今回、新たに2名の投稿キャラを許可を頂き、登場していただいております。
パインさん、雪兎さん、ご許可頂き感謝します。
では、本編をどうぞ!
※追記
2019/5/15:描写や台詞の加筆修正。
飛ぶ、飛ぶ、飛ぶ。
あやかしや第三世代メテルドレス『かまいたち』をその身に纏い、結奈は空を翔ける。
目が見えない結奈のために、支倉梓が先を行き、オペレートをする大神雫がコースを修正した。
雫の指示は幼い年齢を感じさせないもので、結奈は驚いた。
出撃前に支倉と雁旗から「雫は多才だ」「彼女ならまぁ、若手のオペレーターより頼りになるだろうね」という太鼓判を押され、当の雫本人はすごく照れていたが、それも身内びいきだと思っていたのだ。現在進行形でキーボードを凄まじい速度で叩き、なにやら作業をしながらこちらへ指示を出す雫に対し申し訳なさを覚えた。
帰ったら謝罪と感謝をしなくてはいけない、と、結奈は決めた。
──その前に、
「見えたぞアキト!中型種、亀みてぇな見た目をしてやがる!」
『視認確認了解、攻撃を許可します!』
よっしゃあ!と気合十分に、支倉アズサは
音の反響から感じ取ったその形はまるで亀のようだった。足が六つありはするものの、その見た目通り動きはのろのろとしている。
そのことを確かめた結奈は、視線を別の方向に向けた。アレは彼女が倒す、と確約した。であればそれを信じよう。
そもそも、自分の役目はアレの相手ではない。
「──すみません雫さん、私が顔を向けている方角には何がありますか?」
そう告げるとキーボードを叩く音が止まった。
何も言わず、結奈は待つ。
『少々お待ちくださいな。えっと……その方角ですと……あ、ありましたわ。まず商業区画ですわね。大型の商業施設が軒を連ねる場所で、今回の被害は少ないですわ。その奥には高級住宅街がありますの。そちらは報告によりますと討伐済みの二体が派手に暴れたそうで建物は壊滅状態らしいですわね。
「……人的被害は」
『それは……まだ確認できていませんわね。ですが戦闘開始時刻を考えても避難することの出来た住民以外の生存は絶望的でしてよ』
そうですか、と結奈は返した。淡々と、事務的な声で、感情を一切感じさせない声で、返した。
胸中には恐怖が渦巻く。
逃げ遅れた家族を食い荒らす怪物。家々を容易く倒壊させる化け物。人々の悲鳴。そして、こちらを見る数多の眼。
救えなかったという事実はそのまま、結奈の精神を蝕み──それすら飲み込んで我が物とする。
痛かっただろう、苦しかっただろう、怖かっただろう。未練だってあっただろうに。
救えなかった責はゴーレムを討つことでも注げはしない。死後の安寧を祈ったところで届きはしない。
それでもゴーレムは討とう、死後の安寧を祈ろう。その恐怖に共感し、守れなかった罪すら引き連れて生きていこう。
それだけが、千寿結奈に出来る、唯一のことだから。
「わかりました。では、捜索している部隊に急ぎ報告を、そちらのエリアから
――予定通りに。
◇◇◇
東京北区、商業区画。
そこには大小様々な商業施設が密集するエリアとなっており、休日であれば買い物客で溢れていただろうが、ゴーレムが襲撃している現在、その機能は停止し、無人となっていた。
その上空を黒い人型が凄まじい速度で翔けていく──魔装姫士だ。
装着者、秋風楓。
日本フロンティア政府直属の魔装姫士。『剣姫』と称される高機動近接戦のプロ。
彼女は焦っていた。
四体同時に発生した今回の襲撃。うち二体を仕留める事ができたものの、残りの二体に梃子摺っていた
1体は動きが鈍く攻撃性も低い。
しかし、堅牢な外殻がありとあらゆる攻撃を阻む不落の大亀。
現状の人員では撃破不可かつ、避難シェルターからは距離が離れていたため、行動の監視のために一人付けたが、増援を待つ他なく──
「商業区画、痕跡発見できず、他はどうだ」
『居住区画B、こっちもダメね。動いた痕跡ぐらい残してると思ったけど、次はC区画に移動するわ』
『工業地帯、こっちも見つからない……どうしよう楓、早く見つけないと』
『シェルターA近辺、確認できません。避難者の安全確保に努めます』
