悪いひとたち ~南方深海泊地へようこそ!~   作:シャブモルヒネ

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ブラック提督と目が死んでる社畜たち『深海棲艦、殺すべし』
4-1:鉄底海峡1


これはガダルカナル島奪還作戦のときの清霜の記憶。

けして忘れることのない記憶。

死んだときの記憶。生まれなおしたときの記憶。

 

 

真夜中の海。

そこは停滞が支配する死の世界。

闇の中、波のたゆたう音だけが反射する。

手を伸ばしても掴めるものは何も無い。自他の境界すら曖昧で。無限の虚ろが在るだけの。淋しくて、冷たくて、優しい世界。

その静寂を切り裂いて、戦い続ける者たちがいた。

彼女たちの名は、艦娘。

そして、深海棲艦。

探照灯がギラリと互いを照らし出す。

彼女たちには場所も時間も関係ない。互いを憎み、殺し合うことに心血を注ぐ。

戦争、戦争、戦争の毎日だ。

一体何がきっかけで始まってしまったのか?

何をどうすれば終わりが訪れるのか?

それはもはや誰にも分からず、分かろうともしなかった。

それが、彼女たちの日常だった。

誰かが死ぬのは当たり前のことになっていた。感情は日に日に鈍化していって気がつけばどんなことにも耐えられるようになっていた。相棒がいなくなっても補充要員を呼べばいい。誰かが手を繋いでいてくれるなら地獄にだって飛び込める。死ぬのなんて大した問題ではない。だって、早いか遅いかの違いでしかないんだから。

そんなのが、彼女たちの日常だった。

ある艦娘がこんなことを言った。神様に選ばれた順にいなくなる、と。食堂の空いた席を見て、清霜もそういうものかと考えるようになった。

だからこれは、その順番が自分にきたというだけの話。

それがいきなり初陣にきたのは自分でも不幸だと思うけど、仕方ないものは仕方ない。

だって。

そうでも考えないと正気を保てそうになかったから。

 

『駆逐艦清霜はその場で待機。回収班を待て』

 

あれは、きっとはぐれの攻撃機だったんだと思う。

いないはずの敵が進軍ルートにいた。

清霜たちが密かに航行するために設定された大回りの迂回ルート、そこに敵は一匹もいないとブリーフィングで説明されていた。だから雲の影に敵の爆撃機がうろついているなんて誰にも分かるわけがない。

ただ一つ残念に思うのは、誰かがもう少しだけ、ほんのちょっぴり頭上を警戒していれば、こんな事態にはならなかったかもしれないということだ。でも誰も警戒していなかったんだから仕方ない。勿論、自分だってしていなかった。だから、その被害を受けてしまったのも仕方ないことなんだと思う。

