皇女戦記   作:ナレーさんの中の人

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議会対応、終わったー!!!!!


連合王国の憂鬱

統一歴1926年7月

連合王国首都ロンディニウム 首相官邸

 

「…状況は?」

「あまりよくありません」

 

チャーブルの問いかけに、ハーバーグラムは首を横に振った。

 

「今月に入ってから連邦は負け続き。今や国境から2百キロ近く押し込まれています。

…まぁ、それでも国土の1割に満たないそうですが」

「…知ってはいたが、バカげた広さだな」

「全くです。おかげで連邦はまだまだやる気十分なようで」

「ええ。大使館を通じて、更なる武器援助の要請があっております」

 

外務次官の答えに、チャーブルは鼻を鳴らした。

 

「フン、我が国の状況を知らんと見える。自国用の生産で手一杯なのだぞ」

「全くですな。…閣下、その要請は合州国に回すべきでしょう」

「君の言うとおりだな。スペンサー卿(外務次官)、その様に処理してくれたまえ」

「承知いたしました」

 

 

彼らが連邦の要請を丸投げしたのも無理からぬことであった。

 

 

このころ、連合王国の輸送船団と帝国海軍通商破壊部隊との戦いは激しさを増していた。

連合王国は戦艦や空母まで繰り出して船団護衛を行っており、さしもの帝国海軍も水上艦による通商破壊を困難とみて、潜水艦部隊の増強に舵を切りつつあった。

…とは言え、戦前でも毎月6,000隻もの商船が出入りしていた海洋国家の連合王国である。すべての輸送船団に戦艦や空母を張り付けることなど到底できず、ライプツィヒ級はまだまだ猛威を振るっていた。そして増強された潜水艦部隊による襲撃の結果、連合王国商船の被害は一時ほどではないとはいえ継続的に発生し、じわりじわりと連合王国の国力を削いでいた。

 

当初は合州国船籍の商船と一緒に運航するという「奇策」で帝国側の襲撃を回避していたが、その効果も低下していた。

巻き添えはごめんだと、かなりの数の合州国の運航会社が同一船団での運行を忌避し始めたからである。逆に「護衛される方が安全だ」と考える船会社もいるのだが。

 

かかる状況にあっては船団護送にあてる艦艇、護衛用駆逐艦や護衛空母の大量建造が最善なのだが、このとき連合王国にはジレンマが生じていた。

 

 

 

 

それは「ドックの数は有限である」ということ。

 

 

 

 

戦前、年間144万総トンという圧倒的造船量を誇っていた連合王国の建造ドックとて限界はある。

ここに「主力戦艦群の大改造」…は王立海軍工廠が一手に引き受けているからよしとして、「沈没した貨物船の補充」「損傷船舶の修繕」「主力艦以外の中小艦艇の建造」が一気にのしかかって来ていた。

 

これらの調整は簡単な事ではない。

海運が生命活動に等しい海洋国家である以上、「輸送船」の補充は不可欠。

腹が減っては何とやらである。ゆえに各地の民間造船所には船を失った海運会社、船主からの注文が殺到しており、数年先までドックの空きが無い状態。

このため、大量建造に特化した船舶を政府主導で量産するプランが進められているが、その実現には今しばらくの時間を必要とした。

 

厄介なのは「損傷船舶の修理」である。

なにせ突発的に発生するから予測が立たないうえ、損傷内容も全部異なる。ついでに言うと、自分たちの造船所で建造した船とは限らないため、元々の船体図面も無いことが多い。

そのため、とにかく空いているドックに入れて損傷個所を調査し、修理用図面を作図して資材と工員を手配し、その他準備を行ってから修理に取り掛かるという、極めて時間と労力のかかる作業となった。

 

のちに発生する、大損害を被った駆逐艦2隻を繋げてしまう(プッピガン)という発想(英国面)が生まれた背景もここにある。2隻修理するのも面倒だ、損傷部分で切断して繋げた方が早い!

