【悲報】急に長期出張が決定。
なお、研修なので缶詰合宿の模様(マイガッ)よって更新不定期とならざるを得ない
かくなるうえはオール丙でイベント突っ走るしかねえ!!!
統一歴1926年3月22日
帝都ベルン 『統合作戦本部・帝国最高指導会議合同会合』
モスコー襲撃から一週間が経とうというこの日、そんな名前の会議が開かれていた。
いわば御前会議のようなものだが、巨大な会議室(もとは舞踏場)に据えられた同心円状の会議テーブルに閣僚、軍高官はもとよりその補佐官や事務官までが勢ぞろいし、背後の衝立越しには通信席まであるところに、従来の御前会議との違いがあった。
ただし、本来の御前会議と同じ点が一つ。
「皆の者、楽にせよ」
「「「「「ハッ!」」」」」
それは、上座に皇帝陛下がおられること。
ここ数年、体調不良を理由に滅多とこの手の会議に出てこないこの人物が、久方ぶりにこの場に姿を見せていた。
この場合、ツェツィーリエの座る位置は自動的に皇帝の斜め後方、つまり陪席となる。
加えて言えば、今回に限り彼女の立場は「皇帝の付属物」。
何故か?
それは「最高権力者は二人いてはならない」からである。
会社で言えば、会長(先代)と社長(当代)が代表権を持つようなものである。両者がうまく連携できればいいが、喧嘩をすると何が起こるか。
西暦世界の日本の例でいえば、薬子の変しかり保元・平治の乱しかり、上皇と天皇の対立に端を発する、もしくは内包した内乱は複数見られる。
そしてその多くが国内政治の大変動、混乱をもたらした。
思うに、明治維新後の『皇室典範』が譲位を想定していないのは、この時の苦い教訓があったからではないだろうか。
実際、宮内省図書頭の井上毅が譲位容認を唱えていたにも関わらず、伊藤博文がこれに異を唱え、結局、典範原案から譲位に関する条項が削除されたことが、今日では明らかとなっている。
井上を「忠実無二の者」と高く評価していた伊藤が、譲位については一切耳を貸さなかったのは、明治維新によりおよそ1,000年ぶりに権力を回復した天皇が、上皇と対立しそれが国内の政治対立となることを、あるいはそこから外国勢力の介入を招くことを恐れたからではないか。
であればこそ、天皇は崩御のときしか天皇をやめられないという、少し考えれば無理があると分かりそうな規定になったのではないか。
実際、伊藤が辞表を出した時に「テメーは辞表出せばいいけど、私は死ぬまでやめられねーんだよ(意訳)」と明治天皇が宣ったという記録もある。
そして、この世界の帝国もまた同様の問題を抱えていた。
そもそも「帝国」はライヒを生存空間とする諸民族が、自分たちの郷土を、生活を、生命財産を守るため「皇帝」のもとに団結したという建国経緯を持つ(少なくとも、公式見解はそうである)。
ゆえに「皇帝」は団結の象徴であり、「分裂」などあってはならないのだ。
無論、産まれてから死ぬまでずっと健康な人間などいないし、高齢や病気で公務が困難になることは十分に予想されたことである。
その場合の安全策として帝国は『摂政宮』、つまり代理者を規定した。
だが、あくまでも「代理者」として、である。
本来の職務者である皇帝が執務を行う場合、その権限は発揮できなくなることがしっかりと明文規定されているのである。
これは過去に摂政が皇帝を軟禁状態に置き、
ブレスト襲撃を経た今の時点でも、ツェツィーリエに軍令上の大権が明確に与えられていない理由もここにある。
「さて、本日の会合だが…。ふむ…どこから話したものか。
まぁ、何はさておき陸軍、空軍の諸君に賛辞を。
まさか開戦翌日に敵国首都に大打撃を与えるとは! かの初代皇帝陛下でも成しえなかった快挙であろう。見事なものと褒めさせてもらいたい」
「ハッ、ありがたきお言葉――」
「――が! それについて外務省から意見があるようだ。…外務大臣」