「大丈夫大丈夫、へいきへいき!」

清霜はことさら明るく振る舞った。

それが艦隊の重苦しい空気を吹き飛ばすためというのは見え見えで、かえって痛々しささえあったが、それを指摘できる者はいなかった。

誰もが責任を感じていた。

皆が油断していたせいで取り返しのつかない事態になった。

これから自分たちが下さなければならない決断を思うと誰も清霜の顔を直視できない。

清霜の主機が破損した。

その精巧に作られた推進機関からは不吉な黒い煙が立ち昇っている。もう殆ど速度が出ないそれを見て、霞は強がるのはやめろと悲鳴のような声を上げた。

「大丈夫なわけがないでしょう!」

彼女は顔を真っ赤にして怒っている。

被弾してしまった清霜に対してではない。清霜を置いていけと命令した司令部に対してだ。

「護衛退避もないなんてありえないわ! 黒井提督は頭おかしいんじゃないの!?」

狂犬のように吠えたてるのは、清霜の身を案じてのこと。

霞はその反抗的な態度から人間嫌いだと囁かれることもあったが、本当は誰よりも優しい少女であることを清霜はよく知っていた。

この作戦のために、清霜の練度を上げようと毎日付き合ってくれたから。

夜遅くまで訓練に付き合ってくれて、朝早くにダウンしている清霜を起こしに来てくれて、時には差し入れまで用意してくれて。

大変なのはむしろ旗艦に任命されたばかりの霞の方なのに、恩着せがましいことは一つも言わなかった。

いつだって人のことばかり心配して、自分のことなんて二の次。そんな優しい霞だから、きっと清霜を独りで置いていこうとしないだろうということは分かっていた。

もしかしたら大本営の命令を無視して護衛をつけてしまうかもしれない。

ひょっとすると全員で帰還するなどと言い出してしまうかもしれない。

それだけは駄目だった。

もしそんなことをしたら、霞はどんな責任を取らされるか分からない。

ただでさえ返しきれない恩があるのにこれ以上迷惑をかけるわけにはいかない。

だから、清霜は嘘をついた。こんなのは平気だと。震える指を背中に隠しながら。

「いいよ……みんな、先に行って。敵、殴ったら……もどって来てね……?」

本当は、誰かに一緒に居てほしい。

この闇の中に置き去りにしないでほしい。

けれど清霜は虚勢を張った。散々迷惑をかけたうえに足まで引っ張るなんてみじめすぎる。そんな自分になるのだけはごめんだった。

「だめよ、清霜を置いていくなんて!」

霞はなおも食い下がる。

その気持ちだけで十分だと清霜は思う。

「大丈夫だって、ね? 敵の機動部隊を叩かないと作戦自体が駄目になっちゃうよ。それにさ、この辺りには深海棲艦はいないって報告あったでしょ?」

「そうだとしたって……!」

なおも諦めない霞を説き伏せるには苦労した。

旗艦としての責任を持ち出しても首を縦に振らず、自分を一人前と思うなら甘やかすのはやめてくれとまで言うしかなかった。

そうまでして、ようやく霞は決断することができた。

「――いい? 少しずつでも北に進むのよ? 島があるからそこで救助を待つの。北よ? あの星のある方角よ?」

「うん、分かってる。霞ちゃんたちも頑張って。ごめんね、最後まで付き合えなくて……」

手を振る清霜の姿を、霞は後ろ髪を引かれるように何度も何度も振り返った。

残された清霜は、震える歯の根を噛み殺して一層力強く手を振る。

両者は少しずつ離れていき、やがて霞たちの艦隊はあっけなく闇の中へと消えた。

「あ……」

誰もいなくなった。

もう、自分しかいない。

ごくりと唾を飲む。

周囲を見渡しても暗がりしか見つからない。清霜はいよいよ取り返しのつかないことになったと思い知る。

もしも、ここで敵に遭遇したら、逃げる足がない。待っているのは確実な死だ。

そんな闇の中を手探りで進むしかない。

探照灯の光はいかにも頼りなかった。視界がほとんど判別できない。闇の向こう側は粘つくような黒が充満していて、仮に深海棲艦が群れを成していたとしても気付くことはできないように思えた。

喉が、恐怖で震えた。

(大丈夫、敵なんてどこにもいない……)

そう願ったところで悪い想像がまとわりついて離れない。

本当は、誰かがじっとこちらを見つめているのではないか?

もうとっくに囲まれていて、怯える自分を嘲笑っているのではないか?

あるいは今まさに照準を合わせているところかもしれないし、既に魚雷が発射されていて背後から迫ってきている最中なのかもしれない。

「……っ」

清霜はその口を真一文字に強く結ぶ。口を開けば悲鳴が出てしまいそうだった。

孤独の海がこんなに恐ろしいとは知らなかった。

――思えば、今までずっと誰かに見守られてきた。

相部屋の朝霜。

世話を焼いてくれた霞。

そしてずっと傍にいてくれた司令官。

くだらない話をした。相談にのってくれた。寄り添ってくれた。

仲間たちの顔が浮かんで消える。

また会いたい。生きて再会したい。

足元を見る。

今の清霜の命を繋いでいるのはガラクタ寸前の主機と艤装だけだ。全開まで回しても微速がせいぜいのスピードしか出せないが、それでも唯一の相棒だ。壊れてしまわないことをただ祈る。

目指すは北。霞に言われた通りに島を探す。

進行方向をひたすら凝視して、焦る心を抑えつける。遅々として進まず、その時間は永遠のように感じられた。

気がつけば、目の前にそれがいた。

手足のない非人間型。

ずんぐりとした真っ黒いボディ。

駆逐イ級。

「ひぅ……っ」

心臓が止まるかと思った。

彼我の距離はおよそ五メートル。

ずっと前を見ていたはずなのにこんなに接近するまで気付かないなんてことがあるだろうか? しかしそのイ級は幻や妄想ではなく、確かに存在している。

相手の反応は薄い。

自分と同じく面食らっているのかもしれない。

さりげなく周りを照らしてみるが、随伴艦は見当たらなかった。

(こいつも、単独……)

清霜は呼吸をなんとか整えて、12.7cm連装砲を強く握りしめる。

(イ級の一匹ぐらいなら私一人でもなんとかなる……)

イ級やロ級なら倒したことがある。その時は味方もいたけれど、一人でもやれない相手ではないはずだ。

しかし、引き金を絞る勇気がどうしても出てこなかった。それが開戦の合図になるのが恐ろしくて、指先の震えが止まらない。

相手も単独ならば見逃してくれないだろうか、そう思って迂回しようと右手方向に進んでみるが、相手のイ級も清霜と同じように動いて清霜の前に立ちはだかった。

見逃すつもりはないらしい。

「うぅ……」

ならば、やるしかない。

12.7cm連装砲を構えて照準を合わせる。狙うは的の大きい額。息を小刻みに吸ってなけなしの勇気を振り絞る。いくぞ、三、ニ、一、

(――今!)

