悪いひとたち ~南方深海泊地へようこそ!~   作:シャブモルヒネ

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5-3:ショートランド泊地3

伝言ゲームにおける情報の劣化というものは案外馬鹿にできない。

人は無意識のうちに情報を取捨選択してしまうものだから。

話の枝葉末節を不必要だと省いてしまったり、親切のつもりで推測を盛り込んでしまったり。

それはたった二人のやり取りの中でさえ発生する。

そして、そのような行き違いから誤解が生じ、必要な行動へと至らなかったとき――事故というものは起こるのだ。

だから部下は神経質なぐらいで丁度いい、と不破は思っている。

そういった意味で大淀は理想的な秘書艦だった。

彼女はコミュニケーションギャップという問題の根深さをよく理解している。

可能な限り正確であれ。

大淀は、事実と意見を必ず分けて話す。言葉に自分の意思が介在する時は、必ず「恐らく」「思います」「ではないでしょうか」といった文言をつける。そしてその分別は不破が知る限り、間違えたことがない。

端的にいって信頼できる。

そんな彼女が、かつてこう報告していた。

曰く、かつてショートランド泊地に停戦を持ちかけてきた深海棲艦たちがいた。

その交渉役は白い骸骨だった。

その骸骨は、故人であるはずのショートランド泊地の提督を名乗っていた。

「……なるほど、ね」

今、不破の目の前には十一人の深海棲艦が立っている。

人類の敵。

話し合いなどありえないはずの連中が交渉を提案している理由が少しだけ分かった。

白い骸骨。

この深海棲艦が本当にあの新人提督なのか――そんなことは大した問題ではない。

重要なのは、この連中に害意があるか否か、だ。

(まぁ執務室まで侵入されている状態で害意もなにもないがな)

