皇女戦記   作:ナレーさんの中の人

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うっかり折角書き上げたライプツィヒ級のwikiをゴミ箱に入れかけたので、忘れないように投下(おいまて

今度こそ次はGW明けです(というか家族旅行に引っ立てられる悲しみ


キィエールの休日(その1)

統一歴1925年5月某日

連合王国首都ロンディニウム

 

この日、連合王国首相官邸はピリピリとした空気に包まれていた。

 

「…で?どうしてこうなったのだね?」

 

怒りに震え、怒髪天を突かんばかりの表情で列席者を見渡す…いや、睨みつける男の名はチャーブル。連合王国の当代首相にして、根っからの帝国脅威論者である。

その手に握りしめられた哀れな本日のロンディニウム・タイムズ朝刊。その ――もはや原形をとどめていない―― 一面こそが、彼が頭から湯気をあげている理由であった。

 

―― 共和国と帝国の講和成立! ――

―― 連合王国外交の大失敗! ――

―― なぜ帝国との戦争に踏み切ったのか、もはや立っているのは我が国のみ ――

 

「…講和となっていますが、実質は降伏でしょう。建前上、本国領土はわずかしか割譲されていませんが、北部の大半が帝国の施政権下に組み込まれ――」

 

私が言っているのはそんな事じゃない!

 

「君たちが言っていた『自由フランソワ共和国』はいったいどこに消えたのだね?え?『英雄的な抵抗を続ける誇り高き共和国市民』はどこに行ったのだ!?」

「………」

「失敬。見苦しいところを見せたな。…ハーバグラム少将。ド・ルーゴ氏らの安否はいまだ分からんのかね?」

「…残念ながら。ですが、乗っていた戦艦『ノルマンディー』の状況からして絶望的かと」

「そのことについてだが海軍大臣、…ここに書いてある結論は事実なのかね?」

「まことに、まことに残念ながら事実です」

 

―― 水平装甲が脆弱なため、新鋭戦艦でも魔導師の術弾で直上から貫通可能 ――

―― 加えて、戦艦同士の遠距離砲戦でも貫通可能 ――

―― 端的に言って、このままだと轟沈不可避 ――

 

「つまり…わが連合王国が誇る王立海軍(ロイヤルネイビー)は張子の虎だったと…。

海軍は今まで何をやっていたァ!?

「これでは本土防衛も危ういではないか!?」

「早急な対応が必要だ!対策案はあるんでしょうな!?」

口々に技術本部への批判を口にする首相らを前に、技術局長は項垂れつつも答えた。

「想定外だったのです…。我が国の…いや、おそらくどの国の戦艦も『上から砲弾が降ってくる』ことを想定した造りとはなっておらんのです」

「…どういうことだね中将?私にも分かるように説明してくれたまえ」

 

「砲戦距離の飛躍的進歩です」

 

局長の言うところによれば、こうだ。

 

そもそも、連合王国海軍が七つの海に覇を唱えた時代、使っていたのは『戦列艦』や『フリゲート』、『コルベット』と言った帆船であり、特に戦列艦は100門を超える大砲を据えていることもざらであった。

そしてこの時代の砲戦距離は極めて短く、いわゆる【ピストル・ショット】だった。

ライフル砲も射撃指揮装置もない時代ゆえ、各砲座はめいめい照準をつけて、号令一下文字通りピストルが届くレベルの至近距離で撃ちあっていたのだ。であればこそ近距離専用の【カロネード砲】なんてものも生まれたのである。

さらに言えば炸裂弾は無く、海戦の決着は敵船に乗り込んでの白兵戦によって決まっていた。

近代海軍においても初期のころは砲戦距離がさほど変わっていなかった。

しかも、一時【モニター艦】以降の防御力向上に追い抜かれ、『砲撃では敵戦艦を沈められない』ことになったものだから、それに代わる攻撃手段として再び【ラム】を有する艦艇まで現れた。

…ちなみに、連合王国はラムに魚雷発射管を組み込むという恐ろしいことをやったことがある。なにそれこわい。

 

