皇女戦記   作:ナレーさんの中の人

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あまりに長くなりそうだったので、後半をwiki風にしてみました。
もしかすると後々改稿するかも


ブレスト港襲撃(その2)

ブレスト上空は狂乱の只中にあった。

 

「クソッ!!」

セヴラン・ビアント中佐は毒づいた。

さもありなん、敵魔導師2個中隊にこちらの魔導師3個大隊が良いように翻弄され、墜とされているのだから。

だが、交戦開始直後にライブラリ照合した結果からして無理のないことなのかもしれない。

 

―― ラインの悪魔 ――

よりにもよって、撃墜スコア80オーバーの化け物が、そこにはいた。

しかも、凶悪な眷属を引き連れて。

 

ラインの悪魔が精鋭部隊を引き連れている、という未確認情報は最末期の北方戦役に参加した共和国軍兵士からもたらされ、前線の魔導師将校たちを戦慄させた。

なにせ一人で中隊を消滅させたこともあるバケモノだ。それが眷属を率いる?まさに悪夢としか言いようがない。

 

…いや、悪夢で済めばどれだけよかった事か。

 

≪やられた!≫

≪こちらピエール03! 02がやられた!撤退許可を!!≫

≪まもなく限界高度!畜生!!やつらどこまで上がる気だ!≫

≪目が!目がぁあ!!!≫

≪重傷者は無理せず着水せよ。友軍艦艇に拾ってもらえ!≫

≪ケツにつかれた!振り切れない!≫

≪奴らの狙いはこちらを高空に引き込んでの酸欠だ!慌てて一気に上がるんじゃない、失神するぞ!≫

≪中隊長!それでは一方的に上を取られてしまいます!≫

≪分かってるともくそったれ!≫

 

信じがたいことに当初4個魔導大隊いたはずのこちらが、たった2個中隊の帝国軍魔導師に翻弄されていた。いや、有り体に言って負けている。

――情報部の大馬鹿野郎!なにが協商連合の情報は不確実、だ!その通りの化け物連中じゃないか!――

確かに、こちらの魔導師の半数はルーキーだ。

ライン戦線で損耗の激しかった部隊を後方に下げ、装備の更新ついでに新兵を入れて補充した部隊なのだから無理もない。

加えて、『ノルマンディー号』から発進した2個中隊(揃いも揃って中途半端に実戦経験のある若者)が、あの惨劇(火災)に我を忘れ、無策に突っ込んでしまったのも痛い。当然のこととして彼らは瞬時に蒸発。加えて、彼らに引きずられてしまった味方の一部も手痛い損害を被った。

しかし、それを考えても帝国軍の練度は異常だ。

奴らの反応が現れたのは高度14,000。この時点で頭がおかしいのに、加えて現在進行形で高度9,000、その状態でこちらと戦闘中だと?いかれているとしか言いようがない。帝国軍は何という規格外を作り出してくれたのだ!?

 

≪うわぁぁあああ!!!!≫

≪やられた!≫

≪中佐殿!撤退の許可を!!≫

 

もはや練度差は一方的。ルーキーたちが次々と鴨撃ちの的になって墜ちていく。

本来ならばいったん下がり、戦力を立て直したいところだが…。

 

「…勇敢なる共和国軍魔導師諸君。我らに下がる余地などない。ここは友軍の真上なのだ。

…最後の一兵まで、現地点を死守せよ」

 

もはや、下がる場所などない。

降りる場所なら船も陸もあるが、そんなことをしたら次の瞬間火達磨だろう。そのことはノルマンディー号が証明している。

ゆえに、ビアント中佐は声を張り上げるほかない。

 

 

「固まるな!乱数回避機動を徹底しろ!」

 

 

◇◇◇

 

 

「…エミール、おかしいとは思わんか」

「…ああ。確かにおかしい」

 

戦艦ノルマンディーの防空指揮所――本次大戦勃発直後に増設された――から上空を見上げて、ド・ルーゴたちは首を傾げた。

 