今ここで切った張ったが始まれば、ただの人間である不破は一瞬でお陀仏だ。

そうなればこのショートランド泊地の指揮系統は崩壊し、この臨時の合同戦力はあっけなく空中分解するだろう。

……とはいえ、そこで命乞いが許されるほど提督という職業は安くない。

見極めなければならなかった。

どうすれば艦娘たちの安全を確保したうえで、次の可能性へと繋げることができるかを。

例えこの白骸骨の正体が新貝貞二であろうとも、交渉なんて嘘っぱちで自分たちをいいように利用しようとしているだけなのかもしれないのだから。

「……パイセンヨォ、大淀カラ、賭ケ金ハモラッタカ?」

白骸骨が顎をカタカタと鳴らして喋りだす。

「……ああ、あの一升瓶ね。確かに貰ったが……話が違うだろ。どうして安酒なんだ?」

一晩でなくなっちまったよ、と言うと骸骨は大仰に呆れてみせた。

「値段デ、旨イ不味イハ、決マラナイダロ?」

「安酒には飽きてるんだよ。だから高いのを買ってこいと言ったはずだが?」

「勝負ノ後ニ報酬ヲ吊リ上ゲルノハヤメテクレ……俺ダッテソウ言ッタハズダ。ソンナペテンハ無効ダネ」

「相変わらず口の減らない奴だ」

「……ジャア、俺ノ名前モ分カルヨナ?」

「私の後輩は死んだことになっている。言い張るんなら証拠を見せてもらおうか」

「身分証ナンテ、失クシチマッタヨ」

「だったらお前はただの敵だ。交渉なんざできないね」

不破提督の両隣で、戦艦四姉妹が動く。

目にも留まらぬスピードで主砲の照準が定まった。

人質の漣と荒潮、その二人の抑え役である雷巡棲姫たちの呼吸の継ぎ目に合わせた理想的なタイミング。

隙をつかれた姫級の一人が口笛を吹いた。やるじゃん、とでも言いたげに。

「……オヤオヤ、コイツハ穏ヤカジャネエヤ。ダッタラコッチモ、コウシヨウ」

白骸骨は、ぼろの軍服に手をかける。

動けば撃つ、そう脅しているに等しい状況で、何の躊躇いもなく。

どうせ撃たないのだろうと思っていても易々とできることじゃない。

白骸骨の軍服の下が晒された。

その腹には真っ黒い魚雷が何本も括りつけられていた。

ところどころに赤い管が浮かび上がっていて、周期的に脈を打っている。そのおぞましい形状は生物的な進化を感じさせた。威力もきっと高いのだろう。

「撃チタケレバ、ドウゾ、ゴ自由ニ」

心中する覚悟があるならば、と続けてみせる。

この骸骨、全く動揺していない。

かつての新貝貞二なら狼狽える様を隠すこともできなかったのに。

「……随分と、度胸がついたじゃないか」

ハッタリではこうはいかない。目線、あるいは声の震えに内面が表れる。

「戦艦ニ脅サレルノハ、初メテジャナインデネ」

「そっちのシマは厳しいか」

「ソリャア、モウ。命ガイクツアッテモ足リヤシナイ」

骸骨は背を差した。ボンベの形をした、謎の艤装。

不破からはよく見えないが、装備というわけでもないらしい。角度からして明らかに身体にめり込んでいる。……いや、“生えている”といった方が正確かもしれない。

「……そいつはどういう仕組みだ?」

「俺ニモ、ヨク分カンネエ。ココガ抉レテ、直ッタラコウナッテイタ」

「便利なものだな、深海棲艦は。どうやって修復されるのか、是非とも教えてほしいね」

「ダカラ分カンネエンダッテ。……代ワリト言ッチャアナンダガ、ソコノ、」

本棚を指す。

「去年ノ業務日報ヲ取ッテクレ。ソウ、後期ノヤツダ」

業務日報。背表紙にそう書かれた分厚いファイルを大淀に持ってきてもらう。

不破が開けてみると、紙が一部くりぬかれていた。琥珀色の液体が入ったミニチュアボトルが納まっている。

「おっ、ブランデーか?」

「荒潮カラ没収シタヤツダ」

「ほう、いいじゃないか。これは中々……」

言いながら、ボトル越しに正面の荒潮の様子を伺ってみる。

彼女は大きく目を見開いて、信じられないと言わんばかりに横の骸骨を見つめていた。

どうやら出まかせではないらしい。

「ソイツジャ足リネェカ?」

「……酒、か。呑みたいんだがなぁ」

ボトルを傾けて中身を揺らす。

艶やかな色合いが目に毒だ。

「今は時期が悪い。提督である私が呑んでいると自棄になったと思われる。もう勝てないから呑んでるんだ、とな。だから呑めない。難儀なものだ、提督は」

「ジャ要ラナイカ」

「要るさ、要る要る」

抱え込んで机の引き出しにしまおうとする。と、大淀から非難の声があがった。

「不破提督!」

「固いこと言うな。手渡されたわけじゃないんだ、毒なんて入ってないだろう」

「しかし……」

不破としては、むしろ毒でも入っていた方が分かりやすくていいと思っている。

目の前の深海棲艦たちをどうするべきか、その判断材料があまりにも足りなさすぎた。

可能性の話をしていいのなら……この白骸骨が新貝貞二である可能性はそれなりに高いと思う。

そして共同戦線を結ぶという提案も嘘ではないと感じている。

確かな根拠はまるで無い。だが直感に従わねばならないときもある。それが今この時なのかもしれない。

しかし、それでも――相手が新貝貞二ならばこそ、背中を任せる気にはなれなかった。

この同盟の賭け金に艦娘の命が含まれている以上、手を組む相手が力不足でしたでは済ませられない。複数の姫級を従えていようと関係ない。戦争は些細なミスで全てを持っていかれるのだから。

