皇女戦記   作:ナレーさんの中の人

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「やあ読者の諸君、諸君のリクエストにお答えして、どうやらこの肉塊がそれらしい閑話を書いてしまったようだぞ?当初はミリオタ談議に盛り上がる二人を書くとか言ってたのに、
ど う し て こ う な っ た !!」

紛らわしいことする殿下が悪いんでそげぶっ!?

「なお、過去最長と言う驚きの事態に。本当にどうしてこうなった」


対協商連合戦
閑話 とある侍女のさる一日。


侍女アデーレの朝は早い。

 

まぁ好きでやってる仕事ですから。と彼女は言う。

朝4時に起きて、手早く身支度を済ませる。

そして、親愛なる皇女殿下(ご主人様)の朝食の準備を始めるのだ。もとは料理人がやっていたのだが。

 

―― 朝はパンとコーヒーで十分 ――

 

と言う皇女の言により、今は侍女アデーレが皇女殿下の朝食を用意している。

無論、周囲は反対したのだが「ならば、朝一で抜け出してもよいのだぞ?」と言われてはどうしようもなかった。

皇女の脱走癖には定評がある(ぷっちんしてイルドアまで飛んだ)

なお、仕事がなくなりそうになって蒼褪めた料理人については、今は陸軍参謀本部で大いに腕を振るっているのでご安心を。

ともあれ、皇女の朝食の準備へと向かいつつ、アデーレは悔やんでいた。

 

―― あの方はあっと言う間に大人になってしまわれた…。両陛下とも居られない。それが悪かったのかもしれない ――

 

皇帝は長らく帝都中央病院特別病棟を住処としており、母親たる皇后にいたっては皇女出産後に亡くなっていた。

親の愛を受けられなかったからこそ、皇女殿下はあれほど早熟なのだろう、と。

 

 

だが、今の帝国に、皇女を少女にとどめる余裕はない。

 

 

政治に直接かかわることのないアデーレであっても、そうと理解できる程度に皇女は多忙だった。

昨日は海軍司令部に赴き、今日は陸軍参謀本部に行く。そして明日は空軍基地視察からの議会関係者との会食。これがここ数年の皇女の日常だった。

皇帝不在が長引いて、宮中晩餐会も絶えて久しく、貴族階級に属する一部の連中からは不満の声も上がっていると聞くが、皇女の多忙さを知ってか直接は言ってこない。

 

本来ならば年頃の女の子らしく着飾ってダンスでも踊りたいでしょうに…ああ、おいたわしや。

アデーレはそう思って涙ぐむことしばしばだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

言うまでもなく、盛大な勘違いである。

 

 

第一に、彼女は各軍司令部に行くことを心から楽しんでいる。

当然だろう。ミリオタの夢と言える『ぼくのかんがえたさいきょうの○○』を現実にできる環境なのだから。

しかも彼女が史実知識――歴史が示す最終形態――の大まかなアウトラインを提示(丸投げ)すれば、あとは優秀なる帝国軍人と技術者が形にしてくれるのだ。何それ羨ましい。

 

第二に、彼女は晩餐会を生トマトと同等か、それ以上に毛嫌いしている(なおトマトソースは可)。

ドレス?そんなひらひらしたモノを着ろと?軍服かスーツを持ってこい!

ダンス?盆踊りが関の山ですが何か?

音楽?詩吟でもよろしいか?

 

ほかにも少女はいろいろと好き放題やっているが、その悉くが王宮に詰める侍女や執事の哀愁を誘い、結果として誰も彼女を止めない、と言う理想的環境をもたらしていた。

勘違いとはなんと恐ろしいものなのだろうか…。

 

 

ともあれ、そんなかわいそうな(勘違い)ご主人様のためにも、気合いを入れて朝食を作らねばならぬ。

 

まずは食材の入念なチェックから始まる。

 

「やっぱりうれしいのは皇女殿下の『アデーレの料理とコーヒーは絶品だ』の一言ですね。この仕事やっててよかったな」と彼女は独り言ちる。

 

温度と湿度は日々違うため、機械ではできないとのこと。

 

 

 

そうやって大方の――ベーコンはお出しする直前に焼くので別――準備を済ませたところで、アデーレはツェツィーリエの執務室(・・・)に赴く。

 

寝室ではないのかって?