その後、ライフル砲の進歩等の技術革新によって射程距離も威力も向上し、10年ほど前の極東での戦訓――敵を沈める場面はついに発生せず、逆に友軍戦艦を撃沈してしまった――から各国とも【ラム】を廃止したが、その時ですら砲戦距離は数キロ前後。『砲弾が横ではなく上から降ってくる』ような砲戦はどの国の海軍も未経験だったのである。

 

そして、今回のブレスト港襲撃を子細に調査する中で「…あれ?現在の砲撃技術だったら魔導師じゃなくても上から砲弾降ってくるんじゃ…?」と気づいてしまったというのが事の顛末だったりする。

 

「まさに盲点だったとしか言いようがありません…」

「…なるほど、想定外とは言いえて妙だな。それで?対策はあるのかね?」

「現在艦政本部にて改良図面を引いておるところです。決定次第、順次主力艦の改造を行う予定としております。…ただ」

「…ただ?」

日頃、威風堂々としているマールバラ海軍大臣が言いよどんだ。

しかし、それも仕方のないことだろう。何故ならば。

 

「…これほどの装甲強化となりますと、改装期間は極めて長期…軽く見積もっても2年はかかるかと」

「「「「2年!?」」」」

 

首相官邸が震え上がった。

海軍大臣経験者でもあるチャーブルですら、理解はできたが表情が強張るのを抑えることが出来ないでいる。

 

「軽く見積もって、です。しかも一隻あたりですから、すべての戦艦に改良を施すとなると期間も費用も…」

「…装甲鈑を追加するだけで、そんなに時間がかかるのかね?」

「張るだけでは済まないのです財務大臣。重量が増大し、重心も上にきますから、対応として【バルジ】の追加が必要です」

「バルジとは?」

「大まかにいいますと、船体側面の水線下に取り付けて排水量を増加させる膨らみ…追加の浮きです。この場合は装甲板の重量増を補う浮袋として用います」

「…要するに重くなりすぎて、そのままでは沈んでしまうわけかね?」

「ご賢察の通りです。…まあ、即座に沈むわけではありませんが。ただ、バルジの追加は水中抵抗の増加を招き速力が低下することから、その対応として機関出力の増強、船体の延長等も必要になると艦政本部では考えております」

「…海軍大臣。聞けば聞くほど2年以上かかりそうな気がしてきたのだが?」

「おっしゃる通りです首相。ゆえに時局を鑑み、装甲強化部位を主砲塔と弾薬庫等にとどめることで期間を短縮することを想定しております」

「それでは対応が不十分になるのではないかね?」

「その懸念はごもっともです。ですが、『砲弾がピンポイントで真上から主砲塔を貫通し、弾薬庫に飛び込む』可能性というのはそこまで高くはありません。ゆえに、魔導師の術弾に対抗できる厚さの装甲版を主要部位に追加することで、当座は対応可能かと。

実際問題として完璧な水平防御の追加となると、わが海軍は開店休業を余儀なくされます」

「…その方向で進めるほかあるまい。では、どの順番でやるのかを軍令部や財務省と協議していくこととしよう。異論はあるかね?…結構。ではその方向で行くこととしたい」

 

「ところで諸君。こんな格言を知っているかね?」

 

 

 

 

 

 

―― 永遠の友など存在しない。ただ永遠の国益のみが存在する ――

 

 

 

 

 

後世、『帝国を倒すためならば、悪魔とさえ取引した』と伝えられることとなる連合王国の名首相チャーブル。

その魔の手が、刻一刻と迫りつつあった…。

 

 

◇◇◇

 

 

統一歴1925年5月某日

帝国北部シュレースヴィヒ=ホルシュタイン州

帝国北洋艦隊根拠地、キィエール軍港沖合

北洋艦隊所属、巡洋艦『ライプツィヒ』士官食堂

 

「では、デグレチャフ中佐(・・)より一言」

 

「『率直に申し上げて完敗です』」

 

ターニャは正直に認めた。

その髪は濡れており、それはペイント弾をつい先ほど洗い流したからに他ならない。

「まぁ、休暇前の良い目覚ましにはなりましたが」

「はっはっはっ!それは結構」

「……」

上機嫌の海軍と異なり、同席している陸空軍の表情は硬い。

何故ならば。

 

