私、踊り虫が投稿したキャラ「千寿 結奈」を使っていただけたことや、その設定の中で生まれた企業「あやかしや」の起用の他様々な面でお助けいただきました。
その上今回は作者様のキャラである「柴田愛弓」さんと「柏木京佳」さんも貸して頂きました。
そして、同企画にて私と同じくキャラを投稿していたダレイオス三世さん。
James6さんを介する形でメテルドレスの設定を無理に変えさせてしまったことへの謝罪とキャラ「鏡音 司」さんを私の作品でも使う許可をしていただけたことへの感謝を!
本当にありがとうございました!
※今回の話は結奈が魔装姫士になるまで、と結奈が専用機を手に入れた日の話が交互に語られる方式にしています。
というのも元々はこれ一話だけを執筆する予定だったためです。結局は気分が乗って魔装姫士になってからも書くことにしましたが()
ユイナ・オリジン
両親が死んだあの日を、光を感じることすら出来なくなったあの日のことを――最低最悪なバースデーを。今でも
結奈の家はそれなりに裕福であった。そのために与えられた多忙な立場から家で顔を合わせることが極僅かな父親と、立場ある夫を支えるという大役のためにあちこちを奔走していた母。結奈は小さい頃から両親の雇った使用人や時折遊びにいく祖父母と過ごすことが大半だった。
家庭を顧みずに働く両親と娘、と周囲は噂し、結奈には同情の目が向けられていたが、結奈は寂しいと思っていても、それを言葉にしたことは一度もなかった。
結奈自身が妙に大人びた少女であったこともあるだろうし、雇われである使用人達は結奈に良くしてくれていたし、祖父母もよく気に掛けてくれていたのもある。だが一番の理由は――両親は、しっかり自分を愛してくれているのだと、理解していたからだ。
重ねて言うが、結奈の両親は責任のある立場で、それこそほとんど毎日家に帰ることすら儘ならないほどに多忙なのだ。そんな二人の愛を最も感じたのは、家族の誕生日。両親は無理を通してでも毎年欠かさず家族の誕生日の日だけは私情を、家族への愛を優先してみせた。
だからこそ結奈は誕生日の日が楽しみだった。他の祝い事も嬉しくないわけではないが、それでも大きな差があったのは間違いない。
そんな楽しみな日が、ゴーレムの襲来という悲劇により砕け散った。
ゴーレムの襲来を報せるサイレンが鳴り響く中を結奈は両親と共に走っていた。向かう先は避難所として指定されているシェルターだ。父が先導し、母は結奈の手をしっかりと掴んで、走り続ける。
――そっちは、ダメです!
これは夢で、どんなに声を挙げても無駄だ。そうわかっていても、結奈は何度も訴えた。
――行かないでお父さん!そっちにいる!そっちにゴーレムがいるの!
――お母さん!お父さんを止めて!お願いだから!止まって!
――私!お願い!二人を止めて!お願い!お願いだからぁぁぁぁぁ!!
だが、止まることは無い。これは夢であり、そして過ぎ去ったかつての物語だ。結末は変わらない――悲劇は変えられない。タイムマシンがあったところで、彼女達がソレと邂逅する運命を変えるなど、不可能だった。
最初にそれに気付いたのは父だった。
『にげ――』
何かを言いかけ、そしてそのまま、巨大な何かに押しつぶされた。
母は絶叫し、当時の結奈は、何が起きたかわかっていないのか、呆然としていた。
だが、すでにあれから3年以上が経過している。かつての状況を整理している
『■■■■■ァァァァァァ』
獣。
四足の巨大な獣。狼や犬に近いが、普通の犬や狼は大型トラック程の巨躯は無いし、何十個も不規則に並ぶ眼は存在しない。それに、父を押し潰している背中から生えた二対の人のような腕がある訳が無かった。
――ゴーレム。と呼ばれる胎児に似たナニかは、取り憑いた対象を醜い怪物へと変えてしまう。それは生き物も例外ではない。おそらくこの個体はゴーレムが犬に取り憑いた結果発生したのかもしれないが、そんなことを考える余裕は無い
かつての結奈は母の手を引っ張って逃げようとして――母がへたり込んでいることに気がつく。
『おかあさん?……おかあさん!逃げなきゃ!逃げようよ!』
――お母さん!逃げて!
