悪いひとたち ~南方深海泊地へようこそ!~ 作:シャブモルヒネ
深海棲艦は群れで行動する生き物だが、なにも全員が同じというわけでもない。
中には単独行動を好む変わり者もいた。
安住の棲家を良しとせず、七つの海を渡り行く。そんな彼女たちは情報や物資を運ぶことで見逃され、あるいは重宝された。
愛に生きる者もいれば、世界一周を目指す者もいる。それぞれが異なる目標を掲げ、勝手な方向を向いている。共通点は一つもない。そんな、例外扱いの彼女たちではあったが、たった一つだけ示し合わせたように同じ答えを返す質問があった。
「一番行きたくない海はどこですか?」
そう聞くと誰もがうんざりとした顔を見せ、どうして分かりきったことを聞くのかと溜め息をつくのがお約束だった。
「そんなの南方海域に決まってるでしょ」
治安が悪い海域といえば、真っ先に挙がるのは南方海域と西方海域だろう。……深海棲艦の領海で『治安』という言葉を使うのも妙な話だが、それはそれとして。
例えばの話――南方で最も強い郡体と、西方で最も弱い郡体が争いになったとしよう。どちらが勝つのか? という問いに対する答えは、論ずるまでもない。
西方側が勝つに決まっていた。
これは南方が弱いという話ではない、他の方面海域でも同じ話だ。西方の強さはそれだけ他と開きがある。
それは西方海域に棲む者たちも自覚していて、だからこそ来訪者に対しては言いがかり同然の無茶な要求を吹っかけるのが常だった。
故に、行けば身ぐるみを剥がされるか、演習の的として弄ばれるか。ろくでもない末路が待っている。それが西方海域に対する他の深海棲艦たちの認識であり、正しい理解でもあった。
だが、それでも。
孤高の旅人たちは南方海域の方を嫌がった。「南に行くぐらいなら、西でどこかの勢力に喧嘩を売る方がマシだ」とまで言った。
何故ならば。
南の深海棲艦は、話が一切通じないからである。
人間の世界で例えるならば――
西方海域は、短機関銃で武装した強盗が我が物顔でうろついている無法地帯。
南方海域は、来訪者を神からの贈り物と信じる食人族たちが縄張り争いに明け暮れる未開拓領域。
どちらがマシかは考えるまでもない。
もしも最悪の事態に陥っても、そこが西方海域だったなら、所持品を全て投げ打って土下座でもすれば命だけは助かるだろう。
しかしそこが南方海域だった場合は話が違う。最悪の事態とはそれ即ち死を意味する。一度ヘマをすれば助かる術は無い。どころか、死んだ後も鉄底海峡を中心とする地獄のスパイラルに巻き込まれて抜け出せなくなる。
それが南方海域。
通称、地獄の釜も溶けた場所。
そこでは誰もが長生きできず、故に練度は総じて低い。知性は育たず、戦術は合理の外にある。ただ殺すことだけに囚われた亡者たちに連携する力があるわけもなく、そうして猪突するだけの素人たちは艦娘たちにとっては楽な相手かもしれない。
しかし、深海の旅人たちはこうも思うのだ。
殺意だけが充溢したイカレ女たち。もしも彼女たちを一つの軍団としてまとめあげ、使いこなすことができるような狂人たちの王が現れたとしたら?
