皇女戦記   作:ナレーさんの中の人

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劇場版DVDをお持ちの方は、最後のシーンを見直していただけるとよりわかりやすいかと(ダイマ


内示

統一歴1926年9月20日

帝都近郊 参謀本部付属戦技研究室

 

 

どうしてこうなった!

 

 

ターニャ・フォン・デグレチャフ大佐は凍り付いた。

何故か?

その理由は、彼女がその手に持つ受話器にある。

 

 

 

 

『おめでとう。戦闘団を新編させてやる』

 

 

 

 

電話越しに聞こえてきた親愛なる上官、ハンス・フォン・ゼートゥーアの声に、ターニャの動きが固まった。

 

おめでとう?

 

戦闘団を新編させてやる?

 

誰に?

 

そう言えば、こうも閣下は仰っていたな。

 

『最前線にて、()()()()()()試行してもらう』。

 

…つまり。そういうことか!

 

『ああ、安心したまえ。基幹部隊は第203航空魔導大隊を宛がう。取り上げたりはせんよ。

なにより――』

 

ここでたっぷりと間をおいて上司は宣った。

 

 

 

 

()()()()()で基幹戦力として申し分ない。――そうは思わんかね、大佐?』

 

 

 

謀られた!

 

 

ターニャは絶望した。

おかしいとは思っていたのだ、最初渋い顔をされた補充。それが満額回答、しかも精鋭部隊という時点で気づくべきだったのだ。

上官殿の頭の中では最初からこうするつもりだったに違いない!!

 

 

『さらには装甲擲弾兵大隊、機甲中隊、自走砲中隊もくれてやろう。

喜べ大佐、全て親衛第2師団からの転属。練度と装備は申し分ないぞ』

 

「は、ハハ…この世の春でありますね」

 

 

冗談じゃない!

声には出さず、心の中で幼女は叫ぶ。

自分が望んでいるのは後方での分析研究だと散々言ったはずなのに!

ツェツィーリエにだってそこは伝わっていると認識していたからこそ、彼女は自分の後方勤務を疑っていなかったのだ。

 

そして顔面蒼白になりつつあるターニャのことを知る由もなく、ゼートゥーアは爆弾を投下する。

 

 

 

 

『あぁ、予め伝えておくと親衛師団といっても妙なエリート意識の塊ではないし、なにより殿()()()既に説得済みだ。貴官はよほど殿下に気に入られていると見える。羨ましい限りだな』

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

同日夜

帝都ベルン郊外 離宮 皇太女執務室

 

 

「…どういうつもりだ」

「来て早々ご挨拶だね。ま、コーヒーでも飲んで落ち着き給えよ」

「誰のせいだと思っている!」

 

人払いがされているのをいいことに、ターニャはツェツィーリエに詰め寄った。

どころか、胸ぐらをつかんで詰る。約束が違うぞ、と。

 

「…質問に質問で返すようで悪いがターニャ。単刀直入に聞こう。

 

 

 

――この戦争、勝てると思うか?」

 

 

 

…ずいぶん前にも同じようなことを聞かれたな。

そのときの相手はゼートゥーア閣下だったが、今回はツェツィーリエである。ゆえに、幼女は躊躇うことなく即答した。

 

 

「無理だな」

 

 

この二人だけが知っていることがある。

 

それは「二度の世界大戦とも、ドイツは無残に敗れた」事実。

特に二度目のそれは悲惨であった。

都市という都市は焼かれ、蹂躙され、そして国そのものが真っ二つに引き裂かれた。40年以上続いたそれは、21世紀に入っても尾を引いている。

 

 

 

「――現下の情勢は西暦世界の独ソ戦に酷似している。ぞっとする話だと思わないか」

「同感だな。…最悪、西に逃げ込むだけの話だが」

「実に賢い選択だな。…私には絶対許されない行為だが」

「第一次大戦時のドイツ皇帝はさっさとオランダに逃げたと記憶しているが?」

「年老いた皇帝ならいざ知らず、亡国の姫だぞ?どういう()()をされたものか分かったもんじゃない。…自分で言っていて悪寒が走るな」

 

 

だからこそ、彼女は帝国皇太女の地位を利用して各国とのパイプを造り、同時に万一への備えとして帝国の軍事力の強化を図ったのだ。

武器開発については「完成形」を提示することで大幅な時間短縮、時代の先取りを。

兵站、特に鉄道については強力な蒸気機関車の開発を後押しし、さらに「莫大な費用が掛かる」と渋る鉄道省、国鉄の反対を押し切って自動連結器への切り替えを。

電撃戦に代表される各種ドクトリンへの介入、協力もその一環である

 