幼い結奈と今の結奈。二人の思いは同じだが、それが母に届くことは無かった。それどころか、父の、夫の死を前にして気が触れたのか、そのまま、笑い出してしまったのだ。
結奈はその結末を知っている、
『おか――』
ドン、と、母に突き飛ばされ、そして。
バクリ。
食われた。母が、一口で、怪物の、がばりと開いた口の中に、消えていって――グチャグチャ、と咀嚼する音が。
『いやぁぁぁぁぁぁぁ!!』
――ああァァァァァァァァァ!!
夢の中の結奈に力は無い。母を食い終えたらしい怪物――その頭部にある無数の目がギョロリと、幼い結奈を捉えた―――
◇◇◇
「結奈、結奈。起きたまえ。到着だ」
まどろみの中にあった結奈の意識を現実に引き戻したのは、女性とも男性とも取れる中世的な声だった。
結奈は知っている。そもそも今日は
「――すみません司さん。
「大体30分くらいだね。それと、私は当然のことをしたまで、謝罪は不要さ」
彼女、
「エスコートをお願いしますね、司さん」
「任せたまえ。君の
司が笑顔を浮かべた――といっても、
◇◇◇
最悪のバースデー、のその後を語ろう。
まず、結奈は死なずに済んだらしい。
らしい、という曖昧な表現に留めたのは、結奈が言うに、怪物の眼が彼女を捉えてから保護された先の病院で目覚めるまでの記憶が曖昧だからだ。
なお、彼女を見つけて保護した人物が言うには路上の血溜まりの傍で膝を抱えて意識を失っていたのだという。
次に彼女と家族を襲った悲劇の元凶、ゴーレムだが、それ以上の被害を出す前に魔装姫士により討伐されたそうだ。
なんともあっさりと、そう告げられた結奈は何も言わなかった。ただ、しとしとと、涙を零すのみであった。
最後に――千寿 結奈の眼は、病院で眼を覚ましたその時から、失明していた。
一口に失明というが、ここ、日本フロンティアでは、かつての地球の日本で使われていた定義をそのまま流用しており、眼前の手の動きなら把握できる「手動弁」。光の明暗の区別が付く「光覚弁」、そして明暗の弁別すらつかない状態。と区別される。
結奈は最後の明暗の区別すら付かない状態にあった。
日本フロンティアが再現している2010年代の町並みとは裏腹に、医療技術の発達はそうした視覚障害などの身体的障害を障害があるまま日常生活を送れるようにするのではなく、障害を障害と思えないほどに補助する方向へとシフト。そのための技術や器具は数多く存在し、貧富の差に関わらず扱えるように様々な制度で保障されており、身体的障害を抱える人々の人口は大幅に減っている。
全盲となった人には、視覚の再会得のためにカメラを内蔵した義眼に取り替え、脳にその情報を送る形で視覚の再会得を目指す手術を行える。
しかし、結奈の場合はそれが危険である、と判断されたのだ。なぜなら、ゴーレムと遭遇した結果障害を残した例は他に無かったからである。
結奈の話が本当ならば、彼女は
しかも、彼女は目が見えないにも関わらず、介護してくれる人物の方向を正確に把握していたのだ。
そんな少女が相手では医者も下手に手が出せなかったのだろう。前時代的ではあったが今も残る全盲となった視覚障害者が行う訓練を結奈は受けることになり――その際に、発覚した。
彼女の視力を補ったのは、音、聴覚である。どういうわけか、目を覚ました後の結奈は細かい音すら聞き分けられるようになっていたのだ。それこそ音源と自身の距離すらも正確に把握することが出来ていたのである。彼女の入院現場で関わった者は今まで以上に不気味さを覚えたことだろう。しかし、担当した医師は彼女を見捨てようとはしなかった。