どれだけ多くの戦果が見込めるとしても、取り返しのつかない過ちをするならば居ない方がいい――それは動かしようのない真理だった。

「酒を貰っておいてなんだがな……」

帰ってくれないか――その言葉を突きつけようとした、その時。

別の者が代弁してくれた。

「提督! 悩むことはないでしょう! 深海棲艦の言うことなんて聞いてはいけません!」

張りのある声。

窓の外から。

思わず目を向けてみると、その窓がいきなり破られた。ガッシャアアン! と大きな音を立てながら何者かが勢いよく侵入してくる。

――また深海棲艦か!? と身構えたが、知っている顔だった。床にガラスを撒き散らしながら華麗に着地してみせた、その重巡の名は、

「みょ、妙高……。君、どこから入ってきてるんだ?」

ブイン基地のご意見番、妙高。

彼女は制服についたガラス片を払いつつ、しれっと言ってのける。

「こちらからの方が速かったので」

それだけ。

ちなみにショートランド泊地の執務室は三階だ。

「あ、そう。頑張ったね……」

これには流石の深海棲艦たちも面食らったようだ。潜水新棲姫などは「ヒャア、怖イ!」と甲高い声をあげながら空母棲鬼の後ろに隠れてしまう。

妙高は、溌剌と声を張り上げた。

「あなた達!」

ビシッ! と音が聞こえそうな勢いで指を突きつける。

「この妙高が来たからには好きにはさせません! 降参してください!」

「……」

「……」

「……フッ、ククク」

「何が可笑しいのです!?」

「イヤ、悪イ悪イ……余リニモ直球スギテ。逆ニヤリヤスソウダナ、トネ」

腹の探り合いなんて柄じゃない、と骸骨は大きく息を吐き出してみせる。

その意見には不破も同意する。

話し合いはシンプルさこそが重要だ。変にこじれてしまうから。

「気持チノ良イ啖呵ダッタ」

「うちの自慢の秘書艦だ。可愛いだろう?」

「かっかわっ!?」

「マァ、素直ニ、羨マシイト言ッテオク。ウチノ連中トハ大違イダ」

骸骨、姫級たちからギロリと睨まれるが、表情は変わらず。不破から目を逸らすことはない。

不破の表情、または一挙手一投足から心中を読み取ろうとするように。

「……へぇ」

思い返せば、この骸骨は入室してきた時からそうだった。

口調こそ軽いが、態度は真剣そのもの。

生前の新貝ならば“どうにかなるさ”とマイペースを崩さなかっただろうに。

「……お前、変わったな。深海棲艦になったからか?」

「イイヤ? 心ヲ入レ替エタノハ最近ダ」

「ママに怒られでもしたか」

「部下ヲ死ナセチマッタ」

ぴくり、と。

自分でも、眉根に皺が刻まれたのが分かった。

「……じゃあ探してるのは死体ってことか?」

「深海棲艦ハ復活スルンダヨ」

「……ほぉ。薄々そうじゃないかと思っていたが……」

厄介な生き物だな、と口の中で呟きながら、思い出していた。

己の過去の過ちを。

「そいつはお前のせいで死んだのか?」

「違ウ。ダガ、何トカデキタ、ハズダッタ」

「……なるほどね」

目を眇めて、改めて骸骨を観察する。

なるほど。自分の目は節穴だったのかもしれない。

「……提督?」

「妙高。今は大事な話をしている」

「……分かりました」

嫌なものを見ている、と不破は思った。

部下を死なせた愚か者。そんな阿呆を鏡以外で見ることになろうとは。

「人間は愚かなもんだ。痛い目を見ないと本当のことが分からない」

「パイセンモ、痛イ目ヲ見タコトガアルッテ、聞イタコトガアル」

「ああ、そうだ。おかげで今の私がある。……もっとも、上手くやれてるなんて言うつもりはないが……」

阿呆にも二種類いる。

阿呆でいることを開き直る者と、阿呆から脱却しようと足掻く者。

――お前はどっちだ、新貝貞二?