「敵はたったの2個中隊。…の割にこちらが不利なのはいただけんが――」

あの(・・)帝国にしては手ぬるい。そういう事だろう?」

「そのとおりだ。あれだけとは思えん」

「同意する。だが、その場合不可思議な点がある」

「なぜ、2個中隊を先行させたのか、だな」

 

二人はそろって頷く。両者とも共和国軍で長いこと飯を食ってきた「軍人」である。すなわち永遠の仮想敵である帝国軍については、女房の考えている事よりよっぽどよく分かるのである。

なに?女の考えている事なんて、男からすれば異世界のおとぎ話だと?失敬な。逆もまた然りだということを忘れるなよ野郎ども。

 

…コホン、話を戻そう。

だから二人とも、帝国軍をよく知るがゆえに首を傾げるのだ。

 

 

―― あの「戦争機械」たる帝国が戦力の分散と逐次投入をやる? ありえん ――

 

 

二人でなくとも、まさか帝国軍上層部が揃いも揃って勝利に浮かれ、ビアホールに繰り出していたのが原因だとは想像できるはずもないだろう。

この点、講和交渉で帝国を油断させたという意味で、ヴィシー政権はド・ルーゴたちの最大の味方だったと言えるだろう。…当人たちにそんなつもりは微塵もなかっただろうが。

 

「考えていても仕方がない、増援が来るという前提で行動しよう」

「了解だピエール。差し当たっては対潜警戒を徹底させるとしよう」

「…なるほど。空に注意をひきつけさせておいて、海中からブスリ、か」

「帝国ならやりそうだろ?」

「全く同感だな…。ところで、出航をこれ以上早めることは――」

 

「ムリダナ(・×・)」

「――知ってた」

 

 

◇◇◇

 

 

「意外にしぶとい」

ターニャ・フォン・デグレチャフ少佐は、下界で粘る共和国軍に感嘆の声を漏らした。

最初、見るからに無謀な連中が突っ込んできたあたり、共和国軍魔導師はルーキーばかりかと思ったが、どうしてなかなか、やるヤツがいるらしい。

 

「…だがそれだけに惜しい。味方に足を引っ張られている」

 

熟練兵の多い部隊にルーキーを編入し、部隊の補充と新兵のスキルアップを図る。

字面で見ればいいこと尽くめなこの方法、軍隊でやると悲劇しか生まない。そう確信するターニャ。

新兵は焦って突出するか、熟練に追いつくのがやっと。

熟練兵はともすれば突出しがちなルーキーに目を配らねばならない。

そんな状態で、自慢じゃないが戦争狂(ウォーモンガー)ぞろいのわが大隊諸君とやり合わねばならぬとは…。自分があちらの指揮官だったらと思うだけで肝が冷える。

しかし現実には、共和国軍は戦力の4分の1、1個大隊を失いつつも航空戦を続行。こちらが選抜中隊の面々に無理をするなと徹底(体力を温存しろ)していると言う理由もあるだろうが、実によく善戦していると言えるだろう。敵ながらあっぱれである。

 

だが――

 

≪少佐殿!いつまでこのお遊び(・・・)をすればよろしいのですか!≫

「残り30分だ。その間しっかり引き付けろよ?」

≪それはまた難しいことを仰る。それだけの時間があれば、我々だけ(・・)で勝ててしまいますぞ?≫

「言ったなヴァイス中尉?よろしい。私も参加しよう。どちらが先に敵を全部叩き落せるか、勝負だ」

≪了解しました!…おいお前ら!少佐殿に全部掻っ攫われないように気合入れろ!≫

≪≪了解!!≫≫

 

 

――本番は、これからなのだ。

 

 

◇◇◇

 

「これ以上速度は出せないのか?」

「無茶言わんでください!これ以上の速度で進撃となると、着く前にエンジンが火を噴いちまう!」

≪機長の言うとおりですぜ少尉殿。あんたら精鋭魔導師と違って、この子(SB-1)はちょいとデリケートなんでさぁ!≫

アントン(尾部機銃手)の言うとおり!レディーと同じで機嫌を損ねると後が大変なんです!」

 

