「めておいんぱくと」の桐乃のイラスト可愛すぎですよ!
シナリオでは黒猫が良かったですね~。
でも、今回の話は奉仕部メインです。
ふぁ~、む。
俺はあくびを噛み殺した。
今日も今日とて奉仕部は平常運転だ。
天気は良くも悪くもなく、暑くもなければ寒くもない。
雪ノ下は本を、由比ヶ浜は雑誌を開き、なぜか奉仕部の部室に入り込んでいる一色は小町となにやら話していた。
聞き耳を立てるのも何なので、文庫本を眺めるものの頁をめくるのは遅かった。
悪くはないが、けだるい。
そのけだるさを打破するようにノックの音が響く。
「どうぞ」
雪ノ下が本を閉じながら入室を許可すると、扉を開けたのは最近良く見る顔だった。
「なんだ、こ……」
てっきり俺に会いに来ただけだと思って話しかけると、俺の方はちらりとも見ずにすたすたと通り過ぎた。
右から左に移動していく高坂を見ながら、「こ」の口のまま固まる。
「人生相談、あるんだけど」
「奉仕部への依頼ということね。何かしら」
ちょっと? この状態でのスルーは恥ずかしすぎるんだけど?
「先輩、先輩に用じゃなかったみたいですね?」
一色、スルーされるより確認されるほうが恥ずかしいことはわかったから、黙っていてくれる?
奉仕部に用事があるんじゃなくて友達の俺に会いに来たと思い込んでたという、ぼっちなら尚更恥ずかしい状況ですよ。
「これは私の友達の話なんだけど」
おい高坂、それは絶対自分の話のときの前置きだぞ。
しかし今のこの状況では俺が発言できる気がしないので黙っておく。
「久しぶりに会った女友達が連れてきた男友達にカワイイカワイイ言われまくっちゃったんだけど、どう思う?」
――確かに、それは君の友達の話かもしれないね?
「それはまた随分と軽薄な男ね」
ぱさりと髪を払いながら雪ノ下が言ったセリフからは軽く蔑んだ感じが伝わってくる。彼は軽薄なんかじゃないよ? そういう勝負だったのよ?
擁護したい気持ちをぐっと抑えて、様子を見る。
「それがそれほどナンパっていうわけじゃないから尚更どうかってことなの」
高坂はいつもの不遜な態度を少しだけ和らげて、4人の女子に問いかけていた。
「つまり、その男が容姿を褒めちぎることが恋慕なのかどうなのか、ということかしら?」
「そう! そういうこと!」
ちょっと? 俺の目の前で俺の恋バナするのやめてくれる? 恥死するよ?
しかし、ここで席を外すのもな……。
「小町は兄からはよく言われますが、兄妹なので」
ノーカンですよね、という意味であっけらかんと笑っているが、小町以外の4人はここへ来て初めて視線が俺の方へ。わぁ、冷たい。
温かいお茶でも啜りましょうね……わぁ、ぬるい。
「私も、そんなことを言うのは姉くらいだわ」
ふう、とため息をつく雪ノ下。可愛いと言われることを思い出しているとは思えない表情だ。
「んー、私はあんまり異性からカワイイなんて言われないからよくわかんないな……あはは……」
そう言いつつ、お団子頭をくしくしと触る由比ヶ浜。意外だな。
「そうですねえ、じゃあ、先輩に今言ってもらってもいいですか?」
「は?」
突然、一色が手を合わせながら良いことを思いついたというような顔でこちらを見る。
「言われてみればわかる気がするんですよね~。あ、由比ヶ浜先輩にもお願いします」
「え、ええ? んー、でも、依頼のため、だもんね。ヒッキー、お願い」
一色と由比ヶ浜の視線が容赦なく俺に刺さる。助けを求めて小町を見てもニマニマと状況を楽しんでいるだけだ。
藁にもすがる思いで雪ノ下を見るが、姿勢を正して目を閉じていた。
「俺は軽薄な男じゃないのでそういうのはちょっと」
「は? あんた言いまくってたじゃん」
高坂があっさりと言った。言ってしまった。
こいつは隠す気があるのかないのか?
「あら、いつの間に比企谷君は高坂さんに可愛いを連発するようになったのかしら」
「ち、違~う!? あたしじゃなくて、友達の話!」
「そうだったわね」
ああ、雪ノ下はやっぱりあの前置きを友達じゃなくて自分の話だと認識したんだな。
それで今の話から男が俺だと思ったと。
いや、俺が高坂にカワイイを連発するわけないだろ。ユキペディアさん、修正が必要ですよ?
「それで、なんだかんだで奉仕部の依頼については妙に真面目に取り組む比企谷君の一色さんと由比ヶ浜さんへの愛の告白はまだかしら?」
「あ、愛の告白!?」
「ん~、正直葉山先輩じゃないのは不本意ですが、どうしてもというなら嫌じゃないので問題ないです」
ちょっと? 好き勝手言いすぎじゃない?
「そもそもお前らが高坂の友達の気持ちを理解する必要ないんじゃねーの。高坂が聞きたいのはカワイイを連発された友達の気持ちじゃなくて、言った男の方のことなんじゃねーのか」
俺が頬杖を付きながら言うと、一色はつまらなそうに口をとがらせた。
「あ~、まーた正論で逃げてるよ、すみませんね、いろは先輩。兄がつまんない人間で」
小町が何か言っているがキニシナイ!
