魔装姫士アマネ外伝~魔装姫士ユイナ   作:踊り虫

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結奈の過去編、第二弾。
タイトルに初陣その1、とあるとおり初陣までの導入部です。戦闘は次回から。

それと、今回は原作投稿キャラのお一人、あやかしや社長令嬢、大神雫さんをお借りしております。
赤い人さん。使用許可をいただきまして感謝の極みです!

今回は結奈と雫の出会い、という部分も勝手に考えて描かれています。


初陣その1

 初陣。

 

 それは当事者にとって大きな意味を持つものだ。魔装姫士であれそれは変わらない。

 己の正義を信じる者、仇を定め憎悪を募らせる者、死の恐怖と争う者、慢心に溺れる者。

 

 いずれにしろ、戦場で初めてゴーレムと向き合う時、魔装姫士は試されるのだ。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 あやかしや、第二メテルドレス演習場。

 東京区内にある『あやかしや東京支社』に併設されている『あやかしや』所属魔装姫士専用の演習施設だ。

 他社や統括局直営の場所と比べて規模は小さいものの、あやかしや製の第三世代機を練習のために貸し出してもらえる施設となっている。

 

 そこに、魔装姫士となるための訓練課程を終え、晴れて魔装姫士となった結奈の姿があった。

 

 纏うのはあやかしや製の第三世代メテルドレス『かまいたち』。

 獣毛のような肩当や腰巻のなど一見するとメテルドレスらしからぬ装飾の目立つ魔装だ。なんでも、日本の伝承に伝わる妖怪、かまいたちをモチーフとしているらしい。

 その名に恥じない機動力、特に小回りの利く()()()()()()()()軽装型らしいメテルドレス……なのだが、専用の武装が一癖あった。

 

 大鎌である。それも今では古典作品と呼ばれる類のアニメや小説に登場しそうな刃と柄の比重を無視した大きさの物だった。

 

 名を『イチノタチ』

 結奈が聞いた所、刃の部分にネフィシュを纏わせてゴーレムを切ると傷口にネフィシュが残留して傷を拡げるという代物らしいのだが、その機能を使うだけでもそれなりのネフィシュ適性値が必要な上に、付随させる機構が大型化、しかも製作者の趣味で鎌の形状になってしまった武装なんだとか。

 

 この機体を愛用していた魔装姫士は、刃に纏わせたネフィシュを飛ぶ斬撃として使い、多くの研究者を歓喜させたとかいう与太話もついでとばかりに聞かされた。まぁ、ネフィシュの密度が足りず、中型ゴーレムの表皮に傷をつける程度のものだったそうだが。

 

 常識的な魔装姫士ならば初見でその扱い難いであろうことに顔をしかめる()()を、馬力面で問題のある『かまいたち』に持たせるという暴挙に出てしまっている。

「馬鹿か!?馬鹿なんだな!?そうだよここ頭のおかしい人が多いんだったよ!」という感想を抱かれるのは一度や二度どころか両手両足の総数すら当の昔に超えている。

 そもそもこれ、太刀じゃないよね?というツッコミはもはや忘れ去られた。

 

 しかし、この時の結奈は違った。その鎌を認識した時に「カッコイイ」と目を輝かせたのだ。わざわざ馬力の無い機体に持たせている、という点に顔はしかめても、その武器は気に入ってしまったのである。

 結奈には間違いなく『あやかしや』でやっていける素養があるのだろう。この説明を行った技師は「そうだろうそうだろう!」と喜んでいた。

 

 閑話休題。

 

 なんだかんだで今でも愛用する人はいるらしい魔装を自主練習の為にと借り受け、大鎌を振り回していた。

 周囲に人は居ないことは確認済み、ネフィシュを使った機能は切ってある。振り回しても刃が飛ぶなんて惨事にはなるまい。

 

「っ――ふっ!、はっ!」

 

 重い、というか重心のバランスが悪いその大鎌を結奈は苦心しながらも振るう。

 いや、武器を振り回す、という次元ではなかった。もはや、武器に振り回されているという表現の方が合っていた。小さい子供がおもちゃを振り回すような稚拙さ、と言えばわかるだろうか。

 ただ、習い事の関係か、振るう際の掛け声だけは堂に入っていた。

 