 

『 演習とは言え、白銀が墜とされた 』

 

 

昨日行われた同じ北洋艦隊の戦艦『バーゼル』相手のときは、ほぼ無傷で同艦を制圧しただけにその衝撃は凄まじいものがあった。

「帝国が既にこのような艦を保有しているとは思ってもみませんでした」

 

―― 誰が造ったのかは見当が付くが ――

 

「判定官どのは何か?」

「全く同感です。いやはや、昨日の今日でこのような『弾幕』を経験することになろうとは、思ってもみませんでした」

「だ、そうですぞ?ミッタマイヤー中佐(ライプツィヒ艦長)

「帝国最精鋭と名高い203航空魔導大隊にそうおっしゃっていただけるとは、日頃の訓練の甲斐があったというもの……と言いたいところですが、やはり本艦の設計が素晴らしいの一言かと」

 

そう言って、彼は上座に視線を向ける。そこにいるのは当然――

 

「おだてても何も出んぞ? それに……私の記憶違いかな?設計当時『それよりも戦艦でしょう』とか『新機軸が多すぎる金食い虫』とか言っていた士官候補生がいた覚えがあるんだが?」

「いや、それはその、若気の至りと言うやつでして」

「中佐、悪いことは出来んな」

「長官!小官は決してやましいことは――」

「そのとおりだ中佐。噂だと『こんなのを造るくらいなら戦艦を造るべきだ』とか、『これだから陸育ちの皇女殿下は』と言っていた司令官がいたらしいんだが……心当たりはないかな司令長官?」

「小官が悪うございました。それ以上は平にご容赦を」

「よろしい。素直に認めたその潔さに免じて忘れることとしよう」

「ハハッ、ありがたき幸せ」

我らが皇女殿下と帝国海軍北洋艦隊司令長官のやり取りに、その場は笑いに包まれる。今度は陸空軍の面々も苦笑いせずにはいられない。何故ならば確信できてしまったからだ。

 

―― 殿下…、ここでもなにかやらかしたな? ――

 

だが、皇女殿下の次の言葉に陸空軍は凍り付いた。

「いろいろ盛り込みすぎたとは思っているよ?おかげで設計図を引いてから建造開始までに9年(・・)もかかってしまったのだから」

 

…え?

…今、なんと言った?

…9年、だと…?

 

「懐かしいですなあ…。あの時期に海軍は全てを書き換えられてしまいました」

「不満かね司令長官?」

「いえいえ、むしろ逆ですとも」

「小官も覚えております。殿下が海軍に住まわれていた(・・・・・・・)時分のことを」

「…ミッタマイヤー中佐殿。その話、我々にも詳しく聞かせてもらえないだろうか?」

「ええ、よろしいですとも」

 

 

 

 

 

 

 

それは、今から10年以上前のことになる。

当時、皇女殿下はまだ陸軍士官学校にも入っておらず、『ちょっとお転婆だけど、頭もいい。何故かダンスからは逃げるけど、将来は素晴らしいレディになるだろう』と周囲から期待されていた。

 

「完全に外れたのは見てのとおりだがね」

「…殿下、ご自身で堂々とのたまう事ではありませんぞ…」

「はっはっはっ」

 

そんな幼い皇女殿下の趣味は『艦艇見学』。

幼女らしからぬ渋い趣味だが、何せ中の人が根っからの海軍スキーである。仕方ない。

そして皇帝は皇女に甘かった。年老いてからやっと授かった一人娘と言うことで、彼女が海軍基地に入り浸るのをほとんど止めなかった。

 

―― 結果、気づいたときには。

 

「普通に技術本部で図面を引いておられましたなぁ」

「うむ。小官も覚えておりますぞ。計算尺片手に魚雷艇の図面とにらめっこしている幼女がいると思ったら皇女殿下だったあの衝撃!今でもはっきりと思い出せます」

「はっはっはっ!そんなこともあったなあ(言えねえ…計算尺と言うレアアイテムに憧れてただけで、実際は使ってなかったなんて…)」

 