実験的ではあったがある試みが行われたのだ。
反響定位、もしくはエコーロケーション。
蝙蝠やイルカが視覚に頼らず音の反響を利用して物の形や位置を把握する能力のことだ。
実は人間も訓練をすれば少しはわかるようになるらしい――のだが、大抵は義眼による視覚の再会得を行うために今では眉唾物となっていたものである。
医師は、その会得を目指さないか?と全ての事情を結奈に打ち明けた上で打診したのだ。
そしてそれらの事情を聞いた結奈はその訓練を行うことにした。
リハビリであると同時に、体のいい
◇◇◇
こつこつ、と固い床を叩く靴の音が響くのを、結奈は聞いていた。いつもはそこに白杖を突く音も混じるのだが、杖の代わりを司が務めてくれている。その歩みは全盲の身を気遣ってか少しゆっくりとしていて、結奈はその気遣いに感謝しつつ歩を進めた。
「…それにしても今日もにぎやかですね。ここ」
「――わかるのかい?」
ええ、と結奈は肯定した。
「小さく、ですが壁の向こうで多くの人々が仕事をしている様子がわかります。機械の駆動音に人が忙しなく歩き回る音、それに……口論もしていますね?」
「……防音設備は完備してるって話だったんだけどね。キミの耳の前じゃ機密も機密じゃなくなりそうだ」
司は溜め息を吐く。無理も無かった。
ここはゴーレムと呼ばれる怪物達と戦う女性達。
当然ながら社外秘の情報も存在し、下手をすれば結奈には筒抜けだ。
――まぁ、彼女もここの一員だし、問題は無い……はずだ!と司は自分に言い聞かせたが。
「それにしても驚きました。まさか目の見えない私に専用のメテルドレスを用意してもらえるだなんて」
「そうかい?ボクとしてはキミのこれまでの戦果を思えば少し遅いくらいだと思うよ?」
そうなのですか?と結奈は返しそりゃそうさ、と司は答えた。
「キミの噂はあちこちで聞いてたからね。初陣での苛烈さや、それ以降のゴーレム撃破数もそうだけど、かの『進撃者』柏木 京佳の作戦に口答えしたうえ、自分の命を顧みず全てを救って見せたエピソードは今でも語り草になってるよ」
「あの時のことですか……あまり良い話ではないんですけどね」
苦い記憶が呼び起こされ、結奈は顔を顰めた。
――
意識を取り戻した結奈の元に一度だけ柏木京佳は訪れ、二三の問答を交わし、その上でお互いに相容れないと確認して別れて以降。結奈は彼女と言葉を交わしたことは無い――
そんな結奈からすれば得の無い苦労話をさも美談であるように語られることもだが、柏木京佳というカリスマエクィテスと対立した結果、彼女の教え子の多くから反感を買っており、地味な嫌がらせを受けている身としては失敗談とも言えた。といっても反省するつもりは無いが。
それに、結奈自身は柏木京佳の強さやゴーレム殲滅への熱意は見習いたいと思ってはいるのだ。
ただ一点。どこまでも致命的に結奈と理念が噛み合わなかった。ただそれだけのことなのだ。
◇◇◇
結奈はただ言われるがままに訓練という名の実験を受け続けた。
最初は音の発生源と自分の距離しかわからず。
二ヶ月続けてようやく反響を把握できるようになり。
三ヶ月目で杖を突いた音の反響で「何か物がある」ことがわかるようになった。
四ヶ月目でおぼろげに像を結び始め。
六ヶ月目でようやく音の反響から正確に物の位置や形を把握できるようになった。
そして一年経つ頃には彼女を中心に200mの半径であれば杖で地面を一突きするか、(余り結奈はやらないが)舌を鳴らすだけで正確に把握するまでに至ったのである。
リハビリに付き合った医者は「奇跡的だ」と喜び。研究者は「貴重なデータだ」と喜んだ。