断言できる。
それは、世界で最も邪悪な郡体に成るだろう。
そのような存在を悪夢と呼ぶのだ。
そして。
もしも悪夢が人の形を成したなら――こんな姿になるに違いない。
サーモン海域北方に、最低な男と最悪の女がいた。
マライタ島の北側。
その浅瀬。岩場の陰。
とある群れの隠れ家で、男が喋る。
「私ハ、コウ見エテ、キレイ好キデネェ」
喋りながら、捕らえたイ級の尾びれを毟り取る。
ぶちぶちと筋繊維が千切れる音を立て、それを遮るようにイ級の悲鳴が響いた。
男は、意にも介さない。
はぎ取った尾びれを放り投げ、波にさらわれていく様を見もしなかった。その手はまるで、まな板の上で魚を捌くように淡々と、次の処理のためにただ動かす。
「海ノゴミヲ掃除スルノガ、生キ甲斐ナノダヨ」
そして掴む。イ級の未発達な足を。
「……もう、止めてェ!」
イ級は何度目かになる命乞いをする。恐怖に震え、半ばパニック状態になりながら。
「まだ死ぬわけには、いかないんだ! ガ島の奴等に、復讐するまでは!」
そのイ級は、かつて難破船に居た駆逐艦。清霜に撃たれて逃げた敗北者。
復讐のために同士を探し、南方海域を何日も彷徨って、その果てに見つけた深海棲艦は――望んだ以上に残虐だった。白旗を掲げるイ級を意味もなくいたぶるほどに。
「ゴミガ、一丁前ニ、喋ルンジャアナイ」
そう言って、男は掴んだ指に力を篭める。前傾になり、弓を引き絞る直前のように腕をたわめた。力を溜める。一気に引きちぎるために。
「ひ、ひぃッ!」
だが、そうはならなかった。
男の肩がぴくりと揺れる。怯えるイ級から目を離し、ゆっくりと首を背後に巡らせた。
そこに一人の女が居た。
真っ黒い女だった。ロングストレートの髪も、簡素な衣服も、背負う艤装も黒かった。肌だけは対照的に白かったけれど、それもところどころを塗りつぶすように黒く染められていた。
何かが付着している。
それは、粘着質な泥が乾いて固まったような何かで、異様な臭気を漂わせていた。
男は、その女をギロリと睨みつけた。
男が弱者をいたぶる手を止めたのは、イ級の命乞いが通じたからではない。現れた女が底抜けのクレイジー野郎で、下手な反応を見せそうものなら意味不明な言い分で襲い掛かってくるからだ。同族嫌いの男としては望むところであったが、その女は戦闘に関しては並外れた実力の持ち主だったのでただ殺すにも惜しかった。
「ニジュウ、ヨン!」
唐突に、女が舌足らずな口調で叫んだ。
男はそれを完璧に無視した。
女はしばらく無言で立ち尽くしていたが、やがてその手に握り締めた物を投げて寄越す。
べちゃり。
そんな音を立てて、濡れたものが男の近くの岩に落ちた。
針金のように尖った細い棒に、薄っぺらな楕円形が六枚連なっている。焼き鳥を模したような一塊。
(な、なんだ……あれは……)
イ級はそれを見るために、痛みを堪えながら頭部を動かした。
その楕円形は、確かに肉だった。
しかし、肉は肉でも、鶏のものではない。
だって鶏のサイズを考えてみろ。その頭部がどれだけ小さいかを。鶏の頭は大人の手の平に納まるほどのサイズなのだから、その耳もまた小さく在るのが道理だろう。
つまり今、イ級が目にしているその耳は――六枚に連なった耳たちは。
間違いなく人間か、艦娘か、人型深海棲艦の耳なのだ。
「う、うぁ……」
イ級は息を飲む。
束ねられた耳。その六枚は向きを綺麗に揃えて、真ん中を針金のようなもので貫かれている。切り口からはドス黒い液体がじわじわと滲んでいた。獲りたてなのか、未だ脈動しているようにも見えた。
「ニジュウ、ヨン!」
女は胸元をごそごそと漁ると、更に同じものを取り出してみせる。そしてポイポイと無造作に放り投げた。
べちゃり、
べちゃり、
べちゃり。
合計、四本の肉串が晒される。
その全てに、六枚の耳が刺し貫かれていた。
「ニジュウ、ヨン!」
ここで、イ級は初めて気が付いた。
“六枚”の耳が連なった串。
それが“四本”で、いくつになる?