──もう一方の個体は
そのため、残りの五人で捜索および避難シェルターの防衛に全力を尽くしていたのだが、人員が足りず、移動の痕跡すら見つけられない。
楓は悪態を吐いた。このままではまた新たにゴーレムが発生しても対応出来ない上に、反乱分子が行動を起こす隙を与えることにもなる。この状況が長く続くのは非常に困るのだ。
人員の補充も依頼したから早ければそろそろ誰か来る頃合だが、どこの誰が来るのか、などの情報はまだ来ていない。
『増援の人員データが届きました。『あやかしや』から二名。各機にデータを送ります』
そんな時、オペレーターからもたらされたのは期待していた増援の情報だった。
たった二人、という点に目を瞑り、即時データを確認する。
一人は楓も知っている人物だった。
支倉梓。
『あやかしや』所属魔装姫士の中でも指折りの実力者。粗野な性格で連携も何も無い一匹狼でも知られるが、彼女の駆るメテルドレスは現状の第4世代機の中でも3本の指に入る破壊力を備えている。
確かに彼女と彼女のメテルドレスならば、あの頑強なゴーレムも討伐できるかもしれない。
──だが、もう一人は新人だった。千寿 結奈。今回が初陣になる、らしい。
何を考えているのか。近年になってから極々僅かに発生が確認され始めた特殊な能力を持つゴーレム。それが2体もいる戦場に新人を連れて行くなど正気の沙汰ではない。
技術やデザインで頭がおかしい、と言われるあやかしやとはいえ、
『結奈ちゃんかー、なるほどねー』
「知り合いか?」
『少し前に話した子だよ。ほら、どうせならうちに欲しかったって言った子』
「……ああ」
そういえばそのようなことを話していた気がする。急遽面接官を務めた上で気に入り、魔装姫士になることに反対していた保護者の説得も行ったとか。
『いや~、初陣が見れるなんて縁があるな~』
「気を抜いてる場合じゃないぞ」
『それはそうだけどさ。多分、残りの2体はあやかしやが持っていくよ』
さすがに呆れる発言である。自分達六人ですら苦戦した個体をたった二人が持っていく?
「何を根拠に。支倉の火力はまだわかるが姿の見えない奴にはどうしようも」
『そのための結奈ちゃんなんだよ。見えない奴は、あの子が見つけてくれる』
楓は眉をひそめた。愛弓が今の状況で嘘を言う理由は無い。故に、その言はおそらく正しいのだろう。
だが、それが許される我々ではない。
「愛弓、発言には気をつけろ、私達は──」
『わかってるよ。日本フロンティア政府直属の魔装姫士、それが私達。その意味を立場を、責任をちゃんと、わかってる。本当ならこうなる前に討伐しなきゃいけないこともね』
そうだ、と楓は答えた。
政府直属。それは営利目的の企業所属の魔装姫士とは違う。国を背負って立つ魔装姫士。彼女達に敗北は許されず、ゴーレムに遅れを取るなどあってはならない。
けど、と愛弓は続けた。
『現時点では見つけられないのをどうにかする手段は無いでしょ』
「開き直るな……それで、その新人はどうにか出来る、と?」
うん、と愛弓の自信満々の返答に、そうか、と楓は返した。
彼女がそこまで断言するのならこちらから言うことは一つだけ。
「では、その新人と合流するとしよう。その方が効率的だ」
『はいはーい。じゃ私もそっちに──』
その時だった。
空気を震わす轟音が、響き渡った。
「管制室、何が起きている」
『ぞ、増援の魔装姫士がゴーレムAを強襲!戦闘を開始しました!あやかしや製第四世代魔装『
来たか、だとすればそちらは彼女に任せておけばいいだろう。問題はもう一人の新人だ。
「管制室に要請。もう一人の魔装姫士と連絡が取りたい、通信を」
──直後少女の声が割り込んできたのはその時だった。
『こちら、あやかしやオペレート室。こちら、あやかしやオペレート室。緊急の連絡ですわ!』
◇◇◇
東京北区、居住区画C。
所々に塗装の剥げが見受けられる蒼白いカラーリングに左腕に取り付けられた先端部に爪のある盾を携えた魔装──スペリオル・インダストリー社製第三世代メテルドレス『ソリッド・カスタム』──を身に纏う女性は、一方的に回線へと割り込んできた少女からの情報を聞き終えると