結奈は、それからすぐに祖父母に頼みこんで初めて、両親の墓参りをした。
結奈は泣いた。泣いて、葬儀に参加しなかったことを詫びた。墓参りにすら来なかったことを謝った。そして、また来ることを墓前で約束した。
第三者が文章にするならただこれだけ、この時の思いは、結奈という少女が胸に抱えるべきものであるが故に。
ただ、一つ言えることがあるとすれば、彼女はこの時、ようやく、両親の死と向き合うことができたのだという事実だけだ。
◇◇◇
司が足を止めた。どうやら目的の場所に着いたようだ。目の前に両開きの扉がある。
彼女が扉をノックすると女性の声で返事があった。司が扉を開けて、さあ、と結奈に入るように促され、結奈はそれに従った。
――ふと、音が聞こえた。音源は目の前、5m先。そこからか細い音がする。それこそ結奈でなければ聞き逃すような、だけど不快感のない音。
結奈は足を踏み出し、その音源へと近づいていく。その音の反響で自分の目の前に遮るものは何もないことを認識しているからだ。
「――ふむ、君のリハビリ研究のデータを見る限り、音を識別できると思っていたが……なるほど問題はなさそうだ」
その音源の傍に立つ人物がそう言った。その声は女性のものだった。
「あなたは?」
「私か、私は
穂ノ村、と名乗った女性はその音源に近寄り、その正体を告げる
「――今ここにある君専用の試作メテルドレス『姫夜叉』開発の責任者だ」
「姫…夜叉」
再度、その魔装に顔を向ける。音源そのものがメテルドレスであるため、正確な形状は把握しにくいが…バイザーと角。そして和装に似た兵装。
それがどういうものなのか正確に把握はできていないが、それでも結奈の声には万感の思いが詰まった。
「これが、私、専用の魔装――私の新たな力」
◇◇◇
墓参りが終わってからの結奈は勉学に励んだ。流石に数学の図形問題や漢字の読み書きは点字や音声朗読の力に頼らなければならず。そのことで盲学校に移るまでの間に通っていた学校でいじめに遭ったがうっとおしいと思いながら全て無視した。
祖父母に頼み込んで様々な武道や武術を習った。目が見えないと手加減しようものなら容赦なく叩き潰すぐらいの気迫で(事実そうした輩は同年代の男女問わず彼女に勝てなかったが)その全てを熟した。一時期、彼女を取り上げるマスコミも居たぐらいだ。
だが、彼女は驕らなかった。これはあくまでも通過点だと淡々と言うだけ。その真意を問われても、彼女は秘密です、とだけ返し続けた。
そうして、その日。結奈の13歳の誕生日は訪れた。
「お爺様、お婆様、お話があります」
そう言って、彼女は切り出した――私は、魔装姫士になる、と。
もちろん祖父母は反対した。祖母は息子と、義理とはいえ娘まで失った。その上、孫娘までゴーレムによって失いたくはないし、危険な目にも遭ってほしくはない。と訴えた。
「私は死にませんよ。エクィテスとしての力を失うその日まで、私は生き続けます。ですが危険は承知の上で、ですけど」
祖父は、復讐など碌でもないことだ。仇のゴーレムは既に倒され、他のゴーレムは次から次へと出てくる。その復讐の道に終わりはない。と諭そうとした。
「これは復讐ではありません。私はただ、怖いのです」
「怖い?何が怖いというのだ」
「無力であることがです、お爺様。無力なまま、誰も助けられないことが私は私自身の死より恐ろしいのです」
祖父母はこの時初めて、医者に言われたある言葉を思い出した。
――サバイバーズギルト。災害や戦争、虐待に遭いながらも生き残った人々が「周りの人が死んだのになぜ自分は生きているのか」という自身の生存そのものに対して覚える罪悪感のことだ。