六かける四。
その答えは、“二十四”。
合計、二十四人分の耳になる。
――二十四人、殺してきたよ。
女はそう報告しているのだ。
その吐息は、炎のように空気を揺らめかせていて――いや、穢しているように見えた。瞳孔の開いた瞳を細めて、無邪気な笑みを浮かべている。
イ級は恐ろしくて直視することができない。
男は、ただ沈黙を維持した。
佇む異形にまるで反応を示さない。
女は困ったように唇を尖らせて、男の顔を覗き込む。彼女はその時になってようやく、傍で縮こまるイ級に気付いたようだった。
「ア、イチダ」
そう呟いて、その首を少しずつ傾ける。
目を大きく見開いて、イ級を隅々まで観察するように凝視する。
ぬらぬら、と。クラゲが宙を這うように、女から妖気のようなものが染み出してきた。
女の首が斜め四十五度でロボットのようにぴたりと止まる。
「イチガ、イルゥ」
ロックオンされた。
イ級はそう思った。
傾いた女の鼻からドス黒い液体がぽたりと垂れる。鼻血。しかし女はそれを意に介さない。ただ獲物を狙う猛禽類のようにじぃっとイ級を監視している。
どうやって食べたら一番美味しいかを吟味しているような時間。
それは五秒間か、それとも十秒間か。イ級には永遠に等しい時間に感じられた。
瞬きもせずに、爛々と瞳を輝かせ、ただじぃっとこちらを覗き込み続ける女が恐ろしすぎた。
その装備は軽量だった。小口径主砲、特殊潜航艇、そして電探。小ぶりな艤装からは巨大な腕が二本も突き出していて、その指先は宙を指して神経質に震えている。その動きは大気中の信号を受信するかのように規則的で、空気の流れを察知する猫の髭を連想させた。
対して、女自体の外見はどこか幼い。いっそう目立つのは首元の長いマフラーだ。ボロボロで、真っ黒に彩られている。それが元は純白だったと言われても信じる者はいないだろう。返り血を浴びすぎて変色した彼女の衣服からは常に異様な臭いが立ち込めていたが、指摘する者はもうどこにもいなかった。全員、塗料と化したから。
艦種は駆逐艦。
分類は姫級。
仇名は、それこそ山のよう。
“天眼通”
“狂犬”
“ソロモンの悪夢”
人間たちからは、こう呼ばれていた。
“駆逐水姫”
女の細い腕がゆっくりと持ち上がり、イ級を真っ直ぐ指差した。
「オ前デ、ニジュウ、ゴ?」
女の艤装が、駆動音を立て始める。
殺される――イ級が震え上がったとき、ようやく男が反応を示した。
「回頭セヨ」
男。
だが果たしてその正体は、本当に男なのだろうか。男と呼んでいいのだろうか。
その身体は女性型だった。
引き締った長身に、白磁のような肌。二つにくくった髪をたなびかせ、しかしその濁った瞳からは意志を読み取ることはできない。
艤装からは大口径主砲が針鼠のように突き出ている。乙型駆逐艦の対空機銃でもあるまいに、明らかに過剰な砲の数だった。無学な子供が設計したとしてもこんな頭の悪い構造にはならないはずである。船体のバランスなんて端から頭になく、ただ殺しができればいいという憎悪だけがそこに在った。
艦種は戦艦。
分類は姫級。
仇名は、それこそ山のよう。
“大型超弩級戦艦”
“人喰いホテル”
“鉄底海峡の主”
人間たちからは、こう呼ばれていた。
“南方棲戦姫”
その右肩におぶさるように、黒い髑髏がへばりついていた。
上半身だけの髑髏。ソレは、棲戦姫の白い肌にめり込むほどに爪を立て、眼窩を駆逐水鬼に向けている。顎をカクカクと震わせて……そう、この髑髏は生きていた。
「良イ猟犬ハ、言ウ事ヲ聞クモノダ」
「嘘ジャナイ……」
「貴様ハ、悪イ猟犬カ?」
「嘘ジャナイッ!」
「ナラバ、ドウスル?」
駆逐水鬼は、渋々といった様子で引き下がり、頭の向きを変えて岩場の陰へと消えた。
その後姿を見送ってから、黒い髑髏は忌々しそうに舌打ちする。
底冷えする目。そこに親愛の情は欠片も無い。
黒髑髏。
その正体は、とある人間の成れの果て。