乾いた発砲音が、闇に響く。

その砲弾は、丸みを帯びたボディに簡単に弾かれた。

 

――ギイィィィエエエ!!

 

清霜は半ばパニック状態に陥った。次弾を装填しなければいけないと分かっていてもその手順をどうしても思い出せない。思わず手元の連装砲に目を向けたとき、イ級がその口内の主砲から反撃を放った。

腕に衝撃が走る。

被弾、した。

当たったのは、腕に装備した連装砲。

清霜は目の前の事実を追うだけで精一杯。敵を前にして被弾箇所を確認せずにはいられない。腕に怪我はない。当たったのは主砲、よく見ると、その砲口が潰れていた。

「……う、うそっ、うそっ!」

これではもう撃てない。

もしトリガーを引けば腔中爆発する。

清霜から砲撃という選択肢が消えた。もはや逃げることも戦うこともできない。雷撃という奥の手にどうにか思い至ったときには既に肉薄されていた。もう手遅れ。そのまま大口を開くイ級、不揃いの歯がやけにスローモーに迫る。ただ見ていることしかできない。

凄まじい衝撃。

身体ごとぶつかった、浮いた、激痛が、

「い゛っ、あっああああ!」

叫ぶ。

イ級の巨大な頭部が、自分の下半身に齧り付いている。

そのホオジロザメのような巨大な口の隙間に自分の脚があった。この期に及んで清霜は目の前の光景を信じることができない。が、そんな現実逃避はギロチンのように鋭い前歯が食い込む痛みですぐに消し飛んだ。イ級の歯はすぐに骨にまで達する。

身体中の筋という筋が引き攣った。

声にならない呻きが食いしばった歯の間から漏れる。

清霜は涙と鼻水を撒き散らしながらイ級を引き剥がそうと掴みかかる。指の爪が剥がれるにも構わずにあらん限りの力を篭めようがイ級の歯軋りはびくともしない。

(嘘だ! こんなの嘘だ!)

自分がこんな目に遭うわけがない! 清霜は絶叫する。

――だって悪いことなんてなんにもしてこなかった! ずっとずっと真面目に生きてきた! なのに、こんな誰も知らないような海の上で、人知れずイ級なんかに食い殺されるようなことがあっていいはずがない!

自分の脚にしゃぶりつくイ級はいよいよ大腿骨を砕きにかかる。

「う、うぐううう、ぐううっ!!」

その巨体を揺るがせて咀嚼の動作をするたびに激痛が走る。

「~~~~っ!!」

獣じみた悲鳴が止まらない。

(違う! こんなはずじゃない!)

頑張っていればいつか報われるんじゃなかったのか? 清く正しく生きていれば少しずつ活躍するようになって、いずれは仲間たちに認められ、褒めてもらえると清霜は思っていた。仮に死ぬときがくるにしても、それは仲間を助けた末にとか、敵の旗艦と刺し違えてとか、そんなドラマティックな展開のはずで、最期は仲間たちに看取られて温かく逝くんだと信じていた。

けれど、ここはそんな願望とはまるで違った。

暗い海の上で、ただ独り。

仲間たちに置いていかれたと思ったら、今度はイ級に足を食いちぎられかかっている。

――なんなんだ、この仕打ちは?

気絶することも許されない痛みの中で、清霜は唐突に悟る。

今まで自分が積み上げてきた全てには、何の意味もなかった。

信じていた倫理観はいざというときには一片の価値もなく、糞の役にも立ちはしない。

その時、すぐ清霜のすぐ近くで一際大きな水音が鳴った。

息を呑む気配。

誰か、来た。

「たすけ――!」

必死に声を絞り出して振り返る。そこに現れたのは仲間の危機に駆けつけた霞と強襲部隊の仲間たちではなく涎を垂らしながら迫ってくる別のイ級で、めいっぱいに口を開く様子がはっきりと見えた。

その勢いのまま獲物の無防備な胴体に喰らいつく。

清霜は自身の肋骨が一気に砕ける音を聞いた。

 

 

ああ、そうか。

誰も助けてくれないんだ。

私は見捨てられたんだ。

弱いから。

戦いについていけないから、要らないんだ。

捨てられたんだ。

そうやって強い人たちは進むんだ。

それが海のルールなんだ。

そんなの全然知らなかった。

誰も教えてくれなかったから。

けど。

もう知った。

もう間違えない。

だから、置いて行かないで。

今度は私も連れていって。

今度はもっと強くなるから。

今度はきっと役に立つから。

ちゃんとできるって証明してみせるから。

そうしたら、今度は私を連れていってくれるでしょ?

それが海のルールなんでしょう?

