2019/05/12追記:突貫工事で動画化しました。
(https://www.nicovideo.jp/watch/sm35110604)
空腹は虚無。胃袋という袋の中に何も無いのだから、それは虚無と言える。
虚無は苦痛。自分には何も無いのだと、まざまざと見せつけられている気持ちになる。
だが、その苦痛も気の持ちようで耐えることが出来る。
『今日の晩ご飯はカレーだよ』
私の目に映る、スマートフォンの中の一つの文面。マスターから送られてきたショートメッセージだ。私はこれだけで、虚無を希望に変換することが出来る。
「……マスター」
しかし、隣にマスターがいないという事実は覆すことが出来ない。
スマートフォンの向こうには、確かにマスターは存在する。文体もマスターのものだ。でも、それをマスターが送ったという決定的な証拠はないのだ。
──私はそれが、凄く怖くて、寂しい。
「まだかな……」
ピロン。
私のスマートフォンから発せられた、通知の音。誰からかメッセージが届いたらしい。
「なんだろ?」
通知のポップアップを叩き、そのメッセージを開く。
そこには、『今仕事終わったから、今すぐ帰るね』の文字。
「終わったんだ……」
──希望が。
希望が家に向かっている。カレーという香ばしい物と、マスターという私の全てが。
「ご飯……!」
──せめて。
せめて、ご飯くらいは炊いておこう。
食べる量は私の方が多い。ならば、私の食べたいだけのご飯を炊いておく方が、マスターが考えなくていいので効率がいい。
「カレー……カレーだぁ!」
私の原動力は、ご飯とゲームと、それから──。
◇◆◇◆◇◆◇
「ただいまー!」
玄関から、マスターの声。
以前の私ならマスターに飛び込みに行く所だが、私も成長したのだ。
「おかえり、マスター!」
「あかりちゃん、ただいまー」
両手に買い物袋を持ったマスターが、リビングに来た。
私よりも細くて、か弱い腕で、私の為の材料を抱えていた。その事実だけで、私はマスターに
マスターは私を養うことがマスターの癒しだと、以前私に向かって言い放ったことがある。リビングに置かれている各種ゲーム機器も、マスターが仕事で居ない時に、私が寂しくないようにと、マスターがボーナスで買ってきたものだ。
さらには、私がご飯を作ろうとすると、『あかりちゃんは座ってていいよ』と言われ、キッチンから追い出すのだ。
だから私は、マスターに尽くす。
──否、尽くしたいのだ。
「マスター、ご飯は炊いておいたよ!」
「ホント?」
「だって、カレー早く食べたいんだもん!」
「ふふっ、あかりちゃんらしいね。じゃあ早くルーを作らないとね」
「うん!」
私は──。
紲星あかりは──。
今日もマスターの癒しになる為に、頑張らなければならない。
──紲星あかりの原動力は、ご飯と、ゲームと、マスターの愛で成り立っているのだ。