ガールズバンドの子たちに甘やかされる日常【完結】   作:薮椿

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【最終話】これが僕なりのハッピーエンド

 意外にも、ガールズバンドのみんなは僕の決定を受け入れてくれた。てっきり猛反発を受けてまた監禁されるかと思ってたけど、ヤンデレのような思考回路にはなってなかったみたいだ。

 

 結局、僕は辛い頃の記憶を消さないことにした。嫌なことを全て忘れて女の子たちからご奉仕される生活は男として夢のようだけど、僕が女の子たちと心を通わせた上での痛みであれば、それはどんなにつらかったとしても忘れてはいけないことだと思ったんだ。これがいわゆる思い出と呼ばれるもので、みんなと過ごした日々は例えどんなことだろうと消したくない。

 

 そんなわけで、なんやかんやで無事に引きこもりから脱却することができた。

 そして、今はライブハウス『RiNG』でアルバイトをしている。ここにいるとまた心に迷いを抱えた子たちと出会ってしまって、僕もその子の心にまた寄り過ぎてしまって傷つくかもしれない。でもそれでいい。今度は折れないから、絶対に。

 

 

「あ、あの、秋人(あきと)さん……」

「燈ちゃん。久しぶり……ではないけど、久しぶりな感じがするね」

「そう、ですね。前の秋人さんも今の秋人さんも一緒なのに、ちょっと懐かしい気がします」

「あはは、まあ一皮剝けたってことで」

 

 

 建物裏でゴミ出しをしていると、いきなり燈ちゃんに話しかけられた。どうしてこんなところにいるのかと思ったけど、そういえば日陰が好きな子だったな。

 

 彼女が言っていた『懐かしい』という言葉、それは自分も実感できる。記憶が復活して元の自分に戻ったはずなのに、どこか違う感じがするから。情けない引きこもり生活から脱却できたからか、それともみんなが抱いていた思いを知ったからなのか。どちらにせよ、我武者羅に人を助けるだけだった過去の自分から成長で来ていると思う。

 

 

「そ、その、すみませんでした。記憶のこと、皆さんから聞いていたのに黙ったままで……」

「別にいいよ。僕が無理しないようにって、みんなとの約束だったんでしょ。黙ってるのだって辛いと思うし、むしろ罪悪感に負けずに隠し通せたことを誇るべきだよ。『MyGO!!!!!』を結成するときに鍛えた忍耐力のおかげだと思うな」

「秋人さん……。そういうところだと思います、皆さんがあなたに入れ込む理由。そういうところだからこそ、好きに……あっ、い、いえ、なんでもないです……」

「うん」

 

 

 最後の方は何を言おうとしていたのか分からなかったけど、彼女も主張するべきタイミングでしっかり主張できるから大切なことだったらいつか言ってくるだろう。

 

 それにしても、最近はみんなからこうして謝られることばかりだ。そりゃ勝手に人の記憶を消したんだから申し訳なさがあって当然だけど、全員が善意で決めたことなので咎める気なんて起きなかった。それくらい僕のことを考えて心配してくれていたのであれば、むしろ感謝すべきことだ。だから謝られたら逆にお礼を言ったんだけど、みんな漏れなくさっきの燈ちゃんと同じ反応をした。まあ被害者が感謝してるんだからそうなるか。

 

 そんな感じで燈ちゃんと話し込んでいると、『RiNG』の裏口から元気な声が聞こえてきた。

 

 

「あぁああああっ!! 秋人くんサボってる!!」

「香澄ちゃん!? いやサボってない!!」

「あれ、燈ちゃんもいる?」

「は、はい、こんにちは……」

 

 

 裏口から出てきたのは僕が関わってるガールズバンドの1人であり、同じバイト仲間でもある香澄ちゃんだった。

 相変わらず高いテンションと元気の良い大きな声。日陰属性の燈ちゃんは彼女の存在を見ただけで圧倒されていた。指で僕の服の袖を掴んでるし、そんなに陽キャが怖いのかな……? まあ分からなくもない。

 

 

「燈ちゃんはどうしてここに?」

「え、えぇっと、秋人さんに謝りたくて……」

「ふむふむ。でも逆に感謝されちゃった、とか?」

「えっ、どうしてそれを?」

「みんなに言ってるからね。気を付けた方がいいよ」

「はい。危険です、あの優しさは。キュンとする、という女々しい言葉を自分が使う時が来たんだと本気で思っちゃいました……」

「なんか失礼なこと言われてない僕……」

 