 

 

気がつけば溺れていた。

どっちが水面でどっちが水底なのかも分からない。

水の中で狂ったようにもがいても指先に触れるものはなく、頼れるものはどこにもない。

「――ッ! ――ッ!」

歪む視界に、巨大な影が見える。

大きな物体。形あるもの。

あれを掴めば、助かるかもしれない。

しかし影は遠く、無情にもゆっくりと離れていく。

苦しい。

息が、続かない。

あの影に触れなければならないと、無我夢中で手を伸ばす。その距離は十メートル、いいやもっとか。届くわけがないのは分かっていた。

だから、追いつくためには影の動きを止めなければならなかった。

(止まって!)

念じて止まれば苦労しない。

願って叶えば苦労しない。

――だから、自分の手でやるんだよ。

頭の隅で誰かが言った。それに従って鉄の塊を射出する。

魚雷。それは狙い通りに影に吸い込まれていき、見事に命中した。

爆発。

影の速度が落ちる。

(これで追いつける! もう少しで――届く!)

やっとの想いで水面に上がる。

思い切り息を吸い込むと、肺に懐かしい酸素が満ちた。念願の呼吸。涙さえ浮かぶ。

「ゴホッゴホッ、ウ、グフッ、ウゥ」

だが苦しさは消えてくれなかった。胸を抑えて喘ぐ。心臓の奥が締め付けられるように痛む。

(なんで? どうしてまだ苦しいの?)

目の前には巨大な物体が浮かんでいた。

(これ、知ってる。船だ)

影の正体。これを追いかけていたことを思い出す。

(どうして追いかけたんだっけ?)

掴んで水面に上がるため? そして呼吸をするため?

いいや違う。

だって息をしても苦しいんだから、きっと違う。他の理由があるはずだ。そしてやらねばならないことがあるはずだ。でなければこの苦しみから開放されない。

なのに、そこから何をどうすればいいのかを、全く思い出すことができない。

(このまま何もできずに、苦しいままなの?)

 

何もできない。

 

そのフレーズに背筋が凍りつく。

――何もしないなんて、駄目だ。仕事をしないなんて、そんなのは役立たずと同じ。それでは置いていかれてしまう。それだけは絶対に嫌だ。怖い。淋しい。何よりも痛い。

そうだ、だからワタシは追いかけたんだ。ワタシの仕事をするために!

けれど、ワタシの仕事ってなに?

(ああ、痛い!)

痛みはむしろ船に追いついてから増していた。

それは心音に呼応するように波打って、血管を伝って全身に伝播する。特に大腿部とわき腹の痛みは耐えがたいものになりつつあった。

(追いついただけじゃ駄目なんだ。どうすればいい? ワタシは一体何をすればいいの?)

おぼろげな頭を必死に動かして答えを探る。自分はきっとその答えを持っているという確信があった。必死に頭を巡らせる。手がかりは無いか。何か、なんでもいいから、この苦しみを消してくれる何か!

月の無い夜の中で、目につくのはやはり目の前の船、それだけだ。

ごぼりぼごりと音がする。船は水面下から泡を吐き出して少しずつ沈んでいく。これではもう動けまい。

似ている、と思った

なす術もなく沈んでいく様が、かつての自分に似ていると思った。

(……そうだ)

自分もろくに動けなかった。何の役にも立てなかった。だからみんな先へと進んでしまった。

本当は連れていってほしかったのに。

(あの時、どうすれば良かった?)

どうすれば連れていってもらえた?

(ワタシがしなければらないことは……ワタシの仕事は……)

そんなこと、生まれ直したときから決まっていた。

頭の霧が晴れていく。身体の痛みも同様に。

もう迷いは無い。やるべきことはただ一つ。あとは実行するだけだった

(証明すればいいんだ。ワタシの方が強いって!)

つまるところ。

(戦って、勝てばいい!)

そうすれば自分の方が役に立つと証明できる。負けた奴が役立たずと証明できる。ならば置き去りにされるのはそいつになるのが道理。ワタシではない。そうだ、そうだ、それだけの話だったんだ。勝てばいいんだ。勝ちさえすれば怖くない。勝ちさえすれば淋しくない。痛くない! ねえ、そうなんでしょう? だって、それが海のルールなんだから。

 

――センテヲ、ウツベキ……ト、ゴホッ! イッタナ……

――アア? カンムスノハナシカ?

 

「――?」

何か、聞こえた。

見上げると、船の上で二つの生き物が言い争っていた。

何を言っているのかはよく分からなかったが、その生き物については知っていた。

ニンゲン。

とてもとても弱い生き物。

弱いからには置いていかねばならない。

そういう決まりなのだ。

 

――パァン

 

乾いた音が響いた。

船上のニンゲンが、もう片方のニンゲンを撃っていた。続けて二発、トドメの発砲。

「アハッ」

レ級は嬉しくて笑った。

さすがはニンゲン様だ、海のルールを分かってらっしゃる。

弱い方を撃ち殺した。だって撃ち殺せば自分が進める。実に正しい。

ワタシも自分の仕事をしよう、とレ級は思う。

標的は、生き残った方の人間。

(あいつはワタシより弱い。だから生かしたままにしておけない。ちゃんと勝って、ワタシの方が強いって証明しないと駄目なんだ)

