お手柔らかに!
「久しぶりに連絡してきたと思ったら、新しい彼氏の紹介とは恐れ入ったわ」
「は、はあ!? 違うから、彼氏とかじゃなくて、友達よ友達」
「どうかしら。ねえ、あなた。ああ、失礼。私のことは黒猫と呼んで頂戴」
高坂の友達と聞いていた、ゴスロリファッションを妙に着こなした長い黒髪の少女は初っ端からキャラクターの強さを発揮していた。いくら秋葉原だって、こんなバンドリの黒いボーカルみたいな格好してたら目立ってしょうがないだろう。ロゼリアにすべてをかける覚悟があるのかな?
カラオケに行った週の土曜日、俺は高坂から友人を紹介したいと言われて秋葉原のメイド喫茶までやってきていた。
彼女は先に待っていたため、後からやってきた俺と高坂が向かい合って座った。高坂の前に彼女がいて、高坂の隣に俺がいる。なんとなく俺と高坂の方が身内感が出ちゃってるのが気になりますね……。
この店は彼女たちにとっては常連であるらしく、ウェイトレスとは気心の知れた挨拶を交わしていた。
とりあえず、黒猫と自称する彼女に自己紹介をせねばならない。
「ああ、俺は……」
「彼のことはHACHIMANって呼んで」
普通に名乗ろうとしたら高坂が邪魔してきた。ええ……なんかイヤなんですけど……。本名なのに本名じゃないっていうか、なんか特殊な才能がありそうな感じがしちゃうというか……。確かに彼女が黒猫なんて呼び名であれば合わせるのがマナーなのかもしれんけど。でもこいつらは何故か、あんたとかあなたとか呼び合っている。喧嘩でもしているのかしらん。
なんにせよご機嫌がよろしいようには見えない黒猫に会釈する。
「よろしく」
「目が死んでいるけれど、アンデッドなのかしら」
「聖水をかけられたことがないからわからんな」
黒猫はさすが高坂の友人というだけのことはあって、なかなかに初対面とは思えないコミニュケーションだったが俺は雪ノ下という知り合いがいるのでそれほど困惑しなかった。目が腐っているとか死んでいるとか言われて慣れてるしな。慣れるって悲しいね?
「で、彼氏でもない友達が出来たからという理由でわざわざ呼び出したのかしら?」
どうも兄貴との恋人関係の影響があって最近連絡を取れていなかったのだが、俺を紹介するということをダシにして会う約束をしたらしい。
「いや、まあ、なんつーの? なんとなく二人だけで会いにくいっつーか」
高坂は罪悪感と照れくささが混ざったような顔で、頬をかいたり目線を泳がせたりしていた。
「それはあなたが私の元彼を奪っておいてフッたからかしら?」
「ちょ!? あんたそういう言い方はないっしょ!?」
元彼?
高坂の兄貴が?
「あら、事実じゃないかしら。大体、私達が別れたのもあなたが泣いてお願いしたからだけれど?」
「な、泣いてないし!? あんた自分から別れたんじゃん!」
「あなたが素直じゃないからよ」
待て、待て。
兄貴と黒猫が付き合ってて、別れてくれってお願いして、別れた兄貴と付き合って、それで友達だってのか?
わけがわからん。
事実だとしたら、俺がいるからという理由で会える高坂の気が知れない。
まあ高坂のことは未だによくわからんけど。
「HACHIMANには説明しているのかしら」
童顔の雪ノ下みたいな少女にHACHIMANって言われるの抵抗ありすぎるんだけど、これも慣れるんでしょうか?