胴を撃ち抜かれて殺された、とある提督の末路だ。
特徴的なのはその肋骨から下で、彼には下半身が無かった。脊髄がぶらりと垂れ下がり、それが棲戦姫の背中に埋没して彼女の背骨へと繋がっている。
二人の身体は結合していた。
黒髑髏が寄生している、ように見える。しかし、それは正しくない。“彼ら”は元よりこういう姿形で生まれたのだ。二人以上の死人が結合して奇形として生まれ落ちる、その現象は、深海棲艦にはよくあることだった。それは姫級であっても例外ではない。
“彼ら”の頭は二つ。しかし、棲戦姫側の頭に意志は無い。その頭部はガワだけのがらんどう。例えもげ落ちても“彼ら”の運動に支障は無いだろう。
「サテ、改メテ聞カセテモラオウカ。貴様ハ言ッタナ、ガダルカナル島ニ、誰カガ居ルト」
その黒髑髏――男はなぜか、ガ島にいる深海棲艦に拘った。
ガダルカナル島。
そこは、本来ならば自分たちの棲家だったとイ級は歯噛みする。
飛行場姫とその仲間たちを思い出す。かつてガ島で共に暮らしたときの想い出を。それはまるで家族のように温かな時間だった。
周りが全ての敵の南方海域で、穏やかに生きることを願い集まった異端者たち。長い時間をかけて同士を増やし、設備を復旧させ、物資を集め……ようやく安住の地を築いたと思っていた。
だがショートランド泊地によって全てを壊された。
仲間たちの半分は殺されて、もう半分は行方不明。自分たちの艦隊は命からがら逃げ出すことができたが、惨めな潜伏生活を強いられた。一変した環境に誰もが穏やかではいられなかった。何人かが新天地を求めて去っていく。残ったのは極少数。自分たちはガダルカナル島を――自分たちの家をどうしても獲り返したかった。
しかし、件の深海棲艦たちが邪魔をした。奴らは話もしようともせずに襲い掛かってきて、決死の偵察部隊を全滅させ、ついには隠れ家である難破船にまで攻めてきた。そして最期には、皆を――
イ級は涙を流す。もうあの温かな時間が蘇ることはないだろう。ならばせめて仇だけでも討たなければ、沈んでしまった家族たちが浮かばれない。
(――恨み、はらさでおくべきか)
許せない。ショートランドの連中はもとより、自分たちのガ島を火事場泥棒のように奪い取ったあの深海棲艦たちは絶対に許せない。人が弱ったところを叩いておいて、今では何食わぬ顔で平穏な生活を謳歌しているかと思うと腸が煮えくり返るようだ。
(その平和の土台を築いたのは、私たちだ! ガ島は、断じて貴様らが居座っていい場所ではない!)
最後の生き残りであるイ級がここで頼むべきことは、命乞いではない。例え惨たらしい最期を迎えようと、仇を殺してくれと縋ることだけが、飛行場姫一派最後の一人としての責務だ。
「……教えます! 何でも教えますから! 私は、そのためにここに来たのです! あの悪鬼たちを葬ってくれるなら、私はどうなっても構わない! だからどうか、どうか、仇を……!」
その決死の懇願に。
男は。
「ドォーーウデモイイ」
耳が穢れるとばかりに頭を軽く振り、心底厭そうに吐き捨てた。
「ゴミノ事情ナンテ、聞キタクモナイ。囀ルナ。貴様ラハ、タダ黙ッテ絶滅スレバイイ」
「う、うぐぐぅ……」
「ダガ……順番トイウモノガ、アル。殺スベキ順番ガナ。……デ? 誰ガ、アノ島ニ、居ルッテ?」
イ級は、自らが長い時間を費やして調べ上げた仇たちの情報を伝えていく。
今、ガ島に居座る連中を。
潜水艦に、最近加入したばかりの空母、雷巡は二人で、白い髑髏も居た。
「ホウ、髑髏? ツマリハ私ト同ジ、元人間カ。ナルホド。――ソレカラ?」
そして、最後の一人こそが問題だった。
その者こそが、男がイ級を詰問する理由。
男が、最も憎む者。
それは彼自身の仇だった。
男を、彼自身が最も嫌う深海棲艦へと堕とした、不倶戴天の敵。
「――戦艦レ級! 奴らの仲間は、“キヨシモ”と呼んでいました!」