結奈は自分のやりたいことをずっと一生懸命にやり続けていたしその手助けもした。時には明るく笑う姿も見た。だから、安心してしまっていた。うちの孫娘は目が見えずとも普通に生きていけるのだと。
まさか、こんなことになっていようとは、結奈の祖父母は自分達の考えの甘さを悔やんだ。しかも結奈が取り出した紙とその隣に置かれた名刺には絶句せざるを得ない。
「これ、は……」
「魔装姫士の適性検査の結果です。検査を担当した人曰く『今年度では最高のネフィシュ適性』だったとか」
「こ、こっちの名刺は?」
「私の
祖父は机の上にあるその名刺をひったくり、そして企業名を目にすると大いに慌てた。
「ま、待て!『あやかしや』だと!?やめろ!あそこだけはやめるんだ結奈!」
『あやかしや』
日本フロンティアでも悪名高いメテルドレスの開発企業。かの企業を指して人々は言うのだ「頭がおかしい」と――だが、結奈は淡々と言う。
「お爺様。すでに賽は投げられたのです。例えあの企業の研究者の多くが頭がおかしいと言われていようと、目の見えない私にはあそこ以外に魔装姫士になれる可能性は無いのですから――この意志は変わりません」
そこからも結奈と祖父母は言い争い、とうとう祖父が縄で縛り付けてでも、と縄を持ち出してきた瞬間。結奈は逃げ出した。説得は無駄だった。祖父と祖母が言い合う声が聞こえた。言わなければよかった。秘密にして置けばよかった。それだけが結奈の心にしこりを残した。
◇◇◇
「そのメテルドレス『姫夜叉』の扱いだが、まず装着してくれ、初期設定を行いながら直接君の脳に情報を送る」
穂ノ村の言葉に結奈は大人しく従った。
『あやかしや』では癖の強い兵装や機能を搭載したメテルドレスが多く、本来はVR空間を利用した訓練でメテルドレスの機能の把握を行い、その後現実での訓練を行うことでより早く兵器に慣れるようにしていた。
だがVR世界であってもどういうわけか彼女の視覚は働かない。そこで、負担こそ掛かるが脳に直接情報を送るという荒業に頼るしかなかったのだ。
そして凄まじい酩酊間とともに情報が入ってくる――
――――――――
『姫夜叉』
対ゴーレム拘束兵器搭載型第4世代防衛用メテルドレスの試作機。
ゴーレムを拘束することで被害を少しでも抑え、他機との連携により撃破するというコンセプトの元開発された支援機。
特殊拘束兵装『濡烏』:着物の袖を思わせる兵装。ゴーレム拘束用ネフィシュワイヤー生成機。袖の中からネフィシュをワイヤーに変換したものを多数射出、操作し、ゴーレムを拘束する。
操作方法に
一度に射出できるワイヤーの本数は片腕ごとに10本。両手で20本となっており、伸縮自在かつ切り離しも容易。
最大射程は理論上存在しないが制御可能な射程は個々人の空間把握能力やネフィシュ制御能力の才覚に左右される可能性が高い。長く見積もっても使用者から半径100mが制御限界と推測される。
ネフィシュからワイヤーに変換する効率が悪く、燃費が悪いという欠点があるため、全力での戦闘は上述の予測を含めても20分が限界かと思われる。
――――――――
「―――うっぷ……」
未だに慣れない感覚に結奈は吐き気を催すが胃酸を吐き出すのは寸でのところで抑え込んだ。このあとすぐにでも訓練を行わなければならない。試作機ということもあって情報は少ない。実際に使ってみてデータを増やさなければ、それに実戦では使い物にならない。
しかし、支援機。しかもめぼしい装備は現状『濡れ烏』のみ。射撃はそもそもメテルドレスによる補正を受けられないので苦手だが、なんらかの近接武器は必要だろう。そのことも打診しなければ――だが、穂ノ村がそれに待ったをかけた。