「ハッ、それでは、述べさせていただきます」
そう言って、外務大臣が続けるのは「苦言」。
陛下の御前だからかやたら回りくどい言い方をしているそれを、要約してしまうと。
―― 軍はやりすぎだ!連邦との交渉が一切出来なくなったではないか!! ――
そう、軍はやりすぎた。
そもそも帝国は連邦との戦争は回避するようにしてきた経緯がある。
ただでさえ周囲をほかの列強諸国に囲まれている状況で、あの巨大国家を相手に戦争するなど、悪夢以外の何物でもないからだ。
だからルーシー「帝国」時代は皇室同士が婚姻関係で結びついていた(ルーシー帝国としてもこれにより西方を安定させることが出来た。一方で不凍港を東に求めるほかなくなり、秋津洲皇国との泥沼が避けられなくなったとも言える)のだし、ルーシー革命後には新国家ルーシー「連邦」と不可侵条約を結んだのである。
それが連合王国の策動で破綻し、
大戦勃発以来、東部安定のために苦心惨憺していた外交官連中からすれば、文句の一つや二つ言いたいのは無理のない話であった。
その様子を、ツェツィーリエ・フォン・プロイツフェルンは無理やり張り付けた微笑で見続けるしかない。
なにせ、今日の彼女は「ただの皇女殿下」。
皇帝大権を召し上げられた現状、彼女は皇帝の隣にちょこんと鎮座し、この茶番を眺めるほかないのである。
それこそが、外務省や文官連中の狙いである。
当初、彼らはこの事態を演出した陸軍の「デグレチャフ中佐」とやらを
―― やめておけ、この作戦は『殿下案件』だ ――
『殿下案件』
それは10年ほど前から政府、軍上層部で使われるようになった造語である。
無論、この皇女が聞く耳を持たぬ愚物と言うわけではない。
いや、むしろ逆であることをこの場にいる人間は知っている。
外務省の人間も、先の協商連合との和平条約とその結果には感心しているくらいである。
だが。
いや、だからこそ彼らは言わざるを得ないのだ。
なぜ、貴女ほどのお方がこんな攻撃を裁可なさったのですか!! と。
ただ、自分達でそれを言うことは躊躇われた。
何しろ軍事的に見れば大成功なのだ。その点については文句のつけようがない。
ゆえに、彼らは一計を案じた。
皇女殿下を叱責できる唯一の存在、すなわち皇帝陛下にご下問と言う形で問題提起をしていただこう、と。
…極めて迂遠な方法だが、専制君主に近い政体ではやむを得ない方法ではあった。
彼らの恨み言はねちねちと続く。
「…正直に申し上げますと、これほどの成功は予想しておりませんでした」
「ほぅ!これは異なことを。かの西方電撃戦の立役者たるゼートゥーア閣下ほどの方が成算もなしに今回の作戦を立案したと!?」
「…成算はありましたが、『到達出来る』と言う意味での成算でした。
何しろ相手は連邦の首都です。ここまでやれるとは、ひょっとすると発案者自身思っていなかったのではないかと」
「なんと!つまり博打に陛下の軍を投入したのですか!」
「お言葉を返すようですが、『示威飛行』を念頭に置いたうえで成功可能と判断したまでであります。無謀な賭けだったということはございません」
「最近は100機の爆撃機が爆弾を落とすことを『示威飛行』と言うのですかな?」
「それは――」
「――そこまでにしてもらえないか?」
限界だった。
「控えよツェツィーリエ」
「畏れながら陛下、5分ほどお時間を頂戴したく。そのあとは蹴りだすなり締め出すなり御意のままに」
「……」
「何卒」
「…分かった」
皇帝は折れた。
母親譲りのその碧眼が、これまた母親と同じく
アレクサンドリーネ・エルメロイ・フォン・プロイツフェルン。
旧姓はアーチゾルテ。
今は亡きツェツィーリエの生母であり、
彼らが本当に「魔術」を扱っていたのかは、もはや誰にも分からない。