腕の主砲を構える。

でも小口径の“それ”の使い方がよく分からない。ずっと使っていたはずなのに、何故か手順が分からない。

しばし悩んで、すぐに解決策を思いつく。

武器ならもっといいのがあるじゃないか。

喉の調子を確かめる。もう声だって出せる。ワタシはやれる。

今度はちゃんとやれるんだ。

「ダッテ、私ハ戦艦ナンダカラ」

 

レ級の目がうっすらと青く輝く。

みしり、と。

音がした。

鉄が割れ、配管が蠢く音が。

レ級は使命を果たすことができる喜びに口角を吊り上げて主砲を構える。

それはイ級も殺せないようなちんけな12.7cm連装砲とはわけが違う。

大型艦であろうが容赦なく、標的全てを自分のスケープゴートへと塗り替える最強の主砲。

それはレ級が前世からずっと欲しかったもの。ずっと憧れていたもの。

異音は止まらず、むしろ増し、耳をつんざく不協和音となっている。

レ級の腰部が別の生き物のように膨張する。

鋼の尾。

それは主の戦意に応えるように、蠕動し、伸びていく。

死人のような白い鮫肌に、夜闇のような真っ黒の艤装を身につけて。

尾の先端にずらりと並んだ牙がガチガチと擦れて金属音を打ち鳴らす。

これは、この音は。

――戦艦の主砲が生まれる音だ。

 

「ニンゲンハ、海底ニ、置イテイク」

レ級は犬歯をむき出しにして威嚇する。

――さぁ殺せ。すぐ殺せ。そうして今度はワタシが進むんだ。それが海のルールなんだ!

脳裏を埋め尽くす自分たちの声に従って主砲のトリガーを引こうとした、まさにそのとき。

殺されたニンゲンが、落ちてきた。

勝った方のニンゲンが突き落としたのだろう、派手な水しぶきが上がる。

着水した敗北者は沈みつつあった。死体なんだから泳げるわけがない。その哀れなニンゲンを一瞥し、レ級は思う。

(コイツは弱いから、負けた。置き去りにされたんだ)

持ち合わせた感情は、それだけだった。

 

その敗北者の顔を見るまでは。

 

「……ッ?」

見たことのある顔だった。

(誰……? ワタシはコイツを知っている……?)

途端に、息が詰まる。正体不明のざわめきが心臓をかき乱す。取り返しのつかないことが起こっていると理解する。

自分はこの男を知っている。

それもただの“知っている”ではない、気がする。

失くした何か。ぽっかりと空いた穴に本来あった何か。

「ナンダロウ、誰ダロウ……」

苛立ち、頭を掻きむしる。ぼりぼりと爪を立て、真っ黒い血が流れても気にならない。そんなものに価値はない。しかしコイツはきっと違う。コイツは、ワタシにとって大切な、誰かで。

 

――なんで廊下で寝てんの?

――何かあったら遠慮せず声をかけろ。あと、無理しない程度に頑張れよ

 

(知っている。コイツは、このヒトは……)

くだらない話をしてくれたヒト。

相談にのってくれたヒト。

寄り添ってくれたヒト。

 

――俺はここショートランド泊地の提督、新貝貞二だ。着任したてで頼りないかもしれんが、まあよろしく頼む

 

「シ、」

ずっと会いたかった人。

「しれいかん!」

清霜は我に返り、沈みゆく新貝貞二の身体を必死に引き上げた。

その胸と頭からは血がどくどくと流れて止まらない。海が赤く染まっていく。その生命力を吸い取るように、とめどなく。

やっと会えた司令官。しかし今の彼は清霜と目を合わせることもなく、虚空を睨んで硬直している。ただの一度も呼吸が無い。

「……しれいかん?」

揺さぶっても反応がなかった。

当たり前だ。

だって死んでるんだから。

銃で撃たれたところを見たじゃないか。

「しれいかん? 嘘でしょ、ねえ?」

何がなんだか分からない。やっと会えた司令官は誰かに撃たれて死んでいた。

「ど、どうして……?」

――どうして、こんな酷いことばかり起きるんだろう?

今ここでどんな事情があったのかなんて清霜には分からない。けれどこの人は――司令官は、本当に人が困るような悪いことなんてしないはずだと知っていた。けして撃ち殺されていいような人じゃない。

――なのに、どうして?

「どうして司令官が殺されなきゃいけないの?」

そんなこと、決まっていた。

 

『駆逐艦清霜はその場で待機。作戦を優先する。回収を待て』

 

その命令が下ったとき、新貝貞二は無線機の向こうで司令部の人と揉めていた。怒声をあげて争うような声もした。

その行為は、きっと作戦遂行の邪魔だったのだ。新貝貞二は恐らく足手まといだと判断されたに違いない。

だから、こうやって見捨てられたのだ。

かつての自分と同じように。

清霜は今度こそはっきりと思い出す。

“前の自分”がどうやって死んだのかを。

どんなに痛くて苦しかったのかを。

「あぁ――そうなんだ」

新貝も同じ目に遭ったのだと悟った。

「また、やったんだね……」

また、見捨てたのだ。

軍の偉い人たちや、強くて役に立つ艦娘が、ただ先に進むためだけに。

清霜には理解できない。

どうしてそんなことのために弱者を踏みにじることができるのだろう?