 

 

 

 

そうして残った造船所の能力を「艦隊用」と「護衛用」の艦艇(駆逐艦や空母)が奪い合うという事態が発生する。

 

 

 

そもそも戦前の連合王国において、現下のような「通商破壊戦」は深く検討されていなかった。戦争とは軍人同士で行われるものであり、民間商船を大規模に巻き込む事態などあってはならない、ありえないという考え方が主流だったからである。

 

このことを物語る、こんなエピソードがある。

 

時に統一歴1920年のこと。

当時、連合王国海軍で重きをなしていたフィッシュ卿は、その英明なる頭脳から大胆な予測を行い、海軍大臣や幾人かの政府要人に対し警告を発した。

その中の一節に、こんなことが書かれている。

 

『――現下の世界情勢を鑑みるに、近い将来、わが連合王国と帝国とは戦争状態に陥る可能性が極めて高い。この場合、数的劣勢を免れえぬ帝国は今までにない奇策を講じる事であろう。

具体的には戦時国際法に規定してある、商船を内地港湾まで回航せねばならぬという条項を無視し、あるいは法解釈によって()()することを、帝国は躊躇しないであろう。

なぜなら、それがわが連合王国を屈服させる、もっとも強力な一手だからである』

 

これに対する当時のチュンバレン首相の回答は以下のとおり。

 

『卿の卓抜な覚書にしてこの説があるのは、一点の瑕瑾(かきん)*1である』

 

後年、チャーブルはこう回顧している。

 

「この点に関し、チュンバレン氏を批判するのは誤りである。

私自身この警告を目にした一人であるが、その時は皆と同様、『ありえない!』と一笑に付したのだから。

すなわち、『いやしくも文明国たるものが断じてこのような暴挙に出ることはない。この件はとうてい考えられぬ暴論であって、卿の卓越した見解も、この件に関して力説したがために、かえって価値を損じている』と…」

 

 

 

フィッシュ卿の警告が現実のものとなったのはその3年余りのちのこと。あるいは卿の警告を受けた時点で「護衛用艦艇」の設計に着手していれば…。

だが、それは「たられば」の話である。

ありえない事態に国家予算を投じるなど、容易なことではないのだから…。

 

 

 

 

しかし現実は非情である。

総力戦においては『ありえないことがありえない』ことを、連合王国は開戦早々思い知ることとなる。

 

亡き卿の予想は見事に当たり、帝国は通商破壊戦を開始した。

海軍の中には卿の警告を深刻にとらえ対応策を講じていたところもあったが、それも百隻単位で投入される帝国海軍Uボートの前に瓦解した。

 

「艦隊用駆逐艦」は設計時点では想定されていなかった船団護衛、潜水艦狩りに投じられ、不慣れな任務でその数を著しく減らした。特に戦艦や空母が護衛に組み込まれるまでの損耗率は悲惨なものがあり、高価な艦隊用駆逐艦の多くが海の藻屑となった…。

 

この事態に、連合王国は船団護衛を専門とする部署を新設。

更に船団護衛、潜水艦狩りに特化することで小型化、低価格化に成功した「護衛用駆逐艦」を量産することでこの難局を乗り切ろうと考える。

 

 

だが、ここで海軍首脳部、主力艦隊から待ったがかかる。

そのような()()駆逐艦を造るくらいなら、艦隊用駆逐艦を建造するべきである、と。

 

 

彼らの言い分はこうだ。

ドックはもとより、資源にも予算にも限りがある。

である以上、船団護衛にしか使えぬ護衛用駆逐艦の建造より、艦隊用駆逐艦の建造を優先すべきである。艦隊用駆逐艦ならば船団護衛にも使えるし、なにより現下の損耗状態では帝国海軍との艦隊戦に不安がある。その補填こそが喫緊の課題である。

 

かくして「護衛艦隊」と「主力艦隊」の間で、喧々諤々の大激論が勃発することとなる。

 

「ふざけるな!潜水艦狩りに艦隊用が不向きなのは貴官も知っているだろう!」

「それは古い型の話だ!現在の艦隊用駆逐艦なら、若干の設計変更で船団護衛にも使える!」

「艦隊用はコストもかかるし建造期間も長い!護衛用駆逐艦は今すぐにでも必要なくらいなのだ!」

「護衛、護衛と貴様は言っているがな?それにかまけて本土が帝国海軍の襲撃を受けたらどうしてくれるのだ!?」

「ハン、駆逐艦なしでは戦えない本国艦隊とは恐れ入る。ご自慢の戦艦部隊は張子の虎かね?」

「なにおぅ!?それを言ったら護衛用駆逐艦では帝国の『ライプツィヒ級』には対抗できまい?護衛用が聞いてあきれるな!」

「駆逐艦に巡洋艦の相手をさせる方が間違いなのだ!実際問題、アレの対処に戦艦を投じているほどなのだぞ!?」

「ああそうとも!おかげでこっちは船団護衛に戦艦を引き抜かれて開店休業状態! 護衛艦隊の始末をこっちが見てやってるようなものだな!」

「言ったな貴様!表に出ろ」

「上等だこの野郎!!」

「やめんか二人とも!」

 