その答えは、執務室のソファーにある。

 

「…やっぱり。昨日こそはベッドでお休みいただくように申し上げましたのに」

 

そこには、とても一国の皇女とは思えぬ惨状が広がっていた。

いつものように、何か書き物をしていてそのまま寝てしまったのか、机には紙が散乱している。そして当の本人はと言うと…

 

「そんな恰好では風邪をひきますと何度言えば…。殿下、起きてください殿下」

『むにゃむにゃ…メッサーをもってこーい……』

 

ソファーの上で大の字になって眠っていた。

 

それも、下着にワイシャツと言う格好で。

 

 

この皇女、人のいないところでは相当なずぼらだったりする。

某銀〇伝の魔術師もそうだが、歴史学者と言うのはどうしてこうも無頓着なのだろう。

 

ともあれ、そんな状態でも絵になるのだから、身だしなみに気を遣えばこの皇女は絶世の、いや傾国の美女ともなれるというのにもったいない、というのがベルン宮殿に勤める女たちの一致した見解である。

 

「またいつもの謎言語…ええい、殿下!起きてください殿下!!」

「んぁ~…?アデーレぇ…?」

寝ぼけ眼で皇女がうめく。

その怠慢な動作さえ以下略。

これでも久しぶりのお休み――を取らせた――と言うことで、かなり遅めに起こしに来ているのだ。本音を言えば、このまま一日お休みになって頂きたいくらいだが、そうも行かない理由がある。

 

「まったく、今日はお客様がお見えになる予定だったのでは?」

「…そうだった!!」

途端に飛び起きるツェツィーリエ。

「時間は…なんということだ!ええい、アデーレ!私は風呂に行ってくる。くれぐれも誰も通すなよ!!」

「ええ、分かっておりますよ殿下」

本来、皇女が一人で入浴――しかもこの皇女、シャワーで済ませているのか烏の行水である――なんてありえないことだが、10数年もそばで仕えてきたアデーレは慣れたものである。

「替えのお召し物と朝食を用意しておきましょう」

「助かる。…言うまでもないと思うが――」

「――スカートは絶対に持ってくるな、でしょう? 全く。たまには皇女殿下らしいお召し物を――」

「――ああもう分かったから!いつか着るが今日ではない。時間がないから私はいくぞ!」

「ええ、ええ。ごゆっくりどうぞ」

言っても詮無いことなのだろうな、と思いながらアデーレは主のために服を取りに戻る。

途中、すれ違った同僚に部屋の片づけを依頼するのも忘れずに。出来る侍女は違うのだ。

 

―― そういえば… ――

 

そんな彼女はふと気づく。

 

「…殿下が休日に人を招くなんて、何年ぶりかしら…?」

 

 

 

 

 

 

 

15分後。

 

―― おかしい ――

出来る侍女の必須スキル、『些細な言動から主人の状態を把握する』により、アデーレは確信した。

―― 今日の殿下は何かがおかしい ――

 

具体的に何がおかしいのかと言うと。

 

―― あの(・・)殿下が子供のようにうきうきと ――

繰り返すが、皇女ツェツィーリエは極めて早熟な子供だった。

産まれた時から側仕えをしているアデーレはそれを一番よく知る人物であり、であればこそ、こんな年相応の少女のような…。年相応の少女のような…? 

 

 

 

 

―― … ま さ か ! ――

 

 

 

 

その時、アデーレの脳裏に稲妻が走った!

その稲妻は瞬時に確信へと置き換わり、彼女は思わず涙ぐみそうになった。

 

すなわち

 

 

―― ついに、ついに皇女殿下にも春が来たのね!!(はやとちりにもほどがある) ――

 

 

 

思えば長い道のりだった。

小さいころから頑としてスカートを受け付けず、早熟すぎるがゆえに周りの男子には目もくれず、それでもなんとかお近づきになろうとする男の子たちには、そのココロ(主砲)圧し折って(蹴り上げて)きた皇女殿下!

そんな彼女が、ようやっと年頃の乙女になれる方が現れたのだ! と。

 

―― ハッ!いけないいけない。私としたことが早合点を…。

落ち着くのよアデーレ。侍女たるもの常に冷静であらねば…。

 

 

そう…。

 

 

 

 

すべては殿下にふさわしい殿方かどうかを見極めてからよ! ――

 

 

だからどうしてそうなった。

本人が聞いていれば突っ込んだだろうが、すべてはアデーレの脳内で完結している。出来る侍女は、いついかなる状況でも表情を崩さないのだ。

 

と、そこへ

 

コンコンコン

「入り給え」

「失礼いたします。…殿下、デグレチャフ少佐がお見えです」

「分かった。私の執務室に通せ」

「ハッ…。…殿下、応接室ではないのですか…?」

「執務室だ」

「…。…畏まりました」

 