「お前だって手を抜いているつもりはなかっただろう? だが今になって振り返ってみると、どうだ?」

「ヤメテクレ。思イ出シタクモナイ」

苦々しい顔を作る新貝。

不破も、思わず苦笑いが浮かんだ。

自分だってその質問だけはされたくない。

「信条は行動の端々に現れる。それは地味で、ほんの僅かな違いでしかないが、その積み重ねで結果は大きく変わるんだ。それをお前は知ったようだな」

「アア、痛イホド」

「いいだろう――座れ。話を聞いてやる」

不破の座る、執務机の真正面。

値の張ったソファーに骸骨の姿をした深海棲艦が音を立てて座った。

「妙高。君が来たということは他の艦娘たちもここに向かっているのか?」

「はい。すぐに集まってくると思います」

「止めておいてくれ。今から大事な交渉をするんでな」

「……いいんですか?」

「心配するな……とまでは言わないが。私の判断を信じてほしい」

「そうまでいうのなら……」

「ああ、例の対潜部隊だけは通してくれ」

「……了解しました。私は廊下に控えていますので」

妙高は油断なく深海棲艦たちを警戒しながら脇を通り過ぎ、部屋を出て行った。

にわかに廊下が騒がしくなる。

けれども、誰も飛び込んでくることはなかった。

「対潜部隊?」

「霞だよ。あの娘にはお前らのことはもうバレてるんだ。別に構わないだろう? ……それより、話の続きをしようじゃないか」

「ソウダナ。ジャア改テ紹介サセテモラオウカ。俺タチハ……」

深海棲艦たちの自己紹介が始まる。

白い骸骨は思っていた通り、新貝貞二を名乗った。

その仲間たちは元艦娘で……その中に自分の元部下が含まれていることに不破は驚いた。

「大井と北上か。君たちも深海棲艦になっているとは思わなかった」

「……ドウモ」

「チッスチッス。オ久シブリ~」

「ガ島奪還作戦で轟沈したんだったな……。苦しい思いをさせてすまなかった。言い訳になってしまうが、黒井提督がああも雑な作戦を立てるとは思わなかったんだ」

「アー、イイッテ、ソノ辺ノコトハ。アタシラモ油断ガアッタッテイウカ、ネ?」

「……コノ馬鹿ガ、バレルヨウナ真似ヲシタカラヨ」

「何のことだ?」

「後デ教エルヨー」

「そうか。……もっと恨まれていると思っていたが」

深海棲艦側の紹介が終わった。

といっても名乗ったのは姫級たちだけだったが。

次は艦娘たちの番だった。

大淀。

そして、金剛型四姉妹。

「彼女たちが横須賀から来ていたおかげで何とか持ちこたえることができている」

そう紹介すると、新貝は己の後ろに立つル級に目を向けた。

「……ナァンダ、ヤッパリオ前ラノ方ガ、パチモンダッタンジャナイカ」

ル級は小さく舌打ちをして、

「ソイツラハ、我々ノ後釜ダロウ。金剛型ノ名ヲ継イダダケノ若造ダ」

と聞き捨てならないことを言った。

後釜と言われた金剛が眉を顰める。

「金剛型……? ただのル級にしか見えませんが」

「ソリャア今ハ深海棲艦ダカラナ」

「俄かには信じがたい話ですネー」

「信ジタクナイ話、ダロウ?」

「別にどっちでもいいですケド」

「ソノ通リ。本物カ偽物カナンテ、定義次第デドウニデモ変ワル。言ッタモン勝チサ。ダッタラソンナ話ハシテモショウガナイ」

「ダッタラ不躾ニ、人ノ事ヲ、偽者呼バワリスルンジャナイ」

「スマンネ、オ前ラ、第三戦隊ガ困ッテイルト思ッタンデ、ツイナ」

「第三戦隊ハ、モウ壊滅シタ。今ハ第十一戦隊ダ」

「フゥン。俺ニハ違イガ、ヨク分カランガ」

「数字ガ変ワッタダケサ」

「ア、ソウ」

「――で。お前らの要求はなんだ? どうして危険を冒してまで手を組もうとする?」

「ソノ話ヲスル前ニ、質問ガアル」

「なんだ」

新貝は天井の隅に設置されたカメラを指す。

「アノカメラ、マダ生キテルカ?」

「……ん? あぁ、そういうことか?」

「マイクトカ、隠シテナイ?」

「私は別にどっちでもいいんだがな、後のことも考えないといかん。時間をくれ」

「早クシロヨ……。大淀」

今度は本棚を指す。

「次ハ、アノ熊ノ置物ヲ取ッテクレ。ソウ、前ニ俺ガ持チ込ンダ私物ダ。北海道土産ダッテ言ッテタヤツ。……下ニ蓋ガツイテルカラ開ケテクレ」

深海棲艦の小間使い。けれど相手は元提督で……大淀は複雑な表情で言われた通りに熊の置物を手に取った。

中から出てきたのは、透明な液体が入ったミニチュアボトル。今度は日本酒のようだった。

「あっ」

大淀が小さく声を漏らす。

「大淀カラ、パクッタ酒ダ」

「な、なくなったと思ったら……! ……い、いえ。こほん。わ、私はお酒なんて隠してませんが、何か?」

「ダ、ソウダ。ツマリ、ソレハ俺ノモノ」

「おおー、そうか。じゃあ有り難く頂こう。うん、じゃあ教えてやるか。この部屋には隠しカメラもマイクも無い。あるのは天井のあれ一つだけだ」

「センキュー。ジャア今カラ一発、発砲シマース」

そう新貝が言い終えると同時に、北上と名乗った雷巡棲姫が発砲した。

派手な音をたてて天井の隅のカメラが破壊された。

「ああっ!?」

大淀が狼狽える。

金剛型四姉妹は苦い顔。

不破はあくまで白々しく抗議してみせる。

「あっ、なんてことするんだー。国民様のお血税で賄われた物品を壊すなんてー。私はただ善意でカメラの有無を教えてやっただけなのにー」

「ドウイウ善意ダヨ」

不破はあくまで、そ知らぬ顔で。「まいったなぁ」と困り顔を作ってみせる。

「これじゃあ筆記で記録を残すしかないぞ。誰かー、書記をやってくれないか?」

「あ、じゃ私が」

我に返った大淀が反射的に手を挙げる。しかし、

「君は真面目だからだめ」

「ええっ?」

にべもなく却下された。

「漣」

「……あいさ!」

「分かってると思うが、“上手く”書きなさい」

「りょ!」

漣はようやく人質役から解放されるとばかりに足取り軽やかに進み出た。不破からメモ紙の束を受け取って、その脇にちょこんと座る。

「コレデヤット、本音デ喋レルナ」

まったくだ、と不破は首を回して凝りをほぐした。

「――本題ニ入ロウ。俺タチノ要求ハ一ツダ。ウチノレ級ガ行方不明ナンデ、探スノヲ手伝ッテホシイ」

「行方不明、とは?」

「帰ッテコネエンダヨ」

「本当に復活してるのか?」

「モウ一週間モ経ツ。ヨッポド酷クヤラレテナキャ、復活シテルハズダ」

「一週間で治る、だと?」

「コイツハ、三日ダッタ」

と、潜水新棲姫の頭に手を置いた。

「三日で……。便利な生き物だな、深海棲艦は」

「サァ、ドウダカ。死ニキレナイノガ良イ事ナノカ、悪イ事ナノカ……。トニカク、俺タチハ、ソノレ級――清霜ト合流シタインダ。ダカラ、オ前ラニ探スノヲ手伝ッテホシイ。今ノ南方海域ハ敵ダラケデ、俺ラノ人数ジャ、マトモニ動ケナイ」