ヒキタニだのヒッキーだのも慣れたから慣れるか。
「京介……兄貴と付き合ってたことは知ってる」
「そう……実の兄と禁断の道を歩むことを選んだ罪深き者。わかりやすく言えば近親相姦クソビッチだと知っていてお友達になってくれるなんて優しい人ね。あなたが惚れるのもわかるわ」
「あんた喧嘩売ってるワケ!?」
高坂はやおら立ち上がり、座ったままの黒猫を上から睨む。
しかし、この黒猫とやら。高坂みたいな導火線だらけの爆弾によくこれだけ火を用意して近づけるものだ。逆に言えば相当の関係性なのだろう。親友と呼べる間柄に違いない。俺と戸塚のような……おっとそれは伴侶だったな。
「なあ、ちょっと聞いてもいいか?」
「なにかしら?」
どちらにともなくセリフを吐いたが、対面にいた黒猫が反応した。
「高坂の兄貴と交際していたのに、高坂と兄貴をくっつけたってんなら、どうかしているのは誰なんだ?」
「フッ……許されざる交配によってキメラを生み出そうとしてしまったことを責めているのかしら。勘のいい男は嫌いよ」
なぜか悦に入っている。どうやらこいつもまともじゃあないようだ。
どこの錬金術師なんですかねえ。
「こ、交配って……」
「あら、さすがにちゃんとコンドームは使っていたかしら」
「ちょっ!? してない! してないから!」
思わず雪ノ下のようにこめかみを抑える。
周囲を見渡すがそれほど近くに客はおらず、注目を浴びていることはなさそうだった。
高坂といると常に周囲を気にすることになるな。
メイドのウェイトレスさんが俺に、大変ですねと同情するように微笑んでいた。
だが、兄貴とはどうやらそういったことをしてないことを知って少し安心した気持ちもある。
可愛い妹がいる身としては、見たこともない高坂の兄貴に対してなんともいえない感情を持っていたが、どうやら超えちゃいけない線は超えていなかったようだ。
「あんた、なんか今日やけに突っかかってくるじゃない」
「そうかしら」
「兄貴とは、正直あんたが付き合ってやって欲しいって思ってるんだケド」
「へえ……自分は新しい男が出来たから譲ってくれるの。ずいぶんとお優しいことね」
「だから違うっての!?」
黒猫というだけあってキャットファイトがお好きなようだ。どうもこいつらは本気で喧嘩しているのではなくじゃれあっているだけみたいだがな。黒猫という女、あまり表情が豊かではないが、どうにも楽しそうに見える。おそらくなんだかんだで高坂のことが好きなのだろう。
極めて冷静であるかのように、ゆったりと紅茶を啜ったりしてはいるが、表情や仕草でわかる。本当に猫なら耳や尻尾が動いただろうと思う。
高坂もいつもどおりプンスカしているがやはり楽しそうだ。セリフに怒りの感情が無いからな。
普段から喧嘩している間柄の親友同士が事情があって連絡をとっておらず、久々に会ったらやっぱり喧嘩になったという流れが、関係性が変わっていないということが嬉しいのだろう。
ぼっちの俺からすると眩しい限りだ。思う存分ゆるゆりしたらいい。
「何ニヤニヤしてんのよ、キモッ」
高坂が横から目を眇めながら吐き捨てた。やられっぱなしだからって矛先を向けないでくれませんかね……。
「安心なさいHACHIMAN。彼女のキモッはよく京介にも言っていたセリフで翻訳すると素直に言えないけど大好きって意味だから」
「ちょ―――!? あんたそんな風に翻訳してたの!?」
「あら、大好きじゃなくて愛してるだったかしら」
「誤訳! 誤訳にもほどがある!」
高坂はすっかり顔が真っ赤だ。恥ずかしいのかテンションが上ってるのか頭に血が上ってんのか。おそらく全部だな。
「あたしは、あんたなら、その、京介を譲ってもいいって言ってんの」
「それはそれは。嬉しいわ、元々私の彼氏だけれど」
ドロドロの三角関係だな。その割にはこいつらは妙に仲良く見える。本当の親友ってのはそういうものなんですかね。俺にはいないからよくわからないね?
「まあ、ベルフェゴールの手に落ちるのは彼にとって惨劇と呼べる結末だわ。だから、その、譲り受けてあげようかしら」
「うっわー!? あんたってばいつの間にツンデレになったの! まあでもそのとおり。アイツには絶対あげない」
「誰がツンデレよ。でも珍しく利害が一致したわね」
「不甲斐ない兄貴をよろしく」
何を言っているのかよく分からないが、何やら休戦協定が結ばれたらしい。意味ありげに笑い合っている。まあよかったよ、延々と喧嘩されててもな。
俺は砂糖とミルクをたっぷり入れたコーヒーを飲んでから、気になっていることを聞いた。
「ちょっと訊いてもいいか? 高坂の兄貴と黒猫が付き合っていた?」
「ええ」
「彼氏を妹に譲ったってのか?」
「そうよ」
「だとしてもだ、兄貴はこんなに可愛い彼女がいたってのになんでまた別れて実の妹と付き合うことになるんだ?」
俺は理解出来なさすぎて、本気で質問していた。高坂よりも可愛い妹がいる俺ですら理解できん。
仮に一色あたりが、
「せんぱ~い、小町ちゃんと付き合ってくださいよ~」
って猫なで声で頼んできたとて、おうそうするかとはならない。なるわけがない。
「かわ……」
「ちょ、さり気なくアプローチすんな!」
二人とも俺の質問には答えてくれなかった。
黒猫は恥ずかしそうにうつむき、高坂は不機嫌そうに睨んできた。
なに? 可愛い彼女って言い方がまずかったの?