しかし、である。

 

「これだけやっても不十分だ。理由は単純明白だろう?」

「…連邦があまりに広すぎて帝国の国力と兵数で消化しきれない」

「左様。…そして、いずれ息切れをおこして押しつぶされるだろうな」

 

彼女たちは知っている。

電撃戦はフランスを下すことは出来たが、広大なロシアの大地で息切れしたことを。

西暦1941年の冬、ドイツ国防軍はモスクワ西方まで到達したが、そこで兵站限界に到達し、さらに冬将軍の猛攻を受けて撤退を余儀なくされた。

以降、ドイツ第三帝国が必勝の方策として編み出した電撃戦はその切れ味を失い、無限に続く消耗戦へと突入することになった。

 

「理由はもう一つある。君も先日ゼートゥーア達に言っていたことだが――」

「…合州国か」

 

 

 

 

ターニャは先だって両次長と会談した際、こう述べている。

 

―― 合州国が介入しない世界大戦など、ありえないのです ――

 

 

 

 

「然り。彼らはいずれ介入するだろう。現時点ですでに相当額のレンドリースを行っているからな」

「まるきり第二次大戦時と同じという訳か…」

「よって勝つのはハナから諦めた方が良いだろう。何せ敵が多すぎる。

特に合州国本土を叩く攻撃手段がない以上、()()()()なりに次善の策を考えるべきだ」

 

「…和平か」

 

 

和平、言い換えれば手打ち。

 

 

彼女たちは知っている。

勝ちきれない以上、帝国はいずれ息切れして負ける。

それを避けるためにはどこかで和平を結ぶしかない。

――だが、である。

 

 

 

「こいつは単純な勝ち負けが付く戦争以上にハードルが高い」

 

 

 

和平交渉、停戦交渉というのはとかく難しい。

 

勝ち負けが付いた勝負ならば「勝者が歴史を紡ぐ」の言葉どおり、勝った側の言うことが100%実現し、負けた側は徹底的に貶められて終わるのだが、和平の場合それがない。

帝国が協商連合、共和国と結んだ和平条約は、実態が「勝利した帝国と負けた側の取り決め」だったからこそすんなり決まったのだ。

当事者のいずれもが負けていない状況での和平交渉の難しさは、歴史が縷々証明している。良い例がポーツマス条約だろう。

 

さらに、そもそもの話。

外交交渉で解決しない、しなかったからこそ武力に訴えたのに、その始末を外交交渉でつけようという時点で矛盾というか相当な無理があるのである。

 

 

 

しかも、これらは「和平交渉のテーブルに着いてから」の話である。

 

 

 

そもそもそのテーブルに着くまでが困難を極めるのだ。

何しろにっくき交戦国同士である。お互い疑心暗鬼になっているし、下手に交渉をして自国の国民や政府から「利敵行為」と言われてしまったら政治生命がそこで終わる。

いや、政治生命で済めばまだ良い方だろう。西暦世界の日本の場合、軍縮条約を締結した総理大臣は東京駅で撃たれている。それが国家財政を破綻から救い、同時に他国にも制約を課す一石二鳥の妙手であったにもかかわらず!

 

しかも帝国の場合「拡大派」がいる。

もし、今の時点で和平交渉が開始できるとしても、「拡大派」がそれを許さないだろう。彼らからしてみれば、まだまだやれると突き進んでいる段階ではしごを外されるようなものなのだから。

 

まあ、拡大派については連邦兵()頑張ってもらうとして、それ以外の連中、すなわち帝国と連合王国、連邦を和平交渉のテーブルに着かせるにはどうすれば良いのか?

 

 

 

「まぁ、実にシンプルな解答なんだけどね」

「それは?」

「参戦国全てが『もうこれ以上戦争は出来ません、堪忍してつかぁさい』となれば良いのさ」

 

 

 

戦争というのは結局のところ、国家間の根競べのようなところがある。

その莫大な出費、出血に最後まで耐えたものが勝者となり、耐えきれなかったものが敗者となる、これが近代の戦争である。

 

…まぁ、約一か国、余裕とまでは行かずとも、繁華街のネオンの明かりを絶やさず独り勝ちした怪物国家(米帝)があるが、あれは世界史上のチート・オブ・チートなので参考にしてはいけない。誰だあんな国造ったの!?