実際、海軍技術本部に乗り込んだ皇女殿下はやばかった。

乗り込んで早々――

「ここに私の分の宮廷費がある」

「は、ハァ…?」

子供に持たせる額じゃねえぞ皇帝陛下、と呆れる技術局員に、皇女は言った。

 

 

「これで購入できるだけの魚雷を用意してもらいたい」

 

 

「ファッ!? さ、差し支えなければ理由をお聞きしても…?」

「いやなに、この時期の魚雷は信管等々に問題があると聞くからな。テストしたいのだよ。ああ、可能ならば燃焼室と機関部、空気室の製造工程も見学したいのだが?」

 

 

 

 

 

 

「案の定というか、最近まで魚雷は信頼性がひどくてね。…司令長官、5年前のデータだとまとも動くのは2本に1本だったか?」

「正確には2.5本に1本ですな」

陸空軍は開いた口が塞げなかった。なんじゃそれは、と。

なにせその時点での魚雷は――

「まっすぐ進まない」「運が悪いと戻ってくる(自分に命中する)」「途中で爆発する(早爆)」「当たっても爆発しない」「自艦の磁気に反応して磁気信管が作動する(発射したら自分が沈む)」

 

はっきり言おう。彼女がいなければ、帝国海軍は戦争できたかどうかさえ怪しいものがある。

 

なお、あまりにのめり込みすぎたものだから、見かねた皇帝御自ら半ば住処としていた技術本部から引きずり出して陸軍士官学校に入れた―― 海で溺れられるくらいならという苦渋の決断 ――逸話は、当時の海軍関係者なら皆知っている話だったりする。

 

 

「いろいろさせてもらったが、やはり一番…いや二番めの自信作はこのフネ(ライプツィヒ)だな。…やりすぎて時間を浪費したが」

「いやいや殿下、これだけの艦です。時間がかかるのもむべなるかな。

汎用性にも優れ現時点で16隻が起工済み。わが北洋艦隊としてもさらなる量産をお願いしたいところです」

「聞いたかね諸君?これが3年前まで『金の無駄遣い』と言ってた男だぞ?」

その場の全員が噴き出した。爆笑と言ってもよい。

 

だが、それも無理のない話である。

 

なにせ要求性能が高すぎて―― 陸空軍の兵器は途中で丸投げする皇女殿下が、この船に限っては細部まで自分で設計したのが原因 ――、ボイラーやタービン、主砲や高角砲、射撃指揮装置に至るありとあらゆる部品が『ライプツィヒ級を造るために新規開発』されたものだったのである。

その凄まじさはとある造船技師が言った次の言葉に集約される。

 

 

 

―― 既存技術で造れたのは救命ボートとハンモックだけ ――

 

 

 

ライプツィヒ級巡洋艦/ライプツィヒ級軽巡洋艦

出典:フリー百科事典『アカシック・ペ〇ィア』

 

【ライプツィヒ級巡洋艦/ライプツィヒ級軽巡洋艦】は帝国海軍の巡洋艦の艦級。

なお、現在ではその主砲口径から軽巡洋艦と種別しているが、就役当時は重巡洋艦と軽巡洋艦の種別はない。

本級を軽巡洋艦に種別するのは、戦後の軍縮条約に伴って軽巡洋艦と言う種別が作られてからのことであり、それ以前はもっぱら「巡洋艦」と呼称した。

ただし極めて優れた汎用性、航続性、火力から本級を特に「汎用巡洋艦」と呼ぶ専門家もいる。また、現代の戦闘艦艇にも受け継がれることとなる数多の進んだ設計思想を取り入れており、『現代戦闘艦艇の始祖』とも目される。さらに世界で初めて設計当初から対空戦闘を重視した設計となっており、かつその対空戦闘能力の高さ、完成度から『元祖イージス艦』とも称される。

 

【概要】

1910年代後半、帝国は列強に先駆けて「航空魔導師」と言う兵科を確立し、同時に世界初の量産型戦略爆撃機「SB-1」の開発を開始するなど、航空戦力の拡張を進めていた。

帝国海軍はいずれ他の列強諸国も同様の軍備を進めることを予見し、それに対抗しうる防空艦として本級を計画したと言われる※。

本級の計画は1914年ころに始まり、1923年には基本設計が完了した。異様なほど長期に渡る設計期間は、後述するように武装、機関のほぼすべてが本級の要求性能実現のために新規開発されたものだったことによる。