 

 しかもこの2人いつの間にか隣同士で会話してるし。燈ちゃん、さっき香澄ちゃんのこと避けようとしてたのに。共通の敵が現れたから手を取り合ったとかそんな話か。まあそれで2人が仲良くなれるのならいいけどさ。ただ納得はいかないよね、うん。

 

 

「香澄ちゃんはどうしてここに?」

「どうしてって、秋人くんに会いたがってるバンドの子たちがいるから呼びに来たんだ」

「またか……」

「またかって?」

「秋人くんに接客してもらったり、コーヒーを入れてもらったり、バンドの指導をしてもらいたい子たちが結構いるんだよねぇ~。そのおかげで凛々子さんは売上が上がるって喜んでるけど、その分こっちは大変なんだよ~」

「あぁ、なんとなく想像できます……」

 

 

 ホストみたいなご指名方式ってライブハウスにあるものなの? いや絶対にない。何も知らない人が見たらライブハウスじゃなくて怪しいクラブかと勘違いされそうだ。

 

 

「最近はね、存続の危機に陥ってるバンドのお悩み相談もしてるんだ。秋人くんのカウンセリングやアドバイスがズバズバ的中しちゃって、仲直りしてまたバンドを組みましたって人たちが何人もいるんだよ!」

「私たちもお世話になりました。秋人さんのお悩み相談室……」

「てかさ、さっきからライブハウスの仕事関係ないこと混じり過ぎてない?? それでいて他のバイトの人たちと同じ給料っておかしくない??」

「『RiNG』も経営が厳しいからねぇって、凛々子さんいつも言ってるよ? だから秋人くんがバンドをたくさんウチに引き入れてくれて助かるって!」

「客寄せパンダだったの僕!?」

 

 

 凛々子さんがやたら僕をバイトに誘ってたのはそのせいか。何かしらどこかでバイトをしたいと漏らした瞬間に怒涛の勧誘だったし、顔馴染みも多いからって理由でここにしたけど、僕を宣伝に使うために囲んでおく作戦だったのか。案の定ライブハウスに見合わない作業ばかり押し付けられるし、完全にやられた。

 

 

「でも秋人がいるおかげでガールズバンド全体の士気が上がり、レベルも格段に上昇している。そこは誇るべきよ」

 

 

「えっ、なに? どこからか声が……」

「この声は、友希那先輩?」

「上、です……」

 

 

 見上げると、非常用階段に腰を掛けてこちらを見下ろしている友希那ちゃんがいた。

 まず何からツッコめばいいんだ……。本来なら存在するだけで絵になる美麗な彼女も、屋外の別に綺麗でもない非常階段で堂々とされても全く目を奪われない。むしろ高いところに上るのは煙と何とやらって言うし、なんか滑稽に見える。口には出さないけど……。

 

 

「とりあえず、下りてきたら……?」

「えぇ。遠くから会話に入るタイミングを見計らうのも疲れたわ」

「なにやってんの……」

 

 

 コミュ障は相変わらずのようだ。今やプロのバンドで大学でも人気があるらしいけど、このコミュ障具合で上手くやれてるのか心配になるよ……。

 

 

「こんにちは友希那先輩!」

「えぇ、こんにちは戸山さん。高松さんも」

「は、はいっ、こんにちは!」

「秋人も、相変わらず女の子を侍らせているようで何よりだわ」

「なんで僕だけそんな挑発的な挨拶なの……」

「あなたの能力を最大限に評価している、紛うことなき誉め言葉よ」

「それ他の人がいるところでは絶対に言わないでね。変な勘違いされそうだから……」

 

 

 ガールズバンド界隈での僕の立ち位置はかなり知れ渡っており、なんなら他県から会いに来る人もいるみたいだけど、それはあくまで限定のコミュニティの話。そこから逸脱すれば僕だってどこにでもいるただの男だ。なんら特別じゃない。だから外にそういった話題を持ち出すのは避けたいんだ。動画投稿者がちょっと有名になってイキってるけど、世間からしたら『誰ソイツ』レベルの認知度なことは良くあるし、それと同じだ。つまりは目立ちたくないんだよ。