中世ロンディニウムにあったという「時計塔」とやらにいたとも、あるいははるか極東の「幻想郷」にいたという説もあるが、もはや誰にも検証できない。
【 歴史の彼方に消え去った一族 】
そう呼ばれるアーチボルト、その末裔だと噂された家の最後の一人が彼女であった。
もっとも彼女が「本来の魔術」を扱った痕跡はなく、本人がそのように名乗ったこともない。ただ、帝国の魔導技術関係者がそのように見なしていたのは事実である。
けれども、その家の人間が皆「魔導適性S」を叩き出している―― 既存の測定器だと振り切れて数値化できない ――のは事実であり、この点はツェツィーリエにも引き継がれている。
そして、何より。
本当に怒ると目を焔色に輝かせ、演算宝珠なしであたりを瓦礫の山にする怖い人でもあった。
皇帝が何をやらかしたのかは謎に包まれているが、もとは離宮があったレヒリンが農場になったのはこの時からのことである。
この点もまた娘に引き継がれている。
皇帝陛下が顔を蒼褪めさせるのも無理はない。
なにせアレクサンドリーネのおかげで、皇帝は
「――さて、外務大臣殿?」
「は、ハイッ!」
蛇に睨まれた蛙。のちに、この時の様子を述懐してルーデルドルフが言った言葉である。
大臣にとって不幸だったのは、彼女がこのレベルの「お怒り」を示したのはこれが二回目であり、ゼートゥーアから話を聞いたことのある一部の人間を除いて、こうなることを予想できなかった事であろう。
一回目?そりゃ見合い話のときだよ。王宮の南側吹き飛ばして逃げ出したのサ。
「まぁ、文書には名前が出てこないから知らなかったのだろうけど、あの作戦を考えたのは私でね?ついでにゴーサインを出したのも私だ。
…その件で、ゼートゥーアを虐めるのはやめてもらえないかな?」
「わ、私にはそのような意図は――」
「無論、君たち外務官僚の不興は重々承知している。その点については謝罪しよう。
君たちの努力を無にしたのは間違いなく事実だからな。すまん」
「――い、いえ――」
「だが」
口ごもる外務大臣にツェツィーリエは続けた。
「これが無くても連邦との友達ごっこは早晩破綻していたぞ?」
「何故かね?ツェツィーリエ」
「根本的に、共産主義と帝政は共存できないからです」
彼女は言う。
そもそも「社会主義」、その発展形である「共産主義」は、従来の個人主義的な自由主義経済や資本主義の弊害に反対し、より平等で公正な社会を目指す主義思想である。
特に統一歴1830年代に現れたクール・マルケスの主著『共産党宣言』は、その後の社会主義思想、共産主義に多大なる影響を与えた。いや、影響を受けなかったものは無いと言えるであろう。
その中で、彼はこのように述べている。
『人類の歴史とは、自由民と奴隷、領主と農奴、資本家と労働者などの、つまり「上部構造」と「下部構造」の隠然または公然たる階級闘争の歴史である。そして今日の社会はブルジョワジーとプロレタリアートと言う上部構造と下部構造にますます分裂しつつある』
『プロレタリアートは、自分の労働力を売って生活するしかない多くの人びとである。プロレタリアートがブルジョワジーから政治権力を奪取し、生産手段などの資本を社会全体の財産に変えることで労働は搾取から本来あるべき【喜び】へと立ち戻る』
『このように「社会の発展」がすすむにつれて、階級対立も、諸階級の存在も、階級支配のための政治権力も消滅し、一人一人の自由な発展がすべての人の自由な発展の条件となるような協同社会がおとずれる』
『つまり、共産主義の進歩による協同社会への進歩は人類史の必然なのだ』
「――共産主義、社会主義の根底にあるのは『人類はやがて平等な協同社会に至る』という歴史観…彼らは発達史観あるいは史的唯物論という言い方をしますが…。
そして彼らの頭の中で【上部構造】はプロレタリアート革命で打倒される運命にあるのです」