一番艦「ライプツィヒ」は同年1月に起工、1925年5月に竣工した。当時帝国は「大戦」に突入しており、従来の大型艦(巡洋艦以上)に比べて工期が短く、量産に適していた本級は多数が建造されることとなる。

特に帝国軍による1925年4月の『ブレスト港襲撃』の成功後、本級の持つ高い防空性能に期待が寄せられたことから発注数は激増し、最終的には30隻が起工された。さらなる工程の効率化が図られ、工期短縮と大量建造が実現した。最終的に戦中に20隻、戦後に4隻が竣工した。これは帝国軍の巡洋艦以上の艦種では最多の建造数である。

また――。

 

※通説となっているこの開発経緯だが、異論も根強い。なぜなら1910年代の航空機、航空魔導師とも対艦攻撃能力は皆無に等しく、防空艦の必要性は皆無に等しかった。

また、後述する本級の防空システムは先進的に過ぎ、それらの対処用としてはありえないほど高性能である。このことは本級がシステムの更新、副武装の換装のみで1960年代まで運用されたことからも明白である。

不自然なことはほかにもあり、特に設計主任『コーデリア=アルレスハイム中佐』と記録されているが、そのような艦艇設計技師、海軍軍人とも当時の帝国には存在しない。

このように設計経緯に謎の多い本級であるが、その完成度、防空性能の高さは折り紙付きであり、以降の軍艦設計に与えた影響は連合王国の『ドレッドノート級戦艦』以上とも言われる(当の連合王国海軍技術部がそう評している)。

 

【実戦での評価】 

世界初の防空艦として名高く、完成度も高かったことから『成功艦』とみなされる。

対艦対空両用主砲の60口径15.5センチ砲(SKC/21 15.5)は、傑作砲とも呼ばれ、あらゆる用途において優れた性能を発揮した。

高角砲には72口径8.8センチ高角砲(SKC/21 8.8)を採用した。本砲は傑作高射砲の呼び声高い56口径8.8センチ高射砲を長砲身化させたものであり、後に本砲をほぼそのまま72口径88ミリ対戦車砲Pak23として帝国陸軍においても採用した。

 

また、設計当初から海軍航空魔導師を搭載(乗艦)、運用することを念頭に置いており、巡洋艦でありながら一定以上の航空打撃力、制空能力を有していた。

 

これは現代のヘリコプター搭載戦闘艦艇の源流ともいわれ、極めて先進的な設計であった。

 

機関は新開発の高温高圧缶を6基装備し、タービンはその後部に4基設置された。いわゆるシフト配置※ではないが、この配置によって煙突を1本に纏めることに成功している。

速力はカタログスペック上34.5ノット(一番艦ライプツィヒの公試では35.2ノット)。旋回性能・操舵性能も抜群だったという。航続距離は18ノットで10,000海里と伝わる。いずれもこの時代の巡洋艦としては破格の性能であり、上述の魔導師運用能力とあいまって、大西洋における通商破壊戦で多くの戦果をあげた。

 

※シフト配置も検討されたが、魔導師運用のための箱型構造物の前後に煙突が来てしまい、離発着に支障をきたすことが懸念されたため断念されたと言われる。

 

【艦形】

帝国海軍の近代巡洋艦で主流であった長船首楼型船体から一転して、艦首から艦尾までが一直線の上甲板で結ばれる平甲板型船体に改められていた。これは複雑な加工を要する船首楼型よりも平甲板型のほうが船殻重量を軽減でき、工事も容易となるためである。

艦首形状は凌波性を高めるため、鋭角のクリッパー型とされた。

なお、平甲板型船体に改めたことに伴う凌波性低下を補うため、艦首付近の最上甲板にはシアーがつけられていた。

 

艦首から構造を順に記述すれば、本艦は新設計の「60口径15.5センチ砲(SKC/21 15.5)」を連装砲塔に納め、1・2番主砲塔を背負い式で2基搭載している。2番主砲塔の基部から上部構造物が始まり、その上に艦橋が立つ。艦橋構造物のトップには防空指揮所が設置され、さらにその中央一段高いところに測距儀と対空射撃指揮装置があった。