「この近くにいる、ということね」
と、今回の任務が初めてとなる新人オペレーターに向けて通信機越しに確認した。
『は、はい、サトミさんはどう思いますか?』
芦沼サトミ──スペリオル・インダストリー所属のベテラン魔装姫士は、一方的に与えられた情報に対して顔を顰めていた。
現場にいる自分達やスペリオル・インダストリー本社の解析班が見つけることが出来なかった存在を到着してすぐにあやかしやが捕捉してしまったなど、そう簡単に信じられる話ではない。
故にありえない、と頭ごなしに否定してもいいのだが、あやかしやというワードがそれを許さない
色々と評判の悪いあやかしやだが、メテルドレス開発企業としての規模は小さくともその発想力はスペリオル・インダストリーはおろか、他社と比べても頭一つ飛びぬけている。
──その飛び抜け方が斜めになっているとかネジも一緒に抜けている、というのが大半の魔装姫士の共通認識だが──
例え
それに、嫌な予感がしていた。
「……映像から何か読み取れたりしない?」
『それがその、特に見つけられなくて……す、すみません』
「いいのよ。仕方ないわ」
メテルドレスのセンサー類がジャマーの影響で機能しない以上、管制室に送られる情報は映像のみ。
そこから映像解析でゴーレムの足がかりを得ようとしていたが、成果は芳しくなかった。
「……一度このエリアから離脱するわ」
『え、ええ!?良いんですか!?』
「流石に見えない相手に一人で戦うのは私でも厳しいもの。センサー類が役に立たないなら尚更ね」
『わ、わかりました。集合地点はどちらに』
「そうね──」
──瞬間、悪寒が芦沼の体を奔り抜けた。
「■■■■■■ィィィィ!!」
通信中という隙を狙った死角からの強襲!
振り向きざまに咄嗟に盾を構えることが出来たのはこれまでの経験の賜物か。
構えた盾に何かがぶつかり、弾き飛ばされる。
「ぐっ────」
『サトミさん!?』
直感に従い、すぐさま右手のマシンカービンを抜き放つも、どれも手ごたえなし。
相手は中型ゴーレム──全長5mを越す巨体相手に一発も当たらないということはそこに最初から居なかったか、もしくは移動した後か、サトミは後者であることを悟り憤慨した。
「ハァ!?見えない上に速いってどうなってんのよコイツ!」
『サ、サトミさん大丈夫ですか!?』
煩わしい、戦闘に入ってしまってはオペレーターの声が集中を切らせる雑音だ。
「そんなのバイタルをチェックすれば──
『ジャミングの所為でそれもわからないんですってば!』
──ああ、そうだったわね……」
うっかりしていた、とサトミはこぼしつつ、体は戦線離脱──合流を目指して動く。
このまま戦っても勝ち目は無い。ならば、胡散臭くともあやかしやの新兵器に頼るしかなかった。
「ひとまず大丈夫よ、片腕が痺れてるから次は防げそうに無いけど折れなかっただけ儲けモノね」
そこだけが僥倖だった。相手の攻撃力はそこまで高くない。ステルス能力と機動性で翻弄するタイプのゴーレムなのだろう。
そして捜索中に奇襲を掛けられたという話はこれまで無かった。もしかしたら臆病なのかもしれない。
とすれば、ここで逃がすべきでは無かったか?──浮かんだその考えを即座に否定する。そもそも追いかけようにもどこに逃げたかすらわからないのだ。深追いは禁物、当初の予定通り合流を優先。
「まずはこの場から離脱して合流するわ。一番近いのは?」
『商業区画にいる秋風さんですね』
了解、と返し方向転換した彼女の眼に二人の魔装姫士の姿が映った。
「あら?」
一人は黒い装甲から秋風楓だろう。
だが、もう一人には見覚えが無かった。あんな遠目から見ても分かるような長柄の武器を持っている人員は居なかったように思うのだが──
「右―よ―て!!」
しかもその少女が何やら叫んでいる。しかし、メテルドレスの補聴機能もジャマーで死んでいて聞こえな──
『──右に避けろ!』
それゆえに、唯一生きていた通信機能が、サトミの生死を別けた──