困ったことに、両者の意見とも一理あるのだから手に負えない。

つまるところ、限りあるリソースをどう配分するかがネックなのである。

 

戦艦も空母も巡洋艦も駆逐艦も戦車も航空機も、その他ありとあらゆる兵器を湯水のように作り、自国用どころか同盟国にも万単位で送り込むどこかの国がおかしいのである。

 

結局、護衛駆逐艦についてはその手の艦艇の量産経験豊富―― 広大な沿岸警備のために、「コーストガード」という準軍事組織があった ――な合州国に発注することとなった。

レンドリース協定があるとは言え明らかな中立違反であり、回航する分納期も延びてしまったが、背に腹は代えられなかった。

ちなみに中立義務違反を回避するため、表向きは「民間用警備ボート」となっている。…それにしては大きすぎるのだが、ボートと言ったらボートなのである。

武装についても「民間企業が購入して連合王国に回航した後、その性能に目を付けた連合王国海軍が買い上げ、勝手に武装を後付けした」ことになっている。…まぁ、連合王国への回航段階で戦闘に参加しているものが多数いる時点でお察しだが。

 

だが、それでも連合王国のドックは飽和状態。

この状態は当分改善できそうもない―― 連合王国に限った話ではないが、造船所周辺は工業地帯化、市街化が進んでおり、新工場を別のところに造成(大神海軍工廠よろしく)しない限りドック数を大幅に増やすことが出来ない ――と見込まれており、チャーブルたちを悩ませていた。

 

 

「…まぁ良い。そっちのことは合州国に頼むしかあるまい…。空軍の方はどうかね?低地工業地域の爆撃の状況は?」

「…その事なのですが、閣下」

「なんだね?」

「損耗が激しく、現在出撃を見合わせている状況であります」

 

「なんだと!?」

 

チャーブルは思わず机を叩きつけてしまった。

 

「君は自分の言っていることが分かっているのかね?現状、我が国が帝国へ行っている攻撃らしい攻撃はあれだけなのだぞ?

それを取りやめるとは、いったいどういう了見かね!?」

 

開戦以来、勝利らしい勝利が無い連合王国にとって、帝国西部・低地工業地帯への絨毯爆撃は悲願であった。

確かにドードーバード航空戦は連合王国の勝利と言えるが、あくまでも「防衛戦線」であり、ルーシー連邦への援護という観点からも必須不可欠なものだった。

あるいは連合王国海軍が帝国海軍との艦隊決戦に勝利でもすれば話は別なのだろうが、先年の『ブレスト襲撃』以来、どちらの戦艦群もドックに引きこもってしまっていた。先の論争で護衛艦隊側が強気だったのにはそういう背景もある。

 

「無論、分かっております。ですがこちらの資料をご覧ください」

「…ふむ。この数字は…爆撃機の()()()かね?」

 

「残念ながら、()()()であります」

 

「…馬鹿な!?」

 

 

『第12次帝国本土空襲作戦概要報告』

そう記された報告書に記されていたのは、チャーブルにとって信じがたい数字だった。

 

曰く。

200機近くを投入して、目標エリア上空に到達できたもの、40機。

600発以上用意した爆弾の内、目標へ投弾できたものは50発程度。

目標工場に命中確実なもの、数発程度。

 

帰還した爆撃機の数、126機。

うち再出撃可能なもの、83機程度。

 

 

部隊損耗率、実に50%以上。

 

 

 

「はっきり申し上げて、壊滅状態です。帝国空軍の完全な待ち伏せに遭い、殆どの機が目標まで辿り着けませんでした」

「…攻撃計画が漏れていたとしか思えんな」

「…ハッ。その可能性を含め、情報部と協力して原因究明にあたっているところでありますが…」

「原因究明と対策が完了するまで、戦略爆撃は実施不可能と考えます」

「うぅむ…」

 