 

「帝国は今の時点で借金まみれ。今日戦争が終わったとしても、当分の間は超緊縮財政と増税による大不況だろうな。さらにこのままいくと、いずれ国家そのものが崩壊へと突き進むだろう。二度の大戦がそれを証明している」

 

ツェツィーリエの発言は、第一次大戦のロシアとドイツ、第二次大戦の日本、ドイツ、イタリアが証明している。

いずれも戦争の負荷が原因で政権が崩壊、もしくは国家体制の大変革を余儀なくされた国々であり、特に冒頭二か国は国内で革命が発生している。

 

 

だが、世界大戦を未経験のこの世界において、その危機を認識している人間は…。

 

 

少なくとも帝国においては目の前にいる皇女くらいのものだろう。

ゆえに帝国も、他の国も「戦争をやめる」と言う選択肢が浮かばない。いや、考えることを拒否しているのである。

…知らぬが仏とはよくいったものだ、とターニャは嘆息した。

 

 

「ゆえに私自身としては現時点でも停戦交渉を始めていいくらいだと思っているよ。

…まぁ、ほかの連中は首を縦に振らんだろうがね。コンコルドと同じだよ。

最悪、反対する連中は連邦に始末してもらうなり、大逆罪をでっちあげるなりするしかあるまい

「…相変わらず腹黒い奴め」

「誉め言葉と受け取っておくよ。…さて、帝国は置いておくとして問題はほかの参戦国だ。一人で和平交渉は始まるまい?」

「道理だな。どうやって連合王国と連邦を和平のテーブルに着かせるか…」

「合州国も忘れるなよ」

「考えたくもない話だな、それは」

 

 

ターニャは考える。

戦争という狂気に呑まれた国家に、「和平」という選択肢を認めさせるのは至難の業。正真正銘「戦争継続は不可能」となるだけの衝撃、ダメージが必要になるだろう。

ダメージと言えば侵攻、占領が確実だが連邦は広く、キリがない。しかも帝国は占領統治をする能力もノウハウも持ち合わせていないから、占領地の拡大は、少なくとも現時点では帝国の負担を増すだけの利敵行為に等しい。

 

――である以上、方法はただ一つ。

 

 

 

 

 

国家の存続が危惧されるレベルの戦死者(流血)

 

 

 

 

 

「君の言うとおり徹底的な敵への出血強要。これしかあるまい。ライン戦線と同じだな」

 

実際、共和国戦後の調査により、一連の西方防衛線で共和国軍の予備兵力がほぼ枯渇したからこそ、帝国軍の大規模攻勢「春の目覚め」が成功したことが明らかとなっている。

仮にそれがなかったならば、パリースィイ直前で兵站限界に達した帝国軍は、共和国軍の反撃で相当規模の損失を被っていた危険があった、と。

 

 

「さらに言えば、連合王国も合州国も民主主義国家だ。で、ある以上、一度に百万人の戦死者が出るような事態になれば――」

「――国民世論が停戦を叫ぶ、と。なるほどな

…しかし、連邦はどうする?あそこは一党独裁とかいう訳のわからん独裁国家だぞ?」

「確かにそうだが、ほかの参戦国が停戦で合意すれば、連邦一人でやり続けるとは言えるまい?…と、言うよりほかに方法が思い浮かばん。息子が捕虜になっても見捨てた独裁者だからな」

「そんな話もあったな…」

 

 

 

 

 

だが、現下の情勢は共和国戦の時と根本的に異なる点がある。それは――

 

 

「問題は、今度はこちらが攻める側。しかも寡兵という点にある」

「防衛陣地による濃密な火線形成は不可能というわけか…」

「然り。逆に市街地に籠る連邦兵に、こちらがやられる危険がある。…と、いうより既にそのような報告が幾つか上がっている」

 

ツェツィーリエの言うとおり、この時期になると連邦軍の後退戦術が機能し始めていた。

都市の建物は意外に頑丈で、さらに連邦兵は瓦礫の山を簡易の機銃陣地とし、焼け落ちたビルの骨組みを狙撃兵の配置場所としたから、帝国軍の死傷者は跳ね上がる一方だった。

 

「現状は15センチ榴弾砲の直射で対処しているようだ(ビルごと吹き飛ばしている)が、牽引砲にせよ自走砲にせよ防御に乏しいからじわじわと損害が出ている」

 

要するに、現状は危険極まりないということだ。

 

連邦に出血を強いるどころか、帝国が市街戦で大量出血を強いられている。

このままでは、いずれこちらが出血死するだろう。

 

 

 