「いや、そういう意味ではなくてだな……。俺の好みの話じゃなくてな? 要するにちゃんとした誰に対しても自慢できるような容姿の女性って意味だ。一般的に、客観的にだ」
極めて納得できる冷静な理屈を伝えているつもりだったが、黒猫はますます顔を赤らめて両手で頬を隠していた。
なんでだよ。
「ふ~ん。要はあんたもこの黒いのと付き合えたら嬉しいな~とか思ってるってことね」
「なんでそうなる……」
高坂もますます機嫌を悪くしていた。俺の話ちゃんと聞いてた?
「じゃあ、あんたがこいつから告白されたらどうすんの。付き合う?」
馬鹿げた過程の話だ。
そんな都合のいい展開になるのはラノベ主人公くらいのものだ。
しかしここではぐらかしても話が前に進まないのだろう。
「そりゃ、付き合うだろ。断るやつの気が知れねえよ」
「ふーん。こんな真夏に暑苦しい格好する厨ニ病のひねくれもののどこがいいのやら」
高坂は親友に対しても毒舌が酷い。
黒猫はといえばボロクソに言われているのに、それに関しては全くのノーリアクションで、ますます顔を下に向けていた。怒ってもいいと思うよ?
「で、あんたの可愛い小町ちゃんが別れてって言っても別れないってことね」
「そりゃ、そうだろ。小町のお願いなら大概のことは聞く俺でもそれはないと思うぞ。兄貴、京介って言うのか? そいつが変わってるんだ」
「なにそれ、あたしがこの黒いのに比べて女としての魅力が低いっての?」
「いや、そうは言ってないだろ。妹じゃなきゃ話は別だ」
俺は空になったコーヒーカップを振りながら言った。
催促と捉えたのか、メイドさんがおかわりを淹れに来てくれる。
星野と書かれたネームプレートを少し揺らしながら、コーヒーポットを傾けているところを見ていたら、高坂はメイドさんがいるにも関わらず、妙なことを言い出した。
「じゃあ、あんたは、あたしとこいつ、同時に告白されたらどうすんのよ」
「は、はあ?」
このメイドさんがいる間くらいは黙れないの?
こんな会話を聞かせて、恥ずかしくないの?
コーヒーを淹れ終えた星野さんはにっこりとスマイルしながら、ぺこりと会釈して去っていく。
バックヤードでネタにされないといいなあ……。
俺が黙っているのを答えに窮していると捉えたのか、助け舟を出してくれるのだろう、黒猫が苛ついている高坂に口を開いた。
「嫉妬はみっともないからおやめなさい」
助け舟じゃなかった。
なんでそう喧嘩を売るんですかね。
さっき仲直りしたじゃないですかー、やだー。
「はあ?! 嫉妬? 誰が!?」
「あなたに決まっているでしょう? 可愛いって言われたことがなかったのね、可哀想に。私が言ってあげるわ、可愛いわよ、桐乃」
「もー、あったまきた! 勝負よ、勝負!」
無駄に龍と虎を背負った2人は、腕組みをしながら睨み合った。
俺は砂糖とミルクを入れないコーヒーを飲み、苦さで顔をしかめることしか出来なかった。
どうでもいい作者の情報~
八幡は由比ヶ浜とくっついて欲しいよ派
京介は黒猫と結婚したらいいよ派
です。
俺の妹がこんなに可愛いわけがないポータブルが続くわけがないのエンディングの中でも黒猫が一番幸せだもんね。京介と黒猫の間に生まれた子供を可愛がる桐乃が可愛い。
俺ガイルのゲームだと、平塚先生エンドが好きだけどw
で、個人的に好きなキャラは、いろはすとあやせです。
好きなキャラの出番が多いとは限らないんだなあ・・・。