「ふむ、今日はここまでだな」
「い、いえ、次は訓練――」
「代えの効かない貴重なサンプルをこんなところで使い潰すのは研究者として3流だ。無理はしないでくれたまえ」
サンプル――この言葉は結奈にとって聞きなじみとなりつつある。あやかしやに所属する研究者のおよそ半数には所属する魔装姫士を人目も憚らずそう呼んでくる輩が居ることを知っているし、表立ってそう呼ばない人であっても裏では、なんてこともある。
呆れた話だが、それがまかり通ってしまう職場なのだ。ここの社長である大神氏やその一人娘の雫ちゃんがそのことで憤慨する姿を多く目にしているが彼らが反省する様子は無い。しかもそういった連中に限って研究者としての能力が高く手放せないことを結奈は知っていた。
近くで様子を見守る司が、そうした研究者の犠牲者であることも含めて――
「――わかりました。では、今日はここで泊まって、明日にでも訓練とデータを取りましょう」
「……やれやれ、被験者の方がやる気があるとは、恐れ入った。では部屋を用意しよう。君はドレスを解いてそこのベッドで休んでくれ」
わかりました、と答えた結奈は魔装を外し、司に支えられて近くに用意してあったベッドに腰掛けた。用意周到なことですね。そんな皮肉を胸中でこぼし、結奈はベッドに背を預け――そのまま意識を失うように眠った。
――そんな結奈の様子を確認した司が、穂ノ村に声を掛けた。
「――お優しいことだね研究者さん」
「……というと?」
「彼女に与えられるメテルドレス。支援機じゃないか。噂に聞く彼女の自身を顧みない戦場での苛烈さ――死に物狂いさを思えばそれを抑えるのに最適だよね。支援機が前に出るなんて狂気の沙汰だ」
穂ノ村は、沈黙で以って答えた。司は溜め息を吐く。
「まったく、色々と大変だよねこの会社。ボクのドレスに
結奈は知らないだろう。穂ノ村を筆頭に人目を憚らずに魔装姫士をサンプルなどと呼ぶ者たちの目を。彼らはどこまでも真摯に魔装姫士のためを思っている。ここはそういう場所だと伝え、自分のエゴを投げ捨てれず、それでも助けになろうと足掻く
「君のヤタガラスだが…あの兵器のプロテクトが未だに解析できていない。解析できるまで待ってほしい」
「できれば早くお願いしたいね。強くてもあんな欠陥品を長く使ってたら酷いことになりそうだ。ま、紡の医療費を全額負担してもらった上で給料払ってくれてるんだから中々なもんだけどね」
そして、結奈は知らない。彼女が関わらないところで非人道的な兵器を押し付けられた
「まぁ、代わりの何かを搭載すること計画も進行中だがな。ちなみに主導しているのは大神氏だ。少なくとも非人道的にはなるまいよ」
「…え、社長自らって…アレを外してもらうだけで良いんですけど」
そんな司の要望を、穂ノ村はばっさりと切り捨てた。それも、童心に返ったかのように目の輝かせて。
「それはもったいないだろう。あれだけかっこいい機体だ。ならカッコイイ機能があってこそじゃないか」
ああ、そうだった、と司は頭を痛めた。 ここはあやかしや。メテルドレスに妙なロマンやエゴを押し付ける
「……せ、せめて使いやすい機能でお願いしますよ……ハァ、いつになったらボクのヤタガラスが帰って来るんだか」
二人の会話はそれで終わり、二人は部屋を出て行った。
司は愛する妹の居る病院にお見舞いに行くために、穂ノ村は結奈が泊まる部屋を準備するために。
結奈はそんな二人のことすら知らずに眠っていたのだった。
◇◇◇
――君はなんで魔装姫士に?やっぱり両親の敵討ち?