 無理も無い。彼女が武術や武道に力を入れ始めたのは一年前からだ。彼女自身のやる気もあってめきめきと上達はしたが、僅か一年そこらでこんな武器を扱えるようになるわけも無し。むしろメテルドレスというパワードスーツ込みとはいえ初めて使用して振り回されるレベルでも大した物だった。

 

 結奈は振るう。もう一回、もう一回、と振り回す。どう振るえば綺麗に刃を突き立てることができるのか。どう振るえばスムーズに振り回せるのか――どう振るえば、ゴーレムを断ち切れるのか。

 それ以外の雑念を切り捨て、ただひたすらに振るう。

 

 その時点で彼女は大量の汗を掻いていた。

 大鎌を振り始めてから既に30分。馬力の足りない機体でこれだけ振り回していればそうなるのも当然だったが、その不快感すら雑念として切捨てる。

 

 

 全てはゴーレムを倒す術を得るために――

 

 

 ――ふと、結奈がその動きを止めた。

 足音だ。この演習場へ足音が近づいてくる。おそらく大人のものではない。同じ魔装姫士だろうか?

 

 入り口に顔を向けると扉が開いた――結奈は迷うことなく鎌の柄。石突の部分で床を強く突く。甲高い音が響いた。反響定位のために音を鳴らしたのだ。

 

 反響を頼りに相手の正確な距離、背丈、輪郭を結奈は把握した。結奈自身も小柄なほうだが、入ってきた人物は更に小柄だ。少なくとも、同い年ではない。

 それと、その人物の驚いた声が聞こえた。おそらく少女だ。悪いことをした。

 汗に濡れて張り付いた髪の毛をどけて手で汗を拭うと、入ってきた少女に声を掛けた。

 

「――驚かせてしまってごめんなさい。私はここ、あやかしやの魔装姫士になった新人の千寿結奈です……あなたは?」

 

 そう訊ねると、少女は、腰に両手を当てた。心なしかふんぞり返っているような気がする。

 

「これはご丁寧に!私は『あやかしや』社長の娘!大神雫ですわ!」

 

 社長の娘、という言葉に結奈は聞き覚えがあった。

 若くして『あやかしや』を立ち上げメテルドレス研究開発企業として一定の成果を上げるにまで企業を引っ張り続けている英傑、大神(おおがみ)氏には似ても似つかぬお転婆な一人娘がいて、彼女を目に入れても痛くないとばかりに溺愛しており、よく会社に遊びに来るんだとか。この少女がそうらしい。

 

 ――社長令嬢を驚かせてしまった。結奈は顔を蒼くした。

 

「す、すみません!まさかお嬢様だとは思っていなくて!え、えええっとぉぉぉ!?」

 

 結奈はうろたえた。当然だ。社長の親族を害してしまった。この子が父親にそのことを言えば間違いなく自分は――やばい、初陣すらまだなのに追い出されかねない。だが、どうしたものか冷静さの欠けた状況では何も思い浮かばないので、

 

「――指を詰めます!」

 

 イチノタチの刃に指を添えた。

 

「何がどうしてそうなりますの!?」

「せ、せせせ責任を、とととと!」

「怖い!この人怖い!落ち着いてくださいな!なんでそんなに慌ててるんですか!」

「だ、だって!社長の親族を怯えさせ――」

「そんな理由で指を切られる方が恐いですわ!そんなスプラッター望んでませんし!」

「え、でもお爺様が責任を取る時は指を――」

「お爺様はヤのつく人ですの!?」

「失礼な!お爺様はそんな反社会的な活動はしてません!」

「逆切れ!?なんで私が怒られてますの!?」

 

 ――結奈の祖父、円蔵。趣味は任侠モノ映画の視聴である。

 

「ですが指は無しですし、そもそも結奈センパイにそんな態度をされたら悲しいですわ!」

 

 センパイ、と唐突にそう呼ばれ、結奈はピタリ、と止まった。結奈は学校に通っているが、それは2800年代の今では少なくなった盲学校である。大神社長の娘が視覚障害者だという話は結奈の耳をして聞いたことが無かった。

 ――少しばかり思考を巡らせ、自分が先ほどなんと名乗ったのか思い至るのに時間は掛からなかった。

 