どんな神経をしていたらそんな決断を下せるのだろう?

「あなたたちは、そうまでして勝ちたいの?」

静かに、憎悪が、湧き上がる。

顔を上げて司令官を突き落とした男を睨みつける。

知っている顔だった。ガ島奪還作戦の責任者。その人を人とも思わないような冷たい目つきをよく覚えている。

黒井成一という名の提督だ。

船上のそいつはその時になってようやく眼下に深海棲艦がいると気付いた様子だった。

「あなたたちは、先に進むためなら、味方も平気で殺すんだ?」

清霜には何もかもが分からない。

今の自分が何者なのかも、

どうして新貝が殺されたのかも、

周囲を取り巻くこの状況も、

人間の言い分も、

海のルールも、

何一つ分からなかった。

けれどたった一つだけ分かることがある。

それは、清霜を、司令官を、自分勝手なルールで踏みつけにする者たちがいるということだ。

そいつらは、清霜たちの人生を、想い出を、誰の目にも届かない海の底へと棄てようとしている。

それだけは絶対に許してはならない。

「そんなに、そんなに先に進みたいなら――」

鋼の尾が、唸りを上げる。

それは具現化した怨嗟の形。

「――私が連れていってやる」

清霜と一体になった“見捨てられた私たち”。

その“私たち”が言っている。痛かった、苦しかった、と。

だから、この砲弾は。

見捨てられてきた全ての敗北者たちの無念の叫びだ。

「沈めばいい! この暗い海の底に! あなたたちが自分で作った、この鉄底海峡に!」

清霜の16inch三連装砲が火を噴いた。砲弾は船上の男に直撃。

男の胴体はあっけなく爆散した。

臓物を撒き散らしながら上半身が海面に叩きつけられた。

「はぁ……はぁ……」

人間を、殺した。

けれど清霜にはなんの感慨も無い。

仇を討った喜びも、借りを返した満足感も、何も無い。

大きく息を吐き出した。雲の隙間から月が現れる。ただそれをじっと見上げる。そして、己の心音を数えた。

(もしも神様がいるならば、きっと私を――)

しかし、そのカウントが五十を過ぎても天罰は下らず、また何者かが讃えてくれることもなかった。

「……司令官」

清霜は新貝の死体をそっと抱きかかえる。

そして最後の涙を流した。

「私たちはきっと世界中から嫌われてるんだ。一緒に行こう。誰もいないどこかに。誰も知らない無人島に」

 

 

砲台小鬼が破壊された、その夜に。

新貝と清霜は執務室のソファーに並んで、ビデオを観ていた。

ブラウン管の中では恐竜が人間に襲いかかっている。

B級モンスターパニック映画。

いつもの清霜なら、怖い、見たくないとやかましいほど騒ぐはず。しかし今日はやけに静かだった。新貝はちらりと横目で様子を伺うが、清霜は無感情に画面を眺めているだけで。

やはり清霜の様子はおかしかった。

昼の襲撃で砲台小鬼が破壊されてからというもの、むっつりと黙り込んで誰とも話さずにいたかと思ったら、夜中に突然ノックもせずにずかずかと執務室に入ってきた。

新貝は何をどう伝えたらいいのか分からずにいる。

清霜には真実を伝えなければならない。もう誤魔化している猶予はないのだが、その切り出し方が分からない。

 

――昼間に攻撃してきたのはショートランド泊地の艦娘なんだよ。

なぜって、それは俺たちが深海棲艦だから。

俺たちはとっくに人類の敵なんだ。

だから俺たちはこれからショートランドの皆と戦わなきゃいけない。

お前の仕事はただ一つ、深海棲艦の戦艦として艦娘を沈めることだ。

分かってくれるな?