「人手と情報が欲しいということか」

「ソウダ」

「見返りは?」

「オ前ラヲ苦シメテイル南方棲戦姫、アイツヲ倒シテヤルヨ」

「ほー。こいつは大きくでたな」

「アノ連中ハ超単純ナ、トップダウン。頭ハ、南方棲戦姫ダケ。ダカラ奴ヲ刈レバ一発デ瓦解スル。……ソレヲ俺タチガヤロウ」

「どうやって?」

「暗殺ダ。奴ガ根城ニシテイル、ガ島マデ、誰ニモ見ツカラズニ直行デキルルートヲ知ッテルンダ」

こいつがな、と潜水新棲姫の頭を撫でくり回す。

キャッキャと鈴を転がしたような声があがった。

その光景を見ていると、深海棲艦撲滅を目指して日夜戦い続けているのが馬鹿らしくなる。

「まぁいい。お前の言葉を信じる、としてもだ……どうしてそこまでする? 下手をすると死ぬぞ? いくら復活するとはいっても痛い思いをするのは嫌だろう?」

「ソンナ利口ナ頭ガアッタラナ、深海棲艦ナンカニャナラナインダヨ」

「どういうことだ?」

「自縛霊ト同ジサ。執念ダケデ、コノ世ニ、シガミツイテイル」

「……南方棲戦姫と、何があった?」

「俺タチャ全員、アイツニ恨ミガアルンダヨ」

「それを晴らすためには艦娘とも手を組む、か」

「大体ソンナ感ジダ」

「……理由はそれで納得しておこうか。だが、そのレ級と合流した後に協力関係がまだ続くという保証がどこにある? 潜入して暗殺できるなら俺たちの戦力は要らんだろう」

「囮ニナッテクレレバ、成功率ガ上ガルジャナイカ」

「俺たちに連中の目を引きつけろ、と?」

「勿論、善意ダッテアルサ。古巣ガ崩壊シタラ、寝覚メガ悪イ」

「舐められたもんだ。……で、約束の保証は?」

「保証ナンテ、シヨウガ無イダロ。俺タチャ深海棲艦ナンダカラ、担保モ保証人モ縁ガ無イ。……ケドナ、ソレデモオ前ラハ乗ルシカナイ。コノママジャ、ショートランドモ、ブインモ、落トサレルゾ。頼ミノ綱ハ、ラバウルダロウガ、アノチキン野郎ガ身ヲ切ルワケガナインダカラナ」

「まぁ、否定はできない」

「全滅ガ、オ望ミナラ――ショートランドトブインノ艦娘ガドウナッテモイイッテ言ウンナラ、自分タチダケデ戦ウトイイ」

「仮にもショートランドの提督だった奴がそれを言うのか」

「コレデモ努力ハシタ。信ジナクテモ構ワンガ」

「今はそっちの部下を優先させる、ってか」

「ソウイウコトダ」

「お前みたいなのをな、クソ提督って呼ぶんだよ」

「知ッテル。ダカラ何ダ。勝手ニ呼ベヨ」

「開き直るな、馬鹿野郎」

「スマンネ。今ノ俺ジャ、ココマデガ限界ナンダ」

二兎を追う者はなんとやら。

できもしないことを抱え込んで全てを台無しにするよりはましとはいえ、不破はその態度が気に入らなかった。もしも「しょうがないだろ」という言葉が出ていたら即座に交渉を決裂させていたところだ。

「アノ馬鹿娘、帰ッテ来ネェトキタモンダ。マァ、モシモノ時ノ合流地点ヲ決メテナカッタ俺ガ悪インダガ……ソレデモ、生キルツモリガアルナラ、資源ヲ隠シタ場所ニ行クシカナイダロウ? ナノニ、一向ニ来ヤシネエ。オカゲデ探サニャナランノヨ」

「そのレ級だがな」

「ン?」

「多分、来るぞ」

「ドコニ?」

「ここに。霞が連れてくるって連絡があった」

「ヘェッ!?」

その時、廊下から騒がしい声がいくつも上がった。悲鳴も混じっている。その喧噪は少しずつ大きくなり、内容が聞き取れるようになった。

「わあっ、レ級!?」

「捕まえてきたのってレ級なの!?」

「つ、捕まってるようにしか見えないんだけど……」

「霞、朝霜っ、ほんとに大丈夫なの!?」

その騒ぎは、執務室のドアの前で止まった。

全員の視線が集まる中、ゆっくりとドアは開かれた。

霞、朝霜。

その真ん中にはレ級が立っていた。

尻尾を両隣の二人に巻き付けて、手には何故かプリンの空き容器を持っていた。

「キ、清霜……。オ前、ナンデコンナ所ニ来テンダヨ……」

清霜と呼ばれたレ級。

硬直し、大きく目を見開いた。

「ミ、皆……無事、ダッタンダ……」

プラスチックの容器が落ちる。

唇をわななかせて、ようやく言葉を絞り出した。

「ヨ、良カッタ……良カッタ……」

新貝はがくりと肩を落として溜め息をついた。

「アァ~、ヤット会エタァ。心配サセヤガッテ……」

「ウン……ゴメン……」

尻尾が、霞と朝霜からするりとほどけた。

自由になった二人は「うわぁ……」と顔を引き攣らせながら室内に居た闖入者たちを見回した。

「本当に深海棲艦がたくさん居るわね……大丈夫なのかしら」

「あっ、この白髑髏知ってる! 前に手旗信号やってたぜ!?」

「! あんた、新貝貞二ね!?」

「え゛っ、コイツ司令なのか!?」

「そうよ、このクズのせいで清霜が泣いてんのよそうに決まってるわ覚悟しなさい!」

「司令ーっ、どうしてハゲちまったんだよーっ! どうせ生まれ変わるならイケメンになれよなーっ」

「ヒ、ヒデェ……。ココハ感動ノ再会シーンノハズダロ……」

騒ぎ出す二人を、不破がなんとか落ち着かせる。

「……二人とも、今だけはちょっと静かにしてくれないか」

「は、はい」

「へーい」

「俺ノトキト、態度ガ違クネェ……?」

がくりと肩を落とす新貝。

そんな彼を、恐る恐る見上げているのは清霜だ。

「司令官ハ、ドウシテココニ?」

「アア、艦娘ト一緒ニ、戦オウト思ッテナ」

「……戦ウ?」

「ソウダ。……俺ハ、考エ方ヲ、変エタンダ」

新貝は清霜の前に立ち、そして室内の深海棲艦たちをゆっくりと見回してから、口を開いた。

「深海棲艦ハ、艦娘ト違ウ。価値観ヤ優先順位ガ、違ウンダ。自分ガ納得スルタメナラ命モ簡単ニ投ゲ捨テル。土壇場ニナッテモ好キ勝手ニ動クンダ。……ソウダッタヨナ、オ前ラハ?」