違いない!と笑いに包まれるクルー(搭乗員)の様子に、第203魔導大隊残余を率いるノイマン中尉は冷や汗が止まらない。その視線は、さっきから自身の腕時計――航空魔導師用の特注品だ――とクルーを行ったり来たりしている。

 

「諸君の言うとおり、女性の機嫌を損ねるのは大変まずい。…だが、それはこちらも同じでね」

「…と、言いますと?」

「我々に集合時間0600を命じた大隊長殿は、…女性でね」

「…そいつはまずいですな」

「ああ…。そして怖い。具体的には訓練と称して我々を下着一つで冬山に一週間放り出すお方だ」

「なん…だと…?」

「ほかにも36時間砲撃に耐える訓練を実施したり、雪崩の中を行軍させたり…」

≪…あんた、よく生きてるな?≫

マイク越しのアントンの声に、クルーは全員頷いた。

まぁ、それを生き残ったから203なのだが。ぶっちゃけ生き延びるために精鋭となった部隊なのである。

 

「だから頼む。我々を一秒でも早くブレストに送り届けてくれ。でないと冗談抜きで焼き豚にされてしまう」

「いや流石にそれは――」

「訓練のときに散々『おい豚!カス!』と呼ばれたからありうるんだ……」

「――oh…」

 

もはや哀愁さえ漂わせ始めたノイマンに、SB-1の乗員たちはかける言葉を失う。

なお、いっしょに運ばれているほかの203大隊のメンバーはと言うと――

 

「いやー、さすがに焼き豚はないでしょう」

「だって脂しかないですし」

「量は取れるでしょうけど」

「なにより中尉殿を焼ける大きさのオーブンなど無いでしょう」

「「「違いない!」」」

 

――慣れたものだった。強い信頼関係で結ばれた(悪魔のような上官の下で生きるためには不可欠だったともいう)彼らだからこそ許される冗談である。

 

「…仕方ない。ここからブレストまではフルスロットルだ!」

「機長!?正気ですか!?」

「正気だとも。そもそも来週にはオーバーホールの予定だ。支障はない」

「…了解。僚機にも伝えましょう――アントン!ほかの連中に発光信号!!」

≪了解!焼き豚回避のために微力を尽くしましょう!!≫

「貴官ら…!」

感涙に瞳を潤ませるノイマン。

「その代わり!帰還したら好きなだけ飲ませてもらうぜ中尉殿!」

「お任せあれ!こちとら休暇取り消しで酒がだぶついてるんだ!!」

「…あんたらの部隊、ホントにどうなってんのさ」

 

 

 

 

 

 

そして、統一歴1925年4月18日、午前6時30分。

 

「…勝ったな」

「…勝負あった、か」

 

ブレストの夜明け空に、機械仕掛けの怪鳥が現れた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

ブレスト港襲撃

出典:フリー百科事典『アカ〇ック・ペディア』

 

【ブレスト港襲撃】(ぶれすとこうしゅうげき、英: Attack on Port Brest、現地時間1925年4月18日)は、フランソワ共和国のブルターニュ地域圏フィニステール県ブレスト港にあった共和国軍艦隊に対して、帝国軍が行った航空魔導師および潜水艦による攻撃である。世界初の航空魔導師による戦闘艦艇への本格的攻撃として知られる。

戦闘の結果、共和国離脱企図部隊(以下、『自由共和国軍』と表記)は壊滅状態となり、以降終戦まで大勢に影響を及ぼすことが出来なかった。

帝国軍は自由共和国軍の脱出を阻止し、以後の対共和国正統政府交渉を優位に進める事が可能となった。また、連合王国海軍の行動にも一定の制約を与えたと言われる。

 

 

【背景】

統一歴1925年3月に開始された帝国軍『春の目覚め』計画により、共和国軍は壊滅的な打撃を受けた。戦争の長期化で国内の厭戦気分が高まっていた状態でのこの敗北により、帝国強硬論を唱えていたレノー政権が倒れ、代わって帝国融和派のペタン将軍率いる新政権が樹立された。