 

言えるわけがなかった。

新貝はごまかすようにコップに口をつけながら清霜の様子を伺う。

清霜は、膝の上で頬杖をついて相変わらずの無言。

何を考えているのか見当もつかない。

モニターの中では人工的に造られた最強の恐竜が暴れまわっており、清霜はそれを能面のような表情で見つめている。

物語はクライマックスのようだった。

人間とそれに従う恐竜が、人工恐竜を相手に戦っている。

優勢なのは、人工恐竜の方だ。

「恐竜ってさ、」

清霜が唐突に口を開く。

「恐竜って、隕石が落ちてきて死んじゃったんだよね?」

「あ、ああ、そうだ」

新貝はなんとか返答することができた。

「氷河期の寒さに耐えられなかったって、言われてるな」

「その時って、恐竜たちはどんな気持ちだったんだろうね? ただ地上で生きていただけなのに、いきなり死ぬしかないって状況になってさ」

「そんなこと……誰にも分からないだろ?」

画面では人工恐竜が人間たちを追い詰めていた。勝利は目前、しかし横から突然別の恐竜が現れて、人工恐竜を水中に引きずり込んでいった。

それでお終い。

あっけない幕切れ。

「そうだよね、死んだ恐竜のことなんて誰も知らないよね。そんなもんだよね……」

画面が暗転してスタッフロールが流れ始める。

人工の恐竜が悪者で、人間とそれに従う恐竜が正義の味方だとでも言いたげな、くだらない映画だった。

人間たちは平和を掴んでめでたしめでたし。

人工の恐竜はただのやられ役。そいつを作ったのは人間自身のくせに、正義面して自分たちで始末して、それで世の平和は保たれたと大喝采。

清霜はまったくの無表情だった。

「ねえ、恐竜って本当にいたのかな?」

「――は?」

「だってさ、偉い人は骨を見つけて「恐竜って生き物がいたんだぞ」って言うけれど、実際のところ生きている恐竜なんて誰も見たことがないじゃない? それって最初からいないのと同じだと思うの」

清霜はもう終わった映画をずっと見つめていた。

「恐竜なんて本当は最初からいなかったんだよ」

巻き戻しが自動的に始まる。

「だから、私は、恐竜が嫌い」

新貝は、清霜が何を言っているのか分からなかった。

当の清霜は、新貝が直したリモコンを操作して、デッキを停止させる。そうして立ち上がり、排出されたビデオを手にとって、ただじっと見つめていた。

「司令官は、恐竜のこと、好き?」

それは新貝が見たことのない横顔で、睫毛の一本一本が震えているところまでよく見えた。

「お前……」

それは、新貝の知らない顔だった。

清霜とはそれなりに長い付き合いで。

様々な苦労を共にして、本心を曝け出せる関係性ができていると思っていた。

しかしそうではなかった。

こんな色合いの感情は見たことがない。こんな寒々しさを含んだ色合いは。

その事実が示すことはただ一つ。彼女はその感情をずっと隠していたということ。そして、今になって曝け出したということだ。

何故? その理由は?

ここにきて気付かないほど新貝も馬鹿じゃない。

「お前――全部、知ってたのか」

新貝はようやく悟った。

清霜は最初から全て知っていたということを。

そして、ずっと独りで怯えていたということを。

「恐竜が好きかだって? 嫌いなわけがないだろう。だって、ずっと傍に居たんだからな」

「……そう」

清霜は大きく息を吸って、細く長く、吐いた。

今にも泣き出しそうだった。

「お前、いつから自分が深海棲艦だって分かっていたんだ」

「……司令官は、馬鹿だね」

清霜は薄く笑う。

そして、試すようにビデオを持つ手に力を篭めた。

ばきばきと音を立てて壊れる。いとも簡単に。

「駆逐艦が、戦艦になれるわけないじゃん」

そうこぼす清霜は、やはりまったくの別人に見えた。

 

――ま、今の清霜はもう改二みたいなもんだけどね。

――ふっふっふー。なんとなんと、戦艦になったんだからっ!

 

あの言葉は嘘だった。

清霜は、最初から全て分かっていた。ずっと艦娘のふりをしていた、そう清霜は言った。

「おかげで楽しかったよ。深海棲艦になっても艦娘ごっこがやれるなんて思わなかった。もし司令官がいなかったら孤独に耐えられなくなって、とっくに心まで化け物になっていたんだと思う」

その声色には諦めがあった。いつかこうなるとずっと前から知っていて、長い時間をかけて気持ちの準備をしてきたから大丈夫だという、そんな諦観があった。

「……どうしてだ?」

「ん?」

「どうして本当のことを言わなかったんだ? 俺はそんなに信用がなかったか?」

「司令官だって何も言わなかったじゃない。それと、同じよ」

「……そう、か」

新貝には返す言葉がない。

頑張って生きている人に「あなたはもう死んでいる」なんて言えるわけがない。そう清霜は言っていた。

「でも、すぐにバレちゃったみたいだけど」

そう零す清霜の顔には清々しささえあった。

「もう夢を見る時間はおしまい。ショートランドの艦娘が私たちを殺しに来るんでしょ?」

清霜は手に持っていたビデオを放り投げる。

ビデオは床に落下して砕け散った。

もうけして元には戻るまい。

――ショートランドの“艦娘”と清霜は言った。

あえてショートランドの“仲間”とも“元仲間”とも言わない。

艦娘という存在が、自分たちの“敵”でしかないということをはっきりと理解しているからだ。

「……ああ、だがな、」

「いいの。深海棲艦がどうなるかは分かってる。私たちが艦娘だったときに散々やってきたことだもんね。立場が逆になっただけ。けどね、私は黙ってやられるつもりはないよ」

清霜は拳を握り締める。

「世界中の人間と艦娘たちが私たちを悪者扱いしたって知るもんか。私は、私と司令官を……ガ島泊地の皆を傷つけるやつは絶対に許さない。一人残らずやっつけてやるって、私は決めたんだ」