「えっと……もしかして魔装姫士志望なんですか?」

「ええ!私も13歳になり次第、魔装姫士になるつもりですの!ですからあなたは私の先輩なのですわ!」

 

 そう、嬉しそうに語る雫の姿を見て、なるほど、と結奈は思った。その理論で言えば自分は彼女の先輩となるのは間違いない。

 そしてこれまでの自分の行動を思い返し、恥ずかしくなってイチノタチを背中に隠そうとした。しかし残念。イチノタチは結奈の背丈を越える。まったく隠せていないのだがそれに気付かない結奈であった。

 

「すみません、大神さ――」

「雫ちゃん、と呼んで下さいな」

「……では雫さん、と」

 

 悪戯っぽく言う少女の言は無視するわけにもいかず、とりあえず訂正する。今日初めて会う少女であり、しかも創業者の家族。無礼のないように振舞うのは当然だ。

 なので名前にさんを付けるというのは結奈なりの妥協点である。

 

 肝心のお相手はご不満のようだが。

 

「むぅ…皆さん私のことは親しみを込めて雫ちゃん、と呼んでくださるのに…私、あなたの後輩ですのよ?」

「それ以前に私のことを雇ってくださったお方の娘さんですから」

「……お父様のことを言わなければ良かったかもしれませんわね」

「その場合、部外者として警備に突き出していたかもしれないのですが……」

「グッジョブです私!」

 

 確かにグッジョブだ。結奈が彼女を社長令嬢と知らず警備に突き出すなんていう赤っ恥を掻くことを未然に防いだという意味で、本当に良かった、と結奈は安堵の息を吐く。

 

 そうじゃない話が脱線している。

 そもそも、なぜ彼女がここに来たのか聞きたかったのだ

 

「雫さんはどうしてここに?」

「あなたに会いに来ましたの!」

 

 結奈は困惑した。その答えは結奈の想像の範囲外だった。社長令嬢が自分にわざわざ会うために出向く理由が全然わからない。

 

 だが、雫の声は自分に会えたことへの喜びに満ちていて、そこまで嬉しそうに言われてしまうとむず痒いものがあった。

 だから、そんな嬉しそうに言う雫に、困惑していた結奈も釣られて微笑んでしまったのは何も問題ないはずだ。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 メテルドレスをガレージに戻してシャワーを浴び、服を着替えた結奈を連れて、雫は最寄の休憩スペースに来ていた。そこなら落ち着いて話も出来る、という雫の言葉を結奈が受け入れたのだ。

 そこは研究開発の区画から少し離れている為、極稀にしか使われない場所。雫にとっての秘密基地もどきの一つだ。

 

 休憩所に到着すると、近くの自販機から飲み物を買ってきて欲しい、と結奈から小銭を渡された。自分の分も買って良いらしい。雫は素直に小銭を預かった。

 

 ――目の見えない少女が魔装姫士として『あやかしや(うち)』に入った、という噂はすでに雫の耳に入っていた。

 

 であれば自販機から飲み物を買うことにも難儀するだろう。医療技術が発展した今の時代、視覚障害者は極々僅かだ。自販機に点字や音声案内といった物を付ける義務は無くなって長く経つ、とかなんとか。

 

 とりあえず運動の後、ということもあるので結奈にはスポーツドリンクを、雫はとりあえずオレンジジュースを選んだ。

 

「ありがとうございます雫さん」

「いえいえお安い御用ですわ!」

 

 スポーツドリンクを渡すと、結奈は手探りでキャップの位置を探し、そして手馴れた手つきで開けると、ごくごく、と飲み始めた。

 そういえば演習場での彼女は汗だくだった。よほど喉が渇いていたと見える。そんな目上の少女の姿を、雫は微笑ましく見ていた。

 

 彼女がペットボトルの半分を一息に飲んで口を離して「ふぅ」と息を吐いたところでふと思う。

 こういう時はなんと言うのだったか…と雫は考え、そして一つ思い至った。

 

「いい飲みっぷりですわね!」

 

 うぐっ、と結奈は言葉を詰まらせた。こちらに顔を向けると何かを言おうとしては考えるような仕草を見せたり、と思えば頬を赤くしたりと忙しない。表情豊かだが、なぜ喜んでくれないのだろうか?