新政権は陥落間近となった首都パリースィイを脱出し、南部ヴィシーに首都機能を移転させるとともに、帝国との停戦交渉を開始した。しかしながら実質的には敗戦、降伏交渉であったことから、これを良しとしない共和国軍人、政府閣僚の一部が新政権を離脱し、共和国植民地ないし連合王国への脱出、合流を企図した。

特に中心的な役割を果たしたのが共和国陸軍次官ド・ルーゴであった。彼は対帝国講和を進めるウェイガン陸軍総司令官の命に従っているように偽装し、同じく帝国への抵抗、共和国新政権からの離脱を図る共和国軍残存部隊を糾合。これらをブレスト軍港へ集結させ、ここから共和国植民地マルジェリアへ脱出することを計画した。

ブレストからの海路は、ド・ルーゴの旧友でもあった海軍司令官エミール・ミュズリエが差配することとなっており、共和国海軍残存艦艇も続々とブレスト港に集結。4月12日ごろから艦艇への物資搬入、引き続いて陸軍部隊の乗船が開始された。

帝国側は共和国軍の集結を察知していたが、4月17日の航空偵察までこれを終戦に向けた部隊移動、艦艇の集結とみなしていた。この時点で共和国軍の部隊集結、物資搬入はすべて完了しており、翌朝には出撃できる状態となっていた。

 

 

【経過】

統一歴1925年4月17日正午ごろ、帝国軍所属の長距離偵察機がブレスト港を偵察、写真撮影を行い、帝国軍は初めて共和国軍が出港準備を整えていることを知った。しかし帝国統合作戦本部に報告がもたらされたのは深夜に入ってからであり、さらに悪いことに17日は金曜日だったため、戦争勝利を目前にして高級将校の多くが酒場に繰り出していた[要出典]

翌18日未明、偵察情報を受け緊急の統合作戦本部が開かれたが、先述の事情から高級将校は殆ど参加できず、僅か6人(7人とも)の参謀による合議となってしまった。

検討の結果、帝国軍拠点から500キロ余り離れていること、既に共和国艦隊が出撃している可能性もあったことから、航空戦力による共和国軍撃滅が決定された。

余談だが、本来命令を発すべき司令部が随所で出払っていたため、攻撃命令はすべて帝都ベルンの統合作戦本部から直接、前線部隊に『皇太女兼摂政宮兼帝国軍最高司令官代理者兼統合作戦本部議長』名で発出された。

これは立憲君主制であった帝国の軍事・官僚機構において皇族の位置づけがいわば権威的なものであったこと、そのうち皇帝ならば『最高司令官』を名乗れるが、それ以外の皇族が軍組織において名乗れる称号は規定がなく、また陸海空軍の指揮命令権のいずれを所掌しているのかの明文規定も存在しなかったためである。

にもかかわらず、その場に全軍に命令しうる立場の人間が彼女しかいなかったため、上述のような「指揮命令権を有すると思料できる」発信者名となったと推測される。当然だが、「世界で最も発信者名の長い命令文」としてギネスブックに認定されている。

 

【攻撃隊、発進】

 帝都からの攻撃命令を受け、当時カレー近郊に駐屯していた帝国陸軍参謀本部直属第203航空魔導大隊が出撃した。同部隊は大戦全期間を通じて最も戦果をあげた帝国軍部隊の一つとして知られる精鋭部隊であった。また、カレーには対連合王国作戦の切り札として新型兵器「V1※」が配備されており、極めて短時間のうちに第203航空魔導大隊をブレストまで投射することが可能であった。

一方でV1は24基しかなく、その輸送能力・投射能力は限定的であった。このため、第203航空魔導大隊より特に選抜された24名をこれで発進させると同時に、航空輸送によって他の魔導師部隊を追加投入することとなった。

なお、命令受領からV1発進までの時間が異様に短いことから、そもそも停戦交渉を待たず、ブレスト港を襲撃する計画があったと指摘する研究者もいる。しかしながら、帝国軍が勝利を前に前述のような有様であったことと整合性が取れないことから、単純に第203航空魔導大隊が精鋭だったがゆえに実現したと考える研究者も多い。

 

