他所の妹が小町より可愛いわけがない   作:暮影司

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それにしても材木座義輝はチョロすぎる

ここはカラオケルーム。

間違いなくカラオケルームだ。

 

なんでここに俺と材木座と高坂の3人が!?

 

それは我が妹、世界で一番可愛い比企谷小町がコナン君のような口調で、

「あれれ~? こんなところに今日限定の学生フリータイムクーポンが~!? 高坂さんカラオケ好きですか~?」

などと見え透いたセリフを言ってけしかけ、

「超好き~、いこいこ~!」

と高坂が言った途端に目配せ。

 

「今日は用事があるんだ、今度絶対行こうね~」

と由比ヶ浜が無難に辞退。

 

「実は小町も今日は駄目なんです、でもクーポンが勿体無いと思って。次は絶対行きましょうね桐乃さん」

などと若干やりすぎ気味に目をうるませた。

 

雪ノ下は、

「カラオケはあまり得意ではなくて。3人で行くといいわ、そのアニソン? とか遠慮なく歌えるわよ」

とたどたどしいながらも無理のない流れを作っていた。

 

「八幡、そういえば我の歌声を知らぬままだったな」

 

材木座が考えるような素振りで言うが、考えるまでもなく知らないし知らないままで一向に構わないんだけど?

高坂はどう思ってるのかと見やると、腕を組んで眉を釣り上げている。よく見るポーズだな。

 

「し、仕方ないわね、そこまで言うならアニソン縛りカラオケに行ってあげるわよ」

 

誰もそこまで言ってないんだが。しかしこいつツンデレがえらい似合うな。ちょっと可愛いと思ってしまったぞ。

 

 

「し、仕方ないなあ。特撮ソングはアリですか?」

 

材木座、おまえはツンデレするな。気持ち悪い。

 

まあ、そんなわけで高坂と俺と材木座の3人でカラオケにやってきたのだ。まさかこんな日がこようとは……。

 

高坂はカラオケに慣れているのだろう、入室してすぐに何やら端末をちゃっちゃといじると、ログインを行ってアバターを呼び出した。その後も流れるように設定をしている。ライブ会場で歌ってるように音が反響したり、歓声が上がるようになるらしい。

材木座も手慣れた様子でスマホと連動させていた。そういうアプリがあるらしい。

 

真のぼっちである俺は、とりあえずドリンクバーに向かう。

カラオケに慣れていないということを初めて恥ずかしいと思ってしまい、気にしていないふりをするための戦術的エスケープである。

オタク仲間というカテゴリーで括られてしまうと尚更ぼっち感が増してしまう、どうも俺です。

 

どどめ色のオリジナル炭酸カクテルを作成して部屋に戻ってくると、すでに歌声がドアから漏れていた。

 

「めーるめるめる、めるめるめー!」

「めるめー!」

「めーるめるめる、めるめるめ!」

「はい! はい! はい! はい!」

 

そこにはスタンドマイクを前に、星くず☆うぃっちメルルのOPを熱唱している高坂と、どこから持ってきたのかビームサーベルのようなものを2刀流させて完璧なヲタ芸をかましている材木座がいた。どちらも似合いすぎている。

 

入り口のドアからは奥にモニターとスタンドマイク、両脇に3人くらいが座れそうなソファー席があり、真ん中はテーブルだ。

右側の中ほどに座り、ドリンクをちゅうちゅうさせながら、うりゃほいうりゃほいとうるさい材木座の脇から高坂を見る。

 

妙に完成度の高い振り付けだ。どんだけメルルが好きなんだこいつは。

歌も上手い。そして、その、笑顔もいい。さすが読モだな……。

 

歌い終わると、当然とばかりに決めポーズ。

カラオケ機器の機能も拍手を喝采させ、タンバリンで最高潮に盛り上げる材木座。

 

「拍手」

 

最高の笑顔をみせていた高坂は、俺を軽くにらみながら、拍手を要求した。

慌てて拍手をすると、苦しゅうないとばかりに頷いた。

 

「いやー、きりりん氏、完璧ですなー!」

「ふふーん、それほどでもあるけど」

 

確かにそれほどでもあるが、少しは謙虚さを見せた方がモテると思うぞ。まぁ十分にモテるのだろうけどね?

それにしても材木座がキモい。あんまり俺達が持ち上げると、高坂がオタサーの姫みたいになっちゃうからやめてね?

すでに曲は入れてあったのか、高坂と入れ替わりに材木座がマイクスタンドの前に。

よく知った勇者シリーズの曲だ。

 

「ディバイディーング、ドライバァ―――――!!」

 

なぜかわからんがやたら上手い。歌はそうでもないんだが、妙にしっくりくる。前世でガオガイガーのパイロットだったんじゃないかと思うくらいだ。

高坂もやんややんやと盛り上げていたが、ちらちらと俺の方を睨む。なんだよ……。

クエスチョンマークを出していると、高坂はチッと舌打ちしてテーブルを回り込み、俺の隣に座った。ち、近い。

選曲用の端末をなぜか俺に押し付けながら、身体も俺に近づけて……耳を引っ張る。痛えよ。材木座の歌を邪魔しないように耳元で喋ろうとしてるのか、結構優しいとこあるんだな。

 

「次はあんたの番でしょ、さっさと入れなさいよ。あたしが入れられないじゃない」

 

うーむ、どうやら暗黙の了解というやつか。

カラオケは順番に歌うものらしい。そういうの誰か教えてよね?