 

「あの…その言葉はどこで覚えたのです?」

「宴会でですわ!お父様が一気飲みしたときにそんなことを言っていましたの!」

 

 あの時はすごく盛り上がっていた。自分以外が酒臭くなったことや翌日になったら二日酔いになっていてその面倒を見るハメになったことを除けばとても楽しい時間だった、

 だが、それを聞いた結奈の様子が少しおかしい。そのことを訊ねると、

 

「いえ、そういえば社長はあなたを溺愛しているという話を思い出しまして…本当に愛されてますね」

 

 答えになっていない言葉で返された。

 どこか遠くの物を見るかのように、結奈はそう言った。

 その理由も感覚も、今の雫にはわからない。だが、何やら家族のことが彼女の琴線に触れたことだけは予想できた。

 

 ならば、話題をずらさなければ、そこで思いついたのは、

 

「それにしても、結奈先輩はなんでわざわざここに?」

 

 こんな話題だった。

 というのも、先ほどまで使っていた東京支社の演習場、実はあまり使われていない。

 魔装姫士の大半は設備の充実している統括局直営の演習場を使うことが多いのだ。なお、本社の演習場は演習場というよりも試作機のデータ取りを行うための実験場としての側面が強いので除外する。

 

 それはそれとして、事実、今日は休日だというのに結奈以外の魔装姫士の姿はどこにも無かった。

 だからこそ、なぜここなのか――結奈は言う。ここは、静かだからだ、と。

 

「静かだから、ですの?」

「ええ、私、大きい音が苦手で、あそこは魔装同士での模擬戦も行いますから、どうしても訓練に身が入らないんです。それにここなら出撃もできますから、いざという時に対応できますし」

 

 ほぇー、と雫は結奈を見た。すごく真面目だ。少なくとも雫はそこまで考えていない。だから、勉強になるなぁ、と素直に感心した。

 

「結奈先輩は真面目ですのね」

 

 だが、結奈は首を振り私はまだまだだ、と言った。

 

「出来れば毎日シフトを入れたいのですが…目のことを理由に断られてしまいまして――出撃するチャンスを逃したくないので習い事の日を除いて毎日来るようにしているのですが…儘ならないものです」

 

 雫は驚いた。大神雫はまだ9歳の小学生だがそれでもわかることはある。

 

 自分だったら放課後や休日は友達と遊んだり家でだらだらしたりもしたい。気まぐれにあやかしやでに遊びに来るのも良い。アニメや映画を見るのも悪くないだろう。

 そうした適度な娯楽は心の保養になるのだと、父は言っていた。

 だが、目の前の先輩は習い事の日以外、放課後はおろか、休みの日にも毎日ここに来ていたという。

 

「習い事は何を?」

「戦場に出るので、武器をある程度扱えるようにと祖父から紹介してもらった道場で剣と薙刀を少々。実戦で役立つかと聞かれると心許ないですが。知らぬよりはマシでしょう?」

 

 そんなことを言って微笑む目の前の少女に対し、雫は恐怖すら覚えた。

 普段からここで訓練しているにも関わらず、それだけでは飽き足らず、戦うための(すべ)を求める――それを、年頃の少女が自ら行っている。

 

 これではまるで、魔装姫士以外の生き方を捨てているようではないか。

 そんなのは嫌だ、と雫は思う。確かに自分は魔装姫士になりたいと思っているが、ただそれだけの為に邁進する様な生活は地獄とそう変わらない。

 

 今、この場で気付いてもらわなければならない――そうした認識すらも実は()()()()()()が残っているのだが――そんなことを考える大神雫、9歳であった。

 

「……た、たとえばですけど、他の方が非番の日も訓練をしていたらどう思います?」

「頑張ってるなぁ、と。ですが無理はしないようにして欲しいですね。体調管理第一です」

「それをあなたが言いますか……いえ、首を傾げられても」

 

 可愛らしく首を傾げた結奈に対し、アカン、この人、早くどうにかしないと、と雫は思った。

 そんな雫の様子が、どうやら結奈にも伝わったらしい。なにやら思案すると、

 