「…前から疑問なのだが、階層のない平和な社会など存在しうるのかね?」
「彼らの頭の中では、『共産主義の実現という人類史の進歩で達成される』そうです。
つまり、階層構造、階級社会である帝国とは根本的に相性が悪い、いや、不倶戴天の敵と言って差し支えない。
連邦と帝国の「
「我が国は西にフランソワ共和国を抱え、連邦は東に秋津洲を抱えていた。
どちらも因縁深い相手で、仲直りできそうもない。結果、二正面戦争を避けるために両国は握手していたにすぎないのです。
繰り返しますが、『根本的に相容れない』のです。連邦と帝国は」
隣国と主義や思想が異なるとどうしようもないのは西暦世界が現在進行形で証明している。日韓関係だとか、インドとパキスタンの関係だとか、イランとサウジアラビアの関係だとか、日韓関係だとか、イスラエルとその周辺国の関係だとか、クルド人とトルコの争いだとか、日韓関係だとか。
「ついでに言うと、連合王国と連邦の関係も帝国と言う共通の敵があるからこそ。
それが無ければ【ブルジョワ総本店】と【プロレタリアート総本山】が手を取るなどありえません」
「…なるほど、つまり
「仰る通りです、陛下。もはやこの戦争は【条件闘争】ではなく【生存闘争】なのです。
先ほど申した主義の違い、そして連合王国の後ろ盾があの国に「手打ち」を許しません。
…まぁ、今回の襲撃でさらに引けなくしてしまったのは事実ですが…」
「…では、どうするのだ?」
「それについてですが陛下、せっかく久しぶりに皆とこうして集まったのです。
今後の帝国の基本方針を定めたいのですが? 」
「…どういうことだ?」
「それを分かりやすくするために――ゼートゥーア。正直に答えてほしい」
「ハ、何なりと」
「軍に『敵国の占領計画』というものがあるか?」
「ございません」
即答だった。
「では、そもそも帝国外に外征するときのプランはあるか?」
「ございません。わが軍は『内線戦略』、つまり祖国防衛に特化しております」
これも即答。
この時になって、その場にいた軍以外の人間の表情が変わった。
「答えにくいだろうが最後にもう一つ。
…つまり帝国軍は『よく訓練された自宅警備員』なのだな?」
「…仰る通りかと。それ以外には海外植民地の警護しかやっておりません。また想定もしておりません」
「そんな馬鹿な!?」
「敵を打ち倒すための軍ではなかったのか!?」
「侵入してきた敵を打ち倒す!…これが我が帝国軍の内線戦略であります」
「…つまり、敵国の首都になだれ込むと言うような想定は…?」
「戦前時点で一つとして存在しておりません」
「…唯一と言えるのが、殿下直筆の『春の目覚め』でした」
俄かには信じがたいことだが、ルーデルドルフ、ゼートゥーア両名の回答に嘘偽りはなかった。
そもそも、帝国軍が「敵を倒してその領域を支配下に組み込む」業務に携わっていたのは、帝国開闢期の極めて限られた期間だけであった。そしてその領域が「帝国」として成立した瞬間から、帝国軍は「自宅警備員」とならざるをえない宿命が定められていた。
なぜなら、帝国が建国されたその時には、既に周囲は列強で埋め尽くされており、「列強の介入から如何にライヒを
外征? そんな
「そうでなかったら、皇太女とはいえこんな小娘のアイディアを『春の目覚め』なんて名付けて実行する訳がありません」
そして、新興の列強である帝国には時間的余裕も無かった。
ゆえに、短期間で「自国防衛」のための軍隊を作り上げる必要があり、また連合王国のような植民地にも乏しい―― 目ぼしい資源地域はほかの列強が刈り取った後だった ――から、資源も節約する必要があった。
「時間」と「リソース」の節約、効率化。
その宿命ゆえに、帝国軍は建軍当初から『内線戦略』に特化した部隊編成、装備、訓練の充実に邁進し、それを達成したのである。