※帝国軍技術開発部が開発した、当時最新鋭の強行偵察用特殊追加加速装置のこと。

人類史上初の超音速飛行、終末速度マッハ1.5を実現したが、音速突破時の衝撃波、造波抗力への対処を「搭乗している魔導師の防殻で防ぐ」前提の設計のため、魔導師以外は運用不可能であった。また、発射後の操縦は事実上不可能であり、「ただまっすぐ飛ぶ」ことしかできない。

さらに燃料のヒドラジンは強酸さながらの腐食性を持つため、専用の燃料タンクでしか輸送できなかった。また高温の燃焼ガスを噴出するため、発射用レールは特注品とならざるを得ず、にもかかわらず3回程度の発射で全面的な修理と換装を必要とした。

結局、本作戦直後に輸送中の列車を鉄道橋もろとも消滅させる大事故を起こしたため、以後の使用・製造とも禁止された。

 

【第一次攻撃】

18日0500時ころ、カレーよりV1にて発射された第203航空魔導大隊選抜二個中隊がブレスト上空に到達、共和国軍艦艇への攻撃を開始した。

この時点で共和国艦隊は、前路警戒に当たる駆逐艦部隊が出港を完了しており、引き続いて陸軍兵士、魔導師を積載した大型船舶が出港しつつあった。通常であれば駆逐艦、巡洋艦の後には戦艦等の主力艦を出航させるところ、前日の帝国軍航空偵察を察知した自由共和国軍が防御の厚い戦艦を「殿軍」とすることを企図した結果、このような出航順になったという。

しかし、運の悪いことに第203航空魔導大隊の襲撃と兵員を満載した超大型客船(徴用されていた)ノルマンディーの出港タイミングが重なってしまった。同船は全長300mを超える大型船であり、目立つ白い船体だったことから集中攻撃を受け、攻撃開始から30分後には大火災に包まれた。火の手は収まることなく翌日まで燃え続け、最終的に座礁、横転した。攻撃開始から大火災の発生までの時間が極めて短かったことから、乗船していた魔導師、陸軍兵の多く(一説では一個師団規模)が船内に閉じ込められ、船と運命を共にした。

ただし、第一波攻撃は後続攻撃部隊のための制空権確保を優先しており、ノルマンディー以外の艦船に大きな被害は出ていない。

このため、ノルマンディーが狙われたのは目立っていたからではなく、自由共和国軍航空魔導師が多数乗船していたこと、彼らが本船から発進して邀撃に加わったがために、いわば「魔導師母艦」とみなされたからだと考えられている。

 

【第二次攻撃】

18日06時30分ころ、空軍SB-1爆撃機により空輸された第203航空魔導大隊残余及び第66航空魔導大隊(通称:バイパー大隊)が戦場に到着する。

これにより、3個大隊で防空にあたっていた共和国軍魔導師部隊はその数的優位を喪失した。

艦船への本格的な攻撃が開始されたのはこの段階からであり、その多くがスクリューないし舵機、または舵取機室に損害を生じた。

これは帝国軍部隊が意図的に艦尾付近の水面を狙って攻撃を集中したためである。当時の艦艇は水中防御性能が低く(魚雷が新兵器の範疇に含まれる時代だったため、設計がそれに追いついていなかった)、帝国軍の攻撃は共和国艦艇の舵機及びスクリューに重大な損害を与えた。

襲撃を受けて共和国軍艦艇の多くが最大戦速へ移行していたことも被害を助長した。すなわち、高速回転するプロペラ軸が水中衝撃波でゆがんだ結果、推進軸から機関室等への浸水を生じた。そのような事態に陥った艦船はそれ以上の被害拡大を防ぐために機関を停止せざるをえず、以後の回避行動が困難となった。また舵機ないし舵取機室に損傷を受けた艦船の中にはその場を旋回し続けるものもあり、港内の混乱を助長させた。

また、一部帝国軍魔導師は艦橋及び上部構造物を狙って集中攻撃を加え、共和国海軍乗組員を多数殺傷した。

 