チャーブルは呻いた。

彼らは知る由もないが、ここでも帝国が10年来取り組んできた『規格』が猛威を振るっていた。

 

メッサーシュミットBc101(Blitz)

 

帝国が昨年実戦配備を開始した、防空用戦闘機である。

同機のエンジンが爆撃機用の大直径エンジン、「ヴェスペ(Wespe)-027型」であることは過去に述べた。

同エンジンの初号機は戦前に製造され、1925年ごろには分業、流れ作業による量産体制が整っていた。

例えば工作難易度の高い冷却フィンやシリンダーは老舗のエンジンメーカーに、そうでもない配管やネジといった部品の類は下請け企業に、といった塩梅である。

マスプロが未発達な国であったならば、この段階で製造に遅延が生じていただろう。すなわち最終組み立ての段階で「形が合わない!」といった事態が発生していたに違いない。

 

だが、1917年ころには『規格』の概念を取り入れた帝国において、その心配はほぼ無用だった。それこそ「アルケット社でB工程まで進んだエンジンを、隣州のユンカース社に引き継ぐ」ことさえ、その気になれば可能だった。

あるいは戦前から、()()()()()()()()()()()()()()()が、ボイラー部分や足回りと言ったパーツごとの分業を推し進めた経験―― プレートの類に至っては家具メーカーに発注していた ――が生かされたのかもしれない。

さらに「ヴェスペ(Wespe)-027型」が爆撃機用の大直径エンジン、言い換えれば過度な小型軽量化に走っていない、堅実なエンジンだったことも幸いした。如何に帝国が規格化において列強の先端を走っていたとはいえ、()()()()()()()()()()()であったならば、あるいは分業による量産は不可能だったかもしれない。

 

 

 

また、これは原案作成者(皇女殿下)にも予想外の事だったが、ブリッツの特徴的なずんぐりむっくりボディーも量産に一役買っていた。

当時の工員が戦後語ったところによれば――

 

『――ご存じの通り、ブリッツは胴体が太いでしょう?

あれは我々工員からも好評でした。なぜなら胴体組み立て後の作業…例えば操縦装置のワイヤーの取り付けですね、これがとても楽だったんですよ。

それ以前の戦闘機だと、細い胴体に無理やり工員が入って、どうにかこうにか組み付けていたものです。ブリッツも尾翼辺りまで行くとそうなのですが、胴体の殆どの部分は大人が楽々入って作業していました。広い分、工具の置き場所にも苦労しませんでしたし。

私自身はコックピット周辺の組み立て担当でしたが、こちらも同様でした。ブリッツは操縦席も広いですから、内装仕上げがとてもやりやすかったのを覚えています』

 

かくしてメッサーシュミットBc101(Blitz)は、1926年夏には当時としては驚異の月産200機体制を確立。その後は工場生産能力の向上を他機種に割り振られたため最大でも月産300機程度だったが、それでも驚くべき数字と言えた。

さらにこの時期になると、ダキアにあるクロエシュティ油田―― 年間生産量約4,000万バレル ――からの原油供給が軌道に乗っていたから、帝国空軍はガソリンの心配なく十二分な訓練を行うことが出来た。

 

 

 

…そんな狼の群れに突っ込んでしまった時点で、連合王国爆撃隊の大損害は当然の結果だったといえよう。

 

 

 

実を言うと、連合王国は空襲だけで帝国を屈服させられるなどハナから思っていない。

 

 

 

いずれ共和国ないし帝国の大西洋沿岸から上陸作戦を行い、帝国本土へ侵攻する必要があると彼らは考えていた。あるいはその過程で、上陸を阻止せんと動くであろう帝国海軍との「艦隊決戦」が惹起するやもしれぬ、と。

そうでない限り帝国は屈服しないだろうし、そうなれば外交交渉による『講和』が関の山となるだろう。連合王国が望む『欧州に覇権国家の誕生を許さない』結果には程遠い結末となり、なんのためにこの戦争を始めたのかわからない事態になりかねない。

 

 

 

…では、何のための帝国本土空襲作戦なのか?

