皇女戦記   作:山本 奛

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もっと後で載せようかとも思いましたが、乗せ忘れそうだったので今あげます(え


新型戦闘機(その2)

『 メッサーシュミットBc《 Blitz 》シリーズ

 

皆様もよくご存じ、帝国空軍の名機です。

【101】【201】【302】【402】【403】【503】と改良を重ねながら、大戦を通じて帝国の空を守り続けたことで知られる本機。

 

シリーズ総生産数18,000機と言うのは今日に至るまで破られていない、そしてこれからも破られることのないであろう、不滅の大記録としてギネスブックにも載っています。

 

 

さて、あの大戦から60年余りが過ぎた昨年夏、本機に関する大発見がありました。

 

 

今回は専門家の皆さんとともに、この新発見【ツェツィーリエ・スケッチ】から、伝説の名機誕生の真実に迫りたいと思います』

 

 

~統一歴1990年 公共放送AHK(秋津洲皇国公共放送)・BBC放送共同制作のドキュメンタリー番組より~

 

 

 

 

 

 

昨年夏、ライヒ連邦空軍技術局の倉庫から、古ぼけた一冊のノートが発見されました。

第一発見者である空軍の事務職員、アッカーマン氏はこう証言します。

 

―― ノートは倉庫の解体に伴う資料搬出の際に見つかったのですが、明らかに意図的に隠されていました。何しろ資料がぎっしり詰まった本棚、その底面に窪みを造って収められていたのですから。 ――

 

ノートの調査にあたったライヒ空軍のノイマン技師はこう言います。

 

―― パラパラとめくっただけでピンと来ましたよ、これは『ツェツィーリエ・スケッチ』だ!と ――

 

 

 

 

『ツェツィーリエ・スケッチ』

 

 

 

それはいったい何なのでしょう?

長年、大戦期の各国軍事技術について研究している、イェーガー博士はこう語ります。

 

―― あの大戦にまつわる『都市伝説』です。…いや、見つかった以上『でした』と言うべきなのでしょうが ――

 

都市伝説とは?

 

―― 帝国最後の皇帝、ツェツィーリエ・フォン・プロイツフェルンが記したとされる『あらゆる武器の予言書』です。『そこには統一歴1920年代から1950年代のあらゆる武器の設計スケッチが納められている』という、信じがたい伝説ですよ。私自身、今でも信じられないのですが… ――

 

 

 

 

―― 実際、昨年夏まで誰も信じていませんでしたよ ――

そう語るのは大戦研究の第一人者、ヤン・ウェンリー博士です。

 

 

 

―― 武器に限らず、あらゆる工業製品は試行錯誤や失敗を経て、徐々に完成度を高めていくものです。それを『予言』する?普通ならばありえないでしょう ――

 

しかし、その『普通』は昨年夏に覆されました。

 

―― ライヒ空軍の調査の結果、件の本棚は遅くとも1930年には現位置にあり、かつほぼ満杯になっていました。とてもじゃありませんが、動かせる状態ではありません。

その底面裏に隠されていたと言うことは、『ノート』はそれ以前に書かれたと言うことになります ――

 

もっとも、見つかったノートに書かれていたのは飛行機に関する事のみ。

伝説の『ツェツィーリエ・スケッチ』には若干劣るような気もしますが?

 

―― とんでもない!これを見ればわかるはずだよ!! ――

 

そこに書かれていたのは、見覚えのある特徴的なシルエット。

 

 

 

 

 

そう、伝説の名機、メッサーシュミットBc101《Blitz》です。

 

 

 

 

 

―― 問題なのは右上の日付。『1924.5.11』とあるでしょう?これは同機の開発指示が出された時期にあたります ――

 

 

その日付が示すことは重大だと指摘するのは、帝国史研究の第一人者、アンドリュー・フォーク博士です。

 

 

―― 《 Blitz 》シリーズの特徴は、なんと言ってもあの特徴的な胴体形状にあります。爆撃機用の大直径エンジンを選択したことによると考えられていますが、当然、それまでに類を見ない…いえ、それ以降でも見られない極めて独創的なデザインです。

従来、このデザインは『大型爆撃機用エンジンを採用し、最高速度600キロを目指せ』と言う無茶な要求を受けた、メッサーシュミット社の苦心の賜物だと考えられていました。

 

ところが、今回のスケッチが本当に1924年5月に書かれていたとすれば、開発指示段階で、少なくとも大まかなデザインが決まっていたということになるのです ――

 

 

ウェンリー博士もこの点に同意します。

 

 