―― 殿下。減点30です… ――

アデーレは脳内で盛大な溜息をついた。

―― 如何に親しい殿方と言えど、あのお部屋では千年の恋も冷めてしまいますよ…? ――

一応、散らかすたびに侍女の誰かが片付けているとはいえ、実用一点張りで殺伐としているあの部屋に通されて、動揺しない男がいるだろうか。

少なくとも、風景画をすべて取っ払って各種軍用地図にしている時点で、情緒のじょの字もあったものではない。

 

と、そこまで考えた侍女はハタと気づく

 

―― …! 違うわアデーレ!これはテストなのよ!『私の仕事を理解できる奴でなければ、王配にはふさわしくない』と言う…!ああ殿下!自分の恋心よりも国の政を思うそのお心のなんと気高いこと…!! ――

 

出来る侍女は想像力もたくましい。

 

―― しかし、『少佐』と言ったわね…。ふーむ、やはり貴族のおぼっちゃまでは殿下のお眼鏡にかなわぬということなのでしょう ――

 

 

 

10分後。

 

―― …なんだ、女の子か ――

 

コーヒーを届けに行ったアデーレは脳内で項垂れた(orz)

ともあれ、会話が弾んでいるのは何より。

皇女殿下が子供っぽかったのは、年の近い女友達と会うからだったらしい…。不覚。

 

「ああ、アデーレ。ご苦労…。

少佐、彼女の入れるコーヒーは絶品だぞ。心して賞味したまえ」

「ほほぅ、皇女殿下のお墨付きとは素晴らしい。早速…。…! これは!」

「分かるだろう?これを毎朝飲める時点で、私は果報者だと思うのだよ」

「全く羨ましい限りですな。うちの副官もまあまあなのですが、こうはいきません」

「…過分なお言葉です」

「いやいや、本心だとも。

…さてアデーレ、私と少佐はこれから軍に関する相談をするので、昼食までは誰も通さないでほしい」

「畏まりました。昼食はこちらへお持ちしましょうか?」

「…そうだな。それと二人分で頼む。少佐もそれで良いな?」

「そうですね…。おそらく談義に夢中になるでしょうから、サンドイッチのようなものが望ましいかと」

「ふふ…違いない。ではそのように頼む」

「畏まりました」

 

 

 

アデーレは扉を閉じながら、盛大に嘆息した。

これでは休暇の意味がないではないか!と。

―― 侍従長を通じて軍に一言諫言すべきではないでしょうか? 休みの日にまで軍務のことなど…。皇女殿下のせっかくの休日を、軍は何と心得ているのかと! ――

 

 

 

彼女は知らない。

この後、自身がとんでもないものを見てしまう事を。

 

◇◇◇

 

 

『ようやく、君と忌憚なく会話する時間がとれたな』

『全くだ。電話だとどうしても情報伝達量に制約がかかる。ファックスとメールの偉大性に気づかされる毎日だよ』

『ああ。この世界じゃ、地図を送るのに人間に持たせねばならん。と、いうわけで今日は地図でも設計図でも使い放題、書き放題だぞ?』

『そいつは素晴らしい』

 

実際、同じようにこの世界に落とされた二人だが、こうして直接会って話すのはノルデン以来だったりする。

撮影会?あれは黒歴史(なかったもの)だ。良いね?

 

『まずは礼を言う。タスクフォースもとい魔導大隊の編成、世界初の戦略爆撃、超長距離空挺作戦…。アイディア自体はあったが、君がいなければどれも画餅に終わっていただろう』

『構わないさ。私とて、こんなくそったれな戦争、さっさと終わらせたいからな』

『同感だ。では早速本題に移ろう』

 

 

◇◇◇

 

 

『…なるほど。航空魔導師はいずれ、航空戦力としては陳腐化すると?』

『ああ、今すぐにとは言わないが、軍用機の飛躍的性能向上により、ゆくゆくはそうなるだろう。君もそう思わないか?』

『確かに、我々がいた世界もそうだったが、戦時の技術革新は平時の10倍の速度だからな』

『その通り。そして私の存在によって、帝国ではさらに加速している……と、良いんだが』

『そこは自信を持っていいぞ。少なくとも、1920年代に規格化合理化の概念を持ち込んだことは称賛に値する』

『元ビジネスマンの君が言ってくれるとは嬉しいね』

 

 