そう宣言し、決意と共に顔を上げた。

その瞳には火が宿っていた。それは奮起の灯であり、激情の炎であった。

たった一つのものを守り抜き、それ以外の全ては血祭りにあげてやると燃え盛っている。

「もう誰の好きにもさせない。絶対に」

新貝は言いようのない喪失感を味わっていた。

清霜は現状を正しく理解していて、しかも納得している。そのことには何の不都合も無い。だというのに、何故か素直に喜べなかった。

(俺は、清霜にどう在ってほしかったんだろうか……)

艦娘と戦うなんて嫌だと拒絶してほしかったのか?

それとも、和解の道を探してくれと、泣いて縋りついてほしかったのか?

清霜は、無邪気で、人を疑うことを知らず、夢に向かって真っ直ぐ進む、純粋な心の持ち主。

そんな勝手なレッテルを貼っていた。

失礼な話だ。誰だって苦しんで、悩んで、何かを切り捨てて……そうやって成長していく。

いつまでも笑っているだけの小娘ではいられないのだ。

まして自分たちは深海棲艦。世界の敵だ。

もし清霜が本当に最初から全てを知っていたというのなら、果たしてどんな気持ちで新貝たちとの時間を過ごしてきたのだろうか? 今の新貝には想像することもできない。

実際、今の清霜については何も知らないに等しい。清霜の抱えた、深く重い“未練”のことをまるで知らないのだ。

深海棲艦になる者は必ず未練を持つという。だというのに清霜にそんなものは無いと何の根拠もなく思い込んでしまっていた。

(それでいいはずがあるものか)

仮にも彼女の司令官を名乗るなら、今度こそちゃんと知らねばならない。

「――なあ、清霜」

「なに?」

「俺の未練はな、お前を助けられなかったことだよ。俺がふがいないばかりに何もできなかった。だから死に切れなかったんだと思う。もう一度会って、謝りたかったんだ」

「……うん、前にも聞いたね」

「けど俺はそうやって自分のことを言うだけで、お前のことを何も聞いてこなかった。知ろうともしなかった。お前が何を考え、何をしたいのかを。だから教えてほしい。今度こそちゃんと理解して、助けになりたいんだ」

「……司令官は偉いね。あんな目にあっても、まだ人のことを心配している」

「あんな目って?」

思い当たることは、あった。

星の無い夜に、撃ち抜かれて死んだこと。

「なんだ、お前やっぱりあの時、あの場に居たんだな」

「うん。……ごめん、何もできなかった」

「いいさ。俺もお前に何もできなかった」

「……そんなことないよ」

そう呟いて、清霜は瞼を閉じた。

互いの前世に、想いを馳せる。

最期はろくでもない死に方だったけど、その人生はけして無駄ではなかったと思う。

だって、本当のことを言える相手ができたから。

だから今度は独りじゃない、そう信じて清霜は瞼を開けた。

「私はね、私の未練は……司令官みたいに立派じゃないよ。自分のことしか考えてない」

怒りがあり、悲しみがあり、嘆きがあった。更にはそれらを消し飛ばすような、司令官や仲間たちに再会したいという願いがあった。しかしそれらは所詮は断末魔、今際の際に生まれたばかりの、一時の感情の発露でしかない。

清霜は知っている。今の自分を成している渇望の本質が何なのかを。

ずっと叶わなかった夢がある。

「強くなりたい」

何のために? それは勿論、勝つために。

絶対に負けられない戦いに勝つために。

「勝ちたい。たった一度でいいから、勝たなきゃいけない大事な戦いで、ちゃんと勝ちたいの。艦娘だったときの私は何もできなかったから、今度はちゃんと成果を残したい。私にもできることがあるって証明したいの」

前世では、晴れ舞台に辿り着くことさえできなかった。

悔しくて、情けなかった。

消えてなくなりたいとさえ思った。

だからこのままじゃ終われないと清霜は言った。

「私は、私たちを踏みつけにする人たちを許さないって決めた。その敵が相手なら絶対に勝たなきゃいけないの。今度こそ、絶対に」

少女の表情は途方も無く真剣だった。夢を持たない男が直視するには眩しすぎる。だからこそ、守りたい、手助けしたいと新貝は思うのだ。

「任せとけ。お前の願いを実現させるのが俺の仕事だ」

二人の手が改めて握られる。

互いの認識がようやく繋がった瞬間だった。

対ショートランド泊地に向けて、作戦会議が始まる。




あとは畳むだけです。
ハッピーエンドに向けて突き進みます。信じてください。
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