魔装姫士になる。そう決めて家を出た結奈が魔装姫士統括局での面接時に、面接官となった魔装姫士から聞かれたことだった。
結奈は、敵討ち、という言葉に首を傾げる。はて?なぜそのような理由になるのだろうか?
――いや、君みたいに家族を殺された子がね、ゴーレムに復讐しようと魔装姫士になるって例はあまり珍しくないんだよね。だから君もそうなのかな?って。でも、違うのか。じゃあ、どうしてなのかな?
その時、結奈は正直に言うべきか悩んだ。正直に話したことで最終的に祖父母は喧嘩を始めてしまった。また同じ轍を踏むのは――
――まぁ、君のお爺様とお婆様から大体の話はもう聞いてるんだけどね。
聞いてたのか。じゃあなんで自分も聞かれたのか。そのことを少し拗ねながら聞くと、面接官の女性は苦笑いをこぼした。
――ごめんごめん、だけど二人も大慌てでね。君を魔装姫士にするな!って大騒ぎしてたんだ。まぁ、魔装姫士って死と隣り合わせだし、30歳の力を失う時まで生き残ってるのって極少数なのよ。だから私が君のお爺様とお婆様から聞いた理由と『あやかしや』からの推薦状だけじゃちょっとね。
そうか、そういうことか。つまり
「……私、あの日が来る前にもニュースでゴーレムから被害を受けたって話や、同じクラスの子がゴーレムの所為でお爺さんが亡くなったって話を聞いても、何も感じなかったんです。どうせ他人事だから、って」
面接官は結奈に続きを話すように促した。
――続き、話してもらえる?
「でも、あの日が来て、何もかもが変わっちゃったんです。怖かった。すごく、怖かった。お父さんが殺されて、お母さんは食べられて、それが怖くてしょうがなかった――そして目が覚めて、目が見えなくなって……時間だけは一杯あったから、他人事だと思っていたことの当事者になって、いろいろと考えました。そんな時、私の目は治せないというお話を聞いて、そのままでも暮らせるように訓練すると言われて、そして私の耳がよくなってることがわかって。また別の訓練をするようになりました」
面接官は何も言わなかった。何も言わずに先を促した。
「その訓練を聞いたとき、わくわくしていました。目を使わなくても物がわかるようになる訓練だなんて。まるで超能力者みたいだ!ってはしゃいだんです。両親が死んで数日足らずで――お父さんもお母さんも忙しくていつも居ないのが当たり前だったから、両親が死んだのは夢だろうって思いたかったんだと思います」
だけど、と、結奈は一度、言葉を切った。
「訓練を続けて一年。一年も経てば、否が応でも居ないんだって理解しちゃいます――だから墓参りに行きました。お爺様とお婆様に頼んで。それで、泣いて謝りました、泣いてさよならを言って、泣いて、また、来るって言って――その時、他の場所でもすすり泣く声が聞こえました」
その時初めて結奈の声が震えた。
「女の子の声でした。私が居た場所の少し奥。そこにある墓前で彼女は泣いていて、私は、私の置かれた状況が誰にでも降りかかるものだと知りました。知って・・・恐ろしくなりました。あんな目に遭うのが当たり前だなんてそんなの怖いです!悲しいです!腹立たしいです!だから・・・!」
そこで、結奈はすみませんと謝った。興奮しすぎだと。面接官は大丈夫、と言った。結奈は締めくくる。
「私はゴーレムの所為でそんな目に遭う人がいるのが怖くてたまらない。そう思うようになりました。だけど、ゴーレムは居なくならないし、私みたいな目に遭う人が居なくなるなんてことはありえない。考えました。考えて考えて、考え抜いて――思いついたんです」
――それは、なんだったの?