 

 

「友希那ちゃんも久しぶりだね。プロになったから忙しいの?」

「そうね。だから今日は久しぶりに顔を出したわ。秋人分を補充するために……ね」

 

 

 何故か僕の頬に手を当ててくる。

 妖艶な表情をしているけど、中々にドン引き発言をしてることに気が付いてるのかな……。

 

 ただ、彼女の気持ちが分からなくもない。

 大切な人が精神崩壊して植物人間状態になってしまったら、次は二度と同じことが起きないように策を弄するはずだ。それくらい相手のことが好きであれば、しばらく会えなかった相手に会えてドン引きされるほどのテンションと発言をしてしまうのはギリ分かるし許せる。

 

 

「あなたの前向きな意見を尊重したいのは当たり前。だけど、同時に心配してしまうのよ。また無理をしていないか、また傷ついていないか。電話とかではなく、こうして直接会って確かめたいの」

「私も! 私も秋人くんが元気にアルバイトしている姿を見ないといつだってハラハラしちゃうもん!」

「私も心配です。いつも誰かを救っている秋人さんが、自分だけ傷ついている姿はもう見ていられませんから……」

「みんな……」

 

 

 傍から見たら過保護過ぎると思われるだろう。

 でも、僕はそれだけみんなに心配されることをしたんだ。見境なく誰かに手を差し伸べて、心の中を覗き込んで、勝手にその子の痛みを自分で抱えて、そして自傷する。共感性が高すぎる故の弊害。毎回最終的には手を差し伸べた子は救えたものの、その代償として自分が倒れたりするなど決して後味が良い終わり方ではなかった。

 それで僕の心配をしない人がいないわけがなく、みんながここまで気を遣ってくれるのは至極当然のこと。むしろそんなことがあったのに気にするなと言っている僕の方が何倍もおかしいんだ。

 

 だから記憶を封印された。僕は誰かを救っているように見えて、実は自分がその痛みを肩代わりしているだけだったから。そんな自傷行為は僕が救われない。その身を案じたみんなが至った結論。

 そう考えると、こうして記憶を返してもらったのは奇跡かもしれない。記憶がない僕に対してウソをつき続ける罪悪感もあっただろうけど、それ以上に引きこもりだった僕はみんなが知る僕ではない、ということに気付きつつあり、更に僕が元の自分に戻ることを望んだというのが大きいと思う。

 

 そんな経緯があるからこそ今も心配される。自分の共感性の高さ故、自分でも自分を心配してしまうほどだ。

 だけど――――

 

 

「僕は今までのことは後悔していない。だって、誰かを助けることは間違いなんかじゃないんだから。だから多分この先も傷つく誰かを放ってはおけないと思う。でも、今度は完全なハッピーエンドを目指すよ。相手も自分も、誰も傷つかずに笑顔で問題が円満に解決する、そんな結末を描いて見せる。ただ、それでも相手の気持ちを汲み取り過ぎて心にヒビが入りかけるかもしれない。その時こそみんなの力を貸して欲しい。誰かを助けるのに1人でやらないといけないなんてことはないから。頼ってもいい……かな?」

 

 

 最後の最後で他人頼り。

 でもそれでいい。記憶を消してまで僕の傷を塞ごうとしてくれた子たちだ、そこまで人のことを信頼できる子なら僕も信用できる。

 

 それに、こんなこと聞くまでもない質問なことは分かっている。だけど親しき中にも礼儀あり、絆と愛を深めるための意志疎通。決意を表明し、相手の納得を得るのは必要なことだ。

 そんな僕の意志を受け取ってくれたのか、みんなは笑みを浮かべる。

 

 

「もちろんだよ! 秋人くんが誰かの手助けをするなら、私たちは秋人くんの手助けをするよ!」

「えぇ。あなたが誰かの笑顔を守るなら、私たちはあなたの笑顔を守るわ」

「私は皆さんのように力になれるか分からないですけど、お話の相手なら、ちょっとでも秋人さんの思いを一緒に抱えられたらって! こんなことくらいしかできなくてちっぽけですけど……」

「ありがとう、みんな」

 

 