周囲の姫級たちがばつの悪そうな顔をする。

苦笑い。

その顔は……不破の目からは、反省しているようには見えなかった。

同じ状況になったらまた同じことをするだろう……そう思わせる顔だった。

新貝は続ける。

「俺ハ反省シタ。コノ馬鹿ドモハ、ドウセ止メラレン。ダカライッソ後押シスルコトシタ。……ルールハ、コウダ」

――やりたいことができた奴には、全員で協力する。

――その代わり、自分の番になったら、皆から協力してもらえる。

「ソウスリャ、生キ延ビル確率モ、上ガルダロウ」

深海棲艦たちの親玉は言った。

同じ過ちは繰り返さない、と。

深海棲艦なりの最善を模索していく、と。

「ソウイウワケデ早速ダガ……今カラ、オ前ト北上ノ番ニナル。倒シタイ奴ガ、イルダロウ?」

それが誰を指すのかは明白だった。

南方棲戦姫。

そのことは、事情を知らない不破や艦娘たちにも察することができた。

しかし。

清霜と呼ばれたレ級は、否定した。

「……ヤダ。私ハモウ、戦ワナイ」

「ナニ?」

「私ハドウセ、勝テナインダ……。ダカラ、モウ戦イタクナイ……」

「……ドウシタ、一体?」

レ級は俯き、拳を身体の横で震わせる。

「シ、司令官ダッテ……ソウ、思ッテルンデショ……? 私ガ……ヤ、役立タズダッテ……」

「ソンナフウニ思ッタコトハナイ」

「嘘……」

「清霜、オ前……」

執務室に、沈黙が満ちる。

霞は、何も言わずにゆっくりと清霜の拳に手を添えた。震えを止めるように、優しく。

朝霜は頭を掻きながら「あー……」と呻き、言葉を探していた。

不思議な光景だな、と不破は思った。

一人のレ級が、艦娘と深海棲艦の両方から心配されている。

こんな光景が今までこの地球上に存在したことがあっただろうか?

不破は、今が交渉中であることを忘れてまじまじと見入ってしまった。

新貝は、重い口を開く。

「……俺ハ、オ前ノオカゲデ踏ン張ルコトガデキタシ、皆ダッテ、オ前ノ真ッ直グナ生キ方ニ、助ケラレテイル……」

「……」

「ケド、オ前ガ聞キタイノハ、ソウイウ話ジャナインダロウ?」

びくりとレ級が震えた。

身体を固くして、俯いたまま、少しだけ頷く。

新貝はレ級から目を離さずに、言った。

「大井。後ノ交渉ヲ、頼ム。俺ハ清霜ト話ヲスル」

「……ハア? コレハ貴方ノ仕事デショ!?」

「信頼シテルカラ任セルンダ」

「ソンナ言葉ニ、絆サレルモンデスカ」

「コレハ、俺ノ“ヤリタイ事”ダ。協力シロ。ソレトモ、ルールヲ破ルノカ?」

「……貴方、卑怯ヨ」

新貝はニヤリと笑う。

「パイセン」

「なんだ」

「話ス場所ヲ、貸シテクレ。会議室……ハ無理カ。裏庭デイイ。アト、人払イモ頼ム」

「注文の多い後輩だな」

「酒ヲ二本モ、ヤッタダロウ?」

「今回だけだぞ。……荒潮、これを見せて回ってきなさい」

不破はそういって引き出しから命令書を取り出してぐりぐりと何かを書きつけた。

荒潮に渡す。

そこにはこう書いてあった。

 

――裏庭に近づくべからず。破ったら二日間食事抜き&妙高の指導が入ります。by不破

 