「ホーオォォ、キヨシモ?」
男の爪が、ギリギリと棲戦姫の肩に食い込む。
「……知ッテルゾ。ソノ名ハ、ヨォク、知ッテイルトモ……」
棲戦姫の持つ巨大な艤装が、唸りを上げる。顔を模したそれらの口が大きく開き、怨嗟を放つように篭った熱を排気する。
場が灼熱に包まれて。
大気が溶ける。
「検体、候補ノ、役立タズガ……! ヨクモ私ヲ、コノ私ヲ! ヨクモ、ヨクモォ……!」
憎悪に巨大な全身を振るわせる。
すると、その背後から、まるで呼応するように新たな深海棲艦たちが現れた。ぬらりぬらりと、重心を不確かに、頭を揺らしながら。その数、一目では分からない。四十か、それとも五十か。
「エ? ……エ?」
更に、イ級の背後からも続々と現れる。
右手側からも。
左手側からも。
とめどなく。
戦艦、空母、巡洋艦。
強力な艦種の群れは、二百をゆうに越えていた。
イ級はその者たちを知っていた。
その濁った眼球に宿る、粘ついた悪意を忘れるはずがない。
彼女たちは、南方海域に縛られた深海棲艦。
何百回と倒しても、無限に蘇る亡者たち。
かつて飛行場姫一派が追い払い続けた、狂える深海棲艦たちだ。
(こんなところに、集まっていたのか……)
だがおかしい。こんなにたくさん集まっているのに、同士討ちが始まらない。
普通は、多くて一艦隊まで。それ以上の数は同じ場所に居られない。同士討ちが始まる。それが南方海域の常識だ。
(この狂人たちに、手を組むなんて発想は無いはず……。なのに、これは……? もしかして……)
狂人たちが輪になって。
その何百という視線が集まる先に、鎮座する王はただ一人。
南方棲戦姫。
正しくは、その肩にへばりつく黒い髑髏。
(まさか、この男がまとめ上げたというの……?)
殺意渦巻く、南方海域。
その只中に在って、一層強烈な存在感を放つ悪意が在る。
それは髑髏の形をした悪夢。
狂える者たちの救世主。
その男の名は、黒井成一。
――深海棲艦ハ、全員殺ス。
味方も含めて容赦しないという彼の宣言は、狂人たちにとっては天啓だった。
轟沈と再生を繰り返す彼女たちは、あまりにも殺しすぎて、もはや仇の欠片が誰にまで及んでいるかも分からない。あまりにも殺されすぎて、仇の欠片が自身と混ざっているのかも分からない。
殺しても終わらない。
殺されても終わらない。
目標を達成できない以上、ずぅっと、ずぅっと戦い続けるしかない。
その地獄の輪廻に、目の前の男は終止符を打つという。
そう、全ては単純な話だったのだ。誰が仇か分からないなら、全員殺してしまえばいい。自分も含めて消し去ってしまえば間違いない。
そうすればきっと、この輪廻地獄から抜け出すことができるのだ。
それがたった一つの冴えたやり方。暗黒を照らす希望の光。ならば後は突き進むのみ。
狂人たちは狂喜する。興奮のままに涎を垂れ流し、恍惚の表情を浮かべた。
――王! 王ヨ! 我々ヲ、導イテクレ!
祭り上げられた男は、その嬌声を一顧だにしない。
憎悪の対象に崇められても嬉しくないからだ。何一つ、彼の心には届かない。彼の世界は閉じていて、ただ独り、燃え盛る憎悪に身を焼かせるのみ。それだけでいい。それだけが望みだった。
「忌々シイ、深海棲艦ドモ! 殺セ、ソシテ死ヌガイイ! ゴミ共ガ、空気ニ触レテ、コノ私ニ吸ワセルンジャアナイ!」
歓声が沸きあがる。
ここは、南方海域。
恐れ知らずの深海の旅人たちも忌避して避ける、通称、地獄の釜も溶けた場所。
そこに一度沈んでしまったら、もう憎しみの連鎖から抜け出すことはできない。
ぶっちぎりのやべー奴、駆逐水姫の登場です。
嫁艦にしてる人たちから怒られそうなので元キャラの名前は出しません。いったい何露型の四番艦なんだ……?(すっとぼけ
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イ級の台詞が一部カタカナだったのでひらがなに修正。