―― 以前から《 Blitz 》の開発スピードの速さは謎とされてきました。

エンジンは爆撃機の流用なので開発時間が不要だったとしても、あの独創的なフォルムを一年足らずで試作すると言うのは異常な速さです。

仮に基本的なデザインが1924年5月に決まっていたとすれば、この謎は解消されます。

 

…今度は逆に『設計前に何故このデザインに辿り着いたんだ』と言うとんでもない大問題に直面するのですが… ――

 

 

 

 

今回、我々はその『大問題』を解く手がかりを得るべく、ライヒ連邦政府の協力を得て、発見された『ツェツィーリエ・スケッチ』のデジタルスキャンニングを行いました。

 

日の当たらぬ本棚の底にあったとはいえ、50年近く前のノートです。劣化が進んでおり、今後の研究で活用するためにも、デジタルアーカイブ化は必要不可欠と考えられました。

 

 

 

 

 

 

その過程で、我々は驚愕の事実を発見することになります。

 

 

 

 

 

 

―― 見てください。これは『ノート』を高精度スキャンしたものですが、ここ、何か影が映っているように見えますでしょう? ――

 

東都皇国大学の坂本教授が指さす先には、確かに妙な影、凹凸が写り込んでいます。

 

―― 詳しく調べた結果、これは鉛筆で書いた文字を消した跡だと判明しました。そこで、かすかな凹凸も検知できる特殊な装置で文字を復元した結果が、これです ――

 

 

 

そこに映し出されていたのは。

 

 

 

 

 

なんと、 秋 津 洲 語 。

 

 

 

 

 

―― ツェツィーリエ・フォン・プロイツフェルンが秋津洲語『らしきもの』を暗号代わりに使っていたことはすでに知られていました。

 

ただ、当時の秋津洲語では無く、現代秋津洲語(・・・・・・)に極めて近いという不可思議な点があるのです。具体的には当時の秋津洲語は『右から左』に書くのですが、彼女は今の秋津洲語と同じ『左から右』に書きます。

また、漢字も旧字体では無く新字体ですし、所謂『カタカナ語』まで頻出すると言う、当時としてはありえない言語体系をなしているため、後世の偽造説も根強いのです ――

 

実際に、後世の偽造である可能性は?

 

―― この所謂『ツェツィーリエ語』は乱数表と組み合わせ、特殊な暗号通信として使われていたことが既に判明しています。

当時この暗号を使っていた複数の人物に話を聞くことが出来たのですが、全員『秋津洲語は暗号用言語として覚えさせられた』と証言しています。彼らは皆、秋津洲語を左から右に書きますし、『帝國』ではなく『帝国』とお書きになるのです。当然、カタカナもお使いになられます ――

 

 

 

次に、今回浮かび上がった文字を各分野の研究者に見てもらうことにしましょう。

 

 

 

 

 

―― これは…驚きですね ――

 

秋津洲航空技術局の元局長、源田氏は言います。

 

―― 要求仕様の下、消された秋津洲語を見てください。

 

『開発期間の短縮、生産性向上の観点から、Blitzschlag(ブリッツシュラーク)にはSB-1と同一の空冷星形14気筒【ヴェスペ(Wespe)-027型】エンジンを採用する。

結果、胴体直径が極めて大となることから、機首部分では無く胴体全長の約40~50%のところで最大直径となる胴体形状を採用。エンジン回転は延長軸によってプロペラに伝達。』とあります。

 

つまり、この時点であの特徴的シルエットは決まっていたのです。

 

しかも『胴体全長の約40~50%のところで最大直径』と言うのが重大な意味を持っています ――

 

 

それはなぜでしょうか?

 

 

―― 統一歴1930年代に各国で盛んに研究された『層流翼』と言う理論があります。これは主翼後部の乱流の発生を抑えてその慣性抵抗(圧力抵抗)の力を少なく抑え込もう、すなわち主翼の空気抵抗を小さくしようというものです。

この理論では、最大翼厚の位置が翼全長の40から50%付近に来るのです ――

 

つまり、《 Blitz 》の場合はその理論を胴体に応用した、と言う事なのでしょうか?

 

―― その可能性が極めて大です。…そして、ありえないことなのです ――

 

どういう事でしょう?