「あ、私は大丈夫ですよ?したいことをしてるだけですし、体調管理もバッチリです!それにあやかしやさんのメテルドレスってかっこいいから、こう、早く実戦で使ってみたいな~って思うとどうしても今日みたいに特訓したくなっちゃうんですよ」

 

 なんてことを言い出した。

 

「――っ!」

 

 いや、そういう問題ではない、ともう少し成長した雫であれば、苦言を呈しただろう。

 だが残念、ここにいるのは9歳の大神雫である。

 

「わかりますわ!あのお馬鹿さんたち、本当にいい仕事しますわよね!」

 

『頭がおかしい』と言われ続ける企業でも、雫にとっては大好きな父の会社だ。その研究成果を褒めて貰えて嬉しくないはずがない。

 これがただの社交辞令であっても雫は喜んだだろうが、その実、結奈のそれは社交辞令でもなんでもない事実だった。

 

「ですよね!今日使った『かまいたち』の鎌、『イチノタチ』!あれを十全に使いこなせたらカッコイイと思いませんか!?」

 

 ――この時の結奈はいわゆる中二心を持っていたのである!

 

「ええ、ええ、ええ!でしたら今度はこちらの――」

「まぁ!今度お願いしてみませんと!」

 

 まぁ、こうして初めて会った少女達は交友を深めていったのである。楽しんでいるようならそれでいいだろう。

 

「そうだ!今度私たちで考えた機能や武装の案を研究室に持ち込んでみませんこと?ほら、出来たものは結奈先輩が試しに使ってみればいいですし!」

「すっごい面白そうですね!やりましょう!」

 

 本人達が楽しんでいるだけに済まないのがこの二人だったが、この際、深く考えてはいけない。しかもこの時の約束の所為で結構な苦労をするはめになるのだが、二人は知る由も無い。

 

「「――!!」」

 

 けたたましいサイレン。ゴーレム襲来の合図が社内に響き渡ったのはそんな時だった。

 

 ◇◇◇

 

 あやかしやブリーフィングルーム

 そこに、なぜか非番であるはずの結奈が呼び出されていた。なぜ呼び出されたのか、という疑問はあるが、それでも待ちに待った初陣だ。結奈は緊張した面持ちで他に人が来るのを待った。

 

 ふと、人が入ってきた。人数は二人。ここに来たということは間違いない。結奈は立ち上がって頭を下げる。

 

「先輩方!至らないところはあると思いますがよろしくお願いします!」

 

 そんな結奈の言葉に、二人は苦笑した。何かおかしなことを言っただろうか?

 

「元気なのはいいけどよ。カタッ苦しいな、少し前のアキトみてぇ」

「少し前って…アズサさん、あれからもう2年経ってますけど?」

「こまけぇこと言うんじゃねぇよ」

 

 完全に蚊帳の外で言い合う二人だった。そもそも片方は男性だったらしい。

 

「あ、あのう」

「ああ、悪い悪い、色々と懐かしくてな。気にしないでくれ」

「は、はぁ」

 

 その後、どこか男らしい口調の女性は支倉(はせくら)(あずさ)、もう一人は男性で支倉のオペレーターを務める雁旗(かりはた)彰人(あきと)と名乗った。

 今回はこの二人と協力するらしい。先輩が同伴とは心強い。

 そんなことを思っていると、支倉がこんなことを言ってきた。

 

「しっかし、非番だってのに訓練してるたぁ、オマエさんも真面目だねぇ」

 

 真面目、という言葉は先ほど雫にも言われたが、そんなことは無い。自分はただやりたいことをやっているだけだ――だが、先輩がそう言ってくれたのを否定するわけにもいかないだろう。

 

「ありがとうございます。私も先輩方に負けないように頑張ります」

 

 なので無難な返事に留めておいた。

 だが支倉はむしろ困ったように頬を掻いた。なぜか雁旗もあーだのうーだの唸っている。

 

「あ、いや、褒めたんじゃなくてな……まったく、あやかしやに来るのはこんな奴ばっかか?」

「鏡音さんは少し違うと思いますよ?」

「あいつはあいつで重いもん背負(しょ)ってるじゃねぇか…ってそういう問題じゃねぇな、とりあえず肩の力を抜けよ新人。力みすぎると勝てるモンも勝てねぇぞ?」

 