艦橋背後に集合煙路式の一本煙突が設置され、煙突の背後には箱形の大型構造物がおかれた。

これは搭乗する海兵魔導師の待機所兼機材格納所であり、当初の設計では2個魔導大隊の運用が可能とされていた。しかし、建造開始直後に通商破壊戦時の潜水艦隊との連絡・指揮能力、空軍との通信能力の向上が求められ、およそ半分のスペースを大型の通信設備及び司令部機能に割り振ることとなった。

このため魔導師運用能力は1個魔導大隊に低下した。これは2隻を1組として運用することでカバー可能とみなされた。なお、実際には魔導師不足から多く乗艦させても2個中隊程度だったようである。このため、本級の中にはこのスペースを他用途に転用した艦も少なからず存在する。

箱型構造物の直後には軽量な三脚型の後部マストが立ち、後部甲板上に後部主砲塔が後ろ向きに1基配置された。

 

左右の舷側甲板には新設計の「72口径8.8センチ高角砲(SKC/21 8.8)」を連装砲架で片舷2基ずつ計4基8門装備した。

対空機関砲としては、当初60口径25㎜機関砲をしたが、後に協商連合国ボフォース社製60口径40ミリ4連装機関砲を装備した艦もある。

高角砲、機関砲とも光学式の射撃指揮装置と連動していた。

雷装は艦尾部に53.3センチ4連装魚雷発射管を1基装備する計画だったが、設計最終段階でこの場所に水上機2機とカタパルトが設置されることとなり※、設置は断念された。そのため、本級は巡洋艦でありながら魚雷運用能力を持たない。しかしながら本級はもっぱら艦隊防空任務、通商破壊任務に使用されたため、さほど問題とはならなかった。

 

※当初計画では航空運用能力は航空魔導師で事足りるとみなされていたが、前述の航空魔導師搭載(乗艦)数の半減。また魔導反応探知能力の飛躍的な進歩により位置を逆探知される危険性が増したことから、それを補完するために水上機運用能力が追加された。

 

なお、本級は帝国海軍初の溶接技術導入艦でもあり、船体構造はすべて堅実なリベット接合に依ったが、艦橋構造物については重量軽減の観点からかなりの部分で溶接が用いられた。さらに後期建造型になると上部構造物のほぼすべてを溶接で建造するようになった。

 

 

【武装】

【主砲】

本級に合わせて新規に設計・開発された『60口径15.5センチ砲(SKC/21 15.5)』を主砲として採用し、これを背負式に連装3基6門搭載した。

本砲は当初から対艦対空両用砲として開発された世界初のものであり、それでありながら高い完成度を有した。

主な性能は以下の通り。

初速:980メートル/秒

最大射程:27,000メートル

最大射高:16,000メートル

発射速度:9発/分(計画)

砲弾重量は55.9キログラムあった。なお、最大射高は上述の通りであるが、肝心の射撃指揮装置がその高度に対応していない。もっとも、当時の航空機の性能から言って本砲の最大射高が高過ぎたというべきである。また、発射速度も実戦では毎分7発程度だったという。

射程や精度、発射速度、俯仰角速度とも当時最高性能と言ってよい本砲であったが、15.5センチ、56キロ弱と言うことから度々「威力不足」との意見が出された。

これは本級がそもそも対空射撃を主眼に開発されたが故の弱点であった。一応、高い発射速度によりある程度カバーできたため、致命的問題とはみなされなかった。

また、旋回速度についても用兵側から不満を表明された事もあり、これについては戦後の改良によって、一応の解決を見たと言う。

 

抜本的解決策として、本級の設計を踏襲しつつ船体を大型化し、主砲を60口径20.3センチ連装砲4基8門とした『プリンツ・オイゲン』級巡洋艦(のち、重巡洋艦)が設計、建造された。

 