 

 

――ゆえに

 

 

 

「要塞に籠っての防衛戦が不可能である以上、()()()()()()()()()()()()()()()()が必要。自分も参謀本部もそう考えていたのだ。

電撃戦、機甲師団でも同じことが出来るが、こいつは編成、補給、移動の面で言えば重量級。それよりも軽量級で、かつ使い勝手と打撃力に優れた部隊は作れないものか。

そう思案していたところに君の【今次大戦における部隊運用と作戦機動】だよ」

 

 

―― 今次大戦における部隊運用と作戦機動 ――

 

 

それは、ターニャが東部戦線から帰還後、西暦世界ドイツ国防軍のカンプグルッペをもとに書き上げた、この世界においては極めて先進的な論文である。かの第二次大戦で示された統合運用の事例は、兵力をいかに的確に運用するかという教訓に富んでいる。

…が、この手の新しい理論は通常、突飛な理論ゆえに理解されなかったり、実際に使ってみると修正が必要な代物だったりするのだが、ターニャの場合は当てはまらない。

なにせ西暦世界で確立済みの理論だから、修正はほとんど必要ないレベル。

しかも提出先の上官があのゼートゥーア閣下であり、稟議が回るのは帝国陸軍が誇る叡智の殿堂、参謀本部。その灰色の脳細胞の理解力の高さは他の追随を許さない。

 

―― これだ、これこそが我々の求めていたものだ! ――

 

ゆえにターニャの論文は彼らにとっての天啓となった。

だからこそ、面子にこだわることも多い彼らが若輩者というべきターニャ・フォン・デグレチャフ大佐の提言を全面的に取り入れたのである。

そして理論の正しさを認めたからこそ、提唱者であるターニャにその実践を求めるのだ。

 

 

 

「つまり、提出した時点で今回の人事はほぼ確定していたのだよ。私に詰め寄られてもどうしようもないと言う奴さ」

「そ、そんな……」

 

思わずターニャは膝をついた。

ああ、夢にまで見た後方勤務が手のひらから零れ落ちていく…。しかも原因は自分で書いた論文!なんという皮肉!

デスクワーク向きであることを証明するつもりで書き上げた力作だったのだが、考えてみれば前例がない以上「じゃあ実践もよろしくね」となるのも道理だったのだ。

最早乾いた笑いしか出てこないターニャに、ツェツィーリエが一枚のメモ帳を差し出す。

 

「?これは?」

「当初サラマンダー戦闘団に宛がわれる予定だった部隊一覧だ」

 

そう言って渡された紙には、「新編歩兵大隊(ただし後備兵*1)」「補充砲兵中隊(ただし装備転換未了)」などといった文言がふんだんに記されていた。

 

 

「…帝国にまだこれだけの部隊を新設する余力があったとは驚きだな」

「現実から目をそらすのはやめようかターニャ」

 

そう、いつだって現実は非常である。

すなわち――

 

「…これで戦争に行けと言われるところだったのか、私は!?」

 

 

◇◇◇

 

 

同時刻

陸軍参謀本部 ハンス・フォン・ゼートゥーア

 

 

「…終わったか」

「ああ。各方面との調()()は完了した。これで『サラマンダー』の編成には何らの支障もない。…ないのだが……」

「それ以上は言ってくれるなゼートゥーア。むしろ貴様には急な調整で骨を取らせた」

「…貴様が神妙に礼を言うとは…。明日は槍でも降ってくるんじゃないか?」

「ハン!言ったな?」

 

ルーデルドルフは苦笑したが、実際、彼は旧友に心にもないことを言ったつもりはない。

なにしろ彼が頼んだのは、旧親衛第2師団所属各部隊の再配属()()だった各部隊への『取り消し連絡』。

 

 

 

 

 

事の発端は数日前、戦闘団結成の件をツェツィーリエに報告したことに遡る。

 

 

そもそも陸軍部隊の編制、配備は参謀本部の専権事項であり、彼女への事前報告は必要ではない。だが、今回の件については2つの理由から予めツェツィーリエの内諾を得ておいた方が良いとゼートゥーアが判断した。

 

一つ目の理由。

それはツェツィーリエ自身が共和国戦のころから『タスクフォース』の必要性を唱えていたこと。当時この提案は「航空魔導大隊」に結実したが、今回組織する「戦闘団」もいわばタスクフォースであり、むしろ航空打撃力以外に乏しい戦闘団に地上戦力を付与したものといった性格が強い。

 