「それと荒潮。この連中が元艦娘で元提督だって話は絶対に広めるなよ? もし話したらその時は……」

「は、話したら……どうなるのかしらぁ?」

不破は、荒潮のスカートの裾のフリルをじぃっと粘着質な目で見つめている。

「私のベッドの下にある本と同じことをしてもらう」

サーっと荒潮の顔が青ざめる。

こくこくと何度も頷いて、出て行った。

「……何の話デスか?」

「大したことじゃない。私の趣味の話だ」

「よく分かりませんが……私たちは横須賀所属なんですよ? 余所の提督の悪行を庇うと思わないで下さい。……仕事を増やさないで下さいネ?」

この深海棲艦との交渉についても同じだ――そう金剛は言っていた。

「何を言う。私はこの深海棲艦たちを言いくるめて利用しようとしているだけだ。褒められこそすれ咎められる覚えはないぞ」

「ま、今はそういうことにしておきましょう」

「……本人タチノ前デ、言ワナイデホシイワネ」

大井と名乗った雷巡が、深い深い溜め息をついた。

そんな彼女たちを差し置いて、新貝貞二はレ級を伴って退室していく。

「ジャ、後ハ頼ムワ!」

と軽快に片手を上げながら。

霞と朝霜も慌ててついていく。

ドアが音を立てて閉められた。

気まずい空気。

相手側の代表者が居なくなってしまった。

「……大井ちゃんも大変だな」

チィッ! と物凄い舌打ちが鳴らされた。

「……雷巡でもだめなのか」

「ご主人様」

「はい。分かってます」

姿勢を正す。

ソファーを指した。今まで新貝が座っていた場所を。

「大井、任されたからには責務を果たせ。代理だろうと交渉は交渉、甘くなんてしてやらないぞ」

「アラ、カツテノ部下ニモ厳シイノネ」

「思ってもいないことを口にするな」

「ソウイウ態度、嫌イジャナイワ」

言いながら、雷巡棲姫が席に着く。

ここまでの交渉で、成り行きとはいえ新貝側の要望は果たした。

今度はこちらが見返りをもらう番である。

つまり、戦ってもらうということだ。

それをどのように進めるか、誰をどう編成するのかを、話し合う必要があった。

何を目的に、どう戦ってもらうのか。

それ以前に、これからの戦略方針について意見や異議はあるのか、とか。

だが、その前にどうしても。

不破には確認しておきたいことがあった。

「そこの第十一戦隊のお嬢さん」

「キリシマ、ダ」

その名に、艦娘の霧島がぴくりと目尻を震わせる。

「……私と同じ名前は止めてくれません?」

「ジャア、初代キリシマ、デイイ」

「“きりしま”呼びを止めろと言ってるんです!」

「空気ヲ読メヨ、当代霧島。今ハ名前ニ拘ル場面デハナイダロウ?」

「く、その通りですけど……」

「オ前ノ振ル舞イデ、姉タチノ評価ガ変ワルト知レ。「金剛・比叡・榛名ハ、ソンナ事モ教エテイナイノカ」、トナ」

「……ぐぐぐ。何も言えません! うぐーっ!」

「まあまあまあ。気持ちは分かりますよ、霧島」

「私たちだって自分の名前の深海棲艦が現れたら穏やかではいられませんから」

「そうですけど、そうでしょうけどー!」

頭を抱えてしまった当代霧島。

それを尻目に、自称初代のキリシマが問う。

「――デ、話ハ何ダ? ブイン基地提督?」

うむ、と不破は頷き、キリシマたち十一戦隊の面々に目を向けた。

「さっき自己紹介のときに言ってたよな? 君たち第十一戦隊は、トラック諸島に居たと」

「アア、ソレガ?」

「君たちは元々、艦娘だった……合ってるな?」

「ドッチデモイインジャ、ナカッタノカ?」

「一つだけ……どうしても、気になることがあってなぁ」

「ハッキリ言エ」

「君たちの中に、ブイン基地から来ていた奴はいないか? 四年前、トラック諸島で沈んだ艦娘は……」

「……居ル。ソレガ、ドウシタ?」

不破はやおら席を立ち上がり、机を回り込んでキリシマたちの目の前まで近付いた。

「ちょっと、不破提督!?」

これには流石に緊張が走る。

「近付いただけで騒ぐなよ。どこにいても危険度は変わらん」

不破が観察しているのは第十一戦隊だった。一人一人に目を向けていく。

すると、その中の一人がびくりと身体を震わせた。

軽巡ヘ級のようなマスクをつけた小柄な少女。

不破が真正面に立つと、いっそう身を固くした。半歩だけ後ずさりする。

明らかに恐れていた。

ブイン基地提督の視線に晒されることを。

「マサカ……」と目を見開いたキリシマを尻目に、不破は「失礼」と言って手を伸ばした。

ヘ級もどきのマスクに手をかける。

金剛が止める声も聞かずに、ゆっくりと、ゆっくりとマスクを外していく。

ヘ級もどきは抵抗しなかった。

顔が晒された。

幼さの残る、少女の顔。

艦娘と言われたら艦娘にしか見えない、その顔を見て。

「……四年ぶり、だな」

万感の思いを吐き出した。

「まさか、知り合いなんですか?」

思わずそう聞いた大淀に、不破は肯定してみせた。

「私が……いや、俺が救えなかった部下だ」

ヘ級もどきの呼吸が乱れる。

ブイン基地提督の顔を凝視して、金縛りにあったように硬直している。

「昔、トラック泊地に応援が欲しいと言われてな……断れなかった。当時のブインはまだ弱小で、練度も皆低かった。なのに、色々言われて、押し切られちまったんだ。あの時の俺は誰かのためになりたくて、請われるままに手を貸した。その結果がこれだ。……なぁ、お前の言う通りだったよ。俺は付和雷同で、クソ提督だったよ」