背筋に奔る怖気で硬直しそうになる体を無理矢理動かし、スラスターを全力で吹かす。
「ぐ──―っ!」
当然、あまりの負荷に一瞬意識が飛びかけたがそれでも命には代えられない。
「はぁぁぁぁ!」
そうして空いた場所を何かが通り過ぎた──黒い影、
剣で切りつけ、すぐさまショットガンを撃ち放つ。ばら撒かれる散弾、その数200。至近距離で受けようものなら爆散するような強反動に高火力の一品。
重い銃声とともに姿無きゴーレムが悲鳴を上げた。
「■■■■■■ィィィィ!?」
「浅いか」
だが、致命打にはなっていない。しかも傷を受ければ体を構成するネフィシュが漏れ出すはずなのだがそれすら視認できないようだ。しかも声が急速に離れていき、すぐに消えた。
「どこに──」
──いったの、とサトミが続けようとして、大丈夫です、と初めて聞く声の少女に遮られた。
獣のような装飾の目立つ軽装のメテルドレス、そして死神が如きの鎌を携えて、少女は言う。
「大丈夫です。姿も、動きも、声も、分かりました──あとは狩るだけです」
「……ね、ねぇ、秋風ちゃん、この子、誰?」
なんか痛々しいことを言っていた。
こんな時期が私にもあったのかしらー、と遠い目をし、唇の端を引き攣らせて秋風に問う。
対する秋風は、淡々と答える。
「あやかしやの新人です。愛弓の言葉が正しければ、今回の相手に対する秘密兵器、といったところでしょうか」
「秘密兵器?愛弓ちゃんがそう言ったの?」
再度、彼女を見た。前髪で目元がよく見えないことを除けば、普通の少女とそう変わらないように見える。サトミは首を傾げた。
柴田 愛弓。今回の任務へと秋風とともに赴いた政府直属の魔装姫士。
なぜ、政府直属の魔装姫士とあやかしやの新人ちゃんに接点があるのかはわからないし、信じがたいが、彼女が言うなら無碍にするわけにもいくまい。
「まぁ、いいわ。私は芦沼サトミよ。よろしくね」
「私は千寿結奈と申します。こちらこそよろしくお願いします芦沼さん」
おや、と芦沼は少女を見た。言葉が淀みない。敬語でこそあるが硬さが無く、だが砕けている訳でも無し。先ほどの戦闘を目にした後だと言うのに驚くほど自然体だ。
「あなた、年はいくつ?」
「13です、四月で中学二年になります──あの、急いで追いかけませんか?」
「あ、そ、そうだったわね。ごめんなさい」
サトミは眼を細めた。断言しよう、その歳でこのような非日常に放り込まれてもここまで冷静ではいられるような人間はいない。何かしらの感情の波があってしかるべきだ。怖がったり、気負ったり、高揚したり、そうした感情の発露がどこかに見られてしかるべきだ。
この子、大丈夫なの?
「戦場で何をしてるんですか……千寿、先導を。先ほどのでわかっただろうが君だけが頼りだ」
「はい!こっちです」
動き出した千寿の後を秋風が追いかけていく。その動きはそれなりの速度でこそあるが、武装がよほど重いのか軽装型にも関わらず想像より遅いものだった。
不安もあれば疑念もある。しかし、姿無きゴーレムを捕捉できるのは新人の少女だけ。
「……やれやれ」
これはまた、気苦労が増えた、と胸中で溜め息を一つ漏らすのだった。
◇◇◇
自身の耳に従い結奈はゴーレムを追う。
対象はカラスに酷似していたが、鳥の翼は四枚も無いし、大きな翼爪なんか無い。背中に突起物も無ければ、そこから空気を噴出して推進力を得るなんてこともしない。
──
耳に響く
怯えに怯え、怖いからと
──
いや、
『距離140、3、2、1──今です!』
「芦沼さん一時方向に威嚇射撃!秋風さん真下に散弾!」
間髪入れず、二人は指示に従った。奴を認識できない以上、二人にはこちらの指示通りに行動、射撃を行ってもらうことで相手の動きを誘導し、追い込んでいく。詰め将棋のように──しかし尋常ではない速度で指示を出し続ける。二人の口は止まらない。
『惜しい!今の陣形を維持ですわね』
「秋風さんはその距離を維持しつつ私の動きに合わせてください!芦沼さんは私の後ろを!」
「了解」
「忙しいわねまったく!」