【高角砲、対空機関砲】

高角砲には新開発の72口径8.8センチ高角砲(SKC/21 8.8)を採用し、これを連装砲架で片舷2基ずつ計4基8門装備した。本砲は傑作高射砲の呼び声高い56口径8.8センチ高射砲を長砲身化させたものであり、後に本砲をほぼそのまま対戦車砲72口径88ミリ対戦車砲Pak23として帝国陸軍においても採用した。このことからも分かる通り本砲は初速と低伸性に優れており、航空機はもちろん、特に航空魔導師に対して高い攻撃性能を示した。また、通商破壊戦において敵船を処分するのに本砲の零距離射撃が最適だったという。

本砲はこれ以降、帝国海軍の標準高角砲として不動の地位を確立し、現在のライヒ連邦海軍においても引き続き運用されている。

一方で砲身がいわば「細長すぎる」ことから、初期型は散布界にやや難があった。これについては中期生産型から砲身の肉厚を増すなどの改善がなされ、初期型を搭載したものについても順次砲身換装を実施した。

主な性能は以下の通り。

初速:1,100メートル/秒

最大射程:17,000メートル

最大射高:12,000メートル

発射速度:22発/分(計画)

 

対空機関砲については、当時帝国海軍で一般的だった60口径25㎜機関砲、その3連装型および連装型を10~15基搭載した。

戦中には、これを協商連合国ボフォース社に生産させた60口径40ミリ4連装機関砲に換装したものもある。同砲は戦後も西側各国に採用された高性能機関砲であり、25ミリ砲とは比較にならない高威力を発揮した。

一方で、25ミリ砲に比べてかなり重量が増大したことから搭載可能数に制約があり、最多でも6基24門が限界であった。

なお、機関砲の搭載状況については、艦ごとにまちまちであることから、本稿では詳細を省く(各艦ごとのページを参照されたい)。

 

主砲、高角砲、機関砲とも設計開始時点ではオーバースペックな性能であり、開発に時間を要したと言われる。しかしながら、結果として本級が長く第一線で活躍できたのはこれら先進的武装によるものであり、その先見性の高さは特筆に値する。

 

 

【防御】

概ね15cmクラスの砲弾に耐えられるだけの防御力が与えられている。特に重要区画には重厚な防御が施されていた。舷側水線部には最厚部で65ミリ、甲板は同じく20ミリ、主砲塔は25ミリと言う、当時の巡洋艦としては厚めの装甲を有した。

そもそも本級はその主砲、高角砲が従来のものより重量があり、ややトップヘビーのきらいがあった。舷側水線部の装甲が厚いのは艦の重心を低下させる狙いもあったといわれている。

本級は実戦では高い生存性能を示した。中には艦首と艦尾を切断したにもかかわらず生還し修理後戦線復帰したものや、「魚雷5本前後、爆弾10発前後、至近弾多数」を受け、数時間漂流した後に沈没したものまである。

戦後調査にあたった各国海軍関係者をして『異能生存体姉妹』と言わしめた所以はここにある。

 

 

【機関】

本級の特徴として、当時の帝国海軍艦艇としてはずば抜けた航続距離があげられる。

これは魔導師運用能力と合わせ、本級に後の航空母艦とよく似た性質・性能を付与することとなり、通商破壊戦において数多くの戦果をあげることに繋がった。

この航続距離性能と速力を達成するために、新開発の高温高圧缶および蒸気タービンを採用した。一説では航続性能確保のために2軸をディーゼル、2軸を蒸気タービンとする計画もあったが、上記の高温高圧缶とタービン開発の目途が立ったため、取りやめになったという。これには異なる2種類の機関を採用することによる整備の煩雑さも念頭にあったと言われる。

最高速力:34.5ノット(一番艦ライプツィヒの公試では35.2ノット)。

航続距離:18ノット/10,000海里(実戦で燃料切れになったケースが無く、これ以上だったという説もある)

 

 




見た目は魚雷発射管のない阿賀野型(ただし艦尾に水上機)。船体サイズは大淀型に近い(ただし司令部施設が艦体中央部に移動)。と想像していただければ

デ:おいまて20年先取りしちゃってるじゃねーか
ツ:自分の夢に正直になって設計しました。反省も後悔もしていません!!
デ:でしょうねえ!

多分ボイラーで一番苦労してると思う。

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