの!? これが外面?
しかし、自分の書いた小説の読者に会ったら、誰でもそうなるのかもしれん。
高坂も真っ当な感覚を持っているということだ。エロゲーライターに出会ったら速攻でサインを貰いに行くのだろう。俺がいるときは控えて欲しいところですね。
「ん? それって」
好奇心に満ちた顔で高坂が由比ヶ浜の胸元につけられたネックレスを指さした。
俺も何か綺麗なものを付けているな、という認識はあったが、広く開けられたワイシャツの胸元をじろじろと見るわけにもいかない。実際はそのアクセサリーを見ようとしてもその周囲の肌色のメロンを見てしまうから見ることが出来ない。
「エターナブル・シスター?」
「あ、そうそう、知ってるんだ、さすが読モだね」
「へへ~、そのデザイナー知り合いなんだ~」
「え~っ、そうなんだー! すっごーい!」
何だコイツら。へー、可愛いアクセサリーとかが好きなフレンズなんだね! ってそりゃ普通の女子高生はそうなんだろうけどな。
なんだよ、オタク友達が欲しいとか言うからてっきり普通の友達はいないのかと思ったが、そんなことはない。由比ヶ浜のようないわゆる普通の女の子と仲良くきゃぴきゃぴるんるんできるんじゃねーか。
その様子を見て、もはや材木座はシオシオのパーだ。そりゃそうだろう、由比ヶ浜のようなきゃぴるん女子高生なのにオタクとしてはチート能力者みたいなスペックだったら、材木座のような一般のオタクは見る影も無い。もちろん、俺もだ。
「知り合いって、このデザイナーさんって?」
「ん~、まあなんていうか。元彼っていうわけじゃないケド~?」
「えっ、大人の男の人と付き合ってたの~?」
なんだな……。なんかこうイライラする。
なぜだ。なぜ俺は今不機嫌なのだろう。
そんな俺の表情を見たのか見てないのかわからないが、雪ノ下はバースデーケーキにサバイバルナイフを突きつけるようなその場の甘ったるい空気をぶち壊すセリフを言い放った。
「高坂さん? 確かに私が今回頼んだ相手は材木座さんだけれど。元々はあなたの依頼を叶えるためのものよ? 今回のあなたの態度は失礼なのではないかしら?」
そうだ。それだ。
材木座が貶められたことでもなく。俺が友達紹介を上手く出来なかったということでもない。ましてや高坂がハイスペックすぎることを妬んでいるわけでもない。
それはオタク友達を作るという奉仕部への依頼に対して紳士に向き合い、材木座にお願いをしている雪ノ下の意思にそぐわない結果に向かっているからに違いない。
オタク友達を増やそうとしてるのに、なぜか上から目線の物言いをして下に見て、あまつさえ由比ヶ浜と仲良くなろうなど不真面目を通り越して裏切り行為に近い。
俺が不機嫌な理由は、雪ノ下が代弁してくれた。
「はぁ? 今楽しくおしゃべり中なんですけど」
雪ノ下にそんな顔でそんなセリフを言える人間を他に知らない。
わかっていたことだ、高坂桐乃は常に高飛車で偉そうで失礼だ。
だから、どうしようもなく可愛くない。
どうしようもなく可愛い妹の小町を見ると、ずっと前から俺の方を見ているように思えた。
その目は、意思を伝えるわけではなく、俺の意思を伺おうとしている、そんな目だった。
UAが凄いのは嬉しいんですがもうプレッシャーが半端なくて。
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