そもそも、魔導師の技量はその個人の素質(カン)によるものが極めて大である。

どころか魔術と言う技術体系自体、ブラックボックス(よくわかっていない)が極めて多い。

 

 

ゆえに、高度一万を飛ぶ爆撃機は量産できても、高度一万を飛ぶ魔導師は量産できない。

 

 

『ターニャ、私は将来的に航空魔導師は空挺部隊、もしくはコマンド部隊として存続することになると予想している』

『…なるほど。大いに納得できる結論だ』

 

空挺部隊はその特性上、敵地に生身で飛び降りる精神力と装備をまとった状態で降下する技術力、そしていくつかの制約を乗り越えて軍隊として機能(戦争)することが求められる。

必然、各国とも精鋭中の精鋭を集めたエース部隊となる。

 

 

 

どこかで聞いた話ではないか?

 

 

 

しかも空挺部隊の問題点を、航空魔導師はすべて解決できる。

パラシュートは風に流されるが、航空魔導師は塹壕の中にすら降りられる。

当然、集結完了まで部隊として機能出来ないという弱点からも解放される。どころか、降下中であっても戦力として機能する。

さらには重量物…具体的には火砲の類についてパラシュート降下ではかかる制約を、魔導師は術式等によってたやすく解決しうる。

 

『…言われてみれば、これほど理想的な兵科はないな』

『だろう?ただ現在は航空戦力として使うことが多いから気づいてないだけで――』

『――戦闘機の技術が進歩すれば、そちらの方がメインになる、か。道理だな』

『まあ、当分の間…正確には戦闘機が格闘戦(ドッグファイト)をしている間は、魔導師もそれなりに制空戦闘機としての役割を果たしうるだろう。

だが、速度の限界もあって、いずれは空挺魔導師(・・・・・)としての運用がメインになるんじゃないかな』

『と、なると各国が空挺魔導師の有用性に気づき、実戦投入するまでには時間的猶予があるか…?』

『いや、いずれ各国も気づくだろう。何しろ君たちがダキアでやってのけたからな』

『それは…。良いのか?敵に教育してやるようなものだぞ?』

『ふふ…。良いところに気づいたね少佐』

『うん?』

 

そこでターニャはふと気づく。

すぐ隣の――同じ資料を見るために隣に座っていた――皇女が、ものすごくキラキラしていることを。ありていに言えば『 愉 悦 』状態にあることに。

 

…この雰囲気、どこかで見たような…。

 

幼女の生存本能がアラートを鳴らし始めた時。皇女は嗤う。

 

『気づいたところでどうなる?』

『…なに?』

『我々は航空戦力を航空機で代替する方針だからいいけれど、各国はそうはいかない』

『つまり?』

『我が国の航空魔導師…いや、空挺魔導師の後方への降下に対し、各国の取りうる対策はただ一つ…』

 

『…! 後方への再配置!つまり前線の魔導師が引き抜かれる』

『そのとおり!敵航空魔導師の分散を強要できるのだ!!』

 

ターニャは確信した。

この皇女、鬼だ、と。

 

『そして戦略爆撃機実用化の暁には防空戦闘機も分散させられる…。すばらしい。これぞ史実知識を活用できる醍醐味……!!』

『…君、前世は歴史学者じゃなくてあの博士と同類だな?』

『失敬な!いたいけな美少女をアレと同じにしないでくれ!?』

『自分で言うか!?』

『事実だからね!!』

『貴様、実は転生させられたことを楽しんでいるだろう!?』

 

 

実に十数年ぶりの同志(ミリオタ)との語らいは、取り止めともなく続く。

 

 

 

 

 

 

 

視線に気づかぬままに……

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

侍女アデーレは驚愕のただなかにあった。

その理由は彼女の視線の先。

 

『冴えない男から美少女なんだ!楽しんで何が悪い!!』

『その割り切りの良さが羨ましい…!』

『そういえば、君今世では11歳だよな?…小さくね?』

『人が地味に気にしていることを!これでも去年から5ミリは伸びている!!』

 

あの(・・)謎の言語(日本語)で会話が成立している…!?

 

『それ、誤差じゃね?』

『なに!?そういう貴様だってどこがとは言わないが17とは思えないぞ?どこがとは言わないが』

『……大事なことなので二度言いました、だと?

残念だったなターニャ。これは仕事の邪魔だから、さらしで潰してあるだけさ!』

『ほほぅ…?』

『…なんだその邪悪な笑みは…?待て、その手の動きは何…やめっ、ヤメロォー!』

 

しかも、じゃれている。

皇女殿下があそこまで子供のようにはしゃいでいる…!?