 そう見えるのだろうか?と、結奈は驚いた。

 体の力みすぎは体の動きを縛り、心の力みすぎは視野が狭くなる、というのは習い事の中で教えられたことだったから知っている。だから常に自然体で力み過ぎず、緩め過ぎずを意識していたのだが、やはり自分は未熟ならしい。

 

 そのことを教えてくれた先輩に感謝すると同時に、今すぐそう出来ない自分に歯がゆく思いつつ、こう、返した。

 

「…はい、えっと、頑張ってみます」

 

 結奈の答えに、ポカン、とした顔を支倉は浮かべ、そして雁旗は頭を抱えた。

 

「……クハハハ!そこでどもるな頑張るなっての!」

「はぁ……」

 

 ミーティングルームには笑う支倉と、呆れたように自分と支倉を見やる雁旗、そして困惑する結奈の三者。ここにもう一名、結奈のオペレーターを務めた人物が彼女の初陣に関わるあやかしやの人間である――

 

「先ほど振りですわね結奈先輩!今回先輩のオペレートをする大神雫ですわ!」

 

 ――というか、先ほど別れたばかりの社長令嬢だった。

 

 

 確か、自分の担当オペレーターは緋金(ひかね)さんなる新人オペレーターだったような…とか、9歳の少女に何をやらせてるんだこの会社は、とか…色々と疑問点などは残るが、ひとまずそれは脇に置いておくことにした。というのも――

 

「疑問にお答えしたいところですが、今回は時間がございません。細かいことは出撃中にでも説明しますわ。雁旗さん、説明を」

 

 ――と、このように有無も言わせぬ口調で雫が言ったからだ。しかも時間が無い、とも。自分が呼ばれたのもそれ相応の理由があるらしい。

 

「わかったよ雫ちゃん、では、説明に入ります。――場所は東京北区、発生したゴーレムの数は四体、全て中型種でしたが、うち2体は殲滅。残り2体のうち一体は姿が視認できず、もう一体はあまりにも強固故に倒しきれないとのことでした」

「戦闘中の部隊ってのはどこの人員なんだ?」

 

 支倉の質問に雁旗は端的に答えた。

 

「スペリオルインダストリー所属が4名、政府所属が2名。いずれもベテランだ」

 

 ――それはおかしい、と結奈は思った。

 

 かつて、メテルドレスが第一から第二世代の頃は、中型ゴーレム一体に十数機の魔装姫士で対処しなければならなかった時代があったと聞くが、第三世代になってから劇的に性能が向上し、中型一体相手なら1~2名で十分事足りると聞いていた。更に、第四世代機が排出され始めた現代ではより戦力が充実し始めている。

 

 それが、ベテラン達が数の有利を取った上で救援を求めるとは、どういう事態なのか。本当に相手は中型ゴーレムなのだろうか?

 

「苦戦している理由ですが、その残った個体が特殊な能力を持っている、と報告されています」

 

 特殊な能力、と聞いて結奈は顔を顰めた。ここ近年になってから特殊な能力を持つゴーレムが稀に出現するようになったという話を結奈は簡単にだが耳にしていた。

 まさか初陣の相手がそのような強敵とは思ってもいなかった。

 不安を覚える結奈の隣で支倉が問う。

 

「能力持ちか、で、どんな能力だ?」

「逃走中の個体は高性能のステルス能力を持っているようです。原理は不明。こいつに不意打ちを受けてスペリオル・インダストリーの魔装姫士が一名負傷しました。命に別状は無いですが撤退しています」

 

 視覚で認識できなくなるステルス迷彩持ち。

 目に見えないが故に移動の痕跡を辿るしかないが、下手に深追いすれば返り討ちにされかねない。だが、戦域を離脱されようものなら民間人への被害は免れない相手だ。

 

「しかももう一体はメテルドレスのセンサー類を使用できなくするジャミング能力を持っているようでして、射撃時の照準補助機能が麻痺している上に、センサー類も機能しないと報告を受けています。幸いなことに攻撃能力が低いおかげでこの個体からの攻撃を気にせずに済みましたが、代わりに強固な外殻で攻撃が弾かれてしまう、とか」

「なるほどな、すっげぇ相性の良い二体ってわけだ」

 