【ブレスト炎上】

18日0900時までには共和国軍航空魔導師は壊滅し、以後帝国軍は任意に共和国軍艦船への攻撃が可能となる。周辺基地から救援に駆け付ける共和国部隊もあったが、その全てが撃退された。

帝国は魔導師の火力、貫通力では艦艇を撃沈するのは困難とみており、「爆裂術式」あるいは「燃焼術式」による火災発生を狙った。攻撃は熾烈を極め、1200時ころにはブレスト港にあった大型艦のほぼすべてが炎に包まれた。艦上で発生した火炎が吸気筒を通って機関部に流入して機関部員が全滅する艦が相次ぎ、弾薬庫に誘爆を起こすものもあった。全艦火達磨となったこれらの艦艇を救う手立てはなく、その全てが座礁ないし沈没し、あるいは漂流しているところを同じ共和国海軍駆逐艦の魚雷によって処分されるか、帝国海軍潜水艦によって撃沈された。

 

特に悲劇的最期を迎えたのは自由共和国海軍旗艦『ノルマンディー』であった。

同艦は共和国海軍最新鋭の戦艦であったが、同時代の戦艦同様、水平装甲がやや薄いという弱点があった。本艦はその弱点を的確に狙い撃たれ、瞬時に轟沈した。

戦後引き揚げられた本艦の残骸の調査結果から、本艦は直上からその第二番砲塔を魔導師の貫通術式に撃ち抜かれ、貫通した術弾が砲塔天蓋と主砲搭上部を貫き、砲塔下部弾薬庫内で炸裂した結果、搭載していた弾薬に誘爆、さらに缶室も破壊して水蒸気爆発をも引き起こしたと推定される。そのためか浅い湾内であるにもかかわらず、現在に至るまで本艦の2番砲塔及びその周辺船体の残骸は発見されていない。

 

同艦から立ち上ったきのこ雲とブレスト港内の炎は、はるか連合王国南岸部からも望見することが出来、翌日の連合王国の主要新聞の多くが本攻撃を『ブレスト炎上』と言う見出しとともに報じた。ただし、本攻撃によるブレスト市街地への被害は極めて軽微であった(共和国軍施設を狙った攻撃の流れ弾のみ)。

 

 

【影響】

本攻撃は、世界初の航空魔導師による戦闘艦艇への本格的攻撃であり、その内容、戦闘結果は各国の海軍関係者に大きな衝撃を与えた。当時、海戦における魔導師の役割は明確になっておらず、各国とも手探りの状態であった。多くの国は着弾観測、対潜哨戒に魔導師を運用していたが、対艦艇攻撃に魔導師が有用であるとは考えられていなかったのである。これは、魔導師の火力では戦闘艦艇、特に戦艦の装甲を貫通することは出来ないと考えられていたことによる。

実際、ブレスト港襲撃において装甲を貫通された共和国海軍戦艦は一隻しかなく、漂流後の沈没、座礁を除けば、致命傷となったのは同じ共和国海軍駆逐艦からの処分雷撃か、帝国海軍潜水艦からの魚雷であった。

しかし、航空魔導師による攻撃で共和国軍艦艇はほぼすべてが大火災を生じ、戦闘力はおろか、船としての能力をも完全に喪失したのも事実であった。これにより、航空魔導師は軍艦を廃船にすることは可能であると目されることとなり、各国海軍ともにその対策を講じる必要を生じた。

また、唯一の例外である戦艦『ノルマンディー』の戦訓から、水平装甲を見直す動きが出たが、極めて大掛かりな改造を要する部分であったことから大戦中にこの問題を完全に解決できた国はない。

 

・連合王国海軍

本攻撃に最も衝撃を受け、狂奔したのが連合王国海軍であったことは間違いない。

なぜならこの時点で対帝国戦を継続していたのは連合王国のみであり、地上戦力では到底及ばぬ連合王国としては、その強大な海軍戦力が頼りであったためである。当時、連合王国海軍一個艦隊は帝国海軍一方面艦隊全艦に匹敵すると言われていた。これは誇張ではなく、数量、練度から言っても事実であった。