「か、海軍は?」
「本土防衛を主眼としております。そのほかは海外植民地用の警備艦艇程度です」
海軍次官が答えた。
いや、海軍の方はもっと深刻だろう。なぜなら陸軍は『欧州最強』を自負する完成度と実力を有するに至ったが、海軍は強大な連合王国海軍相手には『本土防衛』が関の山だとみられているのだから…。
「…よもや、その様な事になって居ろうとは…」
「はい、陛下。ほとんどのものが『ある』と思い込んでおりました。それゆえ気付くのが遅れたとも言えます」
「!…まさか、お主らが協商連合も共和国も滅ぼさずに残したのは…」
「外征能力もないのに、占領統治計画があるはずも無いからです」
ツェツィーリエは躊躇いなく答えた。
「中世に毛の生えたようなダキアならばともかく、近代国家であるその二か国相手に付け焼刃の『占領統治』が成功するとは思えません」
だからこそ、占領を、支配を求める強硬派の反発を抑えてまで、彼女は相手側政府を残し、そことの「和平条約」と言う方法を採用したのだ。占領統治への反発、失敗がパルチザンやテロリストを生む例は枚挙にいとまがない。
西暦世界のアメリカを見よ。自国のやり方を、風土も社会構造も全く違うアラブ世界にそのまま持ち込んだ結果、何を引き起こしたか!
「…恐ろしい娘よ。そこまで読んでの『和平条約』か」
「実の娘に『恐ろしい』とは失礼な。ただ偏にライヒのことを思えばこそであります」
「…左様か。では、それならばなぜ北フランソワは占領したのだ?」
「連合王国の対岸なれば致し方なく、と言った方が正確かと」
「そういう事か…」
「はい、ですから、北側の必要な部分のみ占領することとし、さらに現地官吏はフランソワ共和国の人間をそのまま帝国内務省で採用しております」
「なに!?そんなことをして問題は……!
…いや、準備もなしに統治するよりはマシ、か」
「ええ、残念ながら」
「ちなみに、問題は発生していないのかね?」
「それは…内務大臣?」
「税率が変わった事への苦情があった程度です」
ツェツィーリエは知っていた。
「軍政」はとにかく金がかかるうえに、そもそも帝国にはその計画が無い。
ならば通常の行政運営、つまり「民政」にするしかない。
そして民政にするならば、現地の事情に精通した人間を使うのが望ましく、それならいっそ現地役人(当然、フランソワ人)を継続雇用してしまったほうが混乱も少なく、確実だ、と。
一応管理職にはフランソワ語の出来る帝国内務省の人間を送り込んではいるのだが、ハッキリ言って開き直りである。
「まぁ、
「なるほどな……」
ここまでの話を聞き、皇帝は思わず生唾を呑んだ。
ここまで考えていたのか我が娘は!? と。
いや、皇帝だけではあるまい。事前に聞かされていた軍首脳陣、首相や外務大臣でさえも表情に冷や汗を浮かべている始末なのだから。
……まあ、何のことはない。急場しのぎでGHQもどきを提案してみただけである。
それを―― 文句は言ったかもしれないが ――実行した内務省が偉いのである。
「話を戻しましょう。フランソワ共和国のときでさえそうです。
ルーシー連邦相手となりますとさらに問題は深刻です。――ルーデルドルフ」
「ハッ!皇女殿下の諮問を受け、参謀本部では昨年末よりルーシー連邦への大規模攻勢、侵攻の可能性を研究して参りました」
「…結論は」
「不可能です」
ルーデルドルフは続ける。
「無論、作戦局としては、十全な補給と準備があれば連邦軍撃破は確約いたしましょう。
…ですが」
「その補給と準備がおぼつきません」
ゼートゥーアが話を引き継ぐ。
「フランソワ共和国は帝国と
…正直、共和国軍がパリースィイで籠城戦を選択していた場合、我が軍にそれを撃破する余力はありませんでした」
「つまり、あの時点で薄氷だったと…?」