「うそ……」

漣が立ち上がる。

口元を手で隠し、幽霊の正体を確かめるために駆け寄った。

手を取ってその顔を確認し、声にならない叫びを上げる。

尚も動けない、ヘ級もどき。

彼女に向けて、不破は胸ポケットから一枚の写真を渡して見せた。

「覚えているか? この時も俺たちは喧嘩していたな。最後の別れとも知らずにな」

ヘ級もどきは、震える指で手に取った。

古びた写真。

そこには、少しだけ若い不破雷三と、二人の駆逐艦娘が映っていた。一人の艦娘は腕を組んでそっぽを向いていて、不破も同じように眉間に皺を寄せながら反対側を向いている。漣はその間で二人の裾を引っ張って、なんとか良い写真に映そうと頑張っていた。

 

――この風見鶏! あんたには自分の意見ってものがないの!?

――んだとコラ、もういっぺん言ってみろ!

――何度だって言ってあげるわよ! こんなのが提督じゃブイン基地もおしまいよ! 人の顔色ばっかり伺って、そんなに嫌われるのが怖いわけ!? そんなんだからあんたは付和雷同なのよっ!

――てめえ、言ってはならねえことを!

 

「……俺の判断ミスだった。済まない。たった半年だったが、お前と居た時間を忘れたことはない。これまでの奮戦、感謝している」

「……ア、アタシ……アタシハ……!」

ヘ級もどきが慟哭する。

「ミ、見放サレタッテ、思ッテタ……! 酷イコトバカリ言ッタカラ……!」

その肩を、キリシマが抱き留めた。

人類の味方である不破が抱きしめることはできない。だから、せめてもの慰めに。

「……私ノ部下ヲ、泣カスナヨ」

「悪いな。そしてこれからを頼む。……私は提督だ。深海棲艦の味方はできん。握手することさえ許されないだろう。だからこれは独り言だ」

 

――息災を祈る。

 

天井に向けて呟いた。

「アリガトウ」

キリシマも、天井に向けて呟いた。

「コイツノ代ワリニ、言ッタダケダ」

震える部下を抱き留めて、そう言い訳しながらも、キリシマの目は遠い過去に向けられていた。

第三戦隊の仲間たちに。

妄執の果てに救いはあった――

「第十一戦隊。今の君たちは、新貝貞二の部下なのか?」

「イイヤ違ウ。目的ガ同ジダカラ協力シテイルダケダ」

「それはどんな目的だ?」

「落トシ前ヲ、ツケサセル」

「仇討ちってわけか」

「ソウダ。オ前ラハ不毛ダト言ウンダロウガナ。姉ヲ、仲間ヲヤラレテ、ソノママニシテオケルカヨ」

「君たち深海棲艦は死ぬことも恐れない、だったな?」

「無謀ナ戦イヲ、スルツモリハ無イ。ダガ、好機ガアルナラ命モ賭ケヨウ。……ソレハ艦娘ダッテ同ジダロウ?」

「そうか。そうなんだな……それは避けられないことなんだな……」

自分に言い聞かせるように繰り返す。

そんな不破の姿を見て、大淀が察した。

「不破提督、まさか……!」

「――やってやろうじゃねえかよ」

大淀を、金剛型四姉妹を振り返り、不敵に笑みを浮かべてみせる。

「ショートランド泊地・ブイン基地の合同戦力は、今日この時をもってこの深海棲艦たちと歩調を合わせ、共同戦線を張ることにする!」

「ま、まずいですよ! 本当にそんなことをしたら……」

「全責任は私がとる!」

まるで若返ったかのように喚いてみせた。

「ずっと言ってみたかったんだよ、この台詞をな!」

「そんな……。いいんですか、漣さん!? この人、きっとクビになりますよ! いいえ、それどころか反逆者扱いになるかもしれません!」

漣は涙に咽んでしまってそれどころではない。

彼女と手を取り合っているヘ級もどきも同じ。

ただ、二人とも顔だけは不破に向けていた。

――本当にいいのか?

その目はそう問うている。

「私はもう付和雷同じゃない。不破雷三だ。一度決めたらやってやる。あれから四年間でどれだけ成長したか、見せてやるよ」

金剛は、あくまで自分たちは第三者だとばかりにジト目で呟いた。

「知りませんヨー、本当に知りませんからネー?」

「ふっ、さっきも言っただろう? 私はこの深海棲艦たちを言いくるめて利用しようとしているだけだってな。これは全部演技だ。そういうことにしとけ!」

「ハイハイ。それもきちんと書き加えておきますよ」

いつの間にか書記を代わっている比叡にそう指示する。

人類と深海棲艦が手を取り合おうとしている。

この不思議な光景が世界中で溢れればいいなと、無関係の金剛たちですら思わないでもなかった。

「……」

そして何も考えていない奴らもいる。

「……話ハ、終ワッタノカシラネ?」

「蚊帳ノ外……眠イ」

「アタシモ寝テイーイ?」

「司令官、マダ帰ッテコナイノ……?」

話し合いが再開するまでもう暫くかかるようだった。

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