二つ目の理由は戦闘団長に内定しているターニャ・フォン・デグレチャフ大佐。

皇女が彼女と極めて親密な間柄にあることはもはや陸軍上層部では周知の事実であり、そんな人物を指名する以上、ツェツィーリエの内諾が不可欠だと考えられた。

…実のところ、そういう人物になってしまったからこそどの部隊もデグレチャフ大佐の着任を嫌がり―― 万一のことがあったら大変だ! ――、その人事が2か月近く宙に浮いていたという側面がある。知らぬは本人ばかりと言う奴だが。

 

そういう訳で報告を受けたツェツィーリエは、戦闘団の組織と戦闘団長人事については、二つ返事で了解した。

 

――が。

 

 

「…これは何の冗談だね?」

「いえ、冗談ではないのですが…」

「ほう、この部隊一覧が冗談ではないと?…では質問を変えねばなるまい」

 

――卿ら、正気かね?

 

ハンス・フォン・ゼートゥーアは見た。

目の前の少女の瞳が、炎のように紅く揺らめいているのを。

 

前にも言ったよねえ?タスクフォースとは言わば名刀。でもこれはなんだい?え?

なまくらどころかシャベル、いや金づちじゃないか?

 

彼女の問いかけに、両名とも反論できなかった。

事実、部隊のあてが無いという事情、そして『今次大戦における部隊運用と作戦機動』で述べられていた「臨時的な編成」の実証という観点から、新編する戦闘団への配属が内定しているのはどれも新兵ばかりだったり、装備更新が間に合ってなかったり、そもそも装備がいきわたっていないような部隊ばかり。

いや、むしろ最前線で臨時的に編成する事態を考慮し、そう言った部隊で固めたところすらあった。

 

その点を説明して理解を求めたが、皇女の炎は収まらなかった。

曰く、『それならターニャ以外でもできる』。

 

ターニャはまさに戦争の名人だ。帝国が誇る希代の前線指揮官の一人と言っていいだろう。そんな彼女に子供の御守りをさせようというものだよ、これは

「し、しかし理論構築者である彼女で無ければ前線での臨時的編成というのは――」

できないと?そんな一般化できない代物なら彼女は提案していないよ

 

実際、西暦世界のカンプグルッペはドイツ国防軍ではかなり一般的な存在だった。大抵の場合、一個師団につき2から3個の戦闘団があったという。

ゆえに、皇女は告げるのだ。

 

もう一度言うよ。タスクフォースは言わば名刀。使いこなせる人材は限られるが、適切な人物が指揮すればこれほど心強いものは無いだろう、と。

 

――私が本気で怒る(ここが更地になる)前に、このふざけた編成を見直してくれると助かるな?

 

「「た、ただちに!」」

 

 

 

 

かくて編成は一からやり直しとなる。ゼートゥーアや人事局は「ほかに戦闘団に組み込める部隊がない」と頭を抱えたが――

 

 

「冗談を言うんじゃないよ。第2親衛師団があるじゃないか」

「な!?」

 

 

第2親衛師団。

それは、家柄やら宮廷事情に「忖度」した第1師団と異なり、実戦投入可能な近衛兵として創設された部隊であり、事実各地の戦線に分派され、赫々たる戦果を挙げた帝国を見渡しても有数の精鋭部隊である。

しかし、その設立経緯もあって第1師団との反りが極めて、いや絶望的に悪く、その横槍もあって定数を充足したことがほとんどない有様―― 帝都防衛、皇太女警護を主任務とするため、定数充足が必須不可欠ではないという事情もあった ――であった。

そのため、統一歴1926年夏ごろには「第2親衛師団を解体し、各方面軍に増援として配備したほうがよい」という結論が陸軍参謀本部内で固められていた。

 

親衛師団である以上、その編成には皇帝の裁可が必要である。

ゆえに、その代決権者であるツェツィーリエがその結論を知っているのも道理であったが、しかし。

 

 

「お、恐れながら第2師団配属部隊の再編先はすでに内示が――」

「厳密には『内々示』だろう?…それとも?私の同意もなしに旧親衛師団の配備を決定できるとでも思っていたのかね?」

「そ、そのようなことは!」

「ならば、話は早い。そうだろう?」

「それは…しかし…」

「…人事局長、私とて暇じゃない。だから単刀直入に聞こう」

 

 

 

 

 

――ヤーかね?それともナインかね?

 

*1
まともな実戦経験皆無




いつの間にか投稿画面に「使用楽曲情報(必須)」なんてのができてる…(ガクブル

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