 

 

 

「究極的には『政治』の要請だよ」

 

チャーブルは嗤う。

 

政治とは結果が全てである。

…だが、悲しいかな。民主主義国家は「国民の支持」を必要とする。

ここでは「最終的に勝てばよい」とはならず、「現時点で勝っている」必要が生じる。さもなくば国民の間に厭戦気分が広がり、軍事的優位とは無関係に政権運営が困難となってしまうであろう。

 

である以上、帝国本土への爆撃は継続されねばならぬ。

同盟関係(呉越同舟)にあるルーシー連邦への援護―― をしているという政治的メッセージ(アリバイ工作) ――と言う点からも。

だが、馬鹿正直に爆撃をしても損害が増える一方なのは明々白々。

 

ならば、どうするか?

 

この難題に対するチャーブルの回答は明白だった。

 

 

「極端な話、帝国本土に落とせればよいのだよ」

 

 

「外れても構わぬ、と?」

「逆に聞くが、命中させようとして一体どれほどの損耗が出ているのかな?」

「それは…」

「無論、外してもよいとは言わんよ」

「…仰っている言葉の意味が分かりませんが…?」

 

まるで言うことが矛盾しているチャーブルの言葉に首を傾げる空軍次官に、百戦錬磨の宰相はにやりと笑う。

 

 

 

 

()()()()だよ、と。

 

 

 

 

「こちらの損害を抑えるという観点から考えて、昼間より夜間の攻撃の方が適している。そうは思わんかね?」

「ハッ。…しかしその場合、命中精度が……。っ、そういうことですか!!」

「分かってくれたようだね」

 

 

そう、夜間爆撃は被害も抑えられる代わりに、命中精度も悪い。

この点はのちにレーダー照準技術が確立されるまで、各国空軍を悩ませ続けたのだが、この場合はそれを利用する。

 

 

 

 

『夜間だから、目標を見誤っても仕方ない』

 

『投入機数と数が控えめなのも、夜間作戦ゆえに精鋭を必要とするからである。

…飛んで帰る程度の練度しかない連中にやらせている?そんなもの、悪質なデマでしょう』

 

現在位置を誤認して全く別のところ(帝国空軍戦闘機のいないド田舎)()()()()爆弾を落としても仕方がないことなのです』

 

『戦果確認にしても、夜間だから誤認するのはむしろ当然(台湾沖航空戦)

 

『国民を騙すわけじゃない。あくまでも()()の範疇だ』

 

 

 

 

「…なるほど、それならば実施可能でありましょう。ただちに計画策定に入ります」

 

 

 

 

 

のちに世紀の戦果誤認と評される『帝国本土夜襲作戦』の始まりであった

 

 

 

 

 

『帝国本土夜襲作戦』

出典:フリー百科事典『アカシック・ペ〇ィア』

 

『帝国本土夜襲作戦』は統一歴1926年7月から1928年6月までの間、アルビオン連合王国が行った神聖ライヒ帝国空襲作戦の総称である。

なお、実際には爆撃計画ごとに個別の作戦名が付されており、『帝国本土夜襲作戦』は当時のニュース映像及び戦後に一連の作戦を総称するものとして一般化したものである。

その名称は一連の空襲の殆どが夜間に実施されたことによる。

 

【経過】

〇開戦直後(1926年3月~6月)

連合王国による帝国本土への本格的な空襲作戦は、1926年3月に開始された。

一説にはこれ以前から帝国空軍による連合王国空襲作戦、いわゆる『ドードーバード航空戦』への報復作戦として企画されていたものの、必要な爆撃機数が揃わなかったため、この時期にずれ込んだと言われている(散発的な航空攻撃はこれ以前に実施されている)。

この航空攻撃は、同月に対帝国戦に参戦したルーシー連邦への援護射撃と言う側面を有していたともされる。

 

しかしながら、一連の攻撃は回を追うごとに損耗の激しい、その割に戦果の伴わないものとなっていった。

その背景には度重なる航空攻撃が、却って帝国空軍を防空戦闘のプロとしてしまったことがある。

沿岸警戒態勢の高度化、防空管制官制度の創設、防空専門部隊の創設がこれであり、防空戦闘機メッサーシュミットBc101(Blitz)の大量配備と相まって、帝国本土への昼間航空攻撃を「自殺行為(当時、連合王国空軍第1戦略爆撃集団を務めたネルソン司令の言)」としてしまった。