 受け入れてくれるのは分かっていたけど、実際に口に出してもらえるとより一層安心感が増す。ここまで二転三転あったけど、僕が記憶を失う前も、失った後も、元に戻った後もみんなの優しさは変わらない。

 前の僕に足りなかったのは誰かの痛みを引き受ける覚悟とそれに耐えうる精神、そしてそれすら誰かと共有できる繋がりだったんだ。厳密には繋がってはいたけど、全部1人で引き受けることに固執していた、と言った方がいいかもしれない。そう考えると、一度記憶を失ったのはいい経験として昇華できるかな。

 

 

「よし、ゴミ出しも終わったからそろそろ戻らないと。僕に会いたがっている子、いるんでしょ?」

「は? 会いたがっている?」

 

 

 友希那ちゃんの眼光が鋭くなる。今にもこちらを貫いてきそうなくらいに……。

 

 

「困っている人を救うのはいいけれど、色目を使ってくる雌すら1人1人構う気かしら?」

「いや、もしかしたら何かアドバイスを欲しているかもしれないよ……?」

「でもでも、最近は連絡先交換を求めて遠路はるばる来てる子たちもいるみたいですよ」

「はぁ?」

「だからその目やめて……。ていうか余計なことを……」

「あなた、これ以上女を増やしたらあの家に入りきれなくなるわよ?」

「えぇっ!? それは困るよぉ~秋人くぅ~ん!」

「そっち!? なにこのテンション……」

 

 

 一番冷静だと思われる燈ちゃんに目を向けるが、僕と目が合った瞬間に首と激しく左右に振った。やはり彼女のような小心者の性格ちゃんでは先輩たちのノリはついていけないようだ。

 

 

「こうなったら余計な女に靡かないよう、また私たちという存在を教え込んだ方がいいのかしら? 料理、洗濯、入浴、睡眠、やはり私たちが付きっきりでないとダメのようね」

「前半2つはキミできないでしょ……」

「なにか言ったかしら?」

「うぅん、なんでも……」

「じゃあまたみんなで秋人くんの家にお泊りだね!」

「どうしてそうなる!? あの時も泊りがけってのは少なかったのに!? ねぇ燈ちゃん?」

「私は泊ったことないので泊ってみたい……です」

「えぇ……」

 

 

 もはや誰も止める人がいない。そもそもこの3人以外でも僕の家に再び上がり込もうと画策している子が多く、こころちゃんとか自慢の財力を駆使して色々計画ならう暗躍しているっぽいし、リサちゃんみたいに僕のお世話ができなくなって日々のやりがいを喪失した子もいる。

 

 

「そうと決まれば全員がいるグループチャットで多数決を取るわ。また秋人のお世話になりたい人を」

「そんなの絶対に反対票いないでしょ!? 記憶が消えてニートになった僕をお世話する目的だったんじゃないのあの押しかけ!?」

「秋人くんが好きだからやってたんだよ!」

「そ、そんな元気な笑顔で言われたら……」

「わ、私もグループチャットに入れてください……」

「あっ、そうだった! ゴメンね気付かなくて! 今入れるね!」

 

 

 これもう、記憶を失った時と何も変わらないのでは……?

 ただ、一連の出来事を経て絆は深まったと思う。そして、僕がみんなに抱く気持ちも――――

 

 生活は今までと変わらなくなるっぽいけど、今度は楽しいことも辛いこともみんなと分かち合って、ありのままの自分で前に進むんだ。無茶をしてまた記憶を消されないようにね。

 

 

「賛成票、100%よ」

「もう好きにして……」

 

 

 そう投げやりになりつつも、またみんなと一緒にいられることに嬉しさを覚える僕だった。

 




 最終回なので全キャラ登場させたかったのですが、尺の都合と執筆時間の都合で新旧主人公勢のみとなりました。
 数年をかけて完結させて最近の投稿分は超久々でしたが、やっぱりバンドリも魅力的なキャラが多くて執筆していて楽しかったです!

 何年もブランクがあったのでここまで見てくれている方がいるのか不明ですが、もし再度追いかけてくださった方がいらっしゃいましたら最後までありがとうございました!



 公式の方ではave mujicaのアニメがやるとのことで、バンドリはまだまだ終わらないみたいですね。
 もしその時にやる気があれば番外編として書いてみようかなとか思ってます。
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