こうして間髪入れずに指示した方向への援護射撃と結奈の予測できない飛行ルートに着いていけたのはベテランと呼んで差し支えない二人だからこそ。いや、ベテランであってもこれが出来たかどうか……そういう意味では今回の戦場は恵まれていた。
──
悲鳴を上げて逃げ惑うゴーレムを結奈は逃がさない。
彼女の耳は泣き声と銃声などの音の反響を元に奴の姿はおろか、周囲の状況すらも鮮明に脳裏へと映し出している。逃げ道は無い。だが、現状、決定打に欠けるのも事実だった。
しかし、それももうじき整う筈だ。そう信じて獲物を追う結奈にちょうど、雫が朗報を齎した。
『準備ができましてよ!いつでもどうぞ!』
待ち望んでいた決定打だった。
「ありがとうございます雫さん!」
『いえいえ、今回の相手はそれだけ厄介なお相手ですもの、これぐらいはお安い御用ですわ。統率は柴田さんという方がしてくれるそうですの』
そうか、それなら安心だ。
ならばこの追跡戦ももうじき終わらせよう。
その後も続く牽制と誘導。
全ては
大鎌、イチノタチを握る両手に力が入る。握力はまだ残っている。いや、残っていてもらわなければ困るのだ。そうでなければ、ここまで無理を押してこの武器を持ってきた意味が無くなってしまう。
指示は途切れず、声を枯れることも覚悟で続けた。
──待ち望んだその瞬間は通信を受けてから20分を過ぎようとしたその時だった。
二人の精度が上がり、理想的な場所、立ち位置、その全てが会心と呼ぶに相応しい一瞬だった。
「秋風さん左下5度!芦沼さん11時斜め下!」
その指示に間髪従った二人の放つ銃撃──当たったことすら確認せず、今出せる最高の速度にまで瞬間的に加速、下に落ちてからの急速上昇!
Gの負荷が酷いがそんなもの知らん、とばかりに奴の真下を陣取る──結奈は最初からこの状況を取れるチャンスを狙い続けていたのだ。
正直な話をしよう、姿無きゴーレムを自分の獲物、と言った結奈であったが、独力でこの個体が倒せるか不安があった。
万が一、自分が倒されてしまえば奴を捕捉する手段がなくなってしまい、自分以外にも被害が出てしまう──そのことを危惧し、独力での撃破は最終手段と割り切り、雫と一緒に作戦を考えた。
見えない相手を見えるようにするにはどうすれば良いか──見えさえすれば、自分無しでも討伐できるだろうか……考えに考え、ふと、雫がある物語を思い出した。
イソップ童話の一つ「ネズミの相談」。
その物語の中でネズミたちはいつも猫のために酷い目に遭わされていて、猫をどうするか、という相談を始めたのだが、その中の一匹がある名案を思いついた。
猫の首に鈴を付ければ良い!そうすれば猫が来ても鈴の音が鳴るから逃げられる!と
その案に多くのものが賛成したが誰が猫に鈴を付けるのか、という段になると誰もやろうとしなかった。というお話だ。
ならば、自分が鈴を付けるネズミになってやればいい。そうすれば万が一があっても鈴のおかげで他の人がゴーレムを倒してくれるはずだ。
だが、鈴では足りない。
戦場となる場所は広いし、銃声やら何やらで音が分からなくなる。ジャマーでメテルドレスの補聴機能も死んでいるから尚更。
音だけではダメだ。もっと大きく、一目でそれとわかるくらい大きく無ければ──
──ああ、そうか、眼の見えない彼女達のためにゴーレムに
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
『いっけぇぇぇぇぇぇぇ!』
その旗を、今、奴の腹に突き立てよう!この一瞬!真下を陣取れたこの一瞬に!
旗の名はイチノタチ──射撃武器を抜いてでも、今回の出撃でカマイタチを選んだのはその日ちょうど着ていたから、だけではない。
最大の理由は、追跡に向く小回りの良さと、旗代わりになる、この全長3mの大鎌にあったのだ!
「
腹に刃が突き立ち、刃が食い込んでいく──だがまだダメだ、しっかり食い込ませなければ抜けてしまう──しかし、カマイタチ自体の膂力は期待できない。
だがイチノタチの機能ならば、それすら覆す。
「おおおおおおおおお!」
食い込んだ刃にネフィシュが纏わりつき、そして傷口を拡げ、刃が突き進む!