 

―― 『層流翼』理論は1930年代(・・・・・・)に登場した理論です。

間違っても1924年の指示書に現れてよい内容ではありません。はっきり言いましょう、これはオーパーツです ――

 

 

 

この点について、ウェンリー氏は偶然の一致ではないか、と指摘します。

 

 

―― この特徴は従来から指摘されていました。

そして多くの研究者が、本機が設計開始時点で『大直径の爆撃機用エンジンを使う』事が決まっていたため、『エンジンを通常よりやや後ろに置き、その前方を絞りこむ』と言う方法を採用した結果、偶然このような形状になったと考えているのです ――

 

―― しかし、それでは態々40%を、それも設計開始時点で指定したことへの説明がつきません ――

と、源田氏は指摘します。

 

―― 結局のところ、『この時期の帝国軍の技術開発はありえない』と言うありふれた結論に戻ってしまうのです ――

とはフォーク博士の談。

 

―― 本来試行錯誤して辿り着くべき段階に帝国は最短ルート、いやジャンプして到達しているのです。それも一度や二度では無く。

技術史研究の人間が、1920年代後半の帝国軍には絶対触れようとしないのもここに原因があります。どうやっても説明がつかない部分が多すぎるのですよ ――

 

 

 

 

源田氏もこう指摘します。

 

―― そもそも『層流翼』理論自体、結局実用化できない技術でした。

 

《 Blitz 》の胴体もまた、実のところむしろ空気抵抗を増幅させているくらいです。

しかしご存じの通り本シリーズは多少の改正こそあれ、最後までこの胴体形状を固守し続けたのです。

最初から『ありえない』、しかも外見以外のメリットが無い胴体形状を採用している。

…大直径エンジンを採用したため、と言う理由は通りますが、結局『なんでよりによってこの形状にしたのか(単純に皇女殿下の浪漫)』は謎に包まれているのです。

本機が『 名機と迷機を足して2で割った樽 』と揶揄される所以はそこにあります ――

 

 

また、フォーク博士は別の点を指摘します。

 

 

―― 例えばここ。

ヴェスペ(Wespe)-027型エンジンは、現在の技術でも容易に製造可能とするため、出力の割にわざと大型に仕上げている。

すなわち、今後これより出力大なる新型エンジンが完成した場合でも、工作精度の向上と相殺され最大直径はさほど大型化しないことが期待できる』。

…実に見事な予測です。さらにこうあります。

『よしんばエンジン直径が多少増大した場合でも、本機の胴体形状ならばカバー可能である。要はエンジン軸をさらに延長(3.7メートルまで伸ばした例がある)すればよろしい』。

…まさにその通りとなったことは歴史が証明しています。技術者でもない、帝国の皇女が、どうしてこれほど的確にエンジン開発動向を言い当てているのか。まったく見当もつきません ――

 

 

事実、最初のメッサーシュミットBc『101』では1,400馬力だったエンジンは、最終『503』(最高速度640km/h)では1,900馬力にまで強化されました。

しかし、工業力の向上、金属加工技術の飛躍的進歩と相殺する形でエンジン直径はほとんど変わっておらず、《 Blitz 》の胴体は最後まであの特徴的シルエットを保つことが出来たのです。

 

 

主翼に至っては、【201】後期型から機関銃を長砲身20㎜機銃に換装した時に多少の変更をしたのみで、それ以外は最初から最後までほぼ同一の形状となっています。

 

 

―― これも『急降下からの一撃離脱に耐えられるよう、速度800キロまで耐えられる主翼強度とすること』と言うノートに書かれた要求性能の賜物と言えるでしょう。…結局、その速度にはついに到達しませんでしたので、強化する必要が無かったのです ――

 

無駄に頑丈な主翼は、実は速度向上に一役買っていると言うのは源田氏です。

 

 

―― 実のところ、空気抵抗云々よりも本機の高速力を実現しているのは『翼面荷重の高さ』です。まあ、乱暴な纏め方をすると「機体重量の割に翼が小さい方が速度は出る」と言うことですな。

そして《 Blitz 》の場合、「無駄に凝った胴体」と「やたら頑丈な主翼」で重量が増加した結果、翼面荷重が高くなって速力が向上、そして「頑丈な主翼だから高翼面荷重にも耐えられる」と言う結果を生んでいます ――

 

…と、するとあの特徴的な胴体形状は?

 

 

 

 

―― ハッキリ申し上げて、『デザイン』以上の役割を果たしていません ――

 

 

 

近年の研究では『名機』ではなく『迷機』だった、との見方が主流となっている本機。

ですが、終戦のその日まで帝国の空を守り続けた『実績』の持ち主であることもまた事実なのです。

 

 

 

 

 

次回は、帝国空軍最強戦闘機の呼び声高い、あの伝説の戦闘機、『  Schwalbe(シュワルベ) 』に関する大発見について取り上げたいと思います。

 

 

 

それでは、また来週!

 

 

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