この場合、依頼者がそうだと言えばそうなんだからな。俺の意見に賛同してくれるであろう高坂の表情を伺う。
「うっさい、あんたには聞いてないっつーの」
依頼者は取り付く島もなかった。なんでよ。
「まぁ、比企谷君は女性を自然に褒めるなんてこととは無縁だものね」
「そうですねー、これだけ可愛い子達に囲まれているのに、さっぱりですからね。ヘタレです」
「でもお兄ちゃんは、小町と戸塚さんには言いまくってますけどね」
「あ、あはは……」
言いたい放題言われて黙ってみているしかない俺です。
「ま~、小町ちゃんはあたしから見てもカワイイカワイイ妹だからわかるケド。戸塚さんって誰?」
さすが妹好きだな、小町の魅力がわかってしまうのか。いや、むしろさすがなのは小町だろう。伊達に世界の妹と呼ばれているわけじゃないぜ。その小町は高坂にカワイイと言われたことについては特に反応せず、質問に答えようとする。
「ああ、戸塚さんはですね、カワイイ男の子です」
「え”!」
目を見開く高坂に由比ヶ浜がぽんと肩に手を置く。
「彩ちゃんは確かにカワイイから……」
高坂以外の4人は一様にため息をついた。そして高坂は顎をさすって、
「あ、え、あ~。そうか~、そういう人だったか~。うん、わかった」
「ちょっと? 何がわかっちゃったの?」
ぼっちはわかってもらえないことには慣れてても、変に理解されるのは慣れてないのよ?
「大丈夫、あたしは色々な愛の形があることを知ってるから」
「待て、待ってくれ」
なぜだろう、戸塚と愛し合うことを認められたのにとてつもなくマズイ気がする。
特に高坂の知っている色々な愛の形の一つに数えられるのが怖い。
「あー、お兄ちゃんが戸塚さんを好きなのはもうわかっていたことではあるんですが、どこか本当は違う気がしてたんですよね~。ついに本気で考えるときが来ちゃったか~」
そう言って両手の上に顎を乗せ、遠くを見る小町。
妹が兄のことを思ってくれるのは嬉しいのだが、正直ごめんね?
「私はLGBTにきちんと理解を示しているから全く驚かないし、今までと同じように接するから安心していいわよ、比企谷君」
雪ノ下は珍しいくらい邪気のない笑顔を見せた。
「なんでこういうときだけ優しいんですかね……?」
おそらく雪ノ下は全部わかっているのだろう。
「でも先輩はなんだかんだで女の子のことを、そういう目で見てると思うんですよ~」
そして、この一色もある意味わかっているのだろう……。そういう目で見てたのバレてたの?
「そ、そうかな? ヒッキーは彩ちゃんのこと本当に好きだし……」
由比ヶ浜はなんというかいい子過ぎて心配だね。
「え~、先輩は気づけば由比ヶ浜先輩の胸を見てますよ~」
「そうよね。あたしもそう思う」
一色と高坂が同時に俺を睨む。
やべえ、組んじゃいけない2人が組んでしまった。モストデンジャラスコンビだ。
「えっ!? ヒ、ヒッキー……」
顔を赤らめて胸を隠すような仕草を見せる由比ヶ浜だが、かえって強調しちゃってるんだよなあ……。
「ほら~!? 今、凄い目で見てますよ~?」
「はっ、キモ」
お前らの方がよっぽど凄い目で俺を見てるんだけど?
大体、今のは仕方がないだろ。
「ふふふ……比企谷君は男も大好きだし、妹も大好きだし、巨乳も大好きなのよね……」
「ひえっ!? なんかこの人、あやせに似てる!?」
ダークに笑う雪ノ下を見て高坂が恐れおののいた。あやせって誰なの?
ちなみに俺はもうとっくに雪ノ下を恐れている。まな板怖い。
「とりあえず、女の子に興味がないわけではないということはよ~くわかった」
高坂に蔑まれるのももう慣れたな……。
こいつはデフォルトで人を睨んでる気がするね。
「だけれど、妹とか男の人にしか容姿を褒めることは出来ないと言ったところかしら」
「黙って見てるだけってことですね。先輩はむっつりすけべのヘタレです」
「あー。いろは先輩、兄を一言で的確に表現してますね~。小町的にはポイント微妙ですけど」
「ヒッキー……」
視線が痛い……。
由比ヶ浜だけが侮蔑ではなく、恥じらうような表情だった。一人だけが優しくしてくれると好きになっちゃうからやめろ。蔑んでください。
「と、言うことよ。高坂さん」
腕を組んでしたり顔をする雪ノ下。
「ん~?」
腕を組んで思案顔をする高坂。
なんなの? 君たちは腕を組むことで威厳や風格を更に出したいの? それとも控えめな胸を強調したいの? 高坂はそこまで小さくないけど?
一色がぽんと手を打つ。
「つまり、先輩はヘタレだから、本当にそういう気があったら褒めたりしない、ってことですよね?」
「そういうことよ一色さん。まぁ高坂さんの言っている男が比企谷君のような特殊な人とは限らないけれど」
なんかこの2人、怖い……。お釈迦様が孫悟空を手のひらでもてあそぶように、男を手玉に取ってる感じ。まぁ専業主夫志望の俺は甘んじて手玉に取られてあげてもいいけどね。
「ふ、ふ~ん。なるほどね~」
高坂は得心したのか、腕を組んだまま頷いた。
由比ヶ浜も心なしか安心したように見える。
「人生相談は解決したようだし、高坂さんもお茶を飲んでいったらどうかしら」
「あ、そうですね、小町が淹れますよ~」
なんか解決したみたいね?
もう誰も俺の方なんか見ずに、放課後ティータイムに興じている。
奉仕部の依頼に対して、一切なんにも出来なかったが、自身の力不足を嘆くことはなかった。
そんなことより、むっつりすけべのヘタレだと思われていることをどうしたらいいかを考えていた。
奉仕部に相談してみようかしらん……。
この奉仕部にオリ主で登場したらカワイイ連発してメロメロにしてやんよって感じでしたが、いかがだったでしょうか。
感想お待ちしております。