ところが、ブレストで帝国軍航空魔導師による対艦攻撃が極めて絶大な効果をあげたことから、この戦略的優位を覆される懸念が現実のものとなったのである。亡命した自由共和国軍の生き残りからの情報、現地工作員からの報告を受け、艦隊の防空には航空機と魔導師による制空権確保、艦艇の防空火力増強が必要不可欠であるとの結論に達した連合王国海軍は、それらの対策が完了するまで出撃を自粛した。

なお、これらの対策は後述する帝国海軍のそれに比べて不十分であったとされ、事実大戦後半には帝国軍航空戦力、魔導師からの攻撃で連合王国は多大な損害を被ることとなる。

 

・帝国海軍

最も早く、かつ最適な解答を導き出したのが攻撃側である帝国軍であった。攻撃参加部隊の戦闘詳報、ブレスト港内の沈没船調査、捕虜となった生存者への事情聴取から、「艦艇からの対空砲火は効果に乏しい」との結論に達し、以降海兵魔導師の最優先任務に「艦隊防空」、すなわち艦隊上空の制空権確保を掲げることになる。

同時に極めて先進的な対空射撃指揮装置と数多の対空砲、対空機銃を備え、主砲も両用砲とした新型巡洋艦ライプツィヒ級の量産を決定し、艦隊防空能力の向上を図った。

本級は世界で初めて設計段階から対空戦闘を念頭に置いた軍艦として知られ、その極めて高い対空戦闘能力と、所属する艦隊全部をカバーできるほどの対空両用主砲の性能から、『元祖イージス艦』と呼ばれることもある。

ただし、本級の設計、建造は大戦勃発前には開始されており、ブレスト港襲撃との因果関係はないとの指摘がある。これについては多くの賛成意見がある一方、「ではなぜブレスト攻撃以前からこのような防空艦を設計していたのか」という疑義が提示されている。

なお、既存艦艇についても、その後のドック入りの機会をとらえて可能な限りの対空火器増強が図られたが、建造時にない想定であること、射撃指揮装置の不足から同級ほどの対空性能は得られなかったと言われている。

 

 

参加兵力及び被害

【帝国軍】

・航空戦力

陸軍西方管区第66航空魔導大隊 …半数が負傷、後退

陸軍参謀本部直属第203航空魔導大隊 …一部負傷

空軍第1戦略航空艦隊 

※魔導師の空輸用。非爆装

空軍第4航空艦隊 …6機が被弾

※到達時には戦闘はほぼ終結しており、炎上漂流する共和国艦船に爆弾を投下したのち戦果確認を実施した。現在よく知られるガンカメラ映像は、このときのものである。

 

・潜水艦部隊

第七潜水艦隊 …1隻被撃沈

※漂流する共和国艦艇にとどめを刺し、連合王国への脱出を図った残存艦艇に打撃を加えた

 

【自由共和国海軍】

・航空戦力

第1魔導師団第4魔導大隊 …全滅

第5魔導師団第5魔導大隊 …全滅

第5魔導師団第6魔導大隊 …全滅

第7魔導師団の一部 …全滅

※本部隊は客船『ノルマンディー』に乗船しており、同船炎上前に発進できた一部のみが航空戦に参加した。残りの師団は『ノルマンディー』と運命を共にした

 

・水上戦力

第1艦隊(戦艦部隊)

第1戦隊

戦艦『ノルマンディー』 …轟沈

戦艦『ラングドック』 …炎上後着底

戦艦『クールベ』 …炎上後横転着底

戦艦『フランソワ』 …火災鎮火に成功するも、その後ドック内で修理を受けているところを帝国軍が接収。

 

~~~

 

 




wiki風にして短縮を図ったのに、1万文字越え…だと…?(戦慄

>SB-1のアントンさんのセリフが≪≫なのは仕様です。尾部銃座だからね、インカム越しじゃないと会話成立しないものね(ニッコリ

>ノイマン少尉の豚ネタ
我々の業界ではご褒美にしかならないサウンドドラマがあるのじゃよ。リピート再生余裕ですが、なにか?


次回投稿はGW以降になると思います。
では皆様、良い大型連休を

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