このため、6月半ばに帝国本土への航空攻撃は中止され、夜間爆撃への転換がはかられた。

 

もっとも、同様の事態は『ドードーバード航空戦』中盤以降の帝国空軍でも発生しており、戦前各国で叫ばれていた「戦闘機無用論(高速爆撃機ならば、護衛戦闘機は不要である)」の無理、限界を露呈したとも言える。

これ以降、帝国空軍は一機当たりのコストと損失時のリスクが高い4発以上の爆撃機生産を取りやめ、戦闘機との共同運用を前提とする双発急降下爆撃機生産に注力していくこととなった。

 

 

〇夜間爆撃の開始(1926年8月以降)

昼間航空攻撃の甚大な損害を受け、連合王国は命中率低下に目を瞑り、帝国空軍の活動が低下する夜間爆撃へと切り替えることとした。

具体的な計画立案、夜間飛行装備の取り付けは7月ころに本格化し、1926年8月7日、最初の帝国本土夜間爆撃作戦が決行された。

当時、連合王国は戦果を華々しく報じたが、実のところ、目標地点への到達すら殆ど出来ていなかったことが戦後明らかとなっている。

これは、それ以前にこれほど大規模な夜間航空作戦の例がなく、航法装置、搭乗員のいずれも不十分だったことが背景にある。

更に戦果確認も爆撃を行った部隊員の申告に基づく過剰なものであり、実際のところ帝国には何らの痛痒も与えていなかったというのが定説である。

 

 

【評価】

本攻撃に対する評価には肯定的意見と否定的意見に大別されるが、相対的には否定的意見が多い。

 

〇肯定的意見

本攻撃を肯定的に評価する意見としては以下のようなものがある。

・連合王国国民の戦意向上に寄与した

・帝国空軍に夜間攻撃への対応を強いた

・灯火管制が必要となった結果、工場の夜間操業が著しく困難となった

・目標到達率が低かったことが逆に慢心を誘い、何回かは工場への投弾に成功している

 

〇否定的意見

一方で、否定的意見も根強い。

・連合王国で報じられた戦果の殆どが誤認であった

・与えた損害が微々たるものであり、かつ数日後には復旧可能なレベルだった

・帝国空軍に夜間戦闘のノウハウを与えてしまった。

・「夜間戦闘機」の実用化の手助けとなってしまった

・帝国軍がレーダー開発に邁進する一因となった。

 

特に最後の一点は連合王国最大の失策と評されることもある。

当時、連合王国、帝国ともレーダーの試作に成功していたが、夜間攻撃への対応の必要から帝国側のレーダー開発が加速されたという側面は否定できない。

パラボナアンテナやマグネトロンと言った各種電子技術の開発成功は、後の『大反攻』において連合王国や合州国を苦しめることとなった。

 

 

 

*1
キズのこと。特に、全体としてすぐれている中にあって惜しむべき小さな傷。また、短所。欠点。用例:「わずかな―もない」




参考文献
鳥巣建之助2006『回想の潜水艦戦~Uボートから回天特攻まで~』

◇フィッシュ卿の予測
実際、フィッシャー提督が1913年にこのような予想をし、チャーチルが「そんなことはありえない、…と貴方に返したのは誤りであった」と述べています。

すげえなフィッシャー提督。なおハッシュ・ハッシュ・クルーザーを推進する模様(なんでそうなるんでしょうねえ…


◇大神工廠
大和型や超大和型の建造、補修等をにらみ、帝国海軍が大分に予定していた一大工廠。
計画では呉・横須賀にも匹敵する一大造船施設とする予定だったそうな。
戦史叢書「海軍軍戦備2」によれば
〇船台2(空母用1、潜水艦2隻同時建造用1)、
〇ドック3(戦艦用1、重巡用1、潜水艦2隻同時建造用1)
〇それらに供給するタービンやディーセルの製造能力
〇同じく中小口径砲製造能力(さすがに戦艦用のは予定していなかったらしい)
〇航海用装備(羅針儀や測距儀、望遠鏡)製造能力
を計画していたらしい。



■■
近況

妙に低い評価を付けまくる人に、上から目線の命令口調で評価コメントを付けられて久しぶりにカチンと来ましたが、ヤマモトレイは元気です。たぶん。

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