何を言ってるのかは皆目見当もつかないが、とても楽しそうなのはよく分かる。

 

 

 

 

まぁ、単純に二人とも「寝不足」かつ「同志との語らいでテンションが上がっていて」、「なんだかんだ10年くらい女の子の体なので引っ張られている」だけなのだが、

 

 

 

 

『アハハハハ!やめっ、脇腹はあかんて!!』

『フハハハ聞く耳持たぬわ!!』

『ギブ!ギブするから許して!』

『だったら大人しくさらしを取らせろぉ!!』

『イヤー!!』

 

 

ハッキリ言って、修学旅行のガキである。

とはいえ、そうとは知らぬアデーレの目からするととんでもない状況である。

 

―― こ、皇女殿下があそこまで許すなんて、あの幼女は一体…!? ――

 

繰り返すが、ツェツィーリエは皇女であり、皇太女である。

皇帝の権力、権威が強い帝国にあって、その身はまさに『玉体』。

あんなふうに押し倒したり、馬乗りになったり、くすぐったり、ましてや剥く(・・)なんてありえないことなのだ。下手しなくても首が飛ぶ。

 

―― だというのにあの幼女はためらいもなく…! ――

 

『ふぅふぅ…形勢逆転だなターニャ』

『くそっ!このお子様ボディーが恨めしい…!!』

『さぁて覚悟はできたかなターニャちゃん?』

『落ち着け。争いは何も生まない!話そう。話せばわか――』

『えい』

『――ぐほぉっ!?』

 

まあ、殿下も殿下でやり返しているから問題な…んなわけあるか!?

と、いうか殿下、お召し物をなおしてください目のやり場に困ります…。

 

それにしてもあの幼女はいったい何者なのだ…と考えたところで、アデーレは凍り付く。

 

 

 

―― まさか… ――

 

―― まさかまさかまさかまさかまさか! ――

 

―― 皇女殿下が同年代はおろか、およそ異性と言うものに興味を持たないのは! ――

 

幼女(ターニャ)をこねくり回す(物理)皇女の姿に、アデーレは確信する。

 

 

 

 

―― そういうこと(百合の花が咲き誇る)だったのね!! ――

 

 

 

断言してもいいが、勘違いである。

しかし、間違いを指摘する人間がいない状況で、出来る侍女の妄想を止めるものはいない。

 

 

―― いいえ落ち着くのよアデーレ。あの二人の容姿をよく御覧なさい ――

脳内の冷静なアデーレ(五十歩百歩)が囁く。

―― …同じ金髪碧眼。幼女の方はやせているけれど、どちらも美少女と言って差し支えないわね。 …まさか! ――

―― 真実にたどり着いたようねアデーレ…。そう、あの幼女こそ ――

 

 

 

 

皇帝陛下のご落胤!(だからどうして)二人は実の姉妹!!(こうなった)

 

 

 

―― ああ何てこと!運命の赤い糸に導かれた二人が、実は本当の姉妹だったなんて!! ――

―― ええ、真実は時に残酷なものなのよアデーレ ――

 

なんかとんでもない方向に話が加速した。しかしここには止めるものは(以下略

 

―― 私たちにできることは? ――

―― …残念だけれど、私にできるのは、見て見ぬふりをすることだけなのよ ――

―― うぅ…。なんて、なんて私は無力なの…! ――

―― 行くのですアデーレ。私にできるのはそっと扉を閉じてお二人の昼食を準備する事よ ――

 

 

 

かくて侍女は去り、妄想はV1よりも加速する。

ってか優秀な侍女どこ行った。なに?仕事は優秀でも妄想癖がある?…あっ

 

 

 

「ああ、アデーレいいところに」

「にゃにゃなんでしょうか!?」

「ん?…まあ、いいか。それがだな」

 

 

 

 

 

 

 

「 ちょっと話が長引いて、少佐が泊まることになったから用意を頼む 」

「     」

 

 

 

卒倒しなかった自分をほめてやりたいと、アデーレはこの日の日記に記している。

なお、その日記をもとに後年、『 皇帝陛下、最後の十日間 』と言う映画が作られ、全世界公認の事実となってしまう事を、彼女は知る由もない。

 

 

 




私にはこれが限界だよパトラッシュ。

そして自分から爆弾を投げ込んでいくスタイル。


ちなみに皇女殿下のビジュアルは、漫画版のターニャを大人にした感じです。なお何の数値とは申しませんが72-55-78。帝国の国家機密なのでご注意を

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