「…鉄道部の半分以上が医者の世話になった、とだけ申し上げます」
「この点、ルーシー連邦はさらに悲惨です」とルーデルドルフ。
「あの国は何を思ったのか、レール幅が
一説にはルーシー皇帝が敵国の利用を防ぐためにあえてずらしたと言われるが、もしそれが本当ならば達見としか言いようがない。
「これを解決するには、鉄道の改軌、つまり造り直しが必要となります。それも全線で、です」
「…連邦の鉄道車両を鹵獲すればいいのでは?」
「それにしても、どこかに積替え用の駅を造る必要がありますし、直接乗入れに比べ効率が一気に低下します」
「先に言っておくと馬はもうないぞ。共和国戦で使い切ってしまったからな。今では帝国本土の馬は老馬か仔馬かその母馬しかおらん。競馬場も閉店休業。
これは陛下がぼやいていたから間違いない」
「ツェツィーリエ!?」
「事実でしょう」
「う…」
その場にいた廷臣たちは思った。
ああ…皇帝陛下でも出来の良い娘がいると苦労するのは同じなのか、と。
ちなみにこの鉄道問題、鉄道局ではツェツィーリエのアイディアによる『三線軌条』―― 連合王国一部区間で採用実績のある方法。また貴様らか! ――も検討しているのだが、ゼートゥーアまでで情報がストップされている。
『攻め込むことは可能』と言う結論を出させないために。
「殿下の発言に続けさせていただきますと、トラックも困難です。鉄道ほどの大量輸送*1は不可能ですし、なにより道路が悪すぎます」
「道路とな?」
「ハッ、あの国の道路は都市部を除けば殆どが未舗装なのです」
「なんと!?」
「そんなことがあるのですか!?」
「ゼートゥーアの言うとおり。あの国は近代化が遅れているせいか、車で帝国からモスコーに行ける道が『モスコー街道』一つしかない有様だ」
「ご冗談でしょう!?」
「冗談だったらよかったのですが…。それ以外の道はお世辞にも軍単位の集団の移動に適しているとは言い難く…」
「フランソワ共和国のときのようなガソリンスタンドなんて夢のまた夢。あの国の広さと相まってトラック部隊が立ち往生すること請け合いだろうよ」
「また、今の季節は雪解けでぬかるんでおり、人が歩くのも大変な泥沼と化すとの情報がもたらされております」
「それほど、なのか…」
皇帝は慄いた。なんと攻めにくい国なのだろうか、と。
実際そうである。
何せあの広大な領域を攻め取った経験があるのはモンゴル帝国とツァーリのみ。つまり
近代戦で攻め滅ぼせる相手ではないのだ。
「はい。ゆえに陛下。
モスコーに攻め込むと言う【勝利】は望むべくもありません」
「道理だな…。だがお前のことだ。何か案があるのだろう?」
皇帝の問いかけに、皇女殿下はにっこりと笑う。
実の娘の笑顔なのに寒気がした、と後に皇帝は語ることになるその表情。
「策と言うほどではありませんが、単純な事です」
皇帝の愛娘は言った。
攻め込まなければ宜しいのです、と。
それでどうやって勝つのだ、と言う話はまた次回
>燃え立つような焔色
>歴史の彼方に消え去った一族
ツェツィーリエのイメージが決定したことにより、初期プロットに追加された部分。
一応後半プロットにもちょこちょこ影響をきたしつつある。…クロスオーバーのタグ入れたがいいのかね?
>帝国軍『よく訓練された自宅警備員』説
信じられるか?これ原作小説準拠なんだぜ…?
ちなみに原作では「占領計画なんてなかった」ので「フランソワ共和国が作ってたそれ」をコピーし、「現場の努力」で占領統治を実施しているそうである。
…。
……。
ウッッッッソだろお前!?
なお、その背景部分は捏造しましたが、まあさほど間違ってないと思う。
>今後の投稿について
真面目に缶詰め状態なので、感想への返答は可能ですが、本腰入れての執筆がかなり厳しい模様。
仕方ないんや、国●交●〇学校だから、サボタージュは許されないんや…