しかし2人が上手すぎて気が引ける。

そもそもカラオケほとんどしたことないし。

とりあえず、これか。

送信すると、モニターの上部に受け付けた曲名が表示される。

 

「あっ、そうきたか、いいじゃん」

 

褒められたよ。

 

「が~お~が~い~ガァ!」

 

材木座が余韻たっぷりに歌い終わる。

高坂は俺の隣から移動を始める。向かいの前の席に戻るのだろう。

二人はマイクスタンドで歌っていたが、俺は座ったままでいい。

テーブルの上にあったマイクを取る。

モニターを見ようとすると、マイクスタンドの前に立っている高坂が、手招きしている。どういうことだ?

 

「さっさと来なさいよ。あんたどっち?」

「は?」

「だから、あんたが選ばない方を歌ってあげるって言ってんの」

「え?」

「いいからさっさと来いっつの!」

 

要領を得ない俺に苛立ちながら、高坂は俺の手首を掴んで立たせ、マイクスタンドの前に立たせた。

すぐ隣に高坂が陣取る。

 

「もう曲が始まっちゃうじゃん、あたしが黒でいいわね?」

「え、あ、そういうこと?」

 

散々っぱら聴いたイントロが流れ、俺達はデュエットを始めた。

当然、断然、ふたりはプリキュアのOPである。

まさかプリキュアを女の子と二人でデュエットすることになるとは。

 

初っ端から高坂は歌詞ではなく俺の方を見ながらきっちり合わせてハモってきた。

俺が白キュアを歌い、高坂が黒キュアを歌う。

 

――やべえ、楽しい。

親父がスナックに行く意味がようやく理解できた。あんなババアと酒飲んで歌う場所の何が楽しいのかと思っていたが、女性とデュエットするというのはどうやら何やら楽しいのだ。

 

歌い終わると、高坂は当然とばかりに手を上げ、誘われるままにハイタッチ。ボーリングでストライクが入ったときに小町としたことがあるが、そのときよりも嬉しいかもしれない。

 

次は高坂の番なので、俺だけが席に戻ると、名曲が流れ始めた。

体全体でリズムをとっており、歌い出しも完璧だ。

 

「八幡、だ、誰だ、あの娘」

 

材木座は見事な歌声に見惚れているようだったが、驚愕しながらも身を乗り出して俺に声をかけてきた。

言うしか無いのか、お約束ってやつを。

俺は高坂の邪魔をしないようテーブル越しに、右手を添えて言う。

 

「ご存じないのですか? 彼女こそ超時空シンデレラ、高坂桐乃です」

 

高坂は見事な振り付けで、「キラッ☆」をやってのけた。

 

「八幡、我、我、ヤックデカルチャー」

「あ、ああ」

 

デカルチャーかどうかは兎も角、高坂は完全にランカ・リーだった。

しばらく歌って踊る高坂をじっと見つめていた材木座は、やおらスマホをいじり始めると次の曲を入れた。

あ、こ、こいつ……。

 

星間飛行が終わると、すかさず材木座は高坂に声を掛ける。

 

「あ、その、きりりん氏、我はその~シェリル・ノームを歌う故」

 

もじもじしながら勇気を出してデュエットを誘う材木座。キモい。

しかしながら俺と高坂がプリキュアを歌っているのを見ていて羨ましくなったのだとすると何も言えん。俺もキモかったに違いない。

 

「あ、ライオン? いいよ、ランカ歌うね~」

 

高坂? 無理しなくていいのよ? なんか俺のときより態度が優しくない? そんなに生き残りたいの?

ライオンを二人で歌ってる絵面はなかなかにレアだった。というかアイドルとそのイベントに参加したキモオタにしか見えん。

材木座がもう目も当てられないくらいにデレデレしている。全くデュエットしただけでそんな顔になるとはチョロいな。チョロ木座だな。

おっと、俺も曲を入れないといけなかったんだ。サヨナラノツバサとかどうかしらん? 俺もシェリル・ノームになれるかしらん?

 

俺と材木座のデュエット合戦はそう長くは続かず、高坂はうまいこと俺たちにリクエストを入れるようになり、俺は一所懸命にメイドさんロックンロールを歌ったりした。高坂のセンスはヤバイ。

だがしかし、俺のリクエストで歌っただがしかしのOPは、完成度が高すぎて本人かと思うほどだった。マジシュガーフィーリング。

 

カラオケのフリータイムは15時から20時までの5時間であったため時間はたっぷりあったが、高坂は夕ご飯は家族で一緒に食べる決まりだと言って途中で帰ろうとしたので、俺と材木座も退室することにした。

クーポンを持っている高坂が代表して支払いをしたので、自分の分のお金を少し多めに渡していると、思わず言葉が口をついて出た。

 

「なあ、今度は3人じゃなくて」

 

そこまで言って止まる。俺は何を……。

 

「ああ、そうだね。今度はあたしの友達も誘ってみんなでこよっか!」

 

上機嫌に笑う高坂を見て、そうだなと首肯する。

 

自宅へと向かうすっかり暗くなった道で自転車を漕ぎながら、なんで俺は高坂と2人でカラオケに行きたいなどと思ったのか考える。

 

チョロ木座がキモいからだな。そうに決まっている。

 

 

 

 




意外と八幡もチョロかったですね。違いますかね?いや、実際そうなると思うよ?
オタサーの姫っぽいのは黒猫さんの方なんですが、桐乃もそりゃげんしけんに入ったらモテまくるでしょうよ。
そんなわけでカラオケしてるだけの小説でスミマセン・・・。

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