「
「うる、さいん、ですよ!」
じたばたと体を揺らし結奈を鎌ごと引き剥がそうとするがそれなりに深く食い込んだのか離れる様子も無く、そして結奈も更に確実に抜けないように、と動かそうとして──
『結奈先輩ぶつかる!ぶつかります!!』
「──え」
瞬間、背後に壁があるのを認識した。いや、壁じゃない、地面だ。
距離、30……20……今からでは離脱も間に合わない。
やってしまった、欲を掻いて周囲の状況把握を忘れていた。このままではゴーレムと地面の間で押しつぶされてしまう。
選択肢は二つに一つ。
間に合わないことを承知でこのまま抜け出るか――この場合、運が良ければ助かるだろう。しかし、まだイチノタチをしっかり突き刺せていないため抜け落ちて倒せなくなる可能性がある。
もう一つは自身が死ぬことを覚悟でイチノタチをしっかり突き刺し、後につなげること。まず、自分が死ぬ、という時点でダメだ。自身はまだ戦わねばならない。たった一度この個体を討伐できたところで、ゴーレムはまた現れる。それではいけない。いけないのだ――しかし、しかしだ。
この個体すら撃破できなかったのでは、他の皆はどうなる?――蹂躙されるのだろう。この臆病で、しかし、怖いからと
ダメだ。そんなの、ダメだ。
『何してんの!早く脱出しなさい!』
この時、この瞬間、結奈は生存を捨てた。イチノタチを握る手は離さず、落下していく中で無理にでも、とより深く刃を刺し込む。
――あとは、任せました。そう、諦めた時だった。
『間に、合えええええ!』
通信越しの女性の絶叫が、耳を焼き、横から何かがとんでもない速度でぶつかってきて──耳を焼かれた結果、力の抜けた手から鎌は離れてそのまま押し出された。
ゴロゴロと体を地面に打ち付けた。色々な残骸にぶつかって体中が痛む。
『みんな総攻撃開始ィィ!』
聞いたことのあるお姉さんの声が焼かれた耳に聞こえて──そこで、結奈の記憶は途切れている。
以上が結奈の初陣となります。
次はスポットの当たっていない先輩の戦いっぷりや、戦後の会話などを予定しています。
以下、登場キャラ紹介
・大神雫
前回から引き続き続投。描写不足ゆえに分かり難いと思いますが彼女は今回のオペレーターとして同時に何個も仕事を任されていました。
・基本となる結奈のオペレート
・結奈自身から送られてくる音響感知のデータを元に透明化したゴーレムの移動ルートの先読みを高速演算
・更に物語の最後、ゴーレムを袋叩きにするために各魔装姫士への作戦説明及び応答。
こんなことを大人顔負けで一手にこなす雫ちゃん9歳、まじジーニアス
おまえのような9歳児がいてたまるか
・秋風 楓
こちら原作にて「雪兎さん」さんが投稿されたキャラクターでございます。
原作では未登場()原作者様、なんか申し訳ない。
本編で説明したとおり政府に所属する魔装姫士で、原作時点では教導官としても活動している女性。
裏設定が結構重め。原作本編でそのあたりは使われるのだろうか……
本作では、通信機の扱いに慣れていない結奈に代わり機転を利かせて後述の芦沼さんの危機を救い、更に結奈と芦沼さんの三人で姿無きゴーレムを追い込んだりと結構な役割。
口調が酷く淡々としてしまい彼女らしさが出せていないかもしれない、と怯えるばかり。
・芦沼サトミ
こちらは原作にて「パイン」さんが投稿されたキャラクター。
原作では原作主人公、篠宮天音の初陣に際し彼女を救ったのが彼女です。
確かな経験に裏打ちされたベテランで原作ではメテルドレス適性が消える一歩手前の29歳ですが、原作4年前の本作では25歳ぐらいでしょうか。
今回は2度、命の危険に遭いながらも一回目は自力で、二度目は秋風さんの機転で助かるという強運そもそも原作時点まで生きてないと辻褄ガガガを見せ、更に結奈と秋風さんの三人で姿無きゴーレムを追い込む役となって頂きました。
・柴田愛弓
オリジン時の面接官であり、原作者様オリジナルキャラクター。今回は秋風さんとの会話や裏方として活躍していただきました(後半、雫の言っていた柴田さんとは彼女のこと)
なお、前回出てきた筆者のオリキャラの出番は次回になりますので紹介はまた次回に(オイ)