 ステルス能力持ちを捕捉できる可能性のあるセンサー類を使えなくするジャミング能力で支援し、ジャミング能力持ちは攻撃に耐え抜き、ステルス持ちが奇襲をかけて魔装姫士を殺す。

 確かにこの2体は相性が良い。こちらにとって嫌な連係プレイだ。

 

「なら、堅物はオレの獲物だ。()()()()で叩き潰してやるよ」

 

 支倉はそう言って不敵な笑みを浮かべ――

 

「――で?新人はオレの手伝いか?」

 

 こちらを見ながら、問いを投げた。

 確かに攻撃性の低い個体が相手なら新人を見学という形で連れて行くのも一つの手だろう。先輩が戦っている周辺を見回ってステルス持ちの奇襲に備えるのも悪くない。

 結奈の意志として人任せにすることは不本意だが、この先輩と即席で連携が出来るのかと聞かれると無理だと即答せざるを得ない。

 

 故に、今回の経験が次のゴーレムの駆逐に繋がるのなら――そう考えて納得しようとした時だった

 

「いや、彼女はステルス能力持ちの捜索に加わってもらう」

「……へ?」

 

 雁旗の言葉に、支倉は呆けたような声を出した。結奈は首を傾げた。

 だが、両者の胸中は同じことを考えていた。何を言ってるんだこの人は、と。

 

「オイ、アキト、新人になんでそんな並の魔装姫士ですら梃子摺る相手の捜索をさせるんだよ!コイツが死んじまったらどうすんだ!」

「落ち着いてアズサさん!ちゃんと理由はあるんだ!むしろ今回に関しては()()()()()()()()()()()()()()

「要ってなんだ!新人に何をやらせようって――「えい!」ひゃあっ!?」

 

 支倉が突然上げた悲鳴に結奈は困惑した。今、何が起きたのか、目の見えない結奈にはわからない。

 だが、今、何かがひらり、とめくりあがったような音が聞こえた気が――ハッ!?

 まさかめくったのか!彼女の履くスカートを!

 

「し、雫ぅ!て、てめ!」

「落ち着いてくださいな、時間が無いのですわ」

 

 雫の言葉に支倉はぐぐぐっと呻いていた。だが、まだ治まる様子は無い。なので、結奈も声を掛けた。

 

「先輩、ここは話を最後まで聞きましょう」

「うぐぐぐぐぐ……後で覚えてろよ雫……アキト、説明」

 

 そう言って、支倉は一端矛を収め、またスカートをめくられたくないからか、椅子に座った。

 雫がくすくすと隠れて笑っているのだがそこは言わないでおくことにした。

 そして、雁旗はこほん、と咳を一つ。

 

「色々と懸念はあるかもしれないけど、簡単に言うよ。結奈ちゃん、君の耳を借りたい」

 

 そう、言われ、そういうことかと納得した。

 ステルス能力。目に見えなくなる能力。ジャミングによるメテルドレスのセンサー類の不調。

 そんなもの、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 懸念はあるが、それでも結奈を試す理由になる。

 

「耳?なんだよ新人。オマエ、なんか特技でも――」

 

 結奈の事情を知らない支倉は結奈に話しかけようとして――背筋を凍らせた。雫は怖気に襲われ一歩後ずさり、事情を聞いていた雁旗は顔を伏せた。

 

「それはつまり、もう一体は私の獲物と認識してよろしいのですね?」

 

 ――のちにその時のことを三人はこう語る。彼女の纏う空気が変わった、と。

 

「ああ、その通りだ。今回は君の耳だけが頼りです、千寿さん」

 

 結奈は微笑む――盲目の眼を爛々と輝かせて。

 

「ええ、見敵駆逐――見つけ次第、ゴーレムを殲滅します」

 

 これが、結奈の初陣。

 その始まりだった。




登場人物紹介
・大神雫
あやかしや社長令嬢。色々と裏が存在する少女。
原作本編では登場はまだまだ先になるものの本作では9歳の少女の姿で登場していただきました。
結奈との出会いに加え、初陣のオペレーターとして彼女を起用させていただいております。

今回新たに登場したオリキャラ2名に関してはまた今度、解説します。


肝心の戦闘は次回からとなります。遅筆ゆえ更新日は未定。1週間では足りない気がします。
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