「守り抜けばいいんです。そんな目に遭う人たちが、そんな目に遭わないように、ゴーレムから守り抜けばいい。でもそんなことが出来るのは魔装姫士だけです。だから祈りました。私に適正があってほしい…それだけを願っていました」
――……なるほどね。それが理由かぁ。
はい、と結奈は肯定した。返事は無かった。
なにやら、面接官の女性が唸っている。
――惜しいなぁ・・・うん、実に惜しい。
そんな呟きに、ダメだったのか、と結奈は気を落として――あやかしやに渡すのが本当にもったいないなぁ――という面接官の呟きを聞いた。
え、と顔を上げる。面接官の女性は続けた。
――正直、目が見えないってことがなかったら私の伝で政府直属になれるように掛け合ってるね。ネフィシュ制御能力も中々のモンだし。
「じゃ、じゃあ」
「うん、合格。そういう考え、私、嫌いじゃないよ。だから君のお爺ちゃんとお婆ちゃんの説得は私も一緒に行ってあげる」
結奈は泣いた。嬉しかった。認めてもらえた。現役の魔装姫士に。お礼を言おうとして――ふと、手がそれを制していた。
「まずは、君のお爺ちゃんとお婆ちゃんの説得だね!やー大仕事だ!」
「あ、あの!」
ん?と首を傾げた面接官に結奈は問いかけた。
「あなたの、名前は?」
「あ、私?ってそうか、ここに置いた名札は見えないか、ごめんごめん、自己紹介が先だったね」
そういった面接官は悪戯っぽく笑ってみせた――結奈にはそんな風に感じられた。
「私は柴田愛弓!君たち、新しく魔装姫士になる子たちのお姉ちゃんだよ」
◇◇◇
結奈がメテルドレス『姫夜叉』を受領した翌日、あやかしやの演習場では――
「な、な!なんですかこれぇぇぇぇ!?」
――『濡れ烏』のワイヤーで雁字搦めになった結奈の姿があった。
「これは…………習熟にはだいぶ掛かりそうだな……」
穂ノ村は自縄自縛(物理)に陥った結奈の姿を見て仮設定していた訓練カリキュラムの予定を二ヶ月から半年に書き換えたのであった。
今回は千寿結奈という少女のバックボーンを紹介。戦闘に関しては・・・その、また今度に。
◇今回の登場人物の紹介
・千寿 結奈
ゴーレムの襲撃により全盲となった少女。ゴーレムによる悲劇をなくすために奔走する魔装姫士。あやかしや所属。原作では17歳ですが、この話は11歳~15歳の頃のお話をさっくりとまとめています。
・鏡音 司
あやかしやに所属する結奈の一つ上の先輩魔装姫士。中世的な容姿から小さい頃からいじめを受け、どうこうしようとするうちにいわゆる男装の麗人になってしまった女性。だけど実は・・・。
・桂木京佳
名前だけの登場。原作者様オリジナルキャラ。原作主人公『篠宮天音』の師となる人物です。
印象は上記本編にもありますが、結奈とは一生わかりあえない人物。彼女の詳しいことは原作で!
・柴田愛弓
面接官として登場。原作者様オリジナルキャラ。
実は、結奈を面接させることまでは考えていたんですが相手を名前もない人物にするかすごく悩みました。オリジナルキャラを増やすのはちょっとなぁ・・・と。
ふと、そんな時に彼女の存在を思い出した訳です。
彼女の詳しいことは原作で!
・穂ノ村千歳(ホノムラ チトセ)
私、踊り虫考案のオリジナルキャラ。あやかしや所属の魔装姫士にして研究員であり、結奈のメテルドレス『姫夜叉』の開発責任者。
なお、原作の時点では研究に没頭する余り魔装姫士としての職務を疎かにしたことでライセンスが剥奪されてるという裏設定が。
◇今後の更新
本編の進み方次第ですが、まずは結奈の魔装姫士としての過去。つまり原作に至るまでを書いていく予定です。
次は魔装姫士になって初めての初陣